『■ ノースウィンド-福田花音X光井愛佳- ■ 』


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 ■ ノースウィンド-福田花音X光井愛佳- ■

「うーさっぶぅ」
身に沁む北風が光井愛佳の足を駅前のショッピングモールへと急がせる。
リゾナント常連からショッピングのお誘い。
リゾナントの近く、小中高一貫の私立校、私立凰卵女学院の女子寮がある。
何人かの生徒はリゾナントの常連となっていた。
殺伐とした闇の戦いの中、つかの間の休息は愛佳の心を癒してくれることだろう。

「こんにちは」
一人の少女が愛佳の前に立ち、声をかけてきた。
愛佳が足を止めるとその少女は深々と頭を下げた。
抜けるような白い肌、ふっくらとした頬、丸くて小さな顔、小さな体…
「こんにちは」
満面の笑みだ。愛佳はどぎまぎしながら返答する。
「あ、ええと…ど…ちらさまでしたっけ…」
あー失礼なこと言うとる。きっと知りあいや、なのに全然思い出せん。
だが、愛佳の失礼な返答にもかかわらず、
いやどちらかと言えばその返答を引き出せたことに安堵したかのように…
その少女は大きく息をつき、唐突に声を立てて笑った。
なんや?いったいなんやこの感覚…
「うふふ…ごめんなさい。あんまりほっとしたものだから」

「ええと…ほんまにすんません…ウチにはさっぱり」
「でもよかったぁ『ちゃんと初めまして』で」
「え?初めまして?」
「はい!初めまして、光井愛佳さん」
「???」
なんや?この違和感…会話の内容もおかしいがそれだけやない…
こう腹の底からわき上がるような寒気…
「でも本当に良かったぁ。けっこうコレ大きな賭けだったんですよ。
今日『光井さん単体と初対面』出来るかどうかって。」
「…」
「今日光井さんとお話しすること。これが私達の計画の最大の難関だったんです。
もちろん私達も私達なりにいろいろ計画を練り、
何重もの策を講じてようやく今日、この場に立ってるんですけど…
結局最後は運任せでしょ?【予知能力者】相手では」

「…あんた…組織の人間か」

「んー当たらずと言えども遠からず…
どっちかっていうとハズレかな?確かに私、元組織の人間だったんです。
でも今は故あって組織とは別の理想のために活動していますから。
あ、でもリゾナントの皆さんと違って組織とは協調路線でやってます。
変な言い方ですけど暖簾分けみたいな?
でもホント私のこと予知してなくてよかったぁ☆」

愛佳は退路を目で探る。
休日の午前、寒空の下ではあるがすでに人通りは多い。
相手も派手なことはできないはずだが…

「あ、別に逃げる必要はないとおもいますよ。
白状しちゃいますけど私、物理的な戦闘能力ゼロだし、
多分、光井さんでも勝てちゃうぐらい弱いですよ。
今日は光井さんだけにどうしてもお伝えしなきゃいけないことがあって来たんです」
「光井さんだけに」愛佳は彼女の言葉に聞き入り始めている自分に気づかない。
心のうちに沸き上がる不安…数々の死線を潜り抜け身についた危機への直感、
あかん…この子の話を聞いてはあかん、はやく、はやく逃げんと…
その直感は次の彼女の言葉でかき消される。
「光井さんは今、幸せですか?」
「なんや藪から棒に」
「幸せなはずですよね?
過去はどうあれ、いまはリゾナントの皆さんとの温かい友情に包まれて…
私達には理解不能の特殊な絆…リゾナントによって強く結ばれた、カタい、カタぁい絆がありますもんねぇ」

なにか一々引っかかる言い方やな…愛佳はいらついている自分に気づかない。

「えへっ、私も今、幸せなんです。こんなこと言うの照れちゃいますけど、
私達も私達なりにかけがえのない友情、かげがえのない絆と呼べるものがありますから。
光井さんも感じません?ああこの人達と居れるだけでいい。この人達のぬくもりだけで生きていける…そういう感覚。」

それは愛佳自身も強く感じていた。
この絆が愛佳に生きる希望を与えてくれた。

「でも…どうしてでしょうか?
私達の進む道はいつも血にまみれてる…おかしいとおもいません?
誰かを殺すたびに悪寒に震え、誰かが殺されるたびに泣き叫ぶ…
こんなに殺して、こんなに殺される。こんなこといつまで続ければいいんでしょうか?
この現状って本当に幸せなんでしょうか?」

この子さっきからなにが言いたいんや?…

「さっき、私達は組織とは別の理想のために活動している、そういいましたよね?
私達の理想、私達の目的、これ誰にも話したことないんですけど、光井さんにだけはこっそり教えちゃいます。」

「私達の理想、それは『私と私の大切な友達が笑顔で暮らせる世界を創る』ことです。」

「なんか普通やな、いや、あんたらの『大切』から漏れた人間たちはどうでもいい…めっちゃ利己的な理想やな…」

「その通りです。とっても子供じみた、くだらない幻想です。でもコレ本気ですから。」

「でね?光井さん。私考えたんです。
私達の理想を手っ取り早く実現するにはどうしたらいいだろうって…
で、私いくつかの段階を踏んだプランを立てました。
名付けて「しあわせこんにちは計画」…くすっ名前なんてどうでもいいかぁ。
まあ、で、今はその第一段階を進行中なわけです。」

「第一段階として必要なもの、これ一つは組織の破壊です。
あの組織、あれ今動かしてる人達じゃ全然ダメだと思うんです。先が無いですよ。
でもだからといって、ただ闇雲に破壊したところで事態はますます混乱するだけ。
仕方がない、組織はそのまま利用しましょうってことで。」

いやな予感がした。これは予知能力とかそういうものではない。


「で、だったら使えない幹部連中をそっくり優秀な外部スタッフにすげ替えちゃうっていうアイディア。
これって名案だと思いません?
そうなるとだれが適任でしょうか?
優しくて、強くて、あったかい…絆を大切にする人達がいいですよねぇ。」

ただただ嫌な予感、もうわかった。
愛佳は少女の言いたいことが理解できた。
あかん…そんな、そんなこと絶対にあかん…

「そしたら、いるじゃないですかぁ…あったかいぬるま湯みたいな楽園に暮らす優秀な人たちが。
ふふふ…ねぇ?光井さん☆」

組織の脳みそをごっそりえぐり取り、リゾネイターを移植する…少女はそう言っているのだ。
愛佳は、そのおぞましい計画に戦慄した。
でもそんなことが出来るわけがない。出来るはずがない。

「そんなこと出来るわけないやろっ」

少女は答えない。かわりに別の問いを投げかけてくる。

「うふふ…光井さんが思う一番強いリゾネイターって誰ですか?」
「それは…」
「高橋さん?そう考えてますよね。
リゾネイターの皆さんは皆、能力者の中でもトップクラスに
能力開発が進んでいる人達ですけど、高橋さんは別格ですよね。
なにせ、リゾネイター唯一の【二重能力者(デュアルアビリティ)】。
瞬間移動と読心術なんて出来過ぎなぐらいの相性のよさでしょ。
はっきりいって最強ですよ高橋さんは。」

確かに光井が考える最強の能力者も高橋愛だった。
だが何故そんな話を今?


「でも私たちにとって『高橋さんは怖くない』んです。
戦う気もさらさらないんですけど、
戦ったとしても高橋さんには私達『勝てちゃう』んです。」

―でも、光井さん、あなたは怖い。―

「私達が一番恐れていたのは…光井さん、あなたです。」
だって予知能力、これはもうどうしようもないですもの。
何か計画しても、いや計画するまえに予知されていたら?
そう考えたらもう何も出来なくなっちゃう。
だから私達、まず最初にあなたを潰さなきゃいけなかったんです。」

寒気…これは北風のせいではない。
心の奥底から沸き上がる、恐怖。ここにいてはいけない。この話を聞いてはいけない。

「そうそう、いい忘れました。私、福田花音といいます。」

あかん…逃げな…もう逃げな…どうして?愛佳!早く話を断ち切って、
いやそんなことどうでもいい。後ろを振り向き、全力で走るの!
早く!早く!走って!みんなに!みんなに知らせないと!早く!
少女から目をそらすことができない。少女の話から逃れられない。
勝ち誇った少女の唇が歪み、言葉を紡ぎだす…


「『疑うことなく』信じるにょん。あなたは…」


――――――――


「うーさっぶぅ」
身に沁む北風が光井愛佳の足を駅前のショッピングモールへと急がせる。
リゾナント常連からショッピングのお誘い。
リゾナントの近く、小中高一貫の私立校、私立凰卵女学院の女子寮がある。
何人かの生徒はリゾナントの常連となっていた。
殺伐とした闇の戦いの中、つかの間の休息は愛佳の心を癒してくれることだろう。

待ち合わせ場所にはすでにかわいらしくおめかしした天使のような少女たち。
「あー光井さん!遅刻ちこくぅ。」
「いやーえろうすんません。早めに出てきたはずなんやけどなんか時間かかっちゃって」
「ほんとはあたしたちも集合したばっかりなんですよっ花音もさっき滑り込んできて」
「もーいわなくていいですよぉ☆それより早く早くっ」
「あーそうそう!光井さん、このコが一緒に行きたいって言ってた例のあたしの後輩で…」
少女は一歩前に出ると深々と頭を下げた。
抜けるような白い肌、ふっくらとした頬、丸くて小さな顔、小さな体…

「初めまして!私、福田花音といいます☆」

満面の笑みだ。愛佳はどぎまぎしながら返答する。
「初めまして。光井愛佳です。ようぞよろしゅう。」

北風はやみ、暖かな日差しが少女たちを照らし始めた。