『“未来”への反逆者たち ―闇と光(3)―』


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(50)511『“未来”への反逆者たち ―闇と光(2)―』の続きです
現実世界もこのスレも大きな変化のさ中ですが……ひとまず最初に思い描いた世界を最後まで書かせてください


『“未来”への反逆者たち』前回まで――

氷と炎 リンリン VS 藤本美貴
 川'v')<何故そこまで……父親の復讐か?
 川*^A^)<言ったはずダ。復讐ではナイ。自分の信ずる未来ト……守るべき仲間の為ダ!

チカラとココロ(1) 新垣里沙 VS 辻希美
 ||c| ・e・)|<ジュンジュン……!?
 ( ´ⅴ`)<死ね、裏切り者――

チカラとココロ(2) 紺野あさ美 VS 石川梨華
 ( ^▽^)<いつから敵の“お医者さん”になっちゃったわけ?Dr.マルシェさん
 川o・-・)<里沙……ちゃん、あの人、を……石川、さんを……解放、して……あげて……

チカラとココロ(3) 新垣里沙 VS 石川梨華 / 新垣里沙 VS 保田圭
 ||c| -e-)|<安……倍さん、の、思い…描い、て…いた“未来”…は……―――
 ( `.∀´)<――戻れないのよ、もう

闇と光(1) 田中れいな VS 吉澤ひとみ
 从*` ロ´)<れいなは信じとー。自分を生んでくれたパパとママのことを
 (0^~^)<………話にもなんねーよ

闇と光(2) 高橋愛 VS 中澤裕子
 川*’ー’)<カオリさんも、きっとそれに気付いたんやない?だから……
 从#~∀~#从<すまんけど、話はそこまでや愛ちゃん




壁面の多くが分厚いガラスで占められたやや大きめの部屋。
そのうち三面を、廊下が囲んでいる。
これまで見てきたいくつかの実験室とは異なり、室内には新しい機器類がいくつも置かれ、動作している。
部屋の中央には、ほぼ全面をガラスで作られたさらに小さな部屋のようなものがある。
だが、その大部分は大きな布のようなもので覆われており、中を覗き見ることはできない。

「ここ……か」

記憶の中の“未来”と照らし合わせながら、愛は小さく呟いた。
どうやら無事に辿り着けたらしいという安堵と共に、これまでとはまた違う緊張に支配される。


中澤が空間の裂け目へと“消え”た後、愛は迷うことなく一人で目的の場所へと向かった。

不安がなかったと言えば嘘になる。
愛佳の“視”た“もう一つの未来”の断片の中では、少なくとも愛は一人でここに立ってはいなかった。
それを思うと、やはり心細さを覚えずにはいられない。

だが、それと同時に、愛は改めて感じていた。

 ―既にもう、“未来”はその形を変え始めている

その行き着く先を知る者は、もういない。
だからこそ……もう、迷ったり怯えたりしてはいられない。
未来へと青空を繋ぐために―――


「ようこそ、我が楽園へ」

そのとき――
不意に明るい声が頭上から響いた。


「お久しぶり。…っていってもそっちは多分覚えてないだろうけど」

声は、愛の立つ廊下の天井に取り付けられたスピーカーから聞こえてきていた。
声の主の姿を探して一瞬泳いだ愛の目が、ガラス越しに白衣を着た女性の姿を捉える。
にこやかな笑みを湛えた表情とは裏腹に、その瞳の奥には深い闇の色が広がっていた。

 ―この感じ…どこかで……

2つの意味で既視感を覚えた愛の脳裏に、様々な過去の映像がフラッシュバックする。

「マコト…ちゃん……?」

無意識に口をついて出た言葉に合わせるようにして、目まぐるしくザッピングされていた頭の中の映像が止まった。
細部がぼやけて曖昧になったその記憶の映像の中で、白衣を着た両親らしき2人に手を引かれて危なっかしく歩く無邪気な笑顔の女の子―――

「へぇ~、覚えてんの?さすがデキが違うね」

だが、その微かな記憶の映像は、皮肉な響きを含んだ軽い声によって断ち切られる。
愛の目には、再び現在の映像――大人になった小川麻琴が浮かべる暗い笑顔――が映っていた。

それと同時に、もう一方の既視感を覚えた理由を愛は理解した。
麻琴の瞳の奥、そして心の奥底に燃える、仄暗くも激しい炎……それは、銭琳に初めて出逢ったときのことを思い起こさせる。
すなわち―――

「そうだよ。わたしはあんたに両親を殺された、あのときの女の子だよ」
「―――!」

もしかしたら…という思いはあった。
麻琴が自分に向ける感情は、あのとき銭琳から感じたものと同じ、激しい「復讐」の2文字だったから。

しかし……


「あーしが……殺した……?」

呆然とその言葉を繰り返す愛の頭の中は、もやがかかったように霞んでいた。

愛佳の“視”た“未来”の中の「小川麻琴」と、自分の微かな記憶の中の「マコトちゃん」が結びついたばかりのところに投げかけられた衝撃的な言葉。
その言葉に、そしてその憎しみのこもった視線に愕然としながら、愛は不明瞭な記憶を懸命に辿り、その当時のことを思い出そうとした。
だが、先ほどのぼやけたような映像の他には、手がかりになるような記憶は浮かび上がってこなかった。

「あれ?それは覚えてないんだ。都合いいなあ。じゃ、説明しようか?」

麻琴の軽い口調は変わらなかったが、その響きに含まれる憎悪の感情はありありとしている。

「わたしの両親、あんたの母親、それから田中れいなの両親はある実験(プロジェクト)に関わってた。それは知ってるよね?」
「人為的な“能力者の製造”……やろ?」
「そう。生まれてくる前の胎児に特殊なチカラを付与する……って実験。要は“人間兵器”の製造実験だね」

口元を捻じ曲げるようにした笑顔を浮かべ、麻琴は蔑むように小さく肩を竦める。

「その意味ではあんたがわたしの両親を殺したのは当然なのかもね。最初から人を殺すために生まれてきたんだから」
「……あーしは…何人…殺したの?あなたの両親の他に…」
「さあ?ま、でも1人や2人じゃないんじゃない?何しろ4歳にしてわたしの両親を消し去った『天才』なんだから」

僅かに掠れた声が、冷静を装う麻琴の感情の昂ぶりを感じさせる。
それを痛いほどに分かりながらも、愛は返す言葉を見つけられずにいた。

自身が“組織”による実験の産物であることは知っていた。
自分の母親や、れいなの両親がそれに関わっていたということも。
同時に、覚悟もしていた。
自分が過去に人を“殺した”ことがあるという事実を突きつけられる……覚悟を。

だが、実際に当事者の口から告げられた自分の“過去”は、想像以上に重かった。


「わたしの両親は高橋愛の能力の暴走による“事故”で死んだ……そう聞かされたときの気持ちは、今でも忘れない」

仮初めの笑顔を消し去った麻琴の声のトーンが低くなる。

その一瞬――表情を無くした顔の中で揺らめく憎悪の瞳の奥に、深い孤独の色が浮かぶのを、愛は見た。
心を繋ぎ合った仲間たちに出逢ったときと同じ、闇の中に独りきりで立ち尽くす、哀しい心を。

愛佳の“視”た“未来”の中で麻琴が洩らした言葉がそれに重なる。

 ――奪われたから…奪おうと思った――
 ――奪われたから……取り戻したかった……――

その言葉の意味が、今ようやく分かった。
小川麻琴は、自分の両親を“奪われた”のだ。
他ならぬ、愛の手によって…物心がつく以前に。

そして……もう一つ分かったことがある。
“未来”に“雨”を降らせる本当の意味での元凶はすなわち、麻琴ではなく……愛自身だったのだと。

「償えるものなら…この身をもって償いたい。……でもお願い、今はあーしの話を聞いてほしい」

そうなのであれば、尚更“未来”を変えなければならない。
自分のせいで、多くの人たちの…そして麻琴の未来を奪ってしまうことになる前に、なんとしても。

「あなたのお父さんとお母さんは、それぞれ遺伝子工学と脳科学の権威だった。その知識を生かしてプロジェクトに関わっていた」
「……それが?」
「あなたはそのどちらの才能も受け継いだ。…ううん、必死に自分でものにしたんだよね」
「だからそれが――」
「お願い。あなたが今やっている研究を……すべて今すぐ破棄してほしい」

そう言って頭を下げる愛に、麻琴が微かに息を呑む空気がガラス越しに伝わってきた。


「…わたしのやってることを知ってるんだ。得意の“精神感応―リーディング”で盗み聞いたってわけ?便利でいいね」

僅かな沈黙の後、吐き捨てるようにそう言う麻琴に、愛は首を横に振りながら必死に言葉を重ねた。

「違う、そうじゃないんよ。あなたの研究が、世界に…人類に壊滅的な打撃を与えるんよ」
「………は?」

会話の流れに関係なく、突然思いもかけない言葉を聞かされた麻琴の眉がしかめられる。
上手く説明できない自分を腹立たしく思いながら、愛は愛佳の“視”た“未来”を麻琴に告げた。

麻琴の行なっている研究――「クローン生成」「記憶の移植」「細胞の超速成長」――これらは、絶望的な未来を人類にもたらす。
感染から発症まではわずか半日から数日、そしてひとたび発症すれば病状の進行はあっという間で、その致死率はほぼ100%に達する―――
――そんな、過去に類例を見ない強毒性と感染力を併せ持つ凶悪な未知のウイルスを、その研究の過程で誕生させることで。

「未知のウイルス?言うに事欠いてそんなバカげた話を信じろって?ありえない。わたしはウイルスなんて一切扱ってない」
「分かってる。それは分かってる。だけど本当なの。実際に起こるの。ほんの数日後に…“あの人”が原因になって」

冷たい視線と抑揚のなくなった声を向ける麻琴に、愛は懸命の面持ちで室内を指差す。
その指先は、室内に置かれた強化ガラスの小部屋に向けられていた。

「そうか……あんたはまたわたしから奪う気なんだね。パパとママを…」
「それは……だけど―――」
「だけど何!?あんたはわたしのパパとママを殺した!なのにまたもう一度奪うのか!まだ足りないのか!この殺人兵器が!」

スピーカーから響く麻琴の声がひび割れる。
それは、麻琴のひび割れた心をそのまま表しているようにも聞こえた。

「クローン生成」「記憶の移植」「細胞の超速成長」――これらの研究が何のためのものなのか……つい先ほどようやくはっきりと分かった。
麻琴は“奪われた”ものを“取り戻したかった”のだ。

すなわち―――想い出の中だけではない、実際の両親の温もりを………


「この子の言ってることはほんとだよ、小川」
「!?」

そのとき、不意に背後から聞こえた声に、愛は驚いて振り返った。
そこには、闇色の細身のスーツに身を包んだ見知らぬ女の姿があった。
愛から少し距離を置いたまま、女は麻琴に向かって話を続ける。

「あんたが実験材料に使ってるその“獣人族”の男の体内で、凶悪なウイルスが育ってる。今この瞬間も」
「保田さん……?何故あなたがここに……それに…どうしてそんなことを知って……どういうことですか?」

思いがけない来訪者に幾ばくかの冷静さを取り戻した麻琴が、微かな困惑の表情を浮かべる。

「本来であれば人間には感染しないはずのウイルス…それが人間にも感染するようになることがある。例えばインフルエンザウイルスの抗原不連続変異のように」

だが、スーツの女――保田圭はその問いには直接答えず、淡々と話を続けた。

麻琴の研究の基となっている、7年前のあの件の際に持ち帰られていた脳死状態の“獣人族”の男――
遺伝子をいじられ、脳を刺激され、細胞組織を採取され、新たに植えつけられ……それらを繰り返すうち、元々その体内にあった“それ”は徐々に徐々にその形を変えていく。
ある種の動物にとっては無害であり、かつ人間には感染しないはずのそのウイルスは、毒性や進行性、感染力を著しく強めた上に、人間の体内に侵入する術をも獲得した―――

RNA遺伝子、変異性、融合、レセプター……愛には説明し得なかった言葉を整然と重ねる保田の話を聞くうち、麻琴の表情が青ざめていくのがガラス越しにもはっきりと分かった。

「『セリアンスロゥプ・ウイルス』――とでも呼ぶべきかしら。もしかしたらこれは“獣人族”の“復讐”なのかもしれないわね。人類への」

“獣人族”の中だけで、ひっそりと共存し、誰にも知られないまま平和に暮らしていたウイルス。
だが、その宿主は殲滅され、ウイルスたちは行き場を失ってしまった。
ギリギリ“生きて”いる宿主の体内の中、ウイルスは新たな住処を得るために、自らを変異させていったのだろう。
それとも……保田の言うように、もしかすると宿主の気持ちを汲んでその復讐に手を貸したのかもしれない―――

そんな感慨を抱く一方、愛は不可解な思いを禁じえなかった。
何故“組織”の人間が……?というその愛の疑問は、保田の次の言葉で吹き飛んだ。


「そして、その犠牲者第一号は……もう分かってるだろうけど小川、あんただよ」
「なっ――!?」

驚きに見開かれた目で、愛は保田を見遣った。
そこにはガラスの向こうへと視線を注ぐ保田の冷たい無表情がある。
そしてその先……部屋の中には、着ている白衣と同じ顔色になった麻琴が呆然と立っていた。

だがその顔には、愛とは違ってもう驚きの色は浮かんでいない。
おそらくは、今の保田の話の中で悟っていたのだろう。
自分が既に感染していることを―――

だけど―――

「どうして……!」

“未来”はその形を変え始めている……改めてそれを思い知らされ、愛は愕然とした。
自分の知っている“未来”――愛佳が“視”た“もう一つの未来”の中では、この時点でまだウイルスは誰にも感染していないはずだった。
それなのに………

「まさか…あのときの指示は……わたしにウイルスを感染させるために?」

愛の疑問に答えるかのように、麻琴が震える声で保田に問いかける。

「…そうよ。あんたには真っ先に死んでもらわないと。殺人ウイルスを世界にばら撒くきっかけを作った張本人として。“組織”とは無関係なところで」
「……!……そのために…どうなるか知っててわたしにこの研究をさせてたの!?」
「もちろん知ってた。あたしたちにとっては、その結果こそがあんたのくだらない研究の中にあって唯一必要なものだから」

そう冷たく言い放つ保田の横顔を見ながら、愛は先ほどのあさ美の言葉を思い出していた。
れいなが自分にかけた電話は、間違いなく他にも何人かこの場に呼び寄せた――というその言葉を。
そして同時にそのことが、“未来”を僅かに変えてしまっているのだろう。
このままでは………


「里沙は死んだよ」
「………えっ?」

横顔を見せたまま、保田が唐突にポツリと呟いたその言葉の意味が、一瞬分からなかった。
息を呑み、固まる愛に視線を移し、保田は先ほどよりもはっきりとした声で繰り返す。

「里沙は死んだ。あたしが…殺した。ついさっき」
「―――――!!」

一瞬――目の前が、黒とも赤ともつかない色で染められた気がした。
無意識にチカラを使い、保田の心を読もうとしたが、ガードされているらしきその内心はまったく窺い知ることができない。

だが―――愛には分かった。
保田が今口にしたのは、紛れもない事実であるということが。


訊きたいことが山ほどあった。
伝えなければならないことが山ほどあった。
目の前の“敵”への警戒を怠ってはならないことも…分かっていた。

しかし、里沙を失ったのだという喪失感が、それらの思いを越えて愛の心を支配する。
二度と生きては会えないかもしれないという覚悟があったにも関わらず…それはまだ心の底までは届いていなかった。

http://www35.atwiki.jp/marcher/editx/290.html
保田の声が、静かに廊下に響いた―――


「そして高橋愛、あんたにも今ここで……死んでもらう」


                                       To be continued...