『■ エスケープ-鞘師里保- ■』



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■ エスケープ-鞘師里保- ■

鞘師里保は途方に暮れていた。
急に裏通りに消えたタクシーを追うも見失い、鞘師自身もタクシーを降りた。
目の前には廃工場が不気味にそびえたっている。
「おなか…すいたな…」
ふとそのとき鞘師の中にかすかに響くものがあった。
「この中か…」
殺意ではない。はっきりとしたものではないがこの感覚は先ほどの少女のものだ。
そう直感した。
「おなか…すいたな…」
鞘師はもういちど呟くとボッという風切り音をあげ一気に廃工場へと走り出していた。

――――――――

鞘師里保は若干困惑していた。
さきほど目の前で起きたこと…この状況はどういうことだろうか?
廃工場内にかけ込んだ鞘師が見たものは今まさに目の前で消える複数の女性と例の少女。




横たわる男性がすでに死亡していることを見てとった鞘師はとりあえずその場を離れることにした。

鞘師は手近なファーストフード店へ入ると「季節限定!」と書かれたセットメニューを注文した。
先ほど苦悶の表情で横たわる死体を見たばかりだが、食べ盛りの小学生から食欲は奪えない。

目の前で人が消えるなんて不思議なこともあるものだ。
鞘師はすでに少女の身の安全に関しての心配は忘れていた。
いや最初から心配していたかどうかすらあやしいが、とにかく現状自分にできることはなさそうだ。

ほとんどソースの味しかしないそのハンバーガーをパクつきながら思い返す。

先ほどの心の響き、あれは殺気を察知するとか相手の意思を読むとかいった武術的な感覚とは別の何かだったように思う。
「なんだったのかな…このソース」

じぃちゃまの好みもあるが典型的な和食で育ってきた鞘師だったが
やはりこういったジャンクフードへのあこがれも強い。
あっという間に平らげた先ほどのハンバーガーの味についていまさら考えてみる鞘師だった。
現状の情報でわからないことはどこまで行ってもわからない。ならば保留だ。
それよりも…

とりあえずお腹の満たされた鞘師はジュースと食べかけのポテトをテーブルに置いたまま、トイレへとむかった。
「まだ食べかけですよ」といわんばかりに。

鞘師がトイレへ入ると同時に先ほどまで
いちゃいちゃしていた一組のカップルが急に無言になる。
やおら立ち上がると鞘師の入ったトイレへと向かう。

入口を男が見張り女が中へ…
「窓だ…逃げられた。」
「気付かれていたか。お前はそのまま窓から出て追え。こちらは外から回る」
「了解」







最終更新:2011年01月11日 19:25