こたつの夜


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帰宅する仲間たちを見送り二階へと上がったれいなは、リビングの風景がいつもと異なるのに気がついた。

「なんこれ?こたつ?」
「そーそー。物置の整理してたら出てきてさ」

リビングの真ん中に見慣れない布団つき机が陣取っている。
愛と二人で暮らし始めて何年か経つが、こんなものがこの家にあったなんて今まで聞いたことがない。
初めて間近でみるこたつにれいなは興味津々で近寄った。

「これ、いつ買ったと?今まで見たことないっちゃけど」
「あー・・・・・・だいぶ前に買って、そのままずっと仕舞ってあったからね。知らないのも無理ないかも」

苦笑いを浮かべる愛だが、その目にはどこか陰が差しているように見える。
なにか事情があるのだろうと思ったが、れいなは敢えてそれを尋ねようとはしなかった。
話すべきことなら愛は自分から言ってくる。
そうじゃないことなら、特にこちらから聞き出す必要はない。

そんなことより、まずはこたつだ。

「ね、入っていい?」
「まだ電源入れていないからあったかくなってないよ。それでもいいなら」
「失礼しまーっす!」

いざ、こたつに飛び込まん!
れいなは勢いよくこたつ布団をめくった。
が、そこで。

「ちょーっと待ったぁー!!」

鳴り響く甲高い声。にぎやかな足音。
小春を先頭に、仲間たち7人がリビングへなだれ込んでくる。

「田中さんひとりでぬくぬくしようったって、そうはと・・・と、と、と?」
「問屋がおろしまへん!」
「そうそれ!」
「ワタシ田中さんの隣座るー!」
「いーないーなー。ボクもこたつに入りたいんだーなー」
「れいなは詰めが甘いよね。こたつ独占とか許されると思った?」
「日本の冬はヤッパこたつだよネー」
「なに日本人より日本人らしいこと言ってんのアンタ」

あっけにとられるれいなをよそに、次々と自己主張する仲間たち。
正直、やかましくて仕方がない。

「なんでまだおると!さっきみんなで帰りよったやろーがっ!」
「いやー小春が忘れ物したとか言い出してさー。みんなで取りに戻ったら、今度はカメが『サプライズしてこー』とか言って」

騒がしい集団を代表して、里沙がこの状況の説明をしてくれた。
要するに原因を作ったのは小春で、悪ノリしたのは絵里ということか。
驚いたには驚いたが、このサプライズはあまり嬉しくない。
れいな夢のこたつ入りの時間が遠のいてしまった。

「一度には入れるのは四人か。・・・よーっし!こたつ争奪選手権を始めるぞー!イェイイェイ!!」
「やけんなんでそーなると!」
「ルールはー?ねぇルールはー?」
「なんでもいっすよ。なんか案ある人ー?」
「早口言葉!」
「百人一首!」
「ピャーピャー!」
「ツイスターゲーム!!!」
「乗り気!?」

そもそもの当事者である愛とれいなを差し置いて議論が進められていく。
もはや抵抗は無意味だろう。
ツッコミに疲れたれいなが愛のほうを見ると、愛もしょうがないという顔をしてみんなを眺めていた。

「いっくぞー!こたつバトル、スタート!!」
「おー!!!!!」
「・・・・・・おー」

れいなは、小さく右の拳を突き上げた。


…………


「で、なんでこうなっちゃったの?」
「おっかしなー、こんなはずじゃなかったんだけどなー」
「もー、小春のばかぁー!」

こたつ権をめぐるバトルは、すったもんだの果てに終結した。
仁義なき戦いに勝利した愛、里沙、愛佳、そしてれいなの四人がこたつの中に収まる。

「はー、あったかい。眠くなってきたっちゃん」
「え、寝るの?寝るの?寝ちゃうの?指くわえてこたつを見つめてるかわいそうな絵里たちの前で眠っちゃうの?」
「ひどいよれいな!人の痛みをもっと考えて!」
「小春もこたつ入りたいー!みっつぃー交換しよう!」
「え~、いやですぅー」

初めてのこたつでまどろむれいなには、外野たちのさえずりすら心地良い。
誰になにを言われても、れいなはこのベストポジションを譲る気がなかった。

「詰めたらいけるだよ!田中さん、いれてー!」
「ちょ、やめっ、このアホジュン!あんたでかいけん無理!」
「じゃー私小さいだからダイジョブ!ハッハッハ!」
「無理!狭いー!!」

れいなの右隣にジュンジュンが、左隣にリンリンが割り込んでくる。
一人ならまだなんとか平気だが、二人となるとさすがにきつい。
快適だったはずのこたつが途端に熱くなってきた。

「ぬ、そういうのアリ?んじゃ、おじゃましまーす!」
「コラー!小春ー!」
「とぉーう!」
「うお!びっくりした!」
「あ、乗り遅れた」
「道重さん、よかったらここどうぞ」

里沙の隣に小春が。
愛の隣に絵里が。
愛佳の隣にさゆみが入り込む。
一つのこたつに九人。
明らかに定員オーバーである。

「ねー、愛ちゃん。狭いんだけどー」
「うん、狭いな」
「いいじゃんいいじゃんガキさん。細かいこと言わないのっ」
「絵里はもうちょっと細かいこと気にしたほうがいいと思うよ」
「そんなことより暑い!」
「田中さん暑い?ジュンジュンがふーふーしてあげよっか?」
「きもっ!ジュンジュンきもいよ!」
「あー、耳がキンキンなってきたー」
「ハハハ、みんな仲良しだ!」

狭いし、暑い。
このまま寝たら風邪をひく。
終電の時間も過ぎる。
お風呂にだって入りたい。

それでも、今この瞬間こたつから出たいと思う者はいなかった。
いつまでもいつまでもこうしていられたらいいのに、と誰もが思っていた。