Winter Story


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悴む指先に息を吹きかけて温めた。
この季節、吹きさらしの駅のホームは堪える。
すっかり陽が落ちてしまったホームで、愛佳はマフラーを鼻先まで上げて電車が来るのをじっと待った。

コートのポケットに手を入れる。出番がなくなった小銭が指先に当たった。 
ひんやりとした硬貨を避けるようにして、愛佳は少しでも暖を取るためポケットの中で拳を握る。

暗いホームにポツリと明るい光を放つ自動販売機
吸い寄せられるように近づき、財布から必要なだけの小銭を取り出したが投入口に入れるのを躊躇う。
あったか~い、の赤い文字。その上に並ぶ文字通り温かな飲み物
どれも嫌いではなかったが、愛の作るカフェオレに比べればどれにも物足りなさを感じる。

温かな缶を両手で包み暖を取りたい、という誘惑とは戦ったが
リゾナントへ着いたときのことを思うと、それは簡単に抑えられた。

10分ほど待って、目的地までの電車に乗り込む。
ラッシュ時間とはずれているためか、人はまばらだ。
愛佳はいつもの場所へ座り、過ぎ行く街並みをぼんやりと眺めた。 

電車を降りると再び冷たい風が愛佳にまとわりつく。
車内が暖かかった所為で余計に冷たく感じる。
ぶるぶる、と震えた後肩をすくめ、そしてまた指先に息を吹きかけリゾナントへ急いだ。
吐き出す息はすっかり白くなり、そして街はイルミネーションで彩られている。
不規則に9色に変わるイルミネーションに目を細めながら、愛佳はリゾナントの扉を開けた。

「ただいま」

温かい空気が愛佳を包む。オレンジを基調としたリゾナントの照明は、悴んでしまった愛佳の身体をほぐしていく。
温かさと、そして安心感で愛佳は扉の前で動きを止めた。

「おかえりぃ。寒かったやろ」

いつもの場所で愛が声をかけてくれる。愛佳はうん、と頷くのがなぜか精一杯で
そこに佇んだまま首を縦に振った。

「愛佳寒すぎて固まっとぉ」

厨房でれいなが悪戯っ子のような笑みを浮かべながら愛佳を覗き込む。
寒さで頬が真っ赤になっていた。

「愛佳、早く奥おいで。絵里のとなりすっごいあったかいよ。あの子一人で暖房取ってるから」

さゆみが席を立ち、絵里の隣を指差す。今年買ったばかりの遠赤外線ヒーターを絵里は見事に独り占めしていた。
さゆみが愛佳の手を取る。あまりの冷たさに思わず息を呑んだが、すぐにその手を包み込んだ。

「すっごい冷えてるじゃん!手袋、もってる?」

さゆみの体温が愛佳の手をじんわりと温めてくれる。
あまりに自分の手が冷たくて申し訳ない気持ちになったが
どうがんばっても離してくれそうになかったので、手を包まれ引かれるままに絵里の隣へ腰を落とた。

「あー!愛佳ちゃんほっぺ真っ赤じゃん。超寒そう」

ヒーターが当たるように絵里は暖房器具の角度を変えた
そして真っ赤になってしまっている愛佳の頬を手で包む。

「耳も冷たいよぅ。かわいそーに」

亀井さんってこんなに手のひら大きかったっけ?
耳から頬にかけて全体を包まれている。
愛佳はぼんやりとそんな事を思いながら、絵里の体温をじっと感じた。

「温まるまでジュンジュンの上着かしてアゲルよ」

「マフラーもういっこいるですか?」

ばさり、とコートの上にジュンの持っていたコートをかけられ
そして絵里の手のひらと一緒にリンリンのマフラーを巻かれる。

「はいよ、みっつぃー。愛ちゃんからのカフェオレ。早く飲んであったまりなー」

里沙の姉のような、母のような、そんな笑顔を見上げ愛佳は笑顔で頷く。
カフェオレは飲みたい。だけど、自分にこんなに良くしてくれるみんなの好意を離したくない。

グルグルに巻かれたリンリンのマフラー
もこもこのジュンジュンのコート
れいなのさり気無い心遣い
頬を暖めてくれる絵里の手
手を温めてくれるさゆみ
温かく大きく包み込んでくれる里沙
愛がここに居るという安心感

愛佳は嬉しくて仕方なくなり、でもなんだかすごくくすぐったくて
頬を包んでくれる絵里の手をそのままに肩口に額を押し当てた。

「すっごい、すっごいあったかいです」

頬にあった手が離れ、頭を撫でられる。そうかと思えば、突然髪の毛をぐしゃぐしゃにされ
そして絵里特有の甘い声が降ってくる。

「がんばって帰ってきたね、愛佳ちゃん。おかえり」

顔を上げると嬉しそうに笑う7つの顔がある。
守られている、愛されている。自惚れではなくそう思えることがどれほど幸せか
愛佳はだれよりも理解しているつもりだった。

「オムライス作ったで食べなー。みんなもゴハンにしよかぁ」

看板がCloseに変えられる。
愛の持つ皿には黄色いふわふわ卵のオムライスが溢れんばかりに盛り付けられている。ひとつのテーブルをみんなで囲った。
そしてそっちが多いだの、ジュンジュンは取りすぎだの、れいなはもっと食べるべきだの、さゆみは心もち控えめにすべきだの
そんなことを言い合いながら賑やかな夕食が始まる。


冷たい風が窓を揺らした。小春の務めるアニメチックな天気予報によると、明日からさらに冷え込むそうだ。
愛佳は口いっぱいオムライスを頬張りながら、明日雪が降ることをこっそり願った。
そうすればみんなと、もっとずっとぎゅっと傍に居る事ができるのに。