モーニング戦隊リゾナンターR 第??話 「Wingspan の世界:風に舞う羽のように」


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飛び交うヘリ、夜空を走るサーチライト、騒然とした空気。
湾岸に建てられた石油精製所のゲート付近に停められた一台のワゴン車。
前部座席には二人の少女。
ハンドルを握る丸顔の少女は夜空を眺めながら、茫洋とした口調で話す。

「いい月だねえ。 テロリストの皆さんも何もこんな夜に活動をしなくてもねえ」

「……月なんて嫌いだ。 自分では光ってないくせに輝いてるふりをして」

苦い表情で吐き捨てる助手席の少女の肩をポンポンと叩く丸顔の少女。
やがて無線機のコール音が車内に響く…。


… … … … … … … … … … … … … … … … … … …

歪んだ空。 崩壊した建物。 荒れ果てた大地。
壊れつつある世界を駆け抜ける1台のランドクルーザー。
ハンドルを握っているのは若い女性。
髪は無造作に後ろで束ね、目元を防塵用のゴーグルで覆っている。

後部座席には1人の女性。
やせ衰えた身体、真っ白な髪。
薄く開かれた眼は見るともなく車外を眺め、横たわるようにその身体をシートに預けている。
車はやがて止まる。
外観に大きく損傷は見あたらない大きな建物の駐車場。
そこには何台かの車の姿があったが、どの車のボンネットも大きく凹み、フロントガラスは割れていた。

運転席から下りた女性は、注意深く周囲を見渡す。
地面にシートを敷くと、後部座席の女性を抱き抱えて座らせる。
車に戻ると荷台に積んであるケージをのぞき込む。
そこには数匹のラットが動いていた。
一匹ずつ状態を確認して、データを記録すると安堵の息を漏らす。
そして助手席に載せてあったバッグを手に取ると白髪の女性の方に戻る。

白髪の女性は座らされていたシートから這い出して、地面の舗装が割れている場所に動いていた。
それを見た若い女性の表情が一瞬哀しげに歪む。
白髪の女性は割れた地面から生えている何かの草花に手を伸ばし、言葉にならない声を漏らす。
その様子を見た若い女性は笑顔を作ると白髪の女性に話しかける。

「こんなに近くで花を見るのも久しぶりだね」

「あー、あー」と嬉しそうな声を上げる女性。

「じゃあここで食事にしようか」

若い女性はレトルトパックを開封して、流動状の食事を白髪の女性の口に運ぶ。
白髪の女性は口にした食事の半分以上をこぼしてしまうが、若い女性は丁寧にそれを拭い、根気強く食事の介助を続けていく。
どうにか流動食を食べさせ終えると自分は固形の携帯食を口にしながら、ラットのデータをチェックしていく。

「これで、2週間。 第2段階はクリアしたわけだけど」

やがて運転の疲れが出たのか瞼が重くなり、束の間の夢の世界へと…。

… … … … … … … … … … … … … … … … … … …

施設を占拠した犯人の要求は世界中で収監されている同士の釈放、百億円相当の金塊、燃料を満載した旅客機だった。
要求が聞き入れられない場合は、人質となっている関係者を殺害し、施設を爆破して備蓄している原油を海中に放出するという。
事態を重く見た当局は高度の訓練を受けた能力者によって編成された特殊部隊の派遣を決めた。
彼ら、いや彼女らの名は“フィフス”。

急発進するワゴン車。
施設の頑丈なゲートがその行く手を阻む。
ゲートに激突する直前、月の光にも似たチカラが車体を包む。
吹き飛ぶゲート。 響く銃声。
月光の庇護を失った車体に降り注ぐ銃弾。
やがて訪れる静寂の一瞬。
ワゴン車のハッチバックが跳ねるように開いた。
黒い影が飛び出す。
再び銃声が響くが、影の動きはあまりにも速く誰の銃口も捕捉することは叶わない。
影はやがて建造物の陰に隠れていたテロリストの一人の背後に唐突に現れた。
躍る右足はテロリストの側頭部を捉えた。
最初の標的が昏倒したことを確認すると、影は跳んだ。
まるで姿を消すかのように。
そして最初の標的から数十メートル離れた高所で銃を構えていたテロリストの眼前に突然現れた。
人間の運動能力の限界を超えた動きに驚愕するテロリストの頭部を両足で挟み込むと、自分の身体を振り子のように使って後方に倒れこんだ。
そこは足場もない空中。
地上に叩きつけられて、苦悶の声を上げるテロリスト。
しかし彼と同体で空中に投げ出されたはずの影の姿はどこにも見当たらない。
ここに至ってテロリストのリーダーは自分たちを襲う影の正体に気がついた。

「気をつけろ、相手はテレポーターだ。 死角に入られないよう位置取りに気をつけろ」

「背後を取られるな」というリーダーの指示に従い、建造物を背に立つテロリストたち。

更に何人かは侵入してきたワゴン車に向かった。

「そんな車は吹き飛ばしてしまえ」 部下に指示を飛ばすと通信機を取り出し、何処かに連絡を取ろうとする。

蒼い光がリーダーの頭上に煌いた。
実体化したテレポーターの踵がリーダーの手にした通信機を吹き飛ばした、だが…。

「かかったな、お前ら俺に構わずにこいつを殺れ」

二人の部下を倒したテレポーターの身体にしがみつき、その動きを止める。
リーダーの近くにいたテロリストが、無防備な姿を晒しているテレポーターに銃口を向ける。

ドンッ。

重く鈍い波動がテロリストの身体を貫く。
気配すら感じさせず近づいていた黒い戦闘服を身に着けた人間が掌底を脇腹に打ち込んでいた。
その顔は覆面で隠されていた。

「自分たちの仲間も一緒に躊躇いなく撃とうとするなんてとんだ外道だね。 こっちも遠慮なくやらせてもらうよ」

特殊部隊の隊員にしては身体が華奢で、幼い声をしているな…というのがそのテロリストの最後の意識だった。
精神を乗っ取られ操り人形と化したテロリストは、ワゴン車に向かったテロリストに対して発砲する。
やがて始まる壮絶な同士討ち。
仲間から転じた敵へ発砲した仲間が新たな敵となる勝機の見えない戦い。

「背後を取られるな」 というリーダーの指示を忘れ、逃げ延びようとするテロリストの背後に煌く光。

やがて発砲は散発的なものとなり、ゲート付近のテロリストは制圧された。

ワゴン車のドアが開く。
出て来たのは二人の特殊部隊員。
テレポーターとマインドコントローラーと同じように、覆面を着けている。
しかしその身体つきや身のこなしは先行した二人に比べれば鍛え上げられてはいない。
運転席にいた隊員はラップトップのパソコンを手にしていた。
マインドコントローラーが急かす。

「マルシェ、急いで。 奴らはもう起爆装置をスタートさせたかも」

マルシェと呼ばれた隊員は慌てることなく歩を進める。

「わかってる。 最小限の爆薬で最大限の被害をもたらすために何処に仕掛けたかも推測はついている」

言い終わると覆面を外す。

「ちょっ、マルシェ」

「頭が締め付けられると、脳細胞の働きに影響するからさ」

ニコリと笑うと他の隊員に進言する。

「テロリストの皆さんが残ってるかもしれない。 愛ちゃんと里沙ちゃんは残敵の掃討と人質の救出を。 マコは」

「私はマルシェを護衛する」

「じゃあ、お願い」

フィフスの4人が動き出した。

                     ★                

愛と呼ばれたテレポーターは、自分たちが倒したテロリストの思念を遡って、残存する敵の捜索を行う。
里沙と呼ばれたマインドコントローラーはテロリストの一人を操り、倒した敵の武装解除を行っていく。
マルシェと呼ばれた少女は、迷うことなく施設の一角に向かう。
マコと呼ばれた少女は、周囲に目を配りながらマルシェに付いて行く。

「未精製かつ大量の原油を瞬間的に爆発炎上させるだけの爆薬を持ち込むことは不可能に近い。
だとしたら、原油を海上に流出させて海洋汚染を招いた方が、ローコストハイリターン。
輸送パイプ内の圧力が高く、尚且つ海面に近い箇所といえば、…あった。」

愛と里沙は施設の一角に監禁されていた人質を救出していた。
口々述べられる感謝の言葉を聞き流しながら、彼らの意識を探る二人。

「何か足りない」 呟く愛の目を見つめる里沙。「二人が危ない!!」


マルシェとマコの二人は爆弾の爆破装置の解体作業を行っていた。

「ねえ、あさ美ちゃん。 専門家を呼んだほうが良いんじゃない」

マコの口調はどこか弱々しい。対するマルシェは…

「私も出来ればそうしたいけど、あいにくと時間がない」

マルシェの言葉に地団太を踏み始めるマコ。

「えぇーっ、あとどれくらいで爆発するのぉぉ」

「2分30秒、29、28、27・・・」 悠然とした態度で爆発までのカウントダウンを始めたマルシェ。

落ち着き払ったマルシェに対して、マコと呼ばれた隊員は「おわっ、おわっ」と叫ぶばかりだった。

「よし、バイパスは繋げた。 あとはリード線を切断するばかりなんだけど」 ワイヤーペンチを手に不敵な笑いを浮かべるマルシェ。

「早く切っちゃおうよ」 マルシェを急かすマコ。

「さて、ここで問題がある。 赤、青、黄。 三色のリード線のうち1本が当たり、残り2本が外れ。
いや、爆弾を作った側の立場に立ち返れば、2本が当たり、1本が外れってことになるか」

「ちょー、マルシェ」

「とにかく時限装置を止めるには正しいリード線を1本切断する必要がある。
でも間違ったリード線を切れば、その場でドカン!! 1分10秒、9、8、7、・・」

「逃げなきゃ、マルシェ、逃げなきゃ」

「マコの好きな色は何色だったっけ。 確か青?」

「無理無理無理。 あ、あたしピンクが好きなんだ本当は」

「じゃ、赤で…」

「待ってってばぁーっ」

慌てふためくばかりのマコの目が走り寄る人影を捉えた。

「あんたら、警察か。 助けてくれ」

手錠をかけられた作業服の男だった。

「ここは危険です」というマコの制止も耳に入らないのか、スピードを緩めることなく近づいてくるのだった。

男の様子に不審なものを感じたマコは両手を広げて、解体作業中のマルシェを守るように立ちはだかった。

「今すぐ止まって、さもないと」

作業服の男―人質を装ったスリーパーは拘束されているように見せかけていた手錠を外すと拳銃を手にした。

「爆発を止めさせなんてしない」

立ちはだかったマコ向けて、無造作に引き金を引いた。
一発、二発、三発目の銃声が響いた時、男は異常に気づいた。
銃弾が命中したはずの女が立っている。
まるで月光のような青い光を帯びてながら。
そして、自分の左肩からは血が噴き出している。

「私のチカラは“反射”。 能力による攻撃、物理的な攻撃のダメージを跳ね返すことが出来る」 言い終わるとがっくりと膝をついた。

「もっとも、まだ使いこなせてないんだけどね」

“反射”能力が完全に作用しなかった銃弾が右肩を掠めてしまった。

「この、化け物がぁぁぁーっ」

跪いたマコの顔に銃口を向けるテロリスト。

「ゲフッ」

爆弾の解体作業をしていた女の正拳が男の人中に決まっていた。

「無差別なテロで数え切れないくらいの命を危険に晒したテメーらに化け物なんて呼ばれる筋合いなんて無いんだよ」

無様に倒れ伏した男の下腹部を躊躇いなく踏み潰す。

「ぐぇぇぇっ」

「痛い、それは痛いよね。 でもあんたがそうして痛がれるのも麻琴が“反射”の方向を逸らしたからなんだよ。
自分が傷つくかもしれないのに、ね」

苦悶する男の胸に膝を突き刺し、男の動きを制するとその顔面に腕を打ち下ろしていく。

「ひぃぃ、助けてくれ」

「テロリストさんよぉ。 そいつは虫が良すぎるんじゃないの。 あんたらこの施設の人間を、海の生物を大量虐殺するつもりで来たんだろ。
殺すものは殺されるんだよ。 それだけの覚悟が無いのに無差別テロなんて笑わせるんじゃないよ」

マルシェと呼ばれた少女は、自分の拳を痛めないよう手首の骨を男の顔面に叩き込み、その形を変えてゆく。
麻琴と呼ばれた隊員は、慌ててマルシェを止める。

「私は大丈夫だから、やめてあげて、マルシェ」 自分の傷を庇いもせずにマルシェを制止しようとする。
やがて、何かに気がついたように…。

「爆弾は。 マルシェ、爆弾の解体はどうしたのマルシェ」

「57、58、59、1分、1分1秒、2、3」 カウントアップを始めるマルシェ。

「え、ええ、もう過ぎちゃったの。 ええ、不発だったの。 それとも、もしかしてここは天ご・・」

「バカ言ってんじゃないの。 こんな奴がいる天国なんて有り得ないでしょうが」

そう言って失神した男を解放するマルシェ。

「麻琴が正解だった」

「ってことは赤色のコードを」

「いや」 大きく首を振るマルシェ。

「最後に電流量をチェックしたら、三色のコードは全部トラップだった。 金属板で隠されたところにこいつが走ってた」 と言ってピンク色のコードを麻琴に手渡す。

「良かったあ」 文字通り胸を撫で下ろす麻琴。

「でも何でこいつの銃撃を100パーセント“反射”しなかったの」

「エヘッ、上手く“拡散”出来ると思ったんだけどね」 照れ笑いを浮かべる麻琴の右肩に触れるマルシェ。

マルシェの掌が蒼く光った。
蒼い光はやがてピンク色の煌きに変わり、麻琴の傷を急速に癒やしていく。

「あ、」

「ありがとう」 礼を言おうとした麻琴に先んじて謝意を述べるマルシェ。

「私のことを守ってくれて」

照れくさそうに俯く麻琴。

「ヒューッ」 と囃したてる声がする。

覆面を脱ぎ捨てた愛が立っていた。

「人質の意識の中に、犯人が作業服を手に入れてる光景が映ってたんで、もしやと思って来てみたけど、お邪魔やったみたいやね」

「里沙ちゃんは?」

「人質の精神に干渉して、私たちに関する記憶を操作してる」

「全く私たちはいつまで日陰の身なんだろうねえ」 自分たちの不憫さを嘆くマルシェ。

「まあしょうがないやろ。 能力者で編制された特殊部隊なんて。 しかも全員が未成年だなんて事実は世間には知らせられんやろ」 あきらめ口調の愛。

「しかも、全員がプリチーな美少女ばっかりだからね」 すっとぼけた様子で話す麻琴。

「ああ、やれやれ。 独断先行のエースのフォローは疲れるわ」

腰に手をあて年寄りじみた所作の里沙が姿を現した。

「里沙ちゃん」

マルシェと麻琴の呼びかけに鷹揚に頷いていた里沙だったが、そこに倒れているテロリストの傷ついた様子を見ると顔色が変わった。

「マルシェ、あんた一体何をしでかしてくれてるのよ」

「しょうがないよ。 こいつは麻琴を傷つけたんだから」

「でも麻琴の傷はあんたが治したでしょ?  “治癒”能力で。 だったらこいつの顔の傷もちゃっちゃと治しちゃいなよ。 後で面倒になる」

「イヤだ。 こんな奴の為にチカラを使うなんて真っ平ゴメンだね」

「そうやのう。 麻琴に怪我さすなんて万死に値するわ」

「ちょっ、愛ちゃんまで」 

里沙は溜息をつくと、男の脈を調べる。 そして命に別状は無いらしいことが判ると、男の記憶を操作すべく精神干渉のチカラを発動させる。

「じゃあ、里沙ちゃんがマルシェの尻拭いをしとる間、マルシェはワゴン車を治しとこうか。 帰還の足を確保する為も」

「何そのクレイジーダイヤモンド。 私の“治癒”は命あるものしか治せない」

「ええっ、じゃああーしらはどうやって本部まで帰ればいいんやろ」

麻琴が素早く愛の背中に乗った。

「愛ちゃん、跳んでぇーっ」

「いや、無理だから。 まだあっしは他の人と一緒に跳んだことは一度もないから」

「跳んでぇぇ」

テロリストの記憶操作を終えた里沙が、愛の背中に覆いかぶさっている麻琴の背中に乗った。
二人分の重さを背中で支えきれず、前のめりに倒れる愛。

「無理無理」

「跳んで」

無邪気にじゃれあっている三人の能力者を微笑ましげに見つめていたマルシェも、やがて誘惑に耐え切れない様子で三人の元へ。

「愛ちゃん、跳んでぇぇ」

「もうマルシェまで。 重いから、無理だから 」

「跳んでぇ」

未曾有の被害を未然に防いだ少女たちの戯れを月が眺めている。

… … … … … … … … … … … … … … … … … … …