『17才の悩み』

ジュンジュンの誕生会も終えた2月の半ば、3月にはリンリンが大人へ一歩近づく
そんなわたしも今年で17歳になった
メンバー内では最年少とはいえ、声を張って子供ともいえない年齢


休日に学校で催しものがあったため振り替えで休みになった今日
わたしは朝から喫茶リゾナントにきている
作業している高橋さんと田中さんを前に、カウンター席で参考書を開きコーヒーを飲んでいた
高橋さんのいれてくれたコーヒーを口に運ぶと心身ともにとてもあったかくなる
でも・・・ちょっと苦い
大人ぶってコーヒーを頼んでみたけどわたしにはまだちょっと早かったみたい
「もっと砂糖とミルク入れようか?」
「いえ、大丈夫です」
苦かったのが顔に出てしまい、高橋さんに気を使わせてしまった

今は午前11時をまわったころ
忙しくなるランチタイムまで、もう少しゆっくりできそうだ

「愛佳、春からもう3年生だよね」
「はい、そうです」
「いいっちゃねー、高校3年生って、めっちゃ青春やし、後輩に威張れるし」
「れいな、そういうの憧れてたもんねー」
「でもれいな頭悪いからどっちみちむりっちゃ」

2人の過去について、まともに学校にいけなかったということは聞いている

「そうでもないですよー、進路とか考えなきゃいけないですし・・・」
「大学行くんやろ?行きたいところとかまだ決まってないの?」

今まではずっとそう考えていた
良い大学に入って、良い会社に入って・・・
でも、目の前の2人は良い学歴をもっているわけではない
それなのに2人で喫茶店を経営して生活して立派に社会人として日常を送っている
毎日、これ以上ないくらい、楽しそうに・・・

「まだ進学するって決めたわけじゃないですよ、就職もありかなーって」
「愛佳もリゾナントで働けばいいっちゃ、そうすればれいなも楽できると!」
「そだね、れいなの代わりに愛佳を雇おうかなぁ?」
「ちょっ、愛ちゃん!なに言っとー!?代わりってなんなん!?」
「ごめん、ごめん、じょーだんだよ」

いたずらに笑う高橋さんとちょっとホッとしている田中さん
もしかしたらわたしもリゾナントで・・・なんて希望もちょっとはあったけどどうやら無理みたいだ

「小春とはそういう話しないの?同い年なんだし」
「無理ですよー、だって久住さんは高校生とはいえ超スーパーアイドルですよ、卒業したら芸能活動に専念するだろうし、同い年でも同い年な気がしないですよ」
「そっかー、小春がアイドルだってたまに忘れるよ」
「なんかみなさん見てるといろいろ悩むんですよね・・・」

いざ自分が進路を考える立場になると、今の生活を送ってるみんなが凄く感じる
みんないろんな決断をして、今を暮らしてるんだろうなって
大学に通ってる道重さん、会社で働いてる新垣さん
ジュンジュン、リンリンも中華料理屋で働いているし
亀井さんは・・・
亀井さん?
わたしが初めてあったころはよく入退院を繰り返していたイメージがあった
でも、たまに入院することはあるものの最近はだいぶ落ち着いてきているけど・・・

「あの亀井さんってなんかしてるんですか?」
「なんかしてる?」
「働いてたりとか、学校とか・・・」
「絵里はねぇ・・・れいな?」
「寝てるっちゃろ?」
「寝てる!?まぁ絵里らしいけど」
「寝てるって・・・、なんもしてないってことですか?」
「そうやねぇ・・・直接本人に聞いてみたら?」



そんな悩める少女の昼下がり
忙しくなった喫茶リゾナントを出たわたしは携帯を片手に駅に向かって歩いていた
携帯の画面には亀井さんの名前とその携帯番号が表示されている
ちょっと話をしたいと思って電話をかけようとしたがなかなかかけられない
考えてみれば緊急時以外でメンバーに連絡することなんてなかったな
「こんなことで電話ってのも迷惑やろなー」
こんな感じで携帯を閉じるいつものパターン
顔を上げてなにげなく車道をはさんだ反対側の歩道をみると少し遠くに歩いてくる1人の女性をみつけた
亀井さんだ!
なんてちょうどいいところに
わたしは車道を走る車をみて横断するタイミングを見計らっていると、向こうの歩道にいる別の人物の存在に気づく

小さな男の子・・・泣いてる?・・・膝に擦り傷がみえる・・・転んだのかな?

亀井さんもその子に気づいたみたいで、走ってかけつけた
その子の横にしゃがみ込み、頭を撫でている亀井さん
わたしは車道の向こうから様子を見ていた
距離があってやりとりは聞こえないけど、オレンジ色をした光が微かに見えた

しばらくすると男の子は元気に走り去っていった
対する亀井さんはちょっとぎこちなく歩きだした
膝には先ほどまでなかった擦り傷が・・・
確か亀井さんの能力は他人の傷を移動することもできる
おそらく、それを使ったんだろうな

そう言えば、亀井さんはたまに変なところに怪我をしている
そのたびにメンバーにからかわれている
亀井さんの性格(キャラ?)上、ドジったんだろうと思い誰も気にしていなかったが、こうしてできた傷なのかなと思った
本人はいつも否定していないから本当のところはわかんないんだけどね

そんな亀井さんの一面を見てふと考えついた
亀井さんに直接聞いたってはぐらかされそうだし
どうな行動するかちょっと気になるし

このままこっそり亀井さんの後をつけてみよう




と思ってからずっと後をつけてはいるものの、特に変わったこともなく街をただひたすら歩くのみ
身体も弱いのに、膝にも擦り傷があるのに、どこへ行くんだろう?
歩くことにいい加減飽きてきたころ、着いたのは街が見渡せる丘の上だった
めっちゃいい眺め、こんな場所があるなんて知らなかった


亀井さんはというと、街を見渡せる位置に立ったまま微動だにしない
またオレンジ色の光が微かに見えた
そのオレンジ色は街の方へとゆっくりと広がっていく
なにしてるんだろう?と思ったが、気づけば自分のまわりにも広がっているオレンジ色に触れた瞬間わかったような気がした



やさしい・・・心地よい感じ
多分、風を起こしてるだけなんだろうけど・・・
なんだろう、この風は、身体に馴染むように癒してくれる
共鳴してる?亀井さんのみんなの幸せを願うような気持ちが伝わってくるような気がした
こうやって風を送って街の人の幸せを願っているのかな?

後輩のわたしでも街全体に広がるように風をおこすことが不可能なことだとわかった
自分の能力のことだ、亀井さん本人も多分わかっている
でも、そんなことは関係ないのだろう
そういうところがとても亀井さんらしいと思い自己解決
そんな亀井さんを見たら安心したというか、納得したというか・・・
亀井さんが思ってた通りの亀井さんで妙に満足した

わたしは祈りを続ける亀井さんを後に元来た道を戻り始めた



日が沈みはじめ辺りは夕陽で染められている
随分遠くまで来ていたようだ
ほとんど歩いていただけなのに、亀井さんのおかげで気持ちはとても充実している
ずっと歩いているのに足取りが重くならないのはそのおかげかな

「みっっっっっつぃーーーーー!」
「わっ、えっ!?か、亀井さん!?」

いきなり背後からおもいっきり肩をつかまれてわたしは驚いた


「ど、どうしたんですか?」
「どうだったぁ?『絵里の日常』は?」
「あ、え?」
「みっつぃの進路の参考になったかなぁって」

亀井さんは無邪気にどんどん話しかけてくる
ちょっと待って、頭の整理が・・・

「えっと・・・気づいてたんですか?」
「もっちろん!絵里をなめてもらっちゃ困るなぁ」

誇らしげな亀井さん
ちょっとショックを受けているわたし

「じゃ言ってくれればいーじゃないですかー!」
「うへへ、おもしろかったから」

おもしろかったって・・・わたしなんにもしてないよ
それよりあなたの行動の方が

「日常って・・・まさかいつもあんなことしてるんですか?」
「さぁ?なんのことかなぁ?」
「とぼけないでくださいよー」
「『この女は働きもしないでなにやってんだ?』なんて思ってるでしょー?」
「え?そ、そんなこと思ってないですよ」

ホントにそんな風には思ってない
体のことはメンバーとしてちゃんと理解している
ただ、どんなことをしてるのか、どんなことがしたいのか、ちょっと気になっただけで
わたし達は2人並んで再び歩きだした
亀井さんの不自然な言動から、おそらく高橋さんから何か聞いてるな、ということは察しがついたが今聞く必要もないか


「絵里だってね、普通に仕事したいと思ってたんだよ?」
「・・・はい」
「でもね、学校だってまともに行けてなかったし、身体こんなんだから仕事してもいつ入院しなくちゃいけなくなるかわかんないし」
「そうですよね」
「でも、ずっとこのままのつもりはないんだよ!」

亀井さんはニヤッと笑って話しを続けた

「絵里にも夢があってね、さゆとケーキ屋さんやるの」
「ケーキ屋さん・・・」

小さい子がよく口にしそうな夢、でも亀井さんらしい夢だと思った
自分のしたいことがわからないわたしにはとても羨ましかった

「さゆと出会ったころからケーキ屋さんやろうねって言ってた、でもそのころ絵里は入院しっぱなしだったからだだの夢でしかなかったんだよね」
「でも、もうずっと入院してるわけじゃないですよね?」
「そうだよ、愛ちゃん達と出会って、みっつぃーとも出会って、心から笑えるようになって、身体の調子もよくなってきたんだよ
だから、さゆが大学卒業したら一緒にケーキ屋さん始めようってことになってる」
「ホントですかー?」
「うん、リゾナントの向かい側にね、ケーキ屋さん始めてね」
「リゾナントの前ですかー、楽しみー」
「それでね、リゾナントのお客さんもみんな来るの、ケーキは絵里んとこ、コーヒーはリゾナントって、ショウジョウ効果で大繁盛だよ」
「相乗効果ですか?」
「そう、それそれ」
「大丈夫ですかぁ?」
「大丈夫、大丈夫!今日助けてあげた子だってね、きっと来てくれるんだよ!」
「え、なんでですか?」
「だってこんな美人さんの顔忘れないでしょ?」


この人は、どこまで本気なんだか・・・
でも、夢を語る亀井さんはホントに楽しそうで眩しいくらい
ホントに全部実現させちゃいそう

「だからみっつぃーもね、今そんなに考えなくてもいいと思うんだぁ」
「・・・え?」
「人生なんてどうなるかわかんないんだし、今無理やり決めたって、将来楽しくないと思う」
「・・・」
「そんな深く考えなくたってさ、どうにかなるよ」
「・・・ちょっと適当すぎません?」
「みっつぃはちょっと真面目すぎるんだよ、絵里達がたよりないせいかもしれないけどさ、最年少なんだし・・・」
「・・・」
「まだ17なんだからさ!あんまり悩むと頭が爆発しちゃうぞ!」

これはアドバイス?
でも嬉しい
みんながたよりないなんて思ってない、尊敬してるし、けどどこかでわたしがしっかりしなきゃと思ってる
そういうところが真面目すぎるって言われたんだろうな
ちゃんとわたしのこと見ててくれてる、わかってくれてる
普段、ふにゃふにゃして、へらへらして、ぽけぽけしてるくせに、やっぱり大人なんだなぁと実感した

「まだ17かぁ・・・」
「そう、まだ子供!」
「そうですよね!まだまだ子供ですよね!」
「絵里だってまだ21だよ!まだまだなんでもできるんだから!」

亀井さんとはなしてるといつまでも悩んでいることが馬鹿らしく思える
そう思わせてくれるのはこの人の魅力の1つだよね
なんか気が楽になったような気がした

「ん?なんかふっきれたみたいだね」
「愛佳、亀井さんとお話できてよかったです」
「やめてよぉ、照れるじゃん」

照れながらも、まんざらではなさそう
今日は亀井さんのいろんな顔を見れた
でも今までのイメージは崩れず、良いところをいっぱい知った
とてもやさしくて、とても無邪気で、それでいて大人で

「おなかすかない?」
「そですね」
「リゾナントでなんか食べよっか!」

もうすぐ日が沈み辺りは暗くなる
そうなる前にとわたし達はリゾナントへ足を速めた

「そう言えば、みっつぃとこうやって2人で話すことあんまりないね」
「めずらしいですねよ」
「そっか、みっつぃがいっつも小春と一緒にいるからだぁ」
「え、そんな、亀井さんがいっつも道重さんといるからじゃないですかぁ」

わたし達のたわいない会話はリゾナントにつくまで止むことはなかった




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最終更新:2010年04月05日 23:44