『異能力-I wish for-[6]』


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時間は空間とは違う概念であり、過去、現在、未来でもある。
だが未来とは人間に内包されている認識でしかない。
過去でさえもその経験や記憶を想起しているに過ぎない。

未来も過去も現在の中にある可能性として残留しているだけ。
では時間とは何か。

それは現在にある過去と現在と未来を整理するための"意味"として紡がれ。
それは自身の"可能性"として"具現化"する。

―――時間は"視る"事で認識し、始まりと終わりを告げる"意味"と成す。




予知能力(プリコグニション)

一般的に未来を見透すチカラとされてはいるが、その主な機能は「眼」にある。
眼とは光学的に認識できる範囲の波形情報を感知し、視神経がその情報を脳に伝え、情報を処理する。
必要な情報のみを残す為の取捨選択機能ともいえる劣化を幾度と無く繰り返す事もまた重要だか
これはほぼ自動的な機能のため、全く無意識に整理をしている事になる。

ではもし、劣化しない情報を処理できるだけの「脳」をもっついて
しかも劣化させずに情報を伝達できたらどうなるだろう。
人間でいえば「洞察力の優れた人」として、処理能力を含めて言えば「凄い人」と呼ばれるだけの話だか
つまりはバランスさえ取れているなら問題が無いという事になる。

「眼」で情報を得るというのは、そういう事だ。

「眼で視る」という時点でそれは決定された制約であり
これは「眼」以外の感覚器を複合使用したところで変わりなどない。

ところが、このバランスが崩れている場合には様々な問題点が浮き上がる。

例えば「眼」だけ高性能な場合。
伝達する視神経は情報の劣化に裂く労力が増大し、あっという間に焼き付いてしまう。
例えば「視神経」だけ高性能な場合。
情報の劣化パターンが堅固に確定してしまい、得られる情報自体がパターン化する。
そして「脳」だけが高性能だった場合。
得られた情報の劣化部分を補完する「想像力」が暴走する。

今現在、愛佳の脳は並列に処理された情報が平行した世界となって存在させてしまっている。
その為、「眼」が収集した光学的な現実世界と「脳」が暴走した結果
極大化した「想像力」が補完の域を遥かに超え、もう一つの世界を作り出す。




これにより、『未来視』という現象が成り立ったとも言える。

未来を"知る"というのはそのまま環境として、条件として、ディテールとして一致する事を指す。
即ちそれは未来予知であり、100%のシュミレーションであり、時空の把握であり、世界の掌握でもある。
そして"解る"とすれば、経緯でも時間でも空間でもディテールでもなく
ただ結果としての結論を算出し、結末としての帰結を予測する。

より優れた未来予知であれば"誰が""いつ""どのように"というのを限定しない。
"どうなるか"という結末のみを予測するチカラとして発現する。

保持者はそれまでに自身の意思で制御するまでに至らなければならない。
未来をその身に宿すという事は、どんな"未来"でも変えられるという事。
それは究極の選択であり、運命への抵抗だ。

だが、それが本当に"希望"になるかは分からない。
もしかしたらそれは、誰かの"絶望"にも成りえるのだから。



「…あかん、完全に寝過ごしや…」

電車は揺り籠に似ていると聞いた事があるが、あながち間違っていないのかもしれない。
窓から映る夕焼けの街を見つめて、愛佳は呟く。
時間を見ると既に目的地から二駅は過ぎている事になる。
切符の料金もバカに出来んのになぁ…とか、お店開いとるかなぁ…等と言うことを思いつつ、小さくため息を吐いた。

そして過る、"予知夢"の残像。

最近では否応なしにユメを見る事が多くなった。
他愛の無いユメであったり、どこかリアルな世界観を持つものだったり。
同時に現れるのは、今までのよりも遥かに強い違和感。

そのユメはあまりにも異質で、あまりにも現実味が無い。

―――7人の影は、何かを見下ろしている。
―――蝕まれた『光』はやがて世界を包み、徐々にその顔を浮かばせた。
―――『闇』の中で佇む7人の表情は歪み、そして悲しみに覆われていた。

―――里沙の胸に抱かれた"何か"を見下ろして。
―――"何か"はピクリとも動かない。
―――眼を閉じ、"何か"は、"高橋愛"は動かない。
―――"高橋愛"の姿をした"何か"は、―――既に息絶えている。

―――死んでいた。
―――ただただ世界の結末の中で、無面で死んでいた。

―――『闇』と『光』は、ただただ静かに"その時"を待っている。




それはあまりにもリアルで、あまりにも異様な光景。
何故そんなモノばかりが視えるのかも。
否、何故それを"夢"だと思えないのかも、分からなかった。

"予知夢"を見すぎて境界線が分からなくなっているのか。
それとも愛佳自身がそれを"未来"だと確信しているからなのか。
その"未来"を変える自信があるからだろうか。

…そもそも"未来"とは本当に変えても良いものだろうか。
それによって自分自身が『光』へと進めているうちはまだ良いだろう。
だがそれは、同時に他者の"未来"を奪っている事にはならないだろうか。

光井愛佳の自己犠牲は、他者の犠牲を招いているのでは無いだろうか。

『次は○○~○○です。お乗り換えの方は○乗り場へ…』

電車内のアナウンスで愛佳は入り口の隅へ移動する。
徐々に沈み行く夕日を見つめながら、世界の脆さを痛快した。

―――"あの人"が亡くなったという話は、誰にも聞かされていない。

だか、何となくだか、愛佳には分かった。
あの日、お店に来た時から。
その姿はあまりにも以前会った時よりも脆さを感じた。

決意の中にある、誰かの助言を必要とするあの迷い。
本当の神であれば、決意したことを曲げる事はしないだろう。
"絶対"だと信じている者であれば尚更。

だからあの人は、人間である自身を"神"としてその心を保っていた。



だが、何かのきっかけで、"あの人"は自身が人間なのだと認識してしまった。

"神"は"悪魔"と似ている。

人々を助け、争いの無い世界を望むのが"神"であれば
天変地異を引き起こし、災いを呼ぶものは"悪魔"という。
それのどこが違うのだろう?
人々を助ける事も尊い命の犠牲があり、災いを詠んでも犠牲がある。

なら其を信じる者達にとって、都合の良い、人智を超えた存在こそが"神"なのだろうか?
大切な同胞逹を無条件で守護してくれる存在こそが"神"なのだろうか?

違う。
"神"とは、何事にも関心を持たない存在だ。
自らが信仰の対象になろうが、国が一つ滅びようが、一切感情を動かさない。
例え、この世界が滅んでも、"神"は気づかないだろう。
"神"とはそんな善悪すら超越した存在なのだ。

だから、人間は"神"にはなれない。

全てに関心を持たず、全てに対して等しく冷静な裁きを下す"神"には。
何も与さない。誰にも従わない。誰も仲間とは思わない。
全てを肯定し、全てを否定する。

それは最早、神ですらない、"無"だ。

未来も過去も無い者が、"未来予知"などというチカラを持っている筈がない。
そんな偽りの存在を"具現化"させたのは、紛れもなく"未来"を持つ人間だった。




「…なんでこんな時間に人がおらんのやろ…」

愛佳が降りた駅には人一人存在しない。
帰宅する人々でざわめく筈のホームは完全に日が沈み、闇夜に包まれ。
まるで何か、寄せ付けない空気を漂わせて静寂を保つ世界が其処にはあった。
瞬間、脳に伝達された情報が感知した"何か"が、『眼』によって映像化される。
―――その時ほど、"神"という存在を信じた事は無いだろう。

背後に感じるそのオーラは、紛れもなく"あの人"のモノ。
だか、振り向けない。
振り向けば、その脆い"世界"が跡形もなく崩壊しそうで。

「……貴方の視た未来は、もう大丈夫ですか?」
「えぇ、一応はね」
「一応?」
「未来の結末はたった一つ、それで、もその結末までにはまだ沢山の未来があるわ」
「…"可能性"…ですか」
「私はその一つの"可能性"を取り払っただけ。でもまだ結末までの道は遠い。
もしかしたらまた…また誰かがその未来への道を歩むかもしれないわね」

未来の結末は凝縮された一つの道へと進んでいく。
だがその前にあるのは"可能性"という幾重にも紡がれた存在が残されていた。

「私が行った選択は結果的に正しいのかは分からない。
だけどその"可能性"があっちにもあるのなら、こっちにもそれは残されている」
「相対する存在…まるで天使と悪魔ですね」
「それを創ったのが神なんて、よく出来た宗教概念よね。まぁ…そのせいで何もかも無くしちゃったけど」




私のように、ね。

圭織は嘲笑うかのように言い、愛佳へと背中を預けた。
なんて、細く、華奢な身体だろう。
姿だけでは分からない、触れ合った時に初めて分かる人間の本質。
愛佳と同じ"予知能力"を保持する者。
そんな人が何故こうも"神"にこだわったのか、何となく分かった気がした。

「それでも貴方は私じゃないし、私と同じチカラを持っていてもそれを過信しなかった。
自己犠牲で"未来"に立ち向かおうとするのも、"芯"に挑む理由に成るかもね」
「"芯"…?」
「時間は元には戻らない。それでもそれを見定め、"意味"にするのは貴方次第よ。
選択は"可能性"に過ぎない。それだけは、忘れないでね」
「…?…っ、圭織さ…!」

背後に伝わる感触が薄れていくのに気付き、愛佳は咄嗟に振り向いた。
そこには、誰も居ない。
触れていた筈なのに、背中にはそれさえも無かった。

だか、確かにあの人は其処に居た。
愛佳だけが、その事実を知っている。




圭織は、どんな"未来"を見て、ここに来たのだろう。
愛佳にそれを知る術はない。
ただ分かるのは、以前から見続けているあのユメ。

"未来"の選択は"可能性"に過ぎない。
だかそれは、確かに"起こる事"を予兆していた。
時が経てばホームには人が集まり、電車が到着する。
それまでの間、愛佳はただそこに佇むことしか出来なかった。