『異能力-Magician's Gambit-[1]』


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異能力者は全てにおいて制約を交わしている。
周囲の人間からの虐待の防衛本能としての潜在能力。
そして内側から自身への破壊衝動による原初の呪い。

全ては何かの抑止力の元で生まれ、目覚めた。
それは"チカラ"の気まぐれなのか。
それとも本能なのか。



精神干渉(マインドコントロール)。

それは情報を、思考法則を偽造する事で肉体を決められた結論へと導く力。
だがそのためには対象の理性・本能といった数々の自己世界を突破しなくてはならず
深く侵入するには制御する為の訓練が必要になる。

他者の情報中枢への侵入は他者の常識への浸透と同意であり
自我の発達によってその能力は増すどころか薄れていく傾向にある。

だが、里沙はダークネスでの訓練によって
一時的な精神機能や思考能力の低下状態を引き起こさせ
その際にある特定の行動規範や思想を、文字通り「叩き込む」方法を教えられてきた。

情報を引き出すという事は他者の知識、道徳、法則さえも読み取るという事。
だがその能力を過剰に発動させると、最悪の場合、他者の心体は破壊する。

愛の精神感応とは似て非なる能力。
自分と他人の精神を同調させ、相手の心を読んだり、心を伝えるその能力と。



光と影のようなその二つの能力。
最初は破壊の力と、再生の力だと思っていたその"チカラ"。

スパイとして潜入作戦に志願したのは単なる好奇心だったのかもしれない。
同じ影として生まれた高橋愛と、彼女が結成し、スカウトしてきたリゾナンター達。
その中で感じた、さまざまな情報と思考は、時には離れることもあるが、まるで
何かに引き寄せられるかのように修復される。

それが、彼女達の『共鳴』の力。

だがそれが完全に修復されていると言えば嘘になる。
人の【心の穴】はそんな簡単なものではない。
共鳴とは言わば相手の心という知識・感情・意思の総体への繋がりを持つことをさす。
そしてそれは、【心の穴】が闇へ沈むときに圧倒的な力として目覚める。



【穴】とは【負】だ。
闇の中で渦巻く、得体の知れないおぞましい無数の傷。
怒り、恐れ、焦り、後悔、不安、自信喪失、嫌悪、そして孤独。
世界に霧散として存在し、その感情が力へと増幅させる。

つまり『共鳴』と闇は同じもの。
闇が無ければ『共鳴』は無い。
まるで、悪が無ければ正義が無いのと道理。

精神干渉(マインドコントロール)と精神感応(リーディング)。

それは魂のハッキングと何ら変わりは無い。
悪魔の所業。
『闇』から生まれた二つの力は、互いを引き合わせた。

 ―――あたし達が出会ったのは、決して偶然なんかじゃない。

以前、愛がそんな事を言っていた。



高橋愛。
製造番号:i914。

巨大組織ダークネスの研究機関によって
遺伝子の段階から化学合成された『人造』の能力者。
生まれた瞬間から脳に電極を接続され、その刺激は疑似体験となって
子供の脳内ニューロンを成長させ、異能力の情報構造を形成する。

千人にも及ぶ赤子の実験体。
成功例はたった一人。

遺伝子構造を決定する乱数処理の気まぐれで成長出来なかった者の
末路は品種改良されたダークネスでの人造構成員。
それにも属せ無かった者は……想像もしたくない。

  ―――人は、何で何かを犠牲にせんと生きられんのかな?



ダークネスから送り込まれた戦闘員の屍。
夥しい返り血を浴びた後姿。
その小さな背中に背負うものは、あまりにも重い尊き命の灯火達。
いつかその炎に身を焼かれることを恐れながら、それでも進むことしか出来ない。

世界に縛られ、『破壊者』である彼女。
その役割として、"贄"として選ばれた存在。

もしかしたら、あの粛清者Rよりも残酷で、非道で、残虐な人なのかもしれない。
精神的能力者に洗脳系のチカラは簡単に無効化される。
だから一度も愛の【心の穴】を見た事は無かった。

だがそう思ったのは、愛が精神感応という"チカラ"を持っているから。
里沙は個々の存在しか見られないが、愛は生まれた瞬間から自分の
否応を問われずともこの世全ての出来事が理解できた。



自分と他人の精神を同調させ、相手の心を読んだり、心を伝えたりするその能力は
精神干渉と違って自我の発達によって能力は強くなり続ける。
それがまだ自身の自我さえも曖昧な上に、まともな訓練を受けていない
子供が使えばどうなるだろう。

まるで音と音が重なり、響き合うように。
他人の想いやその叫び声を直に聞く事になる。

知りたくないものや理解したくないものを。
相克し相反する二つの真実を愛は同時に思い知らされるのだ。

好きなのに嫌われている。
愛しいのに拒絶されている。
矛盾として処理されない気持ちや感情は徐々に【穴】となって愛を引きずり込む。

まさに【心の穴】そのものの愛を、その存在がなくなるまで
『闇』は形を変えて追いかけ続ける。
まるで鬼ごっこ。
無期限無制限の、永遠に続けられるその遊び。




里沙はスパイになって初めて分かった。
これまで見てきた世界がまるでちっぽけにさえ思える程に。

あのままダークネスの元に居続け、本当の『破壊者』となっていれば
今よりも楽だったのかもしれない。
だがそれは異能力者が持つ法則であり、道徳であり知識だ。

人間は人外を恐れる。
それが自身で作ったものだとしても、自分を否定する事も出来ずに
ただただ異能力者を恐れ続ける。

結果的に考えて、逃げたのだ。
愛を祖母に預けた母親は、計画の責任者であるれいなの両親は。
その手で愛を元に戻すことだって出来たはずなのに。

 相克し相反する二つの真実。

何故、愛の母親は能力の『抹消』ではなく『忘却』を選択したのか。
例え記憶の改竄をした所で、遺伝子に直接書き込まれた能力は消えない。

何度もそう問いかけてみるものの、その理由を聞く術は、既に無い。




愛は苦しんでいる。
"生きる"選択を選んだことで、"死ぬ"選択を地獄の中で問い続けている。
能力が備わった時と同じように否応無く。

里沙のように闇に染まるのか。
それとも、いつ届くのかも分からない光を追い求め続けるのか。

同時に、その"決断の日"まで【心の穴】は耐えられるだろうか。
リゾナンターのメンバーにも相克し相反する二つの真実を持っている。
人間としての知識、道徳、法則。
異能力者としての知識、道徳、法則。
何が良くて、何が悪いのか。

i914。
ダークネスの元で生まれた殺人兵器。
存在自体がこの世界を『消滅』させることが出来る"チカラ"の持ち主。
その事実を、メンバーはまだ知らない。

  ―――『共鳴』とは、『光』にも『闇』にも成りえる奇蹟。
  そして同時に、それこそが世界の"抑止力"。



耐え切れなくなった時は、似て非なる"役割"を持った人間が抑止力となるしかない。
そして今、世界の『監視者』として里沙は居る。

  ―――今はまだ、"その時"ではない。

全ては何かの抑止力の元で生まれ、目覚めた。
それは"チカラ"の気まぐれなのか。
それとも本能なのか。

精神干渉(マインドコントロール)。
それは情報を、思考法則を偽造する事で肉体を決められた結論へと導く力。

 ―――でもそのおかげで、私達が出会えたのも事実だよ。

硬く結ばれた拳にソッと触れ、静かに繋がる。

 ―――帰ろう?皆のところに。

頷く彼女はゆっくりと歩み始める。
導かれる道へと、ただただ何かを求め続けながら。