アイム・ウェイティン・フォー・ガール――I'm waiting for girl-21-


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空気の星。片方だけの靴。片方だけの心。
星の巡り合うその一瞬に、出来ることなどきっと何も無い。
出来るとしたら、傷つけて、傷付くこと。
ただ、形なきモノの為に。
透明な、何か。
それは愛とも呼べる代物だが、それ故に臆病になるし、恐くなる。
それは光とも呼べる代物だが、満たされて消えてしまう。
透明なモノで満たして行くセカイ。
それは光と影。光は瞬き、影は光る。
自分自身が二つを持っていた。
それはもう独りではないという事。一人ではあるけれど。

出会ってしまった過去は、もう戻らない。

 「まだふて寝してるの?」
 「いつもならすぐ開き直って下りてくるんだけどね。今回は簡単には行かないみたい」
 「相当のことがあったんだね…」

いろんな言葉を口にするメンバーの姿を、道重さゆみはぼんやりと見ていた。
喫茶『リゾナント』には現在、高橋愛、新垣里沙、亀井絵里と自分が居る。
光井愛佳、久住小春は学校と仕事、ジュンジュンとリンリンもまた中華料理屋の
手伝いの方へ回っているので不在だ。

最近は絵里を含め4人で集まって談笑する事が多い。
……いや、正確にはあと1人、ここの看板娘である人物が居たりするのだが。

 「今はソッとした方が良いと思いますよ。
 それよりも今度の誕生日パーティを豪華にしてやりましょうよっ」
 「そうだね。少しは機嫌もなおしてくれるかもしれないし。
 田中っちが好きなものも揃えて、ちょっと派手めに。ね、愛ちゃん」
 「え?あぁ、うん、ほやね」

本人に内緒で誕生日を祝うというのはこのお店では定番だった。
メンバーの生まれた日を料理などを囲み、手作りのケーキで祝福し
時間の許す限りのドンチャン騒ぎをするという年に1度のイベント。

だがその主役が今、2階の自分の部屋から出てこない。
何があったかは分からない、本人が何も話さないからだ。
多少のことであれば彼女はまるでマシンガンのように言いたい事を言うのだが
"何も誰にも相談しない"という事態は、それ以前の問題ということだろう。

だからメンバーも無理に聞き出そうとはしない。
言ってしまえば過去にも同じような事があったからだ。

そのため、こういう時は極限、本人を一人にさせておくことにしている。
誰が先に、ではない。皆、それが得策だと思った時点での結果だった。

 「ねぇ、愛ちゃん」
 「ん?何、さゆ」
 「愛ちゃんは聞かなかったの?れいなの」

さゆみに言われ、一瞬何か分からなかったが、気付いたように「あぁー」と口を開けて唸った。
『精神感応』は対象者の考えや精神状態を読み取ることができる超能力。
緊急事態のときに行使するようにしていた愛が、今回の事態をどう判断したのか知りたかった。

 「あーしは、聞いてないやよ。れいなの場合、本人がどうしたいかを決めなあかんことやから」

それが、愛の本音だった。
相手が自身の知らない人間であれば何か打つ手があったかもしれないが、今回の
対象者はれいなであり、彼女は愛のことをよく知っている人間の一人である。
当然、どういったチカラを持っているのかも熟知しているし、そんな愛からの言葉を
あのれいなが素直に受け止めるとは思えない。

 熟知しているからこそ、大切なヒトだからこそ、其処に僅かな違和感を覚える。
 だから愛は聞かなかった。否、聞けなかった。

里沙もまた同じ判断だろう。
『精神干渉』対象者の精神に干渉し、捻じ曲げることができる超能力。

絵里ならばなんとか説得もできたのかもしれないが、今回の出来事にどうやら
間接的に関係してることもあって、そう期待もできない。
事実、彼女は今守りに入ってるのがさゆみの眼に見えている。

だからだろう、自然とため息が溢れるのは。
さゆみは立ち上がると、2階へと歩を進めようとした。
当然のように誰かの声が上がる。

 「さゆ、ダメだよ」
 「大丈夫、正直、私がこのままじゃ気が済まないっていうか」
 「さゆみんが言う事じゃないよ、私が後で…」
 「ごめんガキさん、これはちょっと、私にやらせてほしい」

3人はさゆみが何をするのか不安そうに後ろ姿を見つめている。
だが何てことないように歩は進んで行く。彼女の居る部屋へ。
ドアを開く、ノックなんて野暮なことはしなかった。

辺りを探すと、彼女の寝室であるロフトの布団が膨らんでいる。
さゆみはゆっくりと近寄り、その膨らみをソッと触れてみた。
上下に動いているのを確認すると、その隣にある梯子へと腰掛ける。

一瞬、外の方で車の音がした。
近所の方で配達でもしてるのだろう、ブルンブルンと発車して遠のいていく。
だがそんな事には目もくれず、彼女は閉じこもったままだ。
カーテンの外ではまだ正午過ぎだというのに。

 「…別に元気づけに来たわけじゃないよ。
 れいなが何でそんなに怒ってるかは知ってる、でも知ってても
 私は何もしてあげられない、だから一方的に話すことにしたの」

突っ込むような言葉も聞こえない。
さゆみは溜息をついて、ゆっくりと語り始めた。
こうして話したとしても何の解決にもならないと知っていても。

 「愛ちゃんは優しいね。れいながこんな風になっても、ちゃんと
 自分で起き上がってくれるのを信じてる。
 そうしないと納得いかないことを知ってるだからだよね。
 だから愛ちゃんは遠くの方から見守ってあげることにしてるよ」

 「ガキさんは近々来るかもね。そうしないと落ち着かないタイプだから。
 れいなに限らず、あの人は私達にもたくさん言葉を投げかけてくれる。
 時にはそれでケンカになることだってあるかもしれないけど
 でも絶対に真っ向から話しあってくれるから、ちょっと嬉しいんだよね」

 「絵里は、あの子はアホだけど、芯は強いよ。
 本気を見せたときの絵里は知ってるよね、ちゃんと自分の姿を
 見せてくれて、バラバラになろうとした時は必ず傍に居てくれた。
 でも今は、絵里がバラバラになりかけてる。
 だかられいなにだけ構ってあげられないよ、私は」

膨らみは先ほどと何ら変わりは無い。
さゆみは彼女へ視線を向けると、今度は投げ出された手を掴んだ。
ピクッと反応を起こすが、それだけだった。

 「私が知ってるれいなは、ためらう人間じゃなかった。
 傷付いても傷付かせても自分を貫き通す。
 そんな姿を羨ましくも思ったし、ちょっとムカついたこともあった。
 でもやっぱり、なんだかんだ言ってみんな寂しいんだよ」

触れないまま遠くから眺めているだけの自分の心は冷たい感触に蝕まれる。
それは暖かいままそこにあったモノの温度すら奪ってしまう。
今の状態で誰かを祝福するのは、正直に言ってさゆみには耐え難いものだった。

触れずにいて、傷つけないで、壊さないで。
何が残るのか、笑顔などないというのに。
いっそ、冷たいまま心も凍りついてしまえばいい、そうすれば何も感じなくて済むし
何も感じなくてさみしいままの自分も、感じなくなる。

それでもいつも想ってしまうのだ、温かい気持ちを。

 「れいながそのままで居ても、皆は何も言わないよ」

本音を。

 「慰められるのが嫌なら自分で言いなよ。
 そのままが良いなら一生そこにいればいいじゃない」

躊躇って大切な何かを傷付かずに傷つけずに、壊さずに居るのは簡単だ。
楽だし、面倒でもない。
いつかはこの傷は癒される、だがそこには笑顔はない。
傷つけないように、壊さないように、触れずにいると、もしかしたら微笑んでくれた
かもしれない何かも失ってしまう。

さゆみは手を離そうとし、突然グッと掴まれた。
梯子から降りようとしていた所だったのでバランスを崩しそうになる。

 「…ごめん」

ゆっくりと手を離され、れいなが起き上がった。
髪の毛にはクセ毛が付いており、さゆみは思わず笑ってしまった。

 「なんで笑いよぅ」
 「あ、うん、ごめん」
 「ちょっと部屋から出ておいてくれる?」
 「え?」
 「着替えるけん。…お腹、減ったっちゃん」

さゆみはドアの外へと出ると、階段の途中に3人の姿を見た。
慌てて逃げようとした後ろ姿が振り返り、苦笑いを浮かべている。

 「ありがとね、さゆ。やっぱりさゆはしっかりしてるよ」

里沙の言葉にさゆみは苦笑いを浮かべた。
本当は元気づける気など更々なかったのだ。
一言でも言えばこの変な気分も晴れるかもしれないと思っただけ。

絵里にも無言で謝られる。
両手を合わせて頭を下げられた。
でも、これでれいなのわだかまりが完全に消えた訳ではない。
彼女の"笑顔"は戻って無い、さゆみには分かるのだ。


 仲間だから。





――――――不安だけが駆け抜けて行く。
大きな窓の傍らに立って、アイボリーのカーテンを少しだけ引いた。
部屋の中へ光が満たされ行く。
透明なモノで満たされるセカイ。
少し眩しいけれど、その光をれいなは小さな体で受け止めた。

 温かい気持ちを感じた拳を握り、透明の中にあるモノを確かめながら。