拳の使い道


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前編


その日、れいなは開店前に店の掃除をしていた。
「きれいにせんと、愛ちゃんに怒られるっちゃ。」

ガランガラン!
喫茶リゾナントの玄関の鐘が鳴った。

「すいません、まだ開店してないとよ。」
「ここが喫茶リゾナント。」
「あんた、どこかで見たことあるような?」

入ってきた女性は長身で髪はショートヘアだ。
服装はスーツ。いかにもキャリアウーマンといった感じだ。
そしてれいなは数日前のことを思い出した。

「あっ!あんた刑事!」
「そうよ、警視庁特殊課・矢島舞美。」

舞美はあいさつ代わりと言わんばかりに警察手帳をだした。

「どうしたやよ。あっ、あなたは・・・」
二階から降りてきた愛は舞美の顔を見るなりすぐに数日前の出来事を思い出した。
以前、安倍なつみの身辺調査をリゾナンターが行った時に舞美に職質を受けてしまったのである。

「ここがあの有名なリゾナンターの本拠地ですか。」
「なんで、そのことを知っとると?」
「言いましたよね、私は特殊課の刑事だって。超能力関係であなたたちの名前は有名ですから。もっとも顔までは知りませんでしたけど。」

舞美は少々嫌味ったらしく言っている。
どうやら彼女の超能力者嫌いの態度は相変わらずのようだ。

(なんかむかつくと。)
れいなもそれを感じ取り、機嫌を悪くしている。

「それでご用はなんやろ。コーヒーを飲みにきたわけじゃないみたいやけど。」
「実はそこの田中れいなさんに捜査の手伝いをしてもらうことになりました。」
「「えっ!」」

舞美の突然の話にふたりは驚きの声をあげてしまった。
「今、東京の闇闘技場の存在を調べています。過去に何度もそのようなものはありましたが、
最近ダークネスが闇のトーナメントを主催しているらしいという情報を得ました。そこで田中さんにそのトーナメントに出場してほしいんです。」
「なんで、れいななんよ。」
「それは田中さん、あなたが一番よく知っているはずですが。」
「れいな、何か知ってるんか?」

れいなは愛からの問いかけに少しためらいながら答えた。
「その・・・闇のトーナメントの優勝経験者やけん。れいなが・・・」
「れいなが・・・」

れいなの過去を承知していたと思っていた愛にとっては衝撃の告白だった。
まだ不良だった頃、あっちこっちで喧嘩ばかりしていたのは知っていたが、裏のトーナメントにも顔をだしていたなんて。

「あん時のれいなはまだ愛ちゃんたちと出会う前で喧嘩ばかりしとった。でも喧嘩する相手もいなくなっていた時に偶然、戦える場所があることを知って興味本位で参加したと。」
「その結果、あなたは闇のトーナメントの優勝者になった。しかも史上最年少という記録を打ち立てた。裏の世界ではあなたは有名人。」
「でも、その後愛ちゃんたちと出会ってそういうことからも身を引いた。あくまでこの力は悪い奴を倒すためだけに使おうと決めたっちゃ。もうそういうトーナメントにはれいなはでんけん。」
「そういうわけにはいかないのよ。トーナメントの関係者は用心深くて警察は手を出せない。
でも、かつて闇のトーナメント界で名をはせたあなたなら容易に潜入できると思うんだけど。闇のトーナメントは昔は死人をださなかったけど、
今は出場者を無理やりでもだして、死ぬまで戦わせる。警察も見過ごすわけにはいかないわ。」

それでもれいなは黙ったままだった。

「決心が固まったらここに電話して。」

舞美は自分の携帯電話の番号を書いた紙をれいなに渡して帰っていった。
れいなはその紙を握りしめたままだった。

「れいな、無理せんでもええんやよ。」
「ううん、れいなやると。悪い奴をのさばらせておくのは性に合わんけん。」
「わかったやよ、あーしらも全力でサポートする。」

そして、5日後
「勝者、田中れいな!いやー、あの伝説のヤンキーの強さは健在ですね。ここまで5連勝!ついに明日はトーナメント王者の座をかけた決勝戦です。」

れいなは控え室に戻った。
「ふぅーなんとか勝ててこれたっちゃ。」

デバイスの通信でれいなは捜査状況を確認している。

「保田さんが開発したコンタクトレンズ型カメラの性能はばっちりみたいやけど、捜査ははかどっていると?」
「かなり進んでるみたいだけど、警察はトーナメントの黒幕までちゃんと掴みたいみたいやよ。」
「ようし、それなられいなさらに調べるとよ。」
「無茶しないでよ、もしダークネスが絡んでいるのなら田中っちは警戒されていると思わないと。」
「がきさんは心配症とよ。大丈夫、大丈夫。」
「そうだといいけど。」

れいなはトーナメント会場の中を歩いていた。れいなの考えではその辺を歩いていたら何か手掛かりをつかめるだろうと。
すると、会場の中に一際背の高い少女がいた。
少女はれいなに気がついて声をかけた。

「あれ?あなた、田中れいなさんじゃないですか?」
「そうだけど・・・」
「私、ファンなんです。握手してください。」
「ありがとう、そんなにれいな有名かな?」
「それは戦いの世界で知らない人はいないですよ。私、熊井友理奈って言います。」
「ここの人?」
「ええ、まぁそんな感じです。」
「じゃあ、このトーナメントで一番偉い人ってどこにいるか知ってると?」
「そうですね、たぶんのこの上の階の一番奥の部屋だと思います。」
「ありがとう。」

れいなは友理奈の言っていた部屋の前に立ち、そっと中の様子をうかがった。
すると聞き覚えのある声が中から聞こえてきた。

「きゃはははは!このトーナメントは儲かるね。客どもは知らないだろうね。このトーナメントの収入がダークネスの活動資金になっていることを。」
「そして矢口様の出世のための資金であることも。」
「そうだ、おいらのオリメン昇格には大勢の支持者が必要だ。そのためにもお金をちらつかせるのも必要だ。」

(あれはダークネスの小さい女!やっぱりダークネスが黒幕だったとね。)
れいなは急いで愛たちに知らせようと後ずさったが・・・

ドン!何かが背中に当たった。
すると後ろには大男がたっていた。

「貴様、そこで何してる!」
いきなりれいなの首を掴まれ、部屋に放り込まれた。

「ああ、お前はリゾナンターの猫娘!」
「ふん!ダークネスの幹部がこんな事でせこい金もうけをしてるなんて、背だけじゃなくて器も小さいと!」
「なんだと、ちっちゃいって言うな!」

矢口にとって見れば、背の事だけじゃなく自分が幹部としても小さいと言われることが許せなかった。
ただでさえ、以前ダークネス幹部のMへの癒着を暴き損ねたことで他の幹部には馬鹿にされているのだ。

「もう、許さない。どのみち、生かして帰すつもりはないがその前にお前をボコボコにしてやるぞ!」
「あんたがれいなを叩きのめせると思ってると!逆にこっちがボコボコにしてやるけん。」
「キャハハハ、やるのはおいらじゃないよ。チャンピオンだよ。おい、こいつをリングに連れて行け!」

そしてれいなは無理やり試合の準備をさせられ、リングの上に立たされた。
本来ならダークネスの構成員なんて敵でもないのだが、相手は銃を持っていたし今は味方がいないので時期が来るまでおとなしくしようと判断したのである。

「皆さん、急きょ伝説のヤンキー・田中れいなとチャンピオンとの試合が行われることになりました。皆さんは本当に運がいい。それではわれらがチャンピオンをお呼びしましょう。闇世界のランドマークガール・熊井友理奈!」
「えっ!」

リングの上にあがってきたのはさきほどれいなに矢口の部屋を教えた少女だった。
「すいません、私実はここのチャンピオンなんですよね。」
「とてもそのようには見えんちゃ。」

絶えず笑顔の少女であるが、一体どんな実力を持っているのかれいなでも測れなかった。
「それでは試合開始。」




後編


カン!ゴングが鳴り響いた。
「速攻で決めるとよ!」

れいな素早く友理奈の懐に飛び込み腹にパンチを当て続けた。
しかし友理奈は何事もなかったのように平然としている。

「田中さん、そんなんじゃ私を倒せませんよ。」
そういうと友理奈はれいなの頭を掴み、軽々と持ち上げた。

「離すと!」
れいなは掴まれながら抵抗するが、友理奈の力が思いのほか強い。

「そーれ!」
友理奈は片手でれいなをリングの金網に叩きつけた。
れいなはすぐに起き上がろうとしたが、友理奈に踏まれて身動きがとれない。
足の力が強く、このままじゃあ骨を折られそうだ。

「どうしたんです?このまま終わりですか?」
「そんなわけ・・・なかろう!」

れいなは友理奈の足を払い、バランスを崩させてもう片方の足を払った。
友理奈は大きな音をリング上に響かせて倒れた。
れいなはすかさず、肘打ちを友理奈の腹に喰らわせた。
だが、友理奈は苦痛な表情をせずニコニコしている。

「まだまだ!」
友理奈はれいなの体を掴んで、抱え込んだまま飛び、空中から地面にれいなを叩きつけた。

それを観客席から見ている矢口達は・・・
「矢口様、チャンピオンが田中れいなを圧倒しています。しかしなぜチャンピオンはあそこまで殴られているのに平気な顔を。」
「確かに素早さでは田中れいなには勝てない。でも、チャンピオンの特殊能力の前には田中の攻撃なんか効くもんか。」
「と言いますと?」
「あいつはね、痛みを感じないんだよ。ダメージはあるけど、痛覚を鈍らせることで痛みを感じないから。相手にとっては手ごたえがないと感じる。」
「ですが、ダメージがあるのならいずれは・・・」
「その前に田中のスタミナが切れるか。チャンピオンの力技でノックアウト。どのみち、田中は終わりだよ。」

れいなはその後も何度も友理奈に攻撃を加えるが、その倍の攻撃を喰らわされる。
それほど友理奈のパンチやキックは重いのだ。
「そろそろ、ギブアップした方がいいですよ。でないと死んじゃいますよ。」
「あんた、どうして戦うと?」
「どうして?うーん?強い人と戦いたいから。」
「なんか、昔のれいなみたい。確かに自分の腕試しに拳をふるっていた頃はれいなにはあった。でも・・・」

傷の痛みでれいなの言葉が途切れ途切れになってきた。
「でも?」
「・・・自分のためだけの強さを求めているだけじゃあ、いくら強くなってもいずれ自分の力に溺れる・・・・
拳を使うのは自分のためじゃなく大切な・・・人のために。それをれいなは愛ちゃんから教えてもらった!
だから、あんたに気付かせる!拳の本当の使い道を・・・」

れいなの言葉に友理奈が攻撃の手を緩めていると矢口が・・・

「何やってるんだ!早くやるんだよ!」
すると友理奈が今までの笑顔から一転険しい顔つきになり、矢口を睨みつけた。

「ひっ!」
あまりの変わりようにさすがの矢口もビビってしまった。

「じゃあ、田中さん。そのこと、私を倒して証明してください。」
「望むところっちゃ!」

ふたりが戦いを再開しようとすると・・・
「警察よ!全員動かないで!」
舞美が警官隊を引き連れて、突入してきた。
その中にリゾナンターの姿も。

「れいな!」
「あんなにボロボロに・・・さゆみん、早く田中っちの手当てを。」
「はい!」

さゆみがリングに上がろうとすると・・・
「来るな!」

れいなの大声でさゆみはその場に止まってしまった。
「治療はいらんと。みんなも手を出さんといて。あいつはれいなが倒す。」
「そんなボロボロの状態で何言ってるの!」

さゆみが無理やりにでもれいなの治療をしようとするが。
それを止めたのは・・・・

「愛ちゃん。」
「さゆ、れいなには考えがあるんや。ここは見守ろう。」

れいなと友理奈の戦いが再開された。
しかし再開されても戦局は一切変わらなかった。
れいながパンチをくらわせても痛みを感じない友理奈が倍の攻撃をくらわせて、何度もれいなは地面に体を打ちつけた。
さゆみは傷つくれいなを見ていられなかった。

「愛ちゃん、もう辞めさせて!もう、れいなは限界です!」
さすがに愛もれいなをこのまま戦わせるのは危険を思い始めていた。

「心配するなっちゃ。次の一撃で決めるとよ!友理奈、あんたの負けとよ!」
「なんですって?あなたの方がボロボロですよ。」
「それは見た目やろう?本当はあんたもボロボロやけん。痛みを感じないからそうは思えないやろうけど、そろそろれいなの与えた打撃が蓄積して、体が限界のはずや。れいなが後一撃与えれば、あんたは倒れる!」
「だったら、私も後一撃であなたを倒します。」

ふたりが拳に最大の力をため込んでいる。
「うわー!」
「うおー!」

二人のパンチはほぼ同時にふたりの顔に当たり、そのまま静止した。
「田中さん、あなたの拳は最高です。これが人を守るための拳・・・」

友理奈は大の字になって倒れた。
一方、れいなも立っているのがやっとの状態。
倒れそうになるのを愛とさゆみが支えている。

「愛ちゃん、どうしてここに?」
「れいなの目に入れているコンタクトレンズ型カメラの映像で状況がまずいと思って、警察と一緒に踏み込んだんや。」

「矢島刑事、ダークネスの幹部はどこにもいません。」
「そう、まぁ闇のトーナメントを潰せただけでもいいわ。引き揚げるわよ。」

舞美たちはそそくさと引き上げていった。
「こんな事を言うにはなんだけど、なんか感じ悪いわねあの刑事。
田中っちがボロボロになってまで戦ってくれたのに。ねぎらいもしないなんて・・・」
「そんなことよりれいな、疲れたと。早くリゾナントに帰りたい。」
「そうね、あーしがおぶってやるやよ。」

その頃、ダークネス基地では・・・
「へぇへぇ、なんとか基地に帰ってこれた。もう、トーナメントはできないけどこのお金は無事に守り切れたぞ。」

矢口はお金の詰まったアタッシュケースを何個も抱えていた。
「ほぉ、ずいぶんと儲けてるみたいやな。」

そこにはダークネス幹部・中澤裕子の姿が・・・・
「ゆ、裕ちゃん。どうしてここに・・・」
「いや、あんたが最近妙に羽振りがよかったんでな。ちょっと事情を聞いてみようとしたんやけど、まさかトーナメントを開いてお金儲けしてたとはなぁ。」
「いいじゃない、儲けはちゃんと組織に還元してるんだから。」
「そうか?その還元した分とあんたの取り分を計算したんだけど、どうもあんたが多く取り過ぎてるみたいやな。
お金でオリメンの座が買えるとでも思っとったんか?おまけに警察に踏み込まれる失態をしたんやで。普通ならあんたは粛清されても仕方がないんや。」

すると矢口は土下座を始めた。
「裕ちゃん、お願いします。粛清だけは。」
「しゃあないなぁ。」
「許してくれるの?」
「こんな些細なことでいちいち幹部粛清しとったら幹部がおらんようなってしまう。ただし、このお金は組織への迷惑料と運営資金としてもらっとくで。」

すると中澤が矢口の持っていたアタッシュケースを持ちだした。
「待って!それ全部持っていかれたら、おいらの生活が・・・」
「しゃあないなぁ、ほれ!」

中澤はアタッシュケースからお札を何枚か出した。
「20万しかないじゃん!もっと、もっと!」
「1か月生活するのには十分や。それとあんたは当分外出禁止。お給料もカットやからそのつもりで。」
「そんな・・・あんまりだ!」

翌日、れいなはいつも通り喫茶リゾナントのウェイトレスとして復帰した。
熊井友理奈はトーナメントに参加していたので警察の取り調べを受けたが、トーナメントでは誰も殺さなかっただけでなく、出場者には手当てをするなどの行為をしていたことが考慮され、情状酌量があるだろうとのことだった。

「あいつ、悪い奴には見えんかった。ただ、力の使い方を知らなかっただけとよ。ねぇ、愛ちゃんあいつが出てこれたら喫茶リゾナントに呼んでいいと?」
「いいよ、れいなの目には狂いはなさそうだし。」

れいなにとって友理奈はかつての自分。そんな彼女の未来を切り開けたとれいなは思っている。