ドキミキナイトメア


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日本で活動する悪の組織の中で第三位の勢力を誇るダークネス。
「ダークネスカフェ」はその前線基地にして、有力な資金源の一つでもある。
そのスタッフルームに闇の王ダークネスが降臨した。
幹部の一人にして、「ダークネスカフェ」のメイドでもある魔女ミティを引見する為である。

「いよぉっす、ミティ。 元気だったか」

「はっ。 ダークネス様におかれてもご健勝で何よりです」 漆黒のドレスを着た魔女が闇の王の前に跪いている。

「それが、そんなにご健勝でもなくてのう。 今朝も起きたら枕元に髪の毛がゴッソリと…」

額の部分に「ダ」の文字が入った頭巾を被った闇の王が長々と愚痴をこぼす。
埒の明かない愚痴に付き合いながらミティは自分の先見の明を誇っていた。

(やっぱり、膝パットをつけといて正解だったね。 素足のままだったら絶対痛くなってるよ。 美貴ちゃん冴えてる~)

「おい、ミティ聞いておるのか」

「はっ」

慌てて答えると、首領との不毛な時間を終わらせるべく切り出した。

「恐れながら、本日わざわざご降臨されたのは、どのような目的がおありだったのでしょうか」

われながら全く以って大時代な台詞だとは思うが、ここでおっさんのペースに合わせたらこの話がコメディになっちまう。
いや、コメディが悪いとかいう気は無いけど、ハイテンポのギャグが炸裂するコメディだったらともかく、グダグダな展開のコメディなんて願い下げだ。
せめて定番の戦隊モノのコメディに持ち込まねえと、何をやらされるわかったもんじゃない。
魔女の切なる願いが届いたのか、闇の王が重々しく告げる。

「ダークネスの新たなる作戦を発動する。 その責任者にお前を任命する」

キタ━(゚∀゚)━!!!!!

作戦ktkr。
これこれ、やっぱり悪の組織ときたら作戦でしょ。
それも首領直々の命令と来たらテンションも上がるっつーもんよ。

「それは光栄の極み。 氷の魔女ミティの名誉に賭けて、その作戦を必ずや成功させます」

「言ったな」

「は?」

「名誉に賭けて成功させるって言ったな。 その言葉に偽りは無いな」

「はっ。 それが例えどのような困難を伴うものであっても」 力強く宣言しながらイヤな予感がよぎる。

何だこのまるでバラエティの罰ゲームに誘導してるみたいな口調は。 そもそもどんな作戦をやらせようっていうんだ。

「一体どのような作戦なのでしょうか。 総理大臣の誘拐でしょうか。 あるいはダムに毒をぶちこんできますか。それとも…」

魔女の口から飛び出す作戦案を重々しく首を振り、否定するダークネス。

傍らのデスクから1冊の大学ノートを手に取った。

「そのノートに作戦が記されているのでしょうか」 薄汚れたノートを持ち出してきやがったもんだと思いながらミティは言う。

「いや、これにはダークネスカフェの収支を記録しておるのだが」 ノートのページを繰る闇の王。

「ここ2、3ヶ月売り上げが落ち込んでおるのじゃ」

世界征服を企む悪の組織の首領の口から飛び出すとは思われない言葉にミティは戸惑う。

「ダークネスカフェは組織にとって金城湯池。 その収益が組織の活動資金となる。 このまま売り上げが落ちていくのを黙って見ておられよう…イテッ」

立ち上がったミティがダークネスの頭を殴っていた。

「オイオイオイ、大丈夫か、闇の王。 世界征服を企む組織が喫茶店の売り上げを気にしてる場合じゃねえだろ。
金に困ってるんだったら、銀行に押し込んだほうが手っ取り早いだろうが。 
何ならここの客の飲み物に一服盛って、眠らせて身ぐるみ剥いじまって、カード類も取り上げちまって骨の髄までしゃぶりつくしてやればいいだろうが」

部下に殴られた頭をさすりながら闇の王は厳かに口を開いた。

「世界の富はワシのもの。 それを自らの手で損なうことができようか」

「ダイヤモンドユカイみたいなことを言ってるんじゃねえよ」

「いや、その例えを判る者はこのスレにおらんじゃろう、イテッ」

「訳の判んねえことをほざいてるんじゃねえ。 いるよ、おっさん連中がバッチリといるよ」

「とにかく銀行強盗とかはダメじゃ。 ダークネスカフェのお客様から金品を不当に奪うなどもってのほかじゃ。
ワシはこのカフェを日々の仕事に疲れたサラリーマンに癒しを与える場所として守って行きたいんじゃ」

「やめちまえ、世界征服の夢なんて捨てちまえ」 呟くミティだったが、何かに気づいた。

「売り上げが落ちたていってもこうして、オッサンが梃入れに来るほど落ち込んじゃいねえだろうが。
っていうか、このご時勢としたらまあまあ健闘してる方じゃねえのか」

部下からオッサンと軽んじられたことを咎める様子も見せずに、闇の王は答えた。

「マルシェの研究に必要なんじゃ」

首領の口からでた盟友の名を聞いたミティは感情が昂ぶってしまう。

「マルシェの研究って、あの女の研究は金を食うばかりでモノになった試しがねえじゃんかよ」

「マルシェを悪く言うな」 闇の王の言葉にも感情の昂ぶりが見える。

「オッサンはマルシェのことを随分とお気に入りのようだが、あの女はオッサンのことを何とも思っちゃい…」

魔女の言葉は闇の王の叫びに遮られた。

「ダークネスではぁぁぁぁ、巨乳こそがジャスティスぅぅぅ!!!」

「おい、テメエ。 悪の組織がジャスティスとか言うー…」

「ダークネスではぁぁぁぁ、巨乳が唯一のアイデンティティーぃぃぃっ!!!」

闇の王の狂態に言葉を失った魔女。

「だからマルシェの方がエライの。 全てはマルシェが優先するの」

「ふざけんな、やってられるかよ」 吐き捨ててスタッフルームから出て行こうとするミティを闇の王が引き止める。

「お前の方こそ、ふざけろよ。 お前はダークネスカフェ売り上げアップ作戦の責任者として指揮を取るんだよ。
いや、カフェ戦士として最前線で戦うのじゃ」

「ヤダよ。 そもそもメイドとして客の機嫌を取るのだって苦手だったのに、更に売り上げアップだなんてさあ。
どうせ新メニューとか、新サービスとか始めんだろ。 そんなの面倒くさいから、ヤダ」

「ほう、察しが良いではないか。 益々お前に売り上げアップ作戦の指揮を取ってもらわねばならんな」

「だから、ヤダって言ってんじゃねえかよ。 どうせマルシェの研究費用になるんだったらマルシェにやらせりゃイイじゃねえか
売り上げアップ大作戦ってやつをよう」

闇の王と魔女が向かい合う。

「お前バカか。 マルシェには研究の為の時間が必要だろうが。 ゴチャゴチャ文句を言わんとお前が働け、それに…」

「それに、何だ、言ってみろ」  闇の王を睨みつけるミティ。

「それにマルシェみたいに普段から愛らしい娘よりも、お前みたいに憎々しい奴が愛想を振りまく方がギャップに燃える、いや萌える。
これぞ売り上げアップへの道」

「知るか、ボケ。 やめだ、やめだ。 ダークネスなんかやめてやる。
お前みたいな禿散らかしたオッサンの下でクダラねえ作戦を実行してるぐらいなら、アタシ一人で好き勝手にやった方がどれだけ楽しいか」

「禿げ言うな。 フサフサや。 この頭巾の下はフサフサや」 闇の王がミティに詰め寄った。

「見せてみろ。 その頭巾を取って見せてみろ」 闇の王の頭巾にミティが手をかける。

「放せ、その手を放せ。 ワシが素顔を見せたらどエライことになるぞ」 ミティの手から頭巾を守りながら、闇の王は言った。

「どんなエライことになるんだ言ってみろ」

「惚れてしまうぞ」 闇の王の言葉は魔女の哄笑にかき消された。

「あーハッハッハッ。 ゴメンなさい、美貴ウケるんですけど」 胸を抱えて笑い悶える魔女。

「何故、そんなに笑うのじゃ。 ワシの素顔を知らんくせに」 心外そうな闇の王の声が響く。

「イヤ、頭巾で隠してても大体分るっつーの。 モテないオーラ出しまくりだっつーの」

「何じゃと」 部下の人も無げな言葉に激昂した闇の王は魔女の胸倉を掴み、もみ合った。
元来がフェミニストの闇の王の常に無い行動に驚きながら、魔女も応戦する。
その戦いの中で意図してでなく、決して意図してでなく闇の王の手が魔女の胸を掴んでしまう。
思わず息を飲む両者。
凍りついた魔女、そしてもう一方の闇の王はといえば…。

闇のように暗い漆黒のドレス。 それはおそるべきアイテム。
何者にも侵されない神聖ささえ感じさせる漆黒の闇。
その色は母の胎内をも彷彿させる安らぎを湛えた色。
さらに、さらに付け加えるならばその上品で艶やかさをかもし出す優美なフォルム。
ドレスの周りの空気を豊穣に取り込み、芸術的な動きを与える様は神々しくも美しい。
ああ、そしてその漆黒を引き立たせる雪のように白く、絹のような柔らかさを併せ持つ肌。
そのような完全なる組み合わせを、間近に目にすることの出来る果報者が一億を越える日本国民の中で何人いるのだろうか。
そして、そしてだ。 漆黒のドレスに包まれた雪のような肌色をした二つの丘を踏破できる幸運児は、全世界六十億の人間の中で何人いるのだろう。
ああ、しかし、しかしだ。 ワシは今、限りなくその一人に近づこうとしている。
そのためかワシの胸は限りなく高まっておる。
そしてワシは今、悠久の歴史の一ページに名を残そうとしている。
まさにワシは今、銀河に選ばれた存在になろうと…、アレッ。

「おい、お前、この胸は何だ。 この感触、この質感、ミティ、お前の、お前の、お前の胸は…偽乳だったのかぁぁぁぁぁ」

「ヒィィィィ」 隠していた秘密を知られて恐れ戦く魔女。

「っていうか、偽乳でもこの程度のボリュームしか無かったのか。 かわいそうなやつ。 何とかわいそうなやつ」

グスッっと涙ぐみながら退室しようとする魔女に鬼のような宣告が下った。

「やってくれるな。 ダークネスカフェ売り上げアップ大作戦を率先してやってくれるな。 もしもイヤだと言うならば」

「……やらせていただきま・・」

「はあ? 声が小さくて聞こえんぞ」

「喜んでやらせていただきます!!」

「そう言ってもらえると思っておったぞ。 ワッハッハッハ」


数日後、ダークネスカフェに新しいサービスが加わった。
「魔女ッ子ミティの美味しい魔法」という名前だった。
そのサービスを頼んだ客のテーブルには黒いフード付きの肩掛けエプロンドレスにワンピースタイプのスカートを見に付けた魔女がやってくる。
そしてテーブルの上に置かれたホットプレートの上でクレープやパンケーキを焼いてくれる。
菓子が焼きあがると 「チョコレート投入☆」 「クリーム装填開始★」と愛らしい声を聞かせてくれる。
仕上げは 「では、魔法をかけま~す☆」 といいながら、タクトを手に回りながら、美味しさの魔法をかけてくれる。

「では、美味しくなる魔法をかけま~す☆」

タクトを振り振り、呪文を唱えつつテーブルの周りを回りながらミティは嘆く。

「……悪夢だ…」


ダークネスカフェの売り上げは右肩上がりの上昇を示したらしい。
その収益でマルシェがどんな研究開発をしたかは、また別の話だ。