モーニング戦隊リゾナンターR 第??話 「Wingspan の世界:折れた翼」


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束の間の眠りから覚めたマルシェは壊れかけの世界に存在する自分を認識した。 そして、もう一人。
痩せ衰えた体をマルシェの傍に横たえ、力を失った手であやすように撫でていた女性。
その目には慈愛の光が湛えられている。。
髪の毛の色も相まって、まるで孫をあやす老女のようにも見えた。

「ゴメンね。 つい眠り込んでしまって。 ちょっと昔の夢を見ていたんだ」 マルシェの言葉に若干の反応は見せるものの、言葉が返って来ることはない。

私たちがフィフスとして働いていた頃の夢を…という言葉は飲み込んだマルシェ。
一方の女性はそんなマルシェのことをニコニコと微笑みながら、ただ見つめるばかりだった。
そんな女性につられるように、マルシェの顔もほころんでくる。

「今日はごきげんで本当に良かったよ。 たまには外で食事をするのもいいもんだね」

言いながら身体を起したマルシェの顔が曇る。

「嗅ぎつけられたか」

まるで鏡のように女性の顔も曇ってしまう。
マルシェは優しく微笑むように努めながら女性に告げる。

「悪いけど暫くの間、隠れていてくれるかな。 大丈夫、いつものように私がやっつけるから」

女性を瓦礫の陰に隠れさせたマルシェは車に戻リ、後部座席のドアを開ける。
そこにはロボットの腕のような物体が入っていた。

量産型パワードアーム。
装着者の筋肉の動きを電動アクチュエーターで増幅する鋼鉄の腕を右腕に装着しながら敵の気配を探る。
能力は失ったとはいえ、かつてフィフスとして戦った経験を持つマルシェにとって、間近に迫った敵を五感を頼りに捉えるのはさしたることではない。

(大きな気配が二つと小さな気配が多数。 おかしいな、小さなやつらはまるで生きていないみたいだけど)

                            ★

(成程、そういうことだったのか)
11体目の敵をパワードアームで強化した正拳で破壊しながら、マルシェは納得していた。
小さな気配を発していたのは、人間の大きさの人形だった。
何者かによって操られる哀れな傀儡の群れがマルシェに迫ってくる。

(ドールマスター、それとパペットコマンダーとでも呼ぶべきなのかな。 こいつらを操っている奴の能力は)

痛みも恐れも感じない敵に最初こそ戸惑ったものの、その本質を看破してからは単純な作業の繰り返しに徹する。
攻撃の可動範囲を予測して、最小限の動きで回避する。
動作の範囲が限界に達したところで、鋼鉄の拳を頭部に炸裂させて人の形を失わせる。
それで終わりだった。

(動力源の無い人形が動き、人の形でなくなったら動きが止まる。 
ある意味呪術的というか、これは能力というよりは異能の範疇に属する事例よね)

単調な作業の繰り返しは、マルシェの目を戦闘者のそれから、観察者のそれへと変えていた。
そしてもう一つ庇護者の目へとも。
マルシェの神経は、敵を撃破することよりも、力を失った十年来の友人から敵を遠ざけることに注がれていた。
廃墟となった建物の中に多勢の敵を誘い込み、強襲と撤退を繰り返しているのもそのためだった。
その行為が、大きな気配を発する敵の本体への意識を甘くさせてしまっていた。

                            ★

「私の可愛い人形たちに随分と酷いことをするんだね、Drマルシェ」 美しいがどこか下卑たような空気を撒き散らす女が立っていた。

「ひどい? 可愛い人形に人を襲わせるあんたの方がよっぽどひどいんじゃないの」

「私はあんたに危害を加えるつもりは無かったよ。 その証拠にこの子達は何も武器を持たせてないだろう」 

この子達という言葉に愛情の響きが感じられないことが、女の本質を物語っていた。

「天才科学者のあんたに用があるから、お連れしに来たんだけどね」 他者を尊重する姿勢が微塵も感じられない声。

「ま、正確に言うとあんたに用事があるのは私の相棒なんだけどね。 
私はあんたみたいに自分の頭の良さを鼻にかけるような女は気に食わないけどね。
相棒のことがなければ、私の人形たちでバラバラに切り刻んでやりたいね」

「本性を現したってところだね」 

言葉を吐き出しながら、女との距離を目算する。
装着者の筋肉を保護する為に設定してあるパワードアームのリミッターを解除して、一気に決着すべきか。
しかし、女の相棒の存在も気になる。

「おっと、私に手を出さない方が良いと思うよ」 女はマルシェの先手を取った。

言葉だけでなく、自分の操る人形を数対自分の前に配置して、マルシェの攻撃に備える。
リミッターを解除すれば障壁となった人形諸共、女を斃すことは可能だろう。
しかし、自分の右腕の筋肉は断裂し、右肩関節も只じゃすまない。
それでは当所のない逃亡の旅を続けるのに支障があるだろう、それに女の相棒がもし、実在するのならば…。

「それにしても、あんたかなり強いよねえ。 そんなオモチャの手助けがあるからって、私の人形を秒殺するなんてさ。 
流石に元フィフスの一員だっただけのことはあるよ」

「お褒めに預かって光栄ですわ」 女同士の腹の探り合いが続く。

「でも、何かさあ。 優等生っぽいんだよね、戦い方が」

「優等生なんだから仕方ないでしょう」

「アハハ、自分で言っちゃったよ」 人形越しに女の厭らしい笑顔が見えた。

「うん、あんたの戦い方は優等生っぽい。 だから戦いの目的が透け透けなんだよね」

「私の目的はあんたをとっとと倒して、旅を続けることだけどね」 心の動揺を隠そうと努めるマルシェ。

「ほら、顔色が変わったよ。 所詮あんたは戦場に立つ人間じゃないんだよ」 自分が優位に立ちつつあることを確認する女。

「私の相棒は別にあんたの顔が見たいから、あんたを捜してたんじゃない。
あんたの頭脳を自分の為に使わせることが目的さ。 ただあんたは私たちの要求を素直に聞き入れることはない」

「わかってるんだったら、さっさと尻尾を巻いて、あんたの相棒を連れてどこかに消えちまいな」

胸の中に沸き起こりかけた不安を抑えながらマルシェは言った。
しかし女はマルシェの虚勢を見透かしていた。

「あんたはみたいな人間は自分の信念にそぐわないことは決してしないだろう。 例え危害を加えるって脅したって」

「だから、それがわかってるんだったら、とっとと消え・・」

「そんなあんたを動かすには、あんたの大切なモノを押さえる必要がある。
いや、モノじゃないね、あんたにとって大切な人間を押さえればあんたは私たちの言いなりに働いてくれるかもしれない」

「私には…そんな人間はいない」

鋼鉄の拳が一閃した。
必殺の思いを込めた一撃は、女を守っていた人形の体を貫いたかと思われた。

「だから言ったじゃない。あんたに戦場は似合わないって」

貫いた人形の胴体に右腕を絡めとられたマルシェの姿を楽しげに見つめる女。
マルシェの顔からは血の気が引き、脂汗をかいている。

「あらあらあらあら、どうしたのマルシェ様。 
あ、そうかパワードアームのリミッターを解除して攻撃しちゃったから、肉体が悲鳴を上げてるのよね。 かわいそうに」

傀儡の胴体に突き刺さったまま、動かすことの出来ない右腕を何とか抜こうともがくマルシェだったがピクリとも動かない。
身体を動かそうと努力すれば激痛が全身を走る。 靭帯の一二本は断裂してるのだろう。
それでも目の前の女を倒すことが出来ていれば、事態を打開出来る筈だったが。

「私はね、かわいいこの子たちを一度に30人まで操ることが出来るの。
でもね、ただ操るだけじゃなく、一人ひとりに別々の個性を与えることが出来る。
動きが速い子、力の強い子、ナイフ扱いの上手い子、射撃の名手、そして…耐久性の強い子」

自分の言葉の意味がマルシェに伝わるのを待つ女。

「みんな、みんな個性を持ったかわいい子たちなのに、派手にぶっ壊してくれたもんだなぁぁぁl」

怒りにまかせた女は人形でなく自らの拳をマルシェに叩き込んだが、指を痛めてしまう。

「イテッ。 何がおかしいんだよ。 人をバカにすんじゃないよ」 自らの不注意すらマルシェへの理不尽な怒りを増幅する材料にしかならない。

一つだけいいかしら、と女に話しかけるマルシェ。

「私はあなたのことをバカになんかしていないわ。 私が何もしなくてもあなたは救いようのないバカじゃない」 敢えて挑発を行う。

「ハッ、余裕かましてんじゃねえよ。 いいんだよ、 殴ったり、刺したり、斬ったり、撃ったり、バラしたりすんのはこいつらにやらせっからいいんだよっ! 
アタシは人の殴り方なんかわかんなくてもいいんだよぉぉぉ」

「話せば話すだけ自分の愚かさがハッキリするだけだから黙っていた方が良くなくて」 天才科学者は毅然とした態度を崩さない。

「テメエ、ブッ殺してやる。 いや、殺してなんかやるもんか。 アイツの用事がある脳味噌だけ残して、あとは徹底的に痛めつけてやる」

傀儡たちに指令を出して、マルシェを痛めつけようとする女の心に若い女の声が響いた。

『オバサン、何勝手なことしてくれてるのさ』

『オバサンって、あんたねえ』

『オバサンじゃん。 ボクはマルシェの頭脳に用があるって言ったけど、だからといって身体の他の部位が要らないってわけじゃない。 彼女にしてもらうことを考えればね』

『それはまあ、そうだけど』

『ボクのほうは見つけたよ。 彼女の逃避行の同行者を。 だからさ早くマルシェを連れてきてよ』

女が見えない相棒と意志の疎通を行っている様子を苦々しげに見つめるマルシェ。
女はそんなマルシェを見て心の余裕を取り戻したようだった。

「運が良いねぇ、あんた。 アイツがあんたを連れて来いだってさ」

マルシェを拘束していた人形に指令を下す。すると人形はたちまちの内に崩壊した。
マルシェの身体は自由になったものの、右腕に装着したパワードアームの荷重を支えきれず崩れ落ちてしまう。
そんなマルシェの脇腹をあらごめんなさいと蹴り上げる女。

「そんなところにしゃがみ込むから躓いちゃったじゃないの。 気をつけてよ。
何よ、その目は。 言っておくけど私から逃げたり、歯向かったりしようなんて気は起さない方がいいわよ。
私の相棒は既にあんたのお友達を捕まえてるんだから。
フィフスの一員、ダークネスのスパイ、リゾナンターのサブリーダーだった新垣里沙の成れの果てをね」

固く握り締めた拳を悔しげに床に打ち付けるマルシェだった。

                            ★

醜悪な姿だった。
水牛の頭、大猩猩(ゴリラ)の右半身、羆の左半身。
各々の部位の境界は生々しい筋肉が剥き出しになり、その内側では不気味な蠕動が繰り返されている。
想像上の悪魔が従えている獣のような姿をした生物が新垣里沙を捕らえている姿を見たマルシェは息を飲んだ。

『初めまして、Drマルシェ。 お元気なようで何より』

若い女の声が耳にではなく、心に直接響いた。

「里沙ちゃんを放せ」 射るような視線を突き刺すマルシェ。

『流石は科学者だね。 ボクのこの姿を見た人間はたいてい恐怖に慄いて目を逸らしちゃうんだけど』

「そんなことはどうでもいいから、里沙ちゃんを放せ」

『いいよ。 君がボクの希望を叶えてくれたらすぐにでも解放してあげるよ』

ゴリラの腕に体を抱えられた里沙が、言葉にならない声を上げる。

「里沙ちゃん」 マルシェの悲痛な叫びが響く。

『それにしても、哀れなもんだね 』

「やめろ」

『かつてはフィフスの一員として能力犯罪者達に恐れられた新垣里沙が、こんなに痩せ衰えた惨めな姿になってしまうなんて』

「里沙ちゃんを侮辱するな」

『侮辱なんかしてないよ。 見たままを言ってるだけさ。見てよこの骨と皮だけの身体にしわくちゃな肌、真っ白な頭。
新垣里沙って確か君よりも年下じゃなかったっけ、それがどうしたらこんなになっちゃうんだろうね』

マルシェの中で怒り、悲しみ、屈辱の感情が綯い交ぜになる。

『あれ? どうして震えてるの。 もしかして気分でも悪くなった?
そういえばこいつもさっきボクが掴まえてやった時、ブルブル震えてたんだ。
一体どうしたのかなと思ったらいきなりお漏らししちゃうんだぜ。 信じられないよ。
もう少しでボクのこの機能美溢れる身体が濡らされちゃうところだったよ。 タマんないね、まったく。
こいつがマルシェの友人じゃなかったら、キツいお仕置きをしてやったんだけどね』

「黙れ」

『でもさ、こんな惨めになってまで、人間の姿にしがみつくなんて馬鹿じゃないのこいつ』

「やめろ」

『キメラ生命体の専門家、Drマルシェを友人に持ってるんだから完璧な生物の遺伝子情報をコピーしてもらえばいいのにね』

「やめて」

『でもマルシェもひどいよね。 親友を助ける知識と技術を持っているのに放っておくなんてさ。
あ、もしかしてこいつに何かコンプレックスとか恨みとか持ってたのかな。
惨めったらしいこいつを連れまわして、世話をしてやって優越感に浸っていたとか、ウフフ』

「お願いだからやめて。 あんたの言うことは何でも聞いてあげるから」

『そう言ってくれると思ってたよ』

マルシェの精神を打ちのめしたことを確信したのか、異形の“女”は上機嫌そのものだった。
伝わってくる“女”の意識がマルシェの気持ちをさらに傷つけていく。

『ボクのこの姿を見て、何か足りないと思わない?』

足りないモノ? 女の真意が掴めずに困惑するマルシェ。

『うーん、分んないかなあ』

複数の獣が融合したその姿を直視すれば、何らかのイメージや幾つかの言葉は浮かんでくるだろう。
しかしそれらのイメージがある種の精神感応能力を持っているらしい女に伝わってしまえば、そのことで女を刺激してしまいかねない。
そうなったら女の掌中に捕らえられた里沙にどんな危害が加えられるか分らない。
そう思ったマルシェは女の姿を直視せず、思考を停止して心の中を虚ろに保とうとした。

『心を落ち着かせるには素数を数えればいい。 素数は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字。 きっとマルシェに勇気を与えてくれる、なんてね』

女はマルシェの思惑を見通していた。

『別にいいんだよ。 ボクは慣れっこだからね』 屈託無げな若い女の声が飛び込んでくる。

『怪物だとか、化け物だとか、悪魔だとか。 ボクの姿を見た大抵の人間はそう思うらしい。
まあそう思った奴はこのゴリラの掌で握りつぶすか、羆の爪で首を吹っ飛ばしてやったけど』

声のトーンは明るいが、語られている言葉は不穏極まりない。

『でもマルシェなら大目に見てあげるよ。 何てったってボクに翼を与えてくれる人なんだから』

「翼ですって」 思いもかけない女の思念に驚いたマルシェ。

『ありゃ、言っちゃった。 まあいいか。 どっちみちマルシェには協力してもらうんだから。
水牛の角、ゴリラの握力、羆の爪、そしてパワー。 陸上の生物の最強の部分は手に入れた。 頭を虎にするっていう線もアリだったけど。』

身じろぎもせず、女の次の思念が飛び込んでくるのを待つマルシェ。 その視線は里沙を捉えている。

翼が欲しいという女の“声”に戸惑いながら、その巨躯を観察するマルシェ。
体長は2mを超えている。 体重は200kg前後だろうか。

(人工的な翼を移植してお座なりに羽ばたくことが出来るようにするぐらいなら可能だけど…)

『あっ、お飾りの翼なんか欲しくないよ。 ボクは自分の翼で空を飛びたいんだ』

「無理だ…」 マルシェの呟きが空しく宙を舞う。

『どうして無理なのさ。 キミはダークネスきっての天才科学者だったんだろう。 だからその若さで科学部門の責任者を任せられた』 女の“声”が詰る。

「私はあくまで研究開発の一セクションの責任者に過ぎなかった。 様々なジャンルの科学者が集まってダークネスの研究開発部門を構成していた」

だから、自分の能力には限界があると語るマルシェ、更に…。

「アンタに空を飛ばせることが不可能だっていのは、私の頭脳の限界のせいでもない。 それは…自然の摂理。
アンタのその大きくて密度の高い身体に揚力を与える為の翼は、とてつもなく巨大なものにならざるを得ない。
しかしそんな巨大な翼は羽ばたきに耐えられないと思う。 といって強化する為に何らかの措置を講じた場合…」

『ああ、つまんない』 女の“声”がマルシェの言葉を遮った。

『そんなつまんない常識なんて聞きたくないんだよ』 “声”に険悪な成分が混ざり始めていた。

「だって、それは動かしがたい事実だから」

『あの科学者、ボクの身体を最後にいじった科学者と同じことを言うんだね』

「アンタの身体に翼を付けて空を飛ばすことが出来る科学者なんてこの世界の何処を捜したっていない」

もしいるとしたらそれは悪魔、という思いは言葉にはしなかったものの、…。

『だとしたらやっぱりキミしかいないね、マルシェ。 何てったってキミは親友の新垣里沙を生ける屍へと変えた悪魔なんだから』

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