ダークブルー・ナイトメア~0.意思を持つ駒


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その日、研究室に来客があった。
およそこの場所にそぐわない客人。
碌な用事でないことはすぐにわかった。
なにしろ彼女は、人の研究をみても「すごーい」を連発するだけで
その実なにがすごいのか自分でもよく理解していない人だったから。


予感は当たった。
一方的な説明を終え、彼女は研究室をあとにしようとする。

「じゃっ、そういうことだから!しっかりやれよ!」
「えっ!待ってください、私に『リゾナンターを倒せ』って・・・!」

来客――矢口真里――が紺野あさ美に告げたのは、リゾナンターとの交戦指令。
幹部級でまだリゾナンターと直接やり合っていないのは紺野くらいだから、というのが理由らしい。
いくらなんでも暴論が過ぎる。

「私には無理ですよ。もう何年も戦闘訓練なんて受けてませんし、そもそも粛清人の人たちが
 仕留めきれなかったリゾナンターを研究職が専門の私が相手にするなんて」
「別に『倒せ』とまでは言ってないよ。ちょっかい出す程度でいいんだって。
 ほら、幹部としての体裁ってもんがあんだろ?たまにはお勉強を休んで体張ってみろってことだよ」
「でも・・・・・・」

それでも、無理なことを言っているのは隠せない。
その上、なにか引っかかるものを感じるし。

紺野が逡巡していると、矢口は思い出したように付け加えた。

「おまえ、戦闘できないとか言わせないかんな!この前おいらにみせた、あのメカはなんなんだよ!?」
「あれは・・・私の個人的な実験用に作っただけで・・・・・・」

紺野は数週間前の自分を恨んだ。
やはり彼女にあれをみせるべきではなかったのだ。
まあ、試運転しようとしたまさにその瞬間に彼女が予期せず現れたのだから、仕方がないといえばそれまでではあるが。

「なに言ってんだよ、あれ応用できればリゾナンターだってまいるぞきっと。あいつら一人一人は弱っちいんだから、
 粛清部隊みたいに正面切って攻撃するより、おまえの得意そうなねちねち精神攻撃のほうが絶対効果あるって!」
「・・・そこまで言うなら、あれ貸しましょうか。使い方教えますよ」
「え、あ、いや・・・いいっていいって!後輩の力借りてまで手柄立てようとは思わないよ!」

後輩の力を借りてまで、か。
そういえばそうだった。
彼女の性質を失念していたようだ。

彼女は力を借りるというよりも、むしろ―――

「じゃあ今度こそ帰るわ!頑張れ、おじゃマル!」

そう言って、矢口真里は慌しく研究室を出て行った。
彼女の、都合の悪い風向きを察知する能力は天下一品だ。
彼女が幹部として評価されているのも、超能力よりそういった能力による部分が大きいのかもしれない。
紺野は、彼女のそういうところが決して嫌いではなかった。
が。
厄介なことを押しつけられた事実に変わりはない。
あそこまで言われてしまっては、無視するわけにもいかないだろう。

「・・・どうしたもんですかねぇ」

このまま言いなりになるのはシャクだ。
かといって、逆らったりもできない。
自分は組織の所有する駒の一つに過ぎないのだから。
思い通りにならない駒は盤上から弾かれるだけである。

しかし。

駒は駒でも、ただの駒では終わらない。自分は意思を持つ駒だ。
時には心のままに動いてみるのもいいだろう。
所詮、盤上の駒。
どれだけ奔放に駆け回ってみたところで、結局のところ動ける範囲なんて限られている。


紺野は、棚の奥に仕舞ったままになっていたある装置を取り出した。

精神系能力者の能力発動時の脳波を収集・解析し、人工的に催眠状態を作り出すことに成功したこの装置。
改良に改良を重ねて、何年か前に完成したそれよりもはるかに強力な仕上がりになった。
あとは装置の設定を実験に使用した時のものから対リゾナンター用にいじればいいだけの話だ。

リスクは大きいが、やるしかあるまい。
これから世話になるであろう、もの言わぬ相方を見つめる。

「よろしくね。ナイトメア」

さて。
忙しくなりそうだ。




高橋愛がリゾナンター全員に出動を命じたのは、研究室でのやり取りがあった数日後のことだった。

「街外れでダークネスの連中が現れたって!みんな、行くよ!」

ダークネスを倒すべく、9人の戦士は即座に現場へと向かう。
それが悪夢の始まりであることなど、戦士たちはまだ知る由もなかった。


(…続く)