『なんちゃって恋愛』


『なんちゃって恋愛』(かなしみの人ver)


次回予告
   敵の攻撃により里沙となつみがショッピングモールのエレベーター内に閉じ込められてしまう
外ではリゾナンターとメロンシリーズらが戦闘!奴らは以前より力が上昇して来ている 長期戦は必至
       せっかくの安倍さんとの楽しい楽しいお買い物タ~イムを邪魔されてしまい
      里沙はかなりイライラしていた それを察したのか なつみが場を和ませようと・・



     「SOS!SOS!リゾナンターさん聞こえますでしょうか?こちらナッチどーぞー!」
  腕の時計を通信機に見立てて何やらふざけ出した 里沙もしょうがないなーという感じで応える




      「こちらリゾナンターライトグリーン!命に代えてでも安倍さんを救出します!!」
    「やっだーッ!私の王子さまみたい ふふーっ・・あはははは・・」「ふふふふそーかも♪」

         その頃外ではようやく敵を退けたリゾナンターが2人の救出を始める

           狭い箱の中では まだまだ楽しい2人だけの時間が続いていた
   やがて扉がこじ開かれリゾナンター参上!!・・・?なんだか2人共ニコニコしていて元気だ



         「なによぅ~来るの早すぎー!せっかく面白い所だったのにぃ~www」
                すると心配損なメンバーからエ~イングがw

      その夜 なつみは里沙にメールを送信しようとしていた ボタンを押そうとした瞬間に
           里沙からメールを受信するという ちょっとしたミラクルが起きる



             (あの子が私の心を操ったのかしら?なんちゃってね!)
        あの子のメールの始まりはいつもこう[ 大好きな安倍さん、]だから私はさ・・


次回かなしみ戦隊リゾナンターミラクルズ「なんちゃって恋愛」

   [ 今日はいろいろあってビックリしたー!!!私の【身体】もう治ったよ♪ 本当にありがとう。
   これからもガキさんの憧れとして(●´ー`)は頑張るからね!おやすみ 大好きなガキさん。]



【本編】

『なんちゃって恋愛』(RとRの人)


新垣里沙は浮かれていた。
軽く踏み出した一歩が無意識のうちにスキップになってしまうような、そんな浮かれ方であった。
今朝からずっとこの調子である。

「ねえねえ…ちょっと聞いてー!(幸福のど真ん中は正にここ)なのだ」

里沙の気持ちを代弁するとこうなるだろうか。里沙が浮かれるのには勿論理由がある。
彼女は今、安倍なつみに誘われて二人で買い物――いや、楽しい楽しいお買い物タ~イムと表現すべきだろう、その最中なのだ。
里沙にとって、あこがれの安倍さんと二人っきりでのショッピングは至福と同義である。

傍から見れば、たかが買い物くらいで浮かれ過ぎていると思われるかもしれない。
が、里沙の心境を推察するには、思春期真っ盛りの男子中学生が初恋の人とのデートにかける思いとの比較を用いるべきである。
殆ど動物的といってもいいあの男子中学生のリビドー。それに等しい熱量が里沙の胸の内で溢れかえっているのだ。
しかも、憧れの年月とその密度においては男子中学生を遥かに凌駕する。
里沙の頬が緩みっぱなしになるのを誰が責められよう。

そしてエレベーターである。
今、二人はエレベーターに乗っているのである。
言うまでもなくエレベーターは密室である。
つまり、里沙はなつみと密室で二人っきりなのである。
隣に視線を移すと、なつみの柔らかな、春風に揺れる一輪の花を思わせる微笑がもうほんのすぐそばにある。
そして今、その天使の微笑みを里沙は一人占めしているのだ。

―ああ神様!どうかこの瞬間が少しでも長く続きますように!

里沙が天に祈りを捧げたその時、ガタン、と床が揺れ、そしてほぼ同時にエレベーターが止まった。

「えええ!?マジィ!?」

里沙の半分裏返った声がかご内に響いた。叫んでしまうのも無理はないタイミングであった。

「まさかそんな筈はないそんな筈はないでもそんな筈あったらスゴイ事だよこれは神様来てるよ」
「どうしたのガキさん、びっくりしちゃった?」

口の中でブツブツ呟いてる里沙を心配そうに見つめながら、なつみが声をかける。
エレベーターが止まった事よりも、里沙の大声に驚いている様子だった。

「あ、いえ…何でもないです」
「故障かなあ」
「故障…ですかねえ……」

半笑いを噛み殺しながら、里沙はインターフォンを押し、係員との連絡を試みた。
折角なつみと二人きりではあるが、デキる後輩アピール絶好の機会をふいにするような里沙ではない。
ほどなくして係員の声がスピーカーから返って来たが、その声が妙に慌てふためいている。何かあったのだろうか。

「あの、エレベーター止まっちゃたんですけど」
「お客様落ち着いて下さい!」
「いや落ち着いてますけど」
「大丈夫です!リゾナンターがきっと何とかしてくれます!」
「はあ?」
「ダークネスなんか目じゃないですって!」
「ちょっと落ち着いて下さい」
「落ち着いておりますよお客様!」
「リゾナンターは私なんですけど」
「はあ?」
「ダークネスがいるんなら早く出して下さい」
「お客様落ち着いて!危険ですよ!」
「だから落ち着いてるってばもう!」
「逆にエレベーターの中でじっとしていた方が安全で…あ!リゾナンターだ!」
「だーかーらリゾナンターは私だってさっきから…」
「うわー実物はやっぱかわいいな!不肖このワタクシ間賀時夫37歳!責任を持ってリゾナンター達の勇姿を見届けてまいります!」

最後に「愛ちゃーん!」という叫び声を残し、係員は通話口から出ていってしまった。

「何だよこの馬鹿係員!」

これじゃデキる後輩アピールどころかただの短気な人である。
ところが、なつみにはその係員にキレてるだけの里沙が、正義の怒りに燃える一人の戦士の姿に映った。

「ガキさん頼もしいねえ。うんうん」
「ええ?そうですかー?照れちゃいますよう」

憧れの安倍さんに褒められて、里沙はすっかり怒りを忘れヘラヘラと笑い顔を浮かべた。
とりあえず得られた情報で、今の状況をまとめてみると次のようになる。

  • ショッピングモールがダークネスの襲撃に遭っている。
  • その影響でエレベーターが止まった。
  • 現在リゾナンター(里沙を除く)が応戦中。

「安倍さんどうしましょう?しばらくここから出られないみたいなんですけど」
「じゃあ待ってよっか」

里沙はなつみのこの言葉を聞いた瞬間、突き抜ける感動とともに軽いめまいを覚えた。
これは、現状をありのままに受け止め、そして最善の答えを瞬時に導きだす透徹した精神の発露だ。
この精神は、禅宗で言うところの悟りに通じる。
『ガキさんは菩薩』という言葉があるが、ならば安倍なつみは最早悟りを開いた仏陀の境地。即ち如来なのではないだろうか。
と、里沙は思った。思うのは自由だ。

―凄いわ…!安倍さんは天使を飛び越えて遂に如来にまで達したのね…!洋の東西を問わないなんて流石だわ!

里沙は改めて、このエレベーターに閉じ込められた幸運を噛みしめた。







さて、ここまでは話の前ふりである。
この物語では、憧れの人と共に密室に閉じ込められた新垣里沙を通じて、人間の運命について考えてみたいと思っている。
この時の里沙ほど、人間の運命の不思議さというものについて思いを巡らせるのに最適な素材は無いであろうからだ。
同時にこの物語では、高橋愛が涙目になった理由もまた、語られていく事になるだろう。





ここで、時計の針を30分ほど進める必要がある。
里沙の様子はどうか?その心の声を聞いてみよう。

―どうしてこうなった…!どうしてこうなった!

里沙は崖っぷちに立たされていた。
ほんの少しでも気を緩めると、取り返しのつかない事態へ転落してしまう。
里沙は全身全霊で己の中から湧き起こる絶望と戦いを繰り広げていた。

崖っぷち?取り返しのつかない?絶望?
憧れの人と少しでもずっと一緒にいたいと望み、結果的にその望みが叶った里沙にとってあまりに似つかわしくない言葉ではないだろうか?
どう考えても不自然である。しかし、今現在里沙を苦しめているのは、何とも皮肉な事にその“自然”なのであった。

順を追って説明しよう。

エレベーターに乗る少し前に、里沙となつみは昼食をとっていた。
洒落た言い方をすればランチであるが、無論、里沙にとってはただのランチではない。
安倍なつみという、己の青春を捧げて憧れ抜いた人物と一緒なのである。
食事という名の青春。言うなれば、青春!LOVEランチなのであった。
そしてなつみは、浮かれまくっている里沙に「これも美味しいから食べなよ」と言ってどんどん料理をすすめた(安倍さんなりの親切である)。
里沙は食った。体育大学のラグビー部員に匹敵する食欲で、どでかいハンバーグやらなんやらを気合い入れてモリモリ食った。
そして、締めにデザートのシャーベットまでペロリと平らげたのだった。
つまり里沙は、食いすぎたのである。

付け加えて里沙は、前日、緊張と興奮のあまり水しか口にしていなかった。
丸一日固形物を摂らなかったその事実は図らずも『プチ断食』の様相を呈していた。
一説によると断食は、花粉症、肉体疲労、便秘、美肌、ダイエット等に効果があるとされている。(※)
適度な断食は体の調子を整えるのに適しているのだろう。事実、里沙のコンディションは良かったのだ。
特に胃腸の調子は活発であった。

(※)「断食」の効用については久住小春さんのブログ『こはるんランド~入場無料~』に詳しい。参照されたし。

そして、人間には、他人によく思われたいという本能的な欲求がある。
それが憧れの人ならば尚更で、里沙は安倍さんの前では100点満点の自分でありたいと思っていた。
そのためには相当の緊張を強いられるのだが、里沙は浮かれ過ぎて密室に閉じ込められるまでその事に気付かなかった。
エレベーターの狭いかごの中では、常に緊張感を求められるという事を。
里沙がなつみを見つめているという事は、なつみもまた、里沙を見つめているのだから。
時として緊張は、腹にくる。

説明を続ける。その上何故か妙に、エレベーターの中が寒いのである。
空調のせいではなさそうだ。どこからか冷気が入ってきている。
凍えるほど、という訳ではないが、この冷えは着実に里沙の体の芯に届いていた。
殊更言う事ではないが、冷えると近くなるのだ。

食いすぎ。無駄に活発な胃腸。腹にくる緊張。そして、冷え。
つまり里沙は今、ある特定の生理現象に襲われているのだ。
上記の要因がこれだけ揃えば全く自然な事であるが、自然に身を任せてしまっては人間の尊厳が失われる。
里沙は、この人類が地上に誕生するはるか以前より生物に備わっていた自然現象と真っ向から戦わなくてはならない破目に陥った。
事態は二人っきりの密室で風雲急を告げている。里沙のおなかも風雲急を告げている。


これからこの物語では、新垣里沙という一個の人間が、迫りくる自然の猛威にいかにして立ち向かい、どのように振舞ったかを語っていく事になる。
その際、迫りくる『自然の猛威そのもの』の事をここでは便宜上『獣』と表記する事を許されたい。
この先『獣』という単語が出てきた時は「ああ、あれの事を言ってるんだな」と思っていただければ幸いである。


遠雷のように、獣の咆哮が聞こえてくる。
里沙は壁に寄りかかり、閉ざされた扉に視線を注ぎこんでいる。
なつみに話しかけられても、気の利いた返事はとても思いつかず、当たり障りのない言葉しか出て来なかった。

―それでいい…!今は当たり障りのない言葉で十分…!

大切な事は、獣の存在をなつみに気付かれない事。それが最優先である。
もし、逃げ場のない密室で獣が解き放たれたらどうなるか。想像ですらおぞましい。
なつみに獣の存在を気付かれれば、なつみはきっと想像する。そして、恐怖する。
ドアが開くまで獣を抑えきれたとしても、その恐怖はなつみの心にこびりついて離れないだろう。
そしてなつみの中でイメージが固まるのだ。

『ガキさん=獣』

それだけは絶対に、絶対に困る。
憧れの人に『獣』なんてイメージを持たれてしまったら、この先何を信じて生きればいいのだ。
是が非でも獣の存在は隠し通さねばならない。

―出来るはず…!私なら出来る!

里沙の瞳は、輝きを失ってはいない。

新垣里沙。
かつて闇の組織のスパイとして
闇と光の狭間でたった一人、孤独なたたかいを続けてきた。
誰にも知られてはならない秘密を抱えて、いつだって心は孤独にむせび泣いていた。
それでも、必死に生きて、生き抜いて、立ち向かう。
新垣里沙。彼女の真の強さは肉体や精神にはない、魂だ。
魂にこそ、この少女(21)の凄味がある。
決して揺るがないものが、そこにある。

里沙は獣に戦いを挑む。決して負けられない戦い、守るための戦いがそこにあった。
守れ。己を、なつみを、人間の矜持を。
戦士、新垣里沙よ!

里沙の瞳に炎が宿った。
その凛々しさたるや、古代ローマのミネルヴァ女神にすら匹敵するであろう。
なつみは里沙の表情から溢れる魂の輝きに思わず目をみはった。

―ガキさんが…!正義の怒りに震えている!

一人だけ閉じ込められて、きっと自分を責めてるんだわ。ガキさん責任感強いから!
みんなの事が心配でたまらないんだわ。ガキさん優しいから!
でも私の事も放っておけないジレンマに苦しんでいるんだわ。嗚呼、なんて罪なナッチ!

なつみは里沙に何かしてやらなければならないと親切心を燃え上がらせた。
「そっとしておいてやろう」という選択肢はない。そんな物があったらそれは安倍さんとは言わない。
左手の腕時計が視界に入った瞬間、なつみは閃くように己のやるべき事を見出した。

「SOS!SOS!リゾナンターさん聞こえますでしょうか?こちらナッチどーぞー!」

意外!それは腕時計を通信機に見立ててのSOSプレイ!!

―はうぅ!

里沙の唇から吐息が漏れる!張り詰めていた緊張が音を立てて崩れ落ちていき、獣が檻を食い破らんと暴れ狂う!
安倍さんの年齢を感じさせない和みパワーで、里沙のおなかもSOSだ!

―静まれ…!私の中の獣よ…静まりなさい!

いきなり何言い出してるんですかと里沙はウルウルの目でなつみを見やった。
なつみは100万ドルの笑顔で里沙を見つめている。「どうだ?面白いだろう?」と言わんばかりであった。
里沙はなつみの意図を理解した。なつみはこの場を和ませようとしてくれているのだと。
なつみの思いに応えなければ、里沙は押し寄せる獣の波に翻弄されながらも、必死に声を振り絞った。

「こちらリゾナンターライトグリーン!命に代えてでも安倍さんを救出します!」

今、里沙は最大級の大波に襲われている。最大のピンチであると言っていい。
しかし裏を返せば、このピンチさえ凌げれば、もうしばらくは時間を稼げるという事だ。
里沙は懸命に己を鼓舞する。
この大波を乗りこなし、戦いに勝つのだ。勝利のビッグウェーブとするのだ。

しかしその時、里沙の思いをあざ笑うかのように、絶望が牙を剥いた。
里沙の力強い返事にすっかり気を良くしたなつみが、

「やっだーッ!私の王子様みたい!」

と言って、里沙の背中をポン!と叩いたのだ。

―衝撃!

追い詰められた里沙に物理的な衝撃は物凄くヤバい!
それはまるで城門を突き破る破城鎚のように!
里沙のおなかは落城寸前!ビッグウェーブ封鎖できません!!

―ああなんでなんだろう私。泣きたい気持ちになる。ああ

なつみは笑っている。ふふっー…あはははは…と笑っている。
「素敵な笑顔だな」里沙は何もかも忘れて、そう思った。

試合終了かと思われたその瞬間、声が聞こえた。

「誰か中にいますか!」

その声が、里沙の戦意を再び蘇らせ、生命の大車輪をプッシュした。
その声は、リゾナンターのリーダーにして新垣里沙の莫逆の友、高橋愛の声だった。
長期戦を制し、敵を退けたリゾナンターが救助に来てくれたのだ。

「愛ちゃん!私!閉じ込められてるの!」
「その声はガキさん!?そんなとこにおったんか!」
「助けて!愛ちゃん!」

すぐさまリゾナンター達は救出作業に取りかかり、バールのような物でエレベーターのドアをこじ開けた。
外の光が差し込んでくる。新鮮な空気が流れ込んでくる。
そして、8人の仲間が里沙の無事を心から喜んでいる。

「どけい!」

そんな事は里沙にはどうでもよかった。
目の前のリゾナンターどもを押しのけ、里沙は約束の地(トイレ)へ走り去っていった。
およそ考えられる人として最低の態度の一つであろう。
その際、里沙の走り方が、振動を最小限に抑えるため腰を低く落としたヒョコヒョコ走りであった事が余計に哀れを誘う。

「ガキさん…どうして…」

愛は涙目でぽつりと呟いた。
が、泣きたいのは里沙の方である。
里沙だってせっかく来てくれた仲間にこんな態度を取ったらいけないという事は分かっている。安倍さんだって幻滅するに決まっている。
でも、しょうがないではないか。どうしようも、ないではないか。
里沙は頬に伝う涙を拭う事もせず、ただひたすらに走った。ヒョコヒョコと。




「痛タタタタ…あいつら顔面殴りやがって…」

独り言を呟きながら、洗面台の鏡の前で、リゾナンターの猛攻に屈した魔女ミティが傷口を洗い流していた。

「でも今日は結構いい線いったな。負けたけど」

何故か分からないが、今日のリゾナンターの戦力はいつもより劣っていたような感じがする。
あわや、という所まで追い詰めたチャンスも二度三度とあったのだ。

「次はひょっとしたらいけるかもな。今度こそ奴等を恐怖のドン底に叩きこんでやる。頑張れ、私」

「次こそは」ミティが何度目か数えるのも億劫になるくらいの誓いを立てた時、背後で水の流れる音がした。
鏡ごしに、個室の扉が開くのが見えた。
そして、そこには……

「新垣…!」

新垣里沙。獣を帰るべき場所へと送り出したばかりの新垣里沙が仁王立ちしていた。
何で?何で新垣がこんな所(トイレ)にいる?ミティは全く事情が呑み込めない。

「お前か~お前が全部悪いのか~」

そんな事はお構いなしに、地の底から唸るような声で、里沙がミティに詰め寄った。
その瞳にはかつてない程の猛々しい炎が燃え盛っている。
激しい怒りが燃料になっている事は間違いない。だが、何で怒ってるのかミティには分からない。

「な…何の話だよ?」
「お前がエレベーター寒くしたんだな」
「はあ?」
「お前のせいで安倍さんに嫌われたぞ。きっと私の事嫌いになったんだぞ」

目の前にいるのは話の通じる相手ではない。
やる気だ。殺る気マンマンだ。
狂犬の異名を持つ魔女ミティが、その日、初めて恐怖におののいた。

「なあ、何があったか分かんないけどさ。とにかく落ち着――」

ぬぅん!

ガキさん怒りのぬぅん!である、凄まじい気合いだった。これではミティもたまったものではない。
里沙の拳が稲妻のようにミティの顎を貫いた。ミティの膝が崩れ落ちる。
意識を丸ごと遥か彼方まで吹っ飛ばしてしまいそうな一撃であった。
魔女の復讐の誓いは、新垣里沙という一匹の龍の八つ当たりによって、無残にも打ち砕かれた。

「今日は厄日だぜ…」
「私の方が厄日だ!バカァ!!」

薄れゆく意識の中、ミティは気が付いた。
―そういえばこいつ手洗ってねえな。
気が付かなければよかった。





ここまでが、里沙となつみの楽しい楽しいお買い物タ~イムの顛末である。
その日の出来事はこれで終わったが、人間の運命の不思議さというものはもう少しだけ続く。
安倍なつみから新垣里沙にメールが届いたのだ。



[今日は色々あってビックリしたー!!でもガキさんがいてくれて心強かったよ。本当に頼もしくなったねえ。
これからもガキさんの憧れとして(●´ー`)は頑張るからね!おやすみ 大好きなガキさん。またお買い物行こうね!]


当日はさっさと泣きながら寝たため、このメールを里沙が読んだのは、次の日の朝の事である。
その時の里沙の様子がどうであったかは、ご想像にお任せしたい。


【解説】
かなしみ戦隊シリーズの特色として、登場人物の多彩さが挙げられる点については、「サマーナイトタウン」のライナーノーツに記述済みであるが、それだけでは全容を捉えているとは言い難い。 予告編を彩るモーニング娘。OGメンバーを始めとするハロプロメンバーの描かれ方についても触れておかなくては不十分というものだろう。
リゾスレに綺羅星の如く集った作家陣の生み出した作品群にも当然の如く娘。OGメンバーは登場するが、その多くはダークネスサイドに堕ちた能力者として描かれることが多い。
ダークネスに抗う人間を処刑していく粛清人Rこと石川梨華。 氷雪系の魔法で生ける者の息吹を凍らせる氷の魔女ミティこと藤本美貴はその代表的な存在だろう。
しかしかなしみ戦隊においては、娘。OGメンバーがダークネスとして設定付けされないケースが往々に存在する。作者によってはダークネスのボスとして描かれることもある中澤裕子が、かなしみ戦隊シリーズにおいては秘湯『凡奇湯』を管理する温泉旅館の女将として登場してきたり、未来を視る予知能力者として印象的な場面を数多く残している飯田圭織が、芸能プロダクションのマネージャーとして登場してくるのは、最も顕著な例だろう。
では、モーニング娘。のマザーシップとして創生期から娘。の前面で活躍を続け、新垣里沙が大好きなモーニング娘。を体現する存在である安倍なつみはリゾスレにおいてどんな描かれ方をしてきたのかそしてかなしみの人はどう料理したのか。

安倍なつみの生死や所属については、他のメンバー同様かなりのブレがあり、全てを列挙することは到底不可能であるが、新垣里沙の裏切りを防ぐ為の足枷としてダークネスに拘束されているケース。 かつてダークネスをあと一歩のところまで追いつめながらも、力及ばず敗れ去ったリゾナンターの元リーダー。 自分の意思で闇に身を置きながらもリゾナンター、特に愛弟子的存在である新垣里沙に心を寄せている存在、等が数リゾスレにおいて多見する設定である。
そんな安倍なつみがかなしみ戦隊シリーズに初登場を果したのは、かなしみ戦隊リゾナンターRの、「あこがれMy Boy」だった。
握手会終わりにバックステージで行われる個別の握手会に参戦する為に、“エグゼパス”を入手するほど里沙にとって憧れの存在だった安倍なつみは「ファインエモーション!」で別の顔を見せる。 喫茶リゾナントで開かれたサプライズパーティの賑わいをよそに、店外でその模様をダークネスに報告する安倍なつみの姿は、かつての新垣里沙にオーバーラップするものだった。
別々の道を歩む新垣里沙と安倍なつみは「サヨナラのかわりに」で邂逅を果たす。 最終決戦でダークネスを打ち破り崩壊する要塞ゼティマからの脱出を急ぐリゾナンター。 その中で一人新垣里沙だけは別行動を取る。 自分たちから遠ざかり崩壊する要塞と運命を共にしようとするあの人を救うために。 
リゾナンターをスパイしていたこと、そしてダークネスのエネルギー無しでは生きてゆけない自分はダークネスと運命を共にすると告げるなつみに、自分の溢れる感情をぶつける里沙の姿はかなしみ戦隊リゾナンターRの中でも屈指の名場面だった。
虫人化能力で体のサイズを縮小化したヤグチをペットとして携行することで、安倍の生命を維持できると考えた里沙の機転でなつみは普通の人間として生き続けてきた。 その間にはなつみがハンドルを握る車に同乗したばかりに、自分の中の安倍なつみを失いかけたりもした(「愛車 ローンで」)里沙だったが、かなしみ戦隊リゾナンターミラクルズで出会ったDr.マルシェの尽力によって、安倍はヤグチの存在無しでも生きていける身体に戻った。
そんな二人の物語の集大成的な作品が『なんちゃって恋愛』である。
たまたま訪れていたショッピングモールでメロンシリーズの襲撃を受け、エレベーター内に閉じこめられた里沙となつみ。
緊迫する空気を和ませようと腕時計を通信機に見立ててふざけだすなつみ。 最初はお座なりの対応をしていた里沙だったが、時間が経つうちに二人遊びに打ち興じていって…。
その日の終わりに、里沙にメールを送信しようとしていたまさにその時に、当の里沙からのメールを受信したなつみ。 
不思議な縁を感じながら、その日にあったこと、そしてこれまでに里沙がしてくれたことへの感謝の気持ちが込められたメールで幕を閉じる『なんちゃって恋愛』の予告編を本編化したのはRとRの人だった。
かなしみの人の1レスの予告編では書き得なかった、里沙の内面を残酷極まりないほどの精密な筆致で描き切ったRとRの人。 
『AとA(2)』の衝撃的な結末で、一線を越えてしまったRとRの人が、それとは違った意味で新たに一線を越えた『なんちゃって恋愛』(RとRの人ver)は、新垣里沙に焦点を当て、その魂の強さを描き続けてきた同氏にしか許されない笑撃的な内容である。 
っていうか……

真面目に書けるか!!

新垣里沙の関わったユニットの楽曲名や安倍なつみの楽曲の歌詞、小春ブログの記事。 他作家の作品とリンクするオリジナルキャラの登場など、随所に遊び心が光る『なんちゃって恋愛』(RとRの人ver)は、悪ふざけも、真剣を極めることによって傑作に昇華するという貴重な一例であろう。 
ショッピングモールを襲撃してきた敵の設定は、かなしみの人の予告編とは異なっていることは付記しておくが、そんなことはさしたる問題ではないだろう。






最終更新:2010年08月07日 12:26