海と家族とお姉ちゃん


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『あんたたち、頼む!洗剤買って来て!』

夏祭りの打ち合わせだとかで暇のない愛ちゃんに頼まれて、さゆみと愛佳は駅前の百貨店に来ている。
なんでも、今日は愛ちゃん御用達の洗剤の特売日だったらしくて。
「お一人様二点限り」の文句に釣られ、愛ちゃんはさゆみたち二人をおつかいに出した。

『おつりで好きなもん買っていいから!』

なんて言われてもねえ。
さて問題です。
もらった1000円から特売の洗剤4つの値段を引いて、残りの微々たるおつりで何を買えと?



「“ヨゴレオチール”か。こんな安易な名前の洗剤がお気に入りなんだね、愛ちゃんは」
「でも、愛ちゃんらしいやないですか。愛佳も今使てんのが切れたらこれにしてみよーっと」

無事に洗剤を確保したさゆみたちは、エスカレーターに乗って下の階を目指す。
あとはこれから洗剤持って帰るだけ。
だけど、年頃の女の子二人が百貨店で洗剤だけ買って帰る、なんてあるわけないよね。
自然と、さゆみたちの足は特設の水着売り場の前で止まった。

「わぁ~。みてみて水着だよ。もう夏なんだねー」
「ホンマですねー。・・・うわ、すっご!布少なすぎちゃうのこれ!」

愛佳がみてるのは、マネキンが着てるセクシー系の黒ビキニ。布面積が少なくて、いろいろとキワドイ。
      • でもさあ、これはその、体のとある一部分のお肉に恵まれたマネキンが着てるからそう感じるだけであって、
たぶんさゆみとかれいなが着たら普通の水着なんじゃないかなあって・・・・・・
うん。思うけど言わないでおこう。
だって自分で自分を追いつめたってしょーがないもんね♪        ハァ・・・

「あははっ!道重さーん、こんなんもありますよー?」

いつの間にか売り場の中に入っていた愛佳は、ハンガーにかけられたうちの一着を取り出してみせてくれた。
えーと、どれど・・・・・・れ!?

「なにそれ!そんな水着買う人いるの!?」

形は普通のビキニなんだけど、柄。とにかく柄がやばい。
ビキニの上半分に少女漫画チックなキラキラした目が描かれていて、下半分が唇にみえるデザイン。
もし誰かがこれを着たら、確実にお父さんの宴会芸みたいなことになると思う。
もう布面積がどうとか、そういう次元の問題じゃない。

「こんなん出オチにしかならへんわ!・・・あっ、でもリンリンやったら喜んで着そうやないですか?」
「ありそうでイヤだよそれ!もしそんなことになったら、半径50メートルはリンリンから離れて歩こうね!」
「いや、そうなる前に止めてあげましょうよ」

至極真っ当な愛佳のツッコミはおいといて、試しにこの水着を前にしたリンリンのリアクションを想像してみる。
 ・・・ダメだ。どうしても満面の笑みを浮かべてるところしか想像つかない。
このあいだなんて、常人のセンスじゃ思いもつかない愉快なギター型バッグ提げてノリノリンリンだったし。


でも、そっかぁ。水着かぁ・・・

「そういえばさー」
「なんです?」
「みんなの水着姿、みたことないよね」

途端に。
さゆみの横から、ズザッと波の引くような音がした。
あれ、なんか誤解された?
明らかにドン引きしてるよね、愛佳さん。

「違うの違うの。そういう変態的な意味で言ってるんじゃなくて」
「そうとしか聞こえませんでしたけど」
「ちーがーうー!みんなで海とかプールとか行ったことないよねって話!」

まったく、失礼しちゃう。
さゆみは純粋に夏の思い出的な意味で話をふっただけだっていうのに。
そ、そりゃ・・・可愛い女の子たちの水着姿で癒されたいって気持ちもないわけじゃないけど。

「ええなぁ、海かー・・・みんなで行ったら楽しいやろなー」
「でしょ!行こうよ海!ダメならプールでもいいけど!」
「いや絶対海がいいですって!泊りがけで海行くの、愛佳の夢やったんですよ!?」
「泊りがけ?そここだわっちゃうんだ?」
「当ったり前やないですか!日帰りやったら花火できんもん!」

意外なところで発揮される愛佳のこだわりプラン。
どうやら、海に関しては並々ならぬ想いがありそうだ。

あーあ。こういうところがいじらしくて可愛いんだよね、この子。
普段からいろんなこと考えてるくせに、きっかけが来るまではその考えを口に出せないところ。
海に行きたかったなら、もっと早く言ってみればよかったのに。

「泊りがけで海☆」のパターンに、「家族と一緒パターン」と「友達同士パターン」の二つが
あるとするなら、リゾナントのみんなで海に行くっていうのはなんだかお得な感じがする。
だって、家族でもあり友達でもあるみんなとなら、家族同士としての楽しみ方も
友達同士としての楽しみ方も、両方味わえちゃうわけだから。

「一粒で二度おいしいってやつかな。みんなで海に行くとしたら」
「なんですの、それ」
「うーん、説明するの面倒だなー。ようするにみんなは家族兼友達だよね、ってことが言いたいんだけど・・・」
「え~、友達はともかく家族はないですよ~!ジュンジュンとか絶対威張り散らしてきそうやしー」

あぁ、なるほど。ああみえてジュンジュンって年齢上から二番目だもんね。
 ・・・って、そういうことが言いたいんじゃなくて!
さゆみが言いたいのはメリットというか、もっといい部分のことなのに!
えっと、例えば・・・・・・

「なんだったら、友達にさゆみのことお姉ちゃんとして紹介してくれていいよ。
 きっと愛佳の友達うらやましがると思うな~。『わー可愛いお姉さん!愛佳うらやまし~』って」
「すいませんごめんなさい間に合ってます。愛佳には道重さんより大人っぽいホンマのお姉ちゃんおるんで」
「ひっどーい!そんなこと言うなら、さゆみだって妹はもっと幼女のほうが嬉しいよ!
 小さい頃から教育してさゆみのこと大好きにさせるんだもん!」
「うわっ、やっぱ変態やこの人!」


売り場の店員さんからの冷ややかな視線を感じつつ、それからもさゆみたちは口ゲンカもどきを続けた。
結局口ゲンカに勝つことはできなかったけど、なんだか本当の姉妹ゲンカをしてるみたいで楽しかったよ。
 ・・・なんて言ったら、またしても愛佳にイヤがられちゃいそうだから、言わないでおこう。

「もう梅雨も終わりですねー」

雨上がりの道を歩きながら、愛佳が言った。
空の向こうには夕焼けが見える。

「梅雨が明けたら、夏が来るね」

今年の夏はどんな夏になるんだろう。
海に行きたいバーベキューしたい花火もやりたい・・・あ、だけどその前に、夏祭りが控えてる。
「今年の祭りはリゾナントの出店を作るんやてー」って、愛ちゃんがはりきってたなぁ。
そういえば、その打ち合わせがあるから愛ちゃんは洗剤買いに来れなかったんだっけ。忘れてたけど。

おっと。
忘れてたといえば、洗剤のおつり。
どうしよう、何か買ってたほうがいいよね?

「・・・しょーがない。アイスでも買っていこうか、みんなに」
「アイス?え、でもおつりじゃ全員分は足りませんよ?」
「いいよ。足りない分はさゆみが出すから」
「えぇーっ!?道重さんの自腹ぁ!?」

何もそこまでお腹の底から驚いた声出さなくてもいいと思う。
どんだけケチなの?愛佳の中のさゆみって。


たまにはいいじゃん、こういう日があったって。
だって、夏が来るまでに生意気な“妹”にアピールしておかないといけないでしょ?

“家族”に囲まれる楽しさと、さゆみという“お姉ちゃん”がいることの素晴らしさを、ね。