『稲妻Girl』


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飛来する鉄塊を華麗にかわし…たつもりやったけどちょっとかすってもうた。
痛みはないけど、抑え続けていた恐怖の感情が蘇ってくる。

「光井愛佳、見事なものだな。 私の攻撃をここまで回避するとは」
「おおきに、って褒めて貰うようなことやないし。  ええ年こいた大人がそんなヨーヨーで遊ばんとき」
「並の人間ならすでに心が折れてるだろう。  私には見えるお前の精神の黄金の輝きが」

もしも泣いて許しを乞うて助けてくれるんやったら、喜んでそうしたいけど、どう転んでもそんな風に事が運びそうにはない。

「だが、お前の肉体は精神に比してあまりにも脆弱だ。  膝が悲鳴を上げているだろう、筋肉は意志に逆らい止まりたがってるだろう」
「うちはまだティーンエイジャーやねんから、まだまだ平気や。 オバサンと違って」

精一杯の強がりを口にしても、私を襲ってきた女は表情一つ変えやしない。

「そろそろ。終わりにしよう。 今から30秒後の未来を視るがいい。 それが終わるまで私からは仕掛けない」

妙に余裕かまして、ホンマにむかつくオバハンやで。
言われたとおりにするのは何かしゃくやけど、どっちにせよ今の私に出来ることは限られてる。
向こうの攻撃をかわし続けて、リゾナンターの仲間が来るのを待ち続けること。
そのために30秒後の未来を視てみる、そこに視えたもの、それは…

「どうした震えているぞ。  心臓を私の操る暗器に貫かれて息絶えた自分自身が見えただろう。
そうだ私はお前に対してまだ実力の半分も出してはいない。  お前は今まで自分の力だけで私の攻撃を避けられたと思っていたか。 
私にいたぶられたお前が"声”を上げて仲間を呼び寄せるのを待っていたのだが、どうやらお前の仲間も既に交戦中のようだな。
さっさとお前の処分を済ませて、私を満足させてくれる敵を見つけに行くとしよう」

女は鋼のヨーヨーを私に向かって投げてきた。
意地でも目を逸らすまいと思ったけど、恐怖のあまり閉じてしまう。
次の瞬間強い衝撃を感じて吹き飛ばされてしまった。
小説で人は人生の終わりに、これまで起きたことが走馬燈のように駆けめぐるって書いてるのを読んだことがある。
その時は走馬燈って何のことやろって思とったけど、今その意味がわかったわ。

駅のホームで線路に吸い寄せらそうになったところを高橋さんに声をかけてもらってから始まった日々のこと。
リゾナンターに仲間入りしてから出来た沢山の仲間との思い出がグルグルぐるぐる駆けめぐって。
でも、一番はっきりと思い浮かぶのはあの時のこと。
…そう、久住さんがリゾナントを出て行った日のこと。

* *



「何でなんですか。 何で小春がリゾナンターを辞めなければいけないんですか」

「念写と電撃。 二つのチカラを発動させてきた影響が小春の視力に悪影響を及ぼしてきてる。 それは自分でもわかってるやろ」

「いやだなあ、今日はちょっと疲れてて調子が狂ってただけです。 一晩ぐっすり眠ったら、元通りになりますって」

「悪いけど小春の家のことを少し調べさせて貰ったよ。  小春の家では何代かに一人霊能力を持った女性が生まれてきたらしいね。
でもその人達は皆目に問題を抱えてたって。 小春のお祖母さんもそうだったらしいね」

「新垣さん、私はオバケなんて見えませんって」

「とにかく今のあんたはリゾナンターとして戦う事は出来ない状態だよね。」

「ごめんなさい。 目の調子がおかしたったのをだまっていて。 自分でも不安だったんです。 でも必ずきっときっと治しますから」

「迷惑やけん。」

「田中さん」

「戦えない人間が仲間におったら足手まといやけん」

「ソウダナ。 戦えない久住サンを抱えていては敵と戦う時に大きな戦力ダウンダナ」

「だったら、目が良くなるまでリゾナントでお留守番をしてるから、だから」

「それも危険かも」

「亀井さん」

「私もそう思う。 リゾナントだって安全な場所とは言い切れない。
 もしも私たちが出撃して、小春ちゃんが一人っきりの所を攻めてこられたらと思うと」

「何で、皆意地悪なことばっかり言うの。 ねえ、愛佳、何とか言ってよ」

「久住さん」

「愛佳なら私の気持ちわかってくれるよね」
「久住さん。 いい加減にしてください。 皆さんが困ってるでしょう」
「愛佳…」
「戦えないあなたが私たちと一緒に行動することは危険なんです。あなた自身にとっても、私たちにとっても。
 もう、ここはあなたの居場所じゃ無いんです。 これからは目の治療を受けながらアイドル月島きらりとして頑張って下さい。 それがあなたの…」

久住さんが私の頬を打ち、泣きながらリゾナントを飛び出していった。
重苦しい時間が過ぎ、口を開いたのは高橋さんだった。

「ごめんな。 愛佳辛い思いさせて。」 高橋さんの目は涙で濡れていた。

「小春の為には仕方なかったっちゃ」 田中さんも泣いていた。
二人だけじゃなく、リゾナントに残った8人の目には一様に涙が光っていた。

リゾナンターとして皆のためにそのチカラを奮ってきた影響で、視力が著しく低下した久住さん。
失明という最悪の事態を免れる為に、リゾナンターを離脱させるにはああいうやり方しかなかった。

「治療に専念しろって言って大人しくしてるような子だったらねえ」
「私たちと一緒にイレば、久住サンは必ず力を使ッテしまうでしょう、ダッテ」
「ここは、リゾナントは小春ちゃんにとって大切な場所だから」
「だから小春がリゾナントや私たちのことを嫌いになってくれるためにはこうするしかなかった、けど」
「心がイタミマス」


* *



あの時から私の心の半分くらいは死んでしまっていた気がする。
久住さんの存在は自分にとってどれだけ大きかったのだろう。
…でも、今は不思議と清々しい気分だ。
私は一人で死に直面していて、私の傍に久住さんはいない。
だからこそ久住さんを感じられる。
久住さんに明るい朝が訪れますように。
久住さんに暖かな風が吹きますように。
久住さんに優しい雨が恵みをもたらしますように。

おかしいな、吹き飛ばされたっきりでそんなに激しい痛みは無いねんけど。
即死やったんかな、それにしては節々は痛んでるねんけど。
恐る恐る目を開けてみると、そこには有り得ないはずの光景が広がっていた。

…久住さん!!

メタリックカラーのハーフコートを身につけて、サングラスをかけた久住さんが私を襲ってきた女と向かい合っている。
久住さんの全身から、無数のオーラ、違う放電のスパークが立ち昇っている。

「ちょっと、オバサン。 私の愛佳に何してくれてんの」
「久住小春。 戦闘能力を喪失したお前はそのことが原因で仲間と行き違い、リゾナンターを離脱したはずだったが」
「ふん。 ずっと一緒にいたら仲間なの。 喧嘩別れしたら仲間じゃなくなるの。
あんたの考えてる仲間って物凄く薄っぺらいよね。
いい、オバサン。 本当の仲間っていうのは、たとえ離れていたって同じ空を見上げ、同じ星を見つめてる、繋がってるの。
その絆は何があったって、一生変わらない。 誰も離すことなんて出来ないの。 今度は私が相手よ。 かかってらっしゃい」

あかん、久住さん。
リゾナントを離れていた間、チカラを使わなかったことで、あなたの目は良くなったように思ってるのかもしれません。
でも、あなたの目は3,4ヶ月のブランクで完治するようなものじゃないんです。
こんな強い相手と戦う為に、チカラを使えば…。

身体の痛みも忘れて起き上がった私は、全力で久住さんに駆け寄った。
女に攻撃されるかもしれないけど、そんなことは構わない。

「久住さん、いけません。 もしチカラを使えば、、今度こそあなたの目は…」

女から遮るように久住さんにしがみついたら、その衝撃で久住さんがかけていたサングラスが落ちてしまった。
私は声にならない悲鳴を上げた。
久住さんの瞳から半ば光が失われていた。

「久住さん、何故」
「あいつのヨーヨーを雷で弾いたら、急に暗くなっちゃった」
「何でなんですか。 何でこんなことを」
「同じなんだよ」
「何が同じなんですか」
「私の目が光を失うのも、愛佳を失うのも私にとっては同じことなんだよ。
いや、目だけじゃない。 私の体の一部を失うのも、リゾナントのみんなを失うのも私にとっては同じぐらい辛いことなんだよ」
だったら、私はこの目が見えなくなる方を選…」

気がついたら私は久住さんの頬を打っていた。

「違う、あなたの存在はかけがえのない存在で、だからあなたは、 嬉しくない、そんなことをして守ってもらったって私は嬉しくない」
「愛佳。 言ってることがしっちゃかめっちゃかでワケ判んないんだけど」
「久住さん」
「頬をぶったね。 これでおあいこだよ。」
「すんません、つい」
「オバサンをこれ以上待たせちゃ悪いよ。 さっさとやっつけちゃってみんなの所に行こう」

そうや、久住さんに気を取られ過ぎて、女の存在を意識の外に追いやってた。
あの女の攻撃を今の久住さんが喰らったら。
久住さんの盾になりながら女の方を見たら、女はヨーヨーを持った手を自分の顔の横に構えながら静止していた。

「オバサンはやめろ。 私は粛清人A」
「オバサン、何モタモタしてたのよ。 せっかくのチャンスだったのに」
「崇高な戦士の魂に敬意を払ったまでだ。 そして最大限の敬意をもってお前たちを粛清する」
「お生憎さまだけど、私たちは崇高な戦士なんてカッコいいもんじゃない。 これから二人がかりであんたのことをボコボコにしてやるつもりなんだけど」
「私にはお前たちが一つに見える。 何の問題も無い」

(愛佳、行くよ)
久住さんの声が心に伝わってきた。
今はもう迷ったって仕方ない。
目の前の敵を倒して、みんなのところに行こう。
そして久住さんのことはそれからみんなで話し合えばいい。
今、久住さんの目が見えないなら、私が久住さんの目になればいい、それだけのことだ。
私は久住さんの手を握った。
一瞬感電したような衝撃が伝わってきた。
久住さんは驚いたようだったけど、構わない。
私の目に見えるもの、私の心で視えたもの。
それを全部正確に伝えるには、この方が伝わりやすいでしょう。
二人の心が重なった。

「稲妻Girl 行きまーす!!」

私たちは一つだ。