「Vanish!(8) 独占 ―はぶられいなと消失点― 第2部」


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「マルシェ!」
「やっほ~れいな、元気ぃ?」
いつからそこにいたのだろうか、マルシェは窓枠に寄り掛かって二人を見ていた

「れいな、この装置覚えてる?『グラビティ・カーテン』。前に一度使ったんだよね~」
マルシェは左手に装着した機械を月の光で見えるように掲げてれいなに見せびらかした
「一度病院の屋上で使ったあの装置をですね、小型化してみました。今度は個人の動きを制限できるように改造しました」
「そんな解説はいらんと!何しに来たと!」

マルシェは白衣のポケットから手袋を取り出しはめながら、倒れたままの二人へと近づいてきた
「そんな恰好で強がりいうんですか?まったく、あなたは全然成長しないですね」
「な、何を言うと!!もしかして愛ちゃん達の記憶を奪っ…」
そこまで言いかけたところで向かい合わせの状態で倒れている雅が声を震わせ会話に割って入ってきた。
「た、田中さんこの人とどういう関係なんですか?」

れいなは雅も倒れている、そのことを思い出したかのようにマルシェに向かって大声で叫んだ
「マルシェ、この子には触るな!ミヤはれいなと無関係っちゃ!」
「た、田中さん?」
「・・・大丈夫、あいつの目的はれいなやけん。それになんかあったられいなが守るとよ」
小さく雅にだけ聞こえるようにれいなは優しく声をかけた

「ふぅん、れいなも大人になったんだね。『リゾナンター』風に言えば『守るものが出来た』みたいな感じですかね
 大丈夫ですよ、その子にはさわりませんから。約束してあげますよ、今は」
そういいながらマルシェはれいなの横にまで来て、しゃがみ込んだ
左手に着けている装置のボタンをパチパチをいじりながらマルシェは更に話し続ける
「その代わり、交渉を求めます。今から、この重力装置を解除します
 でも、5秒間だけは絶対に動かない。そして、その後、この手袋を両手につけてください」
マルシェは黒革の手袋をれいなに見えるようにし、じっと眼を見つめた

「わ、わかったと。解除しても動かんし、その手袋も付ける。だから雅には手をださないでほしいと!」
「た、田中さん」
「れいなは大丈夫やって、泣きそうな顔をするとれいなまで泣きそうになるっちゃ。やめると」

れいながマルシェの方を向き直ったのを確認してマルシェは「いくよ」と解除をする合図を送った
装置の点滅していたライトの色が赤から青になるとれいなを縛っていた力が消え、不思議と軽く感じた
れいなが「1,2・・・」とカウントダウンを開始すると、マルシェはそんなれいなの体を軽々と担ぎあげた
「な、マルシェ、こんなに力があったと?」
「そんなわけない、でしょう!」

マルシェがそういいながられいなを思いっきり遠くへと両手で放り投げた
ふわふわとゆっくりと紙風船のような動きでれいなは飛んでいき、すとんと音を立てることなく着地した。

マルシェは目を丸くして驚いているれいなに近づいていった。
「この装置のおかげです。覚えていないんですね…それじゃ、れいな、約束通りにこの手袋付けてね」
マルシェはれいなに先ほど見せた手袋を渡した。
「マルシェ確認するとよ。手袋を付ければいいとね。そうすればミヤに触らんとね」
「はい、その約束は守ります」

頬笑みを浮かべているマルシェを睨みながられいなが尋ねる
「・・・この手袋にも仕掛けがあるんやろ」
「おや?どうしてそう思うんですか?」
「お前が渡すもんだからっちゃ・・・でも、ミヤのためなら仕方ないと」
「そうそう、それでいいんですよ」

れいなはしぶしぶ手袋をはめ、マルシェに見えるように手を上げた
「これでいいと?」
「はい、OKです。れいな、聞き分けあるいい子になりましたね」
「マルシェ、しっかり確認してほしいと。もっと近づいてほしいっちゃ。
 ・・・ほら、これでどうかいな!!」
最後の言葉を告げると同時にれいなは蹴りをはらった

マルシェの腹に見事に当たり、たまらずマルシェは二、三歩ほどふらめいた
その隙をついてれいなはマルシェを後ろから羽交い締めをかけ、身動きとれないようにした
「形勢逆転っちゃね。さあ、ミヤを自由にすると」

「イタタ・・・ちょっと、れいな。締める力が強すぎますよ」
「これくらい締めないとオマエがなにするかわからんっちゃろ!ちょうどれいなもお前らに用があるとよ」
れいなが近距離で大声で叫んでいるため、耳鳴りを感じながらマルシェはれいなの方を振り返った
「・・・れいな、ちょっと勘違いしていないかな?」
「何を言うとると!お前が愛ちゃん達の記憶を消したっちゃろ!」

そこでれいなは奇妙なことに気がついた
「あ、あれ、マルシェ、その手袋、れーなにつけさせたのと同じ?」
れいなの視線の先には振りほどこうともせずじっとしているマルシェの両手にはめられた黒い革手袋
「なんでマルシェお前もその手袋をつけていると!わかったっちゃ、この手袋をつけると能力がマルシェに移る!!」
「そんなわけないでしょ。そんなことできたら、もっと前に奪いに来てるから」
身動きとれないように押さえられながらマルシェは首だけをれいなの方に向けてため息をつきながら言った
「これはね、ちょっとした機能が付いただけの普通の革手袋だよ」

「そんなことよりも、マルシェ、辛いやろ?離して欲しければミヤを解放すると!」」
「…手袋をつけているんだったら考えてあげるよ。大丈夫れいなの体に悪影響は与えないから
 本当にそれはただ私かられいなへのプレゼントと思ってもらっても構わないくらいのものだから」
「・・・じゃあ、ありがたくもらうと。意外とこのデザイン嫌いじゃないと」
「やっぱりれいなに気にいられると思ったんだよね。そのデザインならね」
余裕の笑みを浮かべマルシェが言う

「田中さん、早くその人から離れてください!危険な人なんでしょ。ミヤのことはほっといていいですから」
「そんなわけにいかんと!ミヤを先に逃がしてから今日こそ決着をつけると!」
れいなはゆっくりと押さえていたマルシェを自由にし、マルシェは装置を動かし雅を解放した

「はい、解除しましたよ。さて、今日はれいな、あなたに用はないのでそこをどいてください」
しかしれいなは動かない。なぜなら…
「待つっちゃ、マルシェ。まださっきの答えを聞いていないっっちゃ」
「なんでしたっけ?」
「だからお前らダークネスが愛ちゃん達の記憶を消したことっちゃ!知らないとはいわせないとよ!」

マルシェは頭をかきながら言おうか言うまいかと、一旦逡巡した後にゆっくりと言った
「ふぅ。そのことで今日、私はここに来たんだよね」
「だったらすぐにみんなの記憶を戻すと!マルシェ、オマエ一人なられいなだけで十分相手になるとよ!」

「だ、か、ら、今日はれいなに用がないんだってば」
「はぁ?何いうとると?意味わからんとよ」

「・・・数日前、ダークネスの小部隊があなた達によって活動を妨害されました」
「妨害ってそんな言い方するな!れいなたちは正義のために!」
「そして、その同じ場所で私の上司に当たる幹部が記憶を失いました」
「は?何言いだしていると?」
「その人はうちのボスから仕事を請け負っていました。ある人物について調査せよという」
「それをれいなに言ってどうすると?」

「私はその記憶を消された上司に愚痴をこぼされました
 『なんで、幹部ともあろうおいらがこんな仕事しないといけないのか』と」
「で、今度はそれをれいなに愚痴ろうとしに来たと?」
れいなが茶々をいれると、マルシェが珍しく睨み返した
「違います。その調査せよと指示された人物の名前は『夏焼雅』」

「・・・は?なんでお前らダークネスがミヤのことを調べたと?」
「あの子さ、れいなの弟子なんだよね?あくまでも自称だけど」
「弟子じゃないと!昔の仲間っちゃ!」
弟子という上下関係で繋がれた仲間でないことを強調するように声を荒げるれいな

「しかし、これでわかったと!ダークネス、お前らがミヤのことを狙っていることを!ミヤ!!」
れいなは振り向いて雅に声をかけた
「は、はい!」
「れいなのそばから離れるんじゃないとよ!ミヤはれいなが守ると!
…もうこれ以上誰も失いたくないと」
最後の言葉は自分自身に言い聞かせるようにか細い声で放たれた

「はあ、れいなやっぱり人の話を聞くのが苦手なのは昔から変わっていないね。大事なことを聞き逃しています」
「な、大事なことやと。お前らがミヤを狙っていることやろ」
「違いますよ、私達ダークネスの目的は『能力者のための世界を作ること』ですよ
 れいなの仲間の記憶を消したのもその子だと思えませんか?」

「そんなわけないっちゃろ。ハハハ、笑えない冗談っちゃね~そうっちゃろミヤ」
「・・・」
「まあ、とにかく矢口さんの記憶を消したのはその子ですから、とりあえず連れて帰らせてもらいますね」
「せやからミヤはれいなが守ると!そんなバカみたいなこと起こすわけないっちゃろ
 こんなダークネスみたいな組織に戦いを挑むほどミヤはバカじゃないと」

「いいえ、私はバカですし、その人の言ったことは本当ですよ、田中さん」
雅はゆっくりと肌の出ているれいなの首を掴みながら言った

                バチッ  (リゾナンターに関する記憶を全て忘れろ!!)

静電気特有の乾いた音が響き、れいなの影から雅がマルシェに話し始めた

「マルシェさんでしたっけ?どうやって私のことを調べたのかわかりませんけど、お断りします
 あいにく私は田中さん仕込みの格闘術もありますし、強情さもありますから」
「やっとかぶっていた猫の皮がはがれたようですね。フフフ、ますます興味深いですね」
会話を交わす二人をれいなはキョトンとした目つきで眺めていた

「猫?豹のほうが好きだな。さて、ミヤに触るようなものなら田中さんみたいに記憶を失うよ
 おっとっと、都合の悪いことを言ってしまった・・・ま、いいや。あとで消せばいいんだから」
「ということはリゾナンターのみなさんの記憶を消したのもあなたでいいんですよね?」
「うん、わたしがやったんだよ。田中さんがつまらなさそうだったから」
先ほどまで浮かべていた恐怖の表情はどこへ行ったのやらマルシェにゆっくりと近づきながら雅はあっさりと認めた

「れいなと違って冷静なんですね、思った以上に。目的はなんですか?」
「目的?う~ん、田中さんの近くに私以外の人がいるのが許せなかったから消しただけ
 あ、それから昔みたいに自分のことだけを考えて生きている田中さんを取り戻したかっし」
あっけらかんと悪気を感じている様子もなく答える雅にマルシェはなおも問い続ける

「純粋な気持ちは時に悪になるんですね。じゃあ、矢口さんの記憶を消したのはなぜですか?」
「消した?それは正当防衛ですよ。そちらが勝手に喧嘩を吹っ掛けてきたんじゃないですか。私は守っただけ」
あっさりというよりもむしろだるいというのが適切な口調で雅は答え続ける

「それで、マルシェさん、そろそろ記憶消してもいいですよね?もちろん正当防衛ですよ」
「最後にもう一回だけ確認、あなたがリゾナンターの記憶を消した張本人なんですね」
「しつこいなあ、だからそうだといっているでしょ。私がしましたよ」

「・・・だそうですよ、れいな」「え?」
「・・・なんでや・・・なんでそんなことしたと!なんでミヤが勝手にれーなのことを幸せとか不幸せとか決めつけると!」
「う、うそ、なんで・・・」
「誰が自分一人で生きて行くのが格好いいって言ったと!バカ!!」
激昴するれいなは肩をふるわせ、雅をキッと睨んだ

「れいなはやっと自分以外の誰かのために本当に生きていけると信じられたとよ
 一生、この人たちと助け合いたい、支え合っていたい、そんなことを心から思えたと!」
「な、なんで記憶を失っていないんですか!?」
記憶が完全になくなっていると考えていたからこそ告白をした雅は目を見開いて驚いた

冷静な口調でマルシェがれいなの手袋を指さしながら淡々と解説を始めた
「だかられいなへの『プレゼント』っていったんですよ。小春対策に作った『抗電気手袋』
 電気を手袋に強制的に集めて空気中に放つ作用を持った自信作です。
矢口さんの記憶を消された事実があったので持ってきたんです。
記憶をつかさどるのは電気にほかなりませんからね、科学者をなめないでくださいよ
 …もちろん、私も付けていますから、あなたの力は全く効きませんよ」

マルシェの解説の間もれいなは雅に詰め寄っていく
「れいな、信じたくないと!記憶が失われたこともそうやけど、簡単に消されてしまう事実も!
 もうみんなと出会って2年近くもたっとると!それなのにミヤの能力なんかで消されるとかマジ信じられん!
 こんなに絆って脆いもんとか、れいな信じられんと!」
鬼神じみた表情で全身から怒りのオーラを出していくれいなの声が空気を震わせる

「信じられなくても、田中さんそれが現実なんですよ。
 私ほどの力に屈するほどのものなんですよ、所詮は。信じるとか脆いじゃないですか
 だからこそ、田中さんも私の前から去っていったんじゃないんですか?」
「…なにをいうと?絆が『脆い』やと?ふざけるな!」

「話は変わるっちゃけど、マルシェ、この手袋、助かったと。これは素直にもらってよかったとよ」
「いえいえ。れいながいなくなると私も困りますから」
マルシェはにらみ合うれいなと雅を観察するように一歩下がって見物している

かつての仲間であり友達、今では憎々しいだけの雅をれいなは純粋な敵意のこもった眼でみる
「後悔しとうよ・・・ミヤなんかにいろいろと教えたことを・・・こんなことなら、合わないままの方が良かったと」
「酷いですよ、田中さん、記憶消えていないんなら覚えていますよね、『あのこと』も。
 ただ、昔のようにミヤは田中さんに戻ってほしいだけですよ。あんなに生き生きしていた頃に」

「…ミヤ、正直、れいながミヤの前から一時期消えていたのは申し訳なく思ってるっちゃ
 でも、それをこんな形で返すなんて、何、考えていると!」
先ほどからたまっていたイライラがたまりかねたようにれいなは雅に襲いかかる
雅はそれを避けようともせずに、素直にただ首元をつかまれ、背中からそのまま壁に押し付けられる

「ミヤにもおるやろ大切な人が!それを奪われるとか人の気持ちがわからんと?」
自分よりも背の多少高い雅を睨んでも動じようとしない雅はクククと小さく声を漏らした
「ええ、大事な人がいますよ。そして、奪われたんですよ。わかってます?何を言っているのか?」
「…いっとくけん、れーなはミヤのことを捨てたわけやないし、愛ちゃん達がその原因じゃないと
 とにかく、ミヤ、一刻も早く愛ちゃん達の記憶を元に戻すと!
 はやくしないと、れーな初めて人を殺めなくてはならないかもしれん」

雅を抑えつけているれいなの腕が震え始め、言葉の語尾も強くなっていく
「ほら、雅ちゃん、れいなのこと知っているんだったら素直に戻した方がいいですよ」
「珍しいとね、マルシェがれーなと同じ立場にいるなんて」
「今は記憶を戻させることの方が先決ですからね、一時休戦ですよ」
「間違っていないっちゃね」

立場として2対1になったにもかかわらず雅の表情は変わらず、れいなの怒りを助長させる
むしろ、その笑みが奇妙に感じられ余裕とも受け取ることができた
「ミヤ、一体何が面白いと!」
「いやぁ、田中さんも変わったんだなあって改めて感じたんですよ。残念ですよ」

                バチンッ
乾いた音が響き、雅が自身のほほを押さえた
「今のは警告っちゃ。これ以上、こんなふざけたことを続けるようなら、次からは容赦しないと」
れいなの平手打ちを受けた雅の視線の先にあるのは、いつでも出すことができる体勢に保っているれいなの右手

雅はその顔に浮かんでいた笑い顔を消し、残念そうな表情を貼りつけた
「・・・これならいいですかね、田中さん」
「さっきよりはマシやね。さあ、痛いのはいややろ?早く記憶を戻すと!」

ふっと横を向いてぽつりと聞き取れるか怪しいくらいの大きさで雅は言った
                「無理ですよ」

静かなその発言が部屋に静寂を数瞬生んだ
「な、何を言うとると?戻せるっちゃろ!」
「無理ですよ、私の力の名前は『消失点-Vanishing point-』、ただ『消す』だけです」

「嘘や!嘘や!ミヤ、まだれいなを許せんからってそうやって嘘を言うとるんやろ!」
襟元を掴む力が強くなりすぎて、雅も思わず「クッ」と苦しそうな息を上げた
「こんな状況で嘘を言うと思いますか?大好きな田中さんにむかって言うと思いますか?」
れいなを見上げるその大きな瞳には曇りはなく、憧れと冷たさに満ちていた
「まだわからないんですか、田中さん?なんでミヤがここに来たのか
 私は田中さんを助けに来たんですよ。田中さんがこれ以上苦しまないようにと思って
 そうですよ、記憶を消してしまえば田中さんはかなしむ必要はなくなるんですよ」

「私の力があれば…田中さんも私も悲しまずに済むんですよ。まあ、そちらの方がどう思うか知らないけどね」
マルシェの方を向いて雅がいう
「そちらの方って私のことですか?う~ん、まあ一人の方が捕らえやすくていいかもしれませんね」
「ほら、こちらの方もそうおっしゃてるので田中さん、手袋、はずしてください。なんならミヤがはずしましょうか?」
そう言って雅はゆっくりとれいなの手袋へと手を伸ばす
「触るな!」
そういいれいなは雅から手を離し、距離を取った
「ふざけるな!れいな、そんなことで苦しみから解かれるとか求めとらん!」

そんなれいなに今度はじりじりと雅から近づいていく
「そんなこと言わないで素直になった方が楽ですよ。何があるって言うんですか?
 記憶も絆も何もないあの人たちとの一方的な思い出。そんなもの持っているだけ無駄ですよ」

「田中さんの『仲間』はもう誰も覚えていないんですよ
 なんでしたっけ?お得意の『共鳴』とかいうものもできないんじゃないんですか?」
また少しニヤっと笑って雅は挑発する

また怒りの表情を浮かべそうになったれいなに近づきながらマルシェが優しい声で声をかける
「だから私がここに来たんですよ。共鳴できなくちゃ、れいなはただの気が強いだけのヤンキーですからね」
「マルシェ!何を言うとると?」
「だから、私がみんなの記憶を取り戻させてあげようと言っているんですよ」
腕組をしたままマルシェは静かに言った

「・・・敵とはいえ、さすがっちゃ。」
「おほめいただいて光栄ですね。じゃあ、この子を一旦、うちの施設に連れていって」
「それはダメと!!」
「田中さん、まだミヤのことを・・・」
「違う、ダークネスなんかにミヤを渡したら、記憶を戻した愛ちゃん達に申し訳ない
 自分のために誰かを差し出すなんてれーなにできん。自分の気持ちの問題とよ」

れいなは雅を許せないが、ダークネスには渡したくない
雅はダークネスに敵意を示していて、れいなの記憶を消したいがそれは手袋のためにできない
マルシェはれいなを守りたいため雅を連れていきたいが、そのれいなが許さない
誰も動けない、動かない、そんな三すくみの状況が続いていた

(どうすればいいと・・・れーな、愛ちゃん達ばかりでなくミヤも・・・)
れいなも自分の置かれた状況を考え始める余裕が出てきた


しかし・・・事態はほんのささいな出来事で急激に動き始める

(ジュンジュン!!久住サン!!危ない!)

れいなの頭の中で誰かの声が響いた

「・・・声がきこえる」
「は?何言っているんですか、田中さん、誰も田中さんを呼んでいませんよ!
 覚えていないんですから、呼ぶわけないじゃないですか」
強い口調で雅は大声でれいなを現実に戻そうと言い放つ

「もしかして・・・誰かの心が残っているのかもしれないっちゃ
 そうっちゃ、愛ちゃんたち、みんながれーなのことを完全に忘れるはずがないと!
 れーながみんなのおかげで強くなれたように、みんなもれーなを必要としてくれるはずと!」
目を欄欄と輝かせ、一気に生気を取り戻したような表情に戻るれいな

(場所はどこや?・・・ここからそう遠くないと)
“声”が発せられた場所は近くの廃工場密集地のようであった

「マルシェ!!一緒についてくると!」
「え?なんで、どうかしたんですか?れいな?」
一気に明るい表情になったれいなに驚きつつマルシェは窓へ向かって走っていくれいなを追って行った
「さっきの装置でれいなを軽くしてほしいと!ほら、行くよ!」
「ちょっと、れいな!待ちなさい!」

マルシェが止める間もなくそういいれいなは窓枠に足をかけた
そして、もはや雨が止み満点の月が輝く街へと続く窓から飛び降りようとうする

「ちょっと田中さん、待ってくださいよ
 じゃあ、もしあなたのいう仲間が覚えていなかったらどうするんですか?それでも助けるんですか?」

れいなは一瞬考え込んで
「別にいいっちゃ。れいなのことを覚えておらんでも、れいなはみんなを忘れないと
 みんながれいなを覚えていなくても、れいながみんなを覚えているならそれでいいっちゃ
 守りたいって思うことに意味なんて必要ないっちゃろ?」

「ミヤが自分のために生きろっていうなら、これも自分のために生きるってことやない?
 それに・・・ピンチの時に現れるなんて、れーな、ヒーローみたいで格好いいとよ」
れいなはそう言い残し笑顔で華麗に窓から飛び出して行った

あっけにとられている雅を取り残して、そんなれいなを追って窓からマルシェも飛び出す

その出て行く瞬間にマルシェは雅に声をかけた
「興味があれば、あなたも来てみたらどうですか?お任せしますが。
 ついでにあなたの体も軽くしておきましたので」

暫く考え雅はため息をついた後、窓に向かって駆けて行った
「しかたないですね。その共鳴というものがどれだけくだらないものなのかみてあげますよ
 ね、田中さん」
ニヤっと笑った笑顔は月夜に照らされて、何よりも冷酷に映えていた

そんな雅の視線の先には羽根でもあるように跳んでいくれいなの姿でった

(田中サン、早く来て!!)
その声が今のれいなの体を動かしていた