お茶とみかんと煎餅と


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「あれ?小春?」

水溜りだらけになった住宅地の中を歩いていたら、聞き覚えのある声が小春の名前を呼んだ。
声のしたほうを振り向くと、そこに立っていたのは亀井さん。
亀井さんは、お財布やケータイくらいしか入らなさそうな小さなバッグを持っている。
その姿に、小春は違和感を覚えた。

「久しぶり~!偶然だねこんなとこで会うなんて。小春もリゾナント行くとこ?一緒に行こーよ」
「あ、いや、小春は・・・・・・つーか亀井さん、なんで傘持ってないんですか。
 今日めっちゃ雨降ってたじゃないすか」

亀井さんは傘を持ってない。
梅雨真っ盛りな今日この頃。傘を持って出歩かない日のほうが少ないくらいだ。
実際、今日も朝から雨が降ったり止んだりの「ザ・梅雨!」って感じの天気だった。
今は止んでるとはいえ、こんな「ぐずついたそらもよう」の日に傘を持たずに
外に出る人がいるってことが、小春には信じられない。

「や、絵里が家を出た時は降ってなかったんだよ。そういう時って、
 『おっ、もしかして今日はツイてる?』って気になるじゃん」
「え~?なりませんって。亀井さんが能天気過ぎるだけですって」
「なにおう~!」

怒ったように笑いながら、亀井さんが小春の腕をペシッと叩いた。
こういうじゃれ合いが、なんだか懐かしい。
最近小春は忙しくて、あんまりみんなに会えてなかったから。

「でもじゃあ、亀井さんさっきの雨どうしたんですか。土砂降りでしたよ、さっき」
「うん。だから雨宿りしてた。あそこの公園で」

亀井さんは、向こうのほうを指差した。
その先にはちょっとした広さの公園がある。
確かにあそこなら雨宿りするスペースもありそうだ。

「もうほらっ!立ち話もなんだから、歩きながら話そう!どうせ行く場所は同じなんでしょ!?」
「わっ!ちょ、押さないで下さいよ!小春まだ『行く』なんて言ってないじゃないですか!」
「え?そうなの?」

そう。
今日は、次の撮影まで時間が空いちゃって適当にブラブラしてたらいつの間にか
いつもの道を歩いててそしたらなぜか傘を持ってない亀井さんに会っちゃっただけなんだ。
別にみんなに用があってこの道を歩いてたわけじゃない。

だから今日は、みんなに会っちゃいけないと思う。
今日の小春がみんなに会うのは、なんかダメな気がするんだ。


小春が黙りこくってる間、亀井さんは何も言わなかった。
何も言わずに、ただ小春の顔だけを見てた。
無言の続く二人。

沈黙を破ったのは、亀井さんだった。

「・・・わかった。じゃあさ、お店行かないかわりに、絵里とお茶しない?
 せっかく久しぶりに会えたんだからさ、少しおしゃべりしよーよ」

にっこりと。
笑っていたのに、そう言った亀井さんの瞳はどこか真剣な色が見え隠れしてて。
気がついたら小春は、亀井さんの言葉にゆっくりとうなずいていた。



「はいどーぞ!絵里のおごりだよっ!」
「・・・おごりは嬉しいんですけどぉ~・・・・・・」

お茶しようって言ったのに、入ったのはさっき亀井さんが指差した公園。
そんで、「ちょっと待ってて」って言って戻ってきた亀井さんに差し出されたのが、ペットボトルのお茶。
あの、それってどう考えても自販機で買った百何十円のお茶ですよね。
しかもそれ緑茶ですよね。
“お茶”って言ったらフツー、紅茶やらコーヒーやらを飲むことを指すと思うんですけど。

「これが“お茶”っすかぁー?」
「お茶じゃん!どっからどう見てもお茶じゃん!これだって立派なティータイムだよ!」

ティータイム・・・・・・
小春の想像するティータイムってのは、もっとこう、“オシャレ喫茶でローズティー”みたいな。
緑茶が悪いっていうんじゃないけどさ。
小春たち、ジャパニーズなわけだし。

「だからって、なんで緑茶なんですか。イマドキの自販機は紅茶くらい売ってますよ?」
「んー・・・」

考え込む亀井さん。
答えに困ってるっていうよりは、うまい言葉を探してるように見える。
え、どうしよう、実はものすっごい深い理由があったりしたら。
亀井さん、あれで結構深いこと考えたりする人だしなぁ。


「小春は、オレンジが似合うと思うんだよ」
「は?オレンジは亀井さんでしょ。リゾナントオレンジ・亀井さん」

いきなり何を言い出すかと思えば。
オレンジは亀井さんのカラーじゃないか。小春は赤、レッドですよ。
最近会ってなかったから忘れられちゃったかな?

「そーじゃなくてさ。確かに小春のカラーは赤で、オレンジは絵里のカラーだけど、小春っていう人間を
 本当に表してる色はオレンジなんじゃないかって思うのね。で、オレンジって言えばみかんでしょ?」
「え?なんかすっごいヒヤクしましたよ、今」
「それで、絵里は煎餅が好きなんだ」
「小春はもう、亀井さんがどこに行こうとしてるのかわかんないです」
「だからぁ!小春はみかんで、絵里は煎餅。そんな二人に合うのは緑茶でしょ、ってこと!わかった?」

わか・・・ったような、わかんないような。

亀井さんは、言いたいこと言えてすっきり、みたいな顔してお茶を飲んだ。
つられて小春もお茶に口をつける。


みかんと煎餅だから、緑茶かぁ。
相変わらず亀井さんの言うことは、ずれてるようでしっくりきてて、でもやっぱりどこかずれてる。
だいたい、なんで小春がオレンジなんだろう。
あれか?みんなの輝ける太陽としてみんなを明るく照らしてあげるよ的なイメージ?
うっわ、自分でそういうこと言うか小春。(言ってないけど)
ったくもー、道重さんやジュンジュンじゃないんだからさぁ。

「あ、笑った!」
「へっ?」
「も~、小春やっと笑ってくれたぁ!しばらく会わないうちに絵里たちのことなんか
 どうでもよくなっちゃったのかなって思ってちょっとドキドキしてたんだからねー!」

小春が少しニヤってしただけで、亀井さんは嬉しそうに小春の肩を叩いてきた。
そういえば、今日は全然笑ってなかった気がする。
ちょっぴり反省。

「いえ~い、小春の笑顔にかんぱーい!」
「乾杯ってなんすか乾杯って!そこまで喜んでくれなくてもいいっすよ別に!」


実は、最近どうも仕事がうまくいってなかった。
内容は悪くない。人間関係も問題ない。
だからおかしいのは、小春の気持ち。
小春の気持ちがうまくいかないから、仕事そのものもうまくいってないように思ってたのかもしれない。

こんな気持ちの小春じゃ、みんなに会っちゃダメな気がした。
みんなに会う時には、自信満々で笑顔がいっぱいの可愛い小春のほうがいいに決まってる。
だけど。

「ねー、小春?イヤなこととかぶちまけたいことがあったら、遠慮せずにいつでも来なよ?
 絵里たちってほら・・・仲間じゃん」

わかってるようなわかってないような顔でヘラヘラ笑って、
最後にちょっとカッコいいこと言う亀井さんと一緒にいたら、なんかどうでもよくなってきた。
ジメジメモヤモヤしたのがとれて、晴れ晴れとした想いが広がるのを感じる。
あえて言うなら、本当の空はまだ雨模様だけど小春の梅雨は今終わった!って気分。

「別に小春に悩みなんてないっすけどー・・・そういうこと言われたら、ホントにいつでも行っちゃいますよ?」
「うん!来て!」

迷いなく、すぐに返ってくる言葉。
そう言った亀井さんの顔は、本当に幸せそうで。
照れくさいから直接口に出したりはしなかったけど
『仲間っていいな』って、心の底から思ったよ。


それからお互いの近況とか最近あった面白い話とかをして、適当にお別れの時間を迎える。

「そろそろ行きますね、これから撮影なんで。あ、あとお茶ごちそうさまでした」
「どーいたしまして。お仕事頑張ってね~」

亀井さんに背を向けて、来た道を戻る。
さっきこの道を通った時とは、全然違う気持ち。
たぶん、小春自身が梅雨明けしたからだと思う。
亀井さんはひょっとして晴れ女なんだろうか。小春の雲を吹っ飛ばすなんて。
だとしたらやっぱり、太陽すなわちオレンジの称号は亀井さんのものということに・・・

そんなことをゴチャゴチャ考えてたら、後ろから突然大きな声がした。


「またお茶しよーねー!!」

見れば、道の向こうの亀井さんがニコニコと手を振っている。


あのね、亀井さん。
照れくさい上に時間もないから言わないけど、小春もまた亀井さんとお茶したいって思ったよ。
もちろんその時のお供は緑茶でさ。
だって、小春はみかんで亀井さんは煎餅らしいから。
そんな二人に合うのは緑茶かなって、今の小春は思うんだ。



大切な何かを取り戻させてくれた“仲間”に、なんか一言伝えたい気持ちはある。
だけど、なんて言っていいのかわかんなかったから
とりあえず、思いっきり手を振り返しながら、最っ高の小春スマイルをプレゼントしておいた。