「Vanish!(8) 独占 ―はぶられいなと消失点― 第1部」


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 *注意:この物語を書き始めたのは雪降る時期なので設定は冬です。それをご理解の上お読みください*

●月■日(日) PM 6:00

気がつけば辺りはすっかり暗くなっていた
烏の大群が頭を下げて歩いているれいなの頭上を飛び去っていく

「愛ちゃん…ガキさん…」
れいなの口から出るのはつい一時間前まで最高の仲間と思っていたメンバーの名前だけ
携帯電話と財布、遊びに行くために用意したバッグ以外は何も持たずに先ほどから街をさまよっている

『♪~』   バッグに入れた携帯電話からメール受信を告げる音楽が流れた
「あ…ミヤ」
届いたメールは雅からのものであった

『FROM ミヤ
 さっきはごめんなさい<(_ _)>でも、急いで補習終わったので会いに行けますよ(^-^)
 ミヤは田中さんのこと大好きですし、心から信じています!呼んだらすぐに飛んでいきますよ☆彡』

気がつくとれいなは無意識のうちに涙を流していた
「うう・・・ばかぁ、なんでこんなにタイミング悪いと…でも、今、誰かに辛い気持分かってほしいと…」
れいなは震える指で返信メールを作ろうとしたが、途中で指をとめた
「-れいなは働いていないから、電話しても怒られることはもうないっちゃね…」
アドレスから雅の番号を探して、電話をかけた
『♪一人で見上げる冬の星座を~』と着信音が暫く流れ、「もしもし?田中さん?」と雅の声が返ってきた

その声を聴いてれいなは自然と涙を浮かべていた
(まだれーなのことをしってる仲間がおると・・・)

涙をサッと拭いて強気なふりをしてれいなは明るく言った
「ミヤ、どこかに遊びに行かん?」


●月■日(日) PM 4:00

「店長サン、風邪治ったんデスネ」
「ああ、すまんな、琳ちゃん、迷惑かけちまって。でも大丈夫だ!もう、治っちまったからな」
「バッチリデスカ?」
「おう、バッチリだ!」
店長が笑顔で親指を突き出し元気なアピールをし、リンリンは笑顔で店長の回復を素直に喜んだ

今日はリンリンのバイト先の店長が体調不良で倒れてから初めて入ったバイトの日であった
「おじさんがいないと、リンリン、生活苦しくなりマス。体には気を付けてクダサイ」
「おっと、俺の体を心配していると思ったら、琳ちゃん、自分の体の心配か~あいたたた…」
店長は頭をおさえて困っているようなしぐさを示した
「店長サン、まだ頭が痛いんですか?無理しないでクダサイ!」
不安そうに顔を覗き込むリンリンはその頭が痛い原因の一つに自分があることに気付いていないようであった。

「そういや、俺がいない間、ご飯はどうしていたんだ?またオリジンか?
 いかんぞ、いつもいつも同じところじゃ体に悪いといっているだろう。化学物質がな・・・」
なんだかんだ言ってこの店長はリンリンの体のことを心配してくれる
もちろんリンリンが料理が出来ないことも、オリジン弁当の常連であることもこの店長は把握している。

「お休みの間は高橋サンのところでご飯食べマシタ!オリジンは使ってないですよ!HAHAHA」
「あの高橋さんか、それは良かったな。
 だがな琳ちゃん、ちょっとは料理を学んだらどうだ?いつも食べに行ってるんだから勉強させてもらっ・・・」

その時、店長にとっては間の悪いタイミングでお店の自動ドアが開いた
「あ~お客様デスよ! 欢迎!(いらっしゃいませ)」
リンリンは小言を聞かないで済むチャンスとばかりにいつもよりも素早く接客に動いた
「あ~琳ちゃん、話はまだ続いているんだけどな~」
店長は頭をかきながら、元気に注文を取りにいくリンリンを眺め、自身は厨房に戻って行った


●月■日(日) PM 6:30

「ここでいいと?」
雅との待ち合わせの指示された場所に着いた時、れいなは何となく懐かしさを感じた―も訪れたことはないにも関わらず、だ
待ち合わせの場所として雅指定したのは今では使われなくなっていたマンションの前だった
恐怖を感じさせるようなお化け屋敷のような外観ではなく、その古さを除けばどこにでもありそうなもの
「なんで、こんなところで待っとかいかんと?でも…なんかいな?観たことがあるような気がすると」
そう言いつつれいなは近くに合った白いベンチに腰掛けた

携帯を取り出し、携帯の発信履歴を見ると電話から約20分が立っていた
「すぐミヤ来るって言ってたけど、もうこんなに暗くなって来とるんやから…来たらお仕置きっちゃね」
バッグに携帯をしまっていると、れいなの鼻の頭にポツリと雨の雫が垂れた
「あ、雨が降ってきたと!と、とりあえず、雨宿りに」
唯一の持ちモノであるバッグを持ってれいなは急いで老朽化したマンションの庇の下へと入って行った


●月■日(日) PM 6:30

マルシェは右手にパソコンを入れたバッグを入れて走っていた
目的はかけているメガネに点滅として表示されているれいなの居場所
「な、なんでよりにもよってれいなはこんな遠いところにいるんですか…」
息を切らしそうになりながらも、マルシェは自身の重力を遮断させて屋根の上を飛ぶように走り抜ける

いま、マルシェは再改良した重力発生装置を稼働させ、重力を『軽く』、すなわち自身を『軽く』している
「ふぅ、一人で行動しているから転送装置が使えないってことがこんなにメンドクサイなんて思ってませんでした。
 今度は『どこでもドア』のようなものを試作する必要性がありますね」
ネオンで照らされた町をバックにマルシェは屋根から屋根へと飛び移っていく


●月■日(日) PM 7:00

「あ~本降りになって来たっちゃ・・・・雷も鳴っとるし・・・キャッ」
雨は激しさを増す一方で時折空がぴかっと光り、その度れいなは思わず頭を抱えて屈みこむ。
「雷は嫌いと…」

ザッザッと何者かが道路を歩いてくる音が聞こえ、れいなは顔を上げた
大きなオレンジ色のビニール傘がこちらに向かって近づいてきていた
傘の持ち主はせわしなくキョロキョロし、その度に傘からしぶきが周囲に飛び散る
そのうち、れいなの姿を見つけ出した傘の持ち主は、マンションの下にいるれいなの方へと駆けてきた
「すみません!田中さん。雨のせいでどこにいるのか分からなくなってしまいました・・・」
ムスッとしてれいなは傘をたたんでいる雅を睨みつける
「…何分、待たせるつもりと?」
「ごめんなさい。待たせるつもりはなかったんですけど、立て混んじゃって。でも、大丈夫です。終わりそうですから。
 それに・・・」
雅は下をむいて、もじもじしながら言いにくそうに言った
「待っている時間もデートっていうじゃないですかぁ?」

「いわん」
待たされていらいらしているれいなはきっぱりと雅を一刀両断した
「…ごめんなさい」
雅は本当に申し訳なさそうに謝った。そんな雅の肩に手を置いてれいなが言う。
「まあ、今日は許すと。でも、次からはれいなよりも先に絶対来るとよ。それが社会の常識やけん」
「・・・働いている人はやっぱり違いますね。田中さんもあの頃からずいぶんと変わりましたね」
雅はれいながそれほど起こらなかったことでほっとし、笑顔をれいなに向けた

「とりあえず、ここだと雨にうたれてしまいますし、中に入りませんか?」
先ほどと比べてますます雨あしは強くなり、雷は絶えず響くようになっていた。
「え、でも、ここって立ち入り禁止じゃないと?それに鍵がないっちゃろ?」
「それは大丈夫ですよ。ここ、ミヤの秘密の特訓場なんですから。ほら鍵もありますし」
雅は鍵を取り出してれいなにみせた

「ここ、もう使われていないマンションなんで勝手に格闘術の訓練に使わせてもらってるんですよ
 一番上の階です。行きましょう、田中さん」
「ちょ、待つと!」
手を握ろうとした雅の手を払うようにしてれいなは階段をのぼりはじめた
「一番上って、ここ何階まであると、ミヤ?」
「10階です。一番上の右奥の部屋です。そこだとこの街が一望できるんですよ!!」
コンクリート製の階段ではコツコツとブーツをはいた二人の足音が響くはずだが、その足音も雨でかき消された
「本当なら雨が降っていない時に来てほしかったんですけどね、相変わらず雨女ですね、ミヤは」
雅は残念そうに窓から外を眺めながら言った

階段を一番上まで登った二人はその一番奥の部屋の扉の前で止まった
「ミヤの訓練場所ってここかいな?」
「はい、ここです。あまり広くないんですけど、都内で隠れ場所って限られているじゃないですか
 ジムとかに行く余裕もないですし、何よりも独学で鍛えたかったんですよ。さあ、田中さん入ってください」
雅は鍵穴に鍵をさし、ノブを回して扉を開けた

「ん~ミヤ、ここ暗くて何も見えんと…電気通ってないっちゃろ?」
「あ、いえ、電気はつきますよ。今、スイッチいれますから、少しだけ待ってください」
ごそごそと雅が手探りで電灯の位置を探し当て、部屋に灯りがともり、ゴォォォという音が響き始めた

その音の正体は天井に取り付けられた大きなプロペラ型のファンだった
床はフローリングというよりも、ログハウスのように木の板が打ちつけられていて、天井も然り。
そして・・・インテリアはほとんど置かれていない
あるのは白いソファと低い木製のテーブルとその上に置かれている電気スタンド、そして…なぜか巨木のオブジェ

「ん?この部屋って…」
「どうですか?田中さん!頑張ってここまで再現したんですよ!!」
れいなはこの部屋に見覚えがあった。というか忘れられなかった
「ここって…昔、れーなとミヤがよく忍び込んだマンションそっくりやん」

れいなは巨木のオブジェに近づき触れてみた。
「見れば見るほどあのわけわからんオブジェにそっくりっちゃ…確か、夢でこの枝が伸びるのを見たと…」
掌から伝わるひんやりとした冷たい木の感覚もれいなにとってはなんだか温かく感じられた。

「このマンションもなんだか懐かしいような気がしたと…もしかしてあのビルに似ているかいな?」
「実はそのことがあったからミヤはこのマンションを選んだんですよ。
 全てを教えてくれた田中さんのことを忘れないために、それにあそこは原点ですから…ミヤの」
れいなをちらっと見ながらみやびは頬笑んだ。

「それでいつもどういう風に鍛えていると?見てみたいっちゃ」
白いソファに腰掛けながられいなが言った
「いつもここで鍛えているっちゃろ?サンドバックもトレーニングマシーンもないし、どうやってると?」
きょろきょろとあたりを見渡しながられいなは尋ねる
れいなの言う通り、小ざっぱりしたこの部屋には体を鍛えるような器具というものが一切置かれていなかった。
懸垂をするならばできるようなでっぱりはあるにせよ、目の前にいる子がするようにはれいなは到底思えなかった

「いつもは、ここでイメージトレーニングしているんですよ。あとはこうやって型を練習したり…」
そういい雅は左足を軸足とした回転蹴り、そこからのかかと落としといったコンビネーションをれいなに披露した
「どうですか?あの頃よりもキレが増したと思うんですけど、田中さんからみて変わりましたか?」
「そうとう鍛えとうとね、ただ、まだ蹴りを放つ瞬間に無駄な力が入っとうね。その癖は直ってないとね」
「・・・勉強になります。久しぶりに教えてもらえますか?」
雅は丁寧にペコっと頭を下げ、れいなに組み手の相手をしてほしいとのお願いを口に出した

「れいな?まあ、いいっちゃけど、やるからには手を抜かんかいな。覚悟するっちゃよ!」
にやりと頬笑みながられいなはソファーから立ちあがり雅に対峙した
「もちろんです、手を抜くなんて田中さんに失礼ですからね!本気で行きますよ!」
雅も肩の力を抜くように呼吸を整え、ゆっくりと構えた

「行きますよ!田中さん!」「久々に面倒みてやると!」
れいなと雅、二人の距離が近づき、辺りには緊張が張り詰める
気付けば降り続いていた雨の音も止み、窓からは先ほどからは考えられないほど綺麗な月がみられた
月光が窓を突き抜け、静かな闘志を秘めた二人を照らし出す

れいなはゆっくりと笑みを浮かべ、それを見た雅も同じように笑みを浮かべ、れいなに向かい右拳を放った
れいなはそれを打ち払おうと左手を伸ばし、蹴りを入れようと左足に重心を移動させた

しかし・・・

「ウッ!!」    ドスンッ
雅の拳がれいなに届く前に雅は地面に倒れ込んでしまった

「ど、どうしたと!ミヤ?」
急に目の前で倒れ込んだ雅を起こそうとれいなは近寄り、手を差し伸べようとした

しかし・・・ドスンッ
れいなの体を押しつぶすように大きな力がかかり、雅同様に地面に押しつけられる姿勢で倒れ込んだ
(な、なにがおきたと?ミヤもこれで?  !!全く動けないと)
かろうじて顔は動くが手足は全く動かない

「ミヤ、大丈夫かいな?」
「え、ええ、大丈夫です。で、でも動けないです。何が起きたんでしょうか?」
「だ、大丈夫っちゃ。すぐに何とかなるとよ」

「れいな、そんな強がり言っちゃって大丈夫なんですか?本当は内心不安なんですよね~?」
「だ、誰?」
見知らぬ声がかけられ雅はキョロキョロと怖がりながら声のする方を見上げる
それに対してれいなにはその声の主に心当たりがあったため、ある程度の覚悟を持ち視線を向けることが出来た

「マルシェ!!」