『the new WIND―――』(最終章)


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。






黒衣の男との決戦を終えた直後、愛と里沙を除く7人はそろって入院することとなった。
緊張の糸が切れたのか、特にさゆみとれいなは泥のように眠り、ほかの5人も男との闘いで負った傷を癒した。

リゾナンター上層部の息のかかった病院で入院したが、

「飽きたー!!」

と2日目にして小春が口火を切り、さゆみの病室に遊びに来ては「病院食ってマズくないですか?」と愚痴を零した。


「道重さん小春の病室のカーテン閉めてください」
「いやなの」
「怪我人には優しくしてくださいよぉ」
「さゆみだって怪我人なんですけど」

そして3日目には全員が退院の手続きを取り、喫茶リゾナントへと戻った。
ふざけてはいるものの、愛との約束、「みんなで帰ろう」と交わした言葉が、静かに9人を繋いでいた。
病院の正面玄関で待ち合わせをし、ゆっくりと喫茶リゾナントへと歩く。
聞きたいことは山のようにあったし、それに応える準備があることにはれいなたちも気付いていた。
愛たちは別に勿体ぶっているわけではないことも。




「ただいまー…って、きったな!」
「アンタたち、全然掃除してなかったでしょ」
「だって、そんな暇なかったし」
「毎日少しずつ綺麗にすればいいのにねー」
「いや、絵里にだけは言われたくない」
「亀井さん、病室も一瞬で汚くしますもんね」
「お腹スキマシタ」
「バナナー!」
「動物園じゃないんやから」

だが、喫茶リゾナントへ戻った途端、片付けが必要だという結論に至った。
そう言えばさゆみとれいなだけになってから、この店をちゃんと掃除した事があっただろうかと思い出す。
部屋の乱れは心の乱れというが、その通りだなと苦笑した。

「はい、片付け!終わったら鍋にするよ!」

と、愛が謎の宣言をし、結局、病み上がりの身体で掃除に勤しんだ。

「そこで、ちゃんと話すよ」

その言葉を、信じて。




鍋を囲んだのは、いつ以来だろうと思い出す。
愛を送り出した日も、こうして鍋を囲まなかっただろうか。
何かがある日はいつだって、鍋なのだ。

一通り食事と片づけを終えると、どこから話そうかな。と愛が頬杖をついた。
質問されたら答えやすいだろうかとも思うが、その質問をうまくできる自信はなかった。

あまりにも色々なことがありすぎた。
謎の男の襲来、小春の離脱から始まったリゾナンターの解体、歯の欠けた櫛のように、一時的にかなり厳しい状況に追い込まれ、遂には仲間同士でぶつかった。
それでも、今、此処には9人がいる。
いつかのように鍋をつつきながら、笑っている。

「……まず、上層部が解体を決めていたことから、説明しようか」

愛はそうして、食後の珈琲を飲む。
漸く本題に入るのかと、8人はそれぞれ身を正した。

解体は既に決まっていたということ。
それは意外でも何でもなかった。寧ろ予期していたことだ。
回廊の中でもさゆみが口にしていた。9人が強くなりすぎた故に、上層部は解体を決めたのだと。

「解体の理由はふたつ。一つ目は、各地に拡大している闇への対抗」

その言葉に、里沙があとを継いだ。


「今、ダークネスは日本だけじゃなく世界的な広がりを見せている。
 主要都市の要人たちがダークネスに支配されたとしたら、世界の軍事バランスが崩れる」

難しい単語が並び、一瞬ついていくことが困難になりかけるが、れいなは必死に頭の中で砕いていく。
要するに、ダークネス側が世界的に暗躍している。それを放っておけば、世界戦争が起きる、ということか。

「ジュンジュンとリンリンは、西の方から日本に来た。だからこそ、一度西に戻って状況を確認してもらいたかったの」
「小春は南を、愛ちゃんは主に北側の国のバランスを監視、光井は情報戦略…上層部としては、各人員をそういう風に配置したがっていたみたい」
「ちょ、ちょっと待って」

何となく理解できていたが、一気についていけなくなる。
上層部は、リゾナンターを各地に配置することまで決めていたなら、なぜそれを伝えなかった?そんな考えがあるのなら、説明のひとつがあっても良いはずだ。
それがないからこそ、さゆみやれいなは上層部への不信感を抱いていた。

「………説明できなかった理由が、解体のもう一つの理由なんだよ」

愛がそう言うと、「そこからは、私が」と、愛佳が手を挙げた。
どうして此処で、愛佳が話すのだろうと思う。解体の事実を、愛佳も知っていたという事だろうか。

「考えていたんです、ずっと。私たちがこんなに立て続けに異動するのは、絶対に裏があると」

愛佳はいつの間にか、分厚いレポートを配り始めていた。なんだろうと表紙を見ると「共鳴に関する一考察」とある。
もしれいなたちが大学に進学していたとしたら、こんな風に卒業論文を書いたのだろうかと、ひどく場違いなことを考えた。
実際、脳みそが処理しきれない。
何が起きているのか、一つずつ噛み砕くしかない。


「私たち9人は、共鳴という絆で集ったと考えていました。でも、その前提が違うとしたら?」
「前提が違う?」
「……共鳴……というより、能力そのものは誰の中にも等しく存在していて、それが共鳴という鍵によって開くというか」

愛佳は言葉を必死に探していた。この仮説をうまく説明できるだけの言葉を。
だが、どれだけ組み立てても、言葉足らずになりそうで、語弊を生みそうで。だから深く息を吐き、「つまり」と言葉を区切る。

「誰の中にもチカラがある。それがある限り、“共鳴”は広がっていく…共鳴によって新人たちが選ばれるのかなと」

それは、決して予期せぬ言葉ではなかった。
これだけ立て続けに解体が続いているのであれば、誰か新しい人員を入れることは想定内だ。
闇雲に新人を入れるのはリスキーだろうから、何かしらの能力保持者が選ばれることもわかる。

「その新人たちを入れるために、上が解体を決めたっちゃろ?」
「いいえ、その前提が違うんです」

愛佳は手を組み直す。

「解体の引き金は上層部でも、あの男でもなく、“共鳴”そのものなんです」

風が窓を叩いた。
まるで嵐が訪れるような不穏な風だ。


彼女の言葉を理解出来なかったのは、れいなだけではなかった。
さゆみも、絵里も、小春も、ジュンジュンも、リンリンも。
恐らく、説明している愛佳自身も、全てを理解しているわけではなかった。
リーダーである愛や里沙が、その全貌を理解しているのだろうかと表情を盗み見るが、そこに浮かんだ憂いのような色に、何も言えなくなる。

一体どういうことだ。

「共鳴が意志を持っているかどうかはわかりません。そもそも共鳴という実体を持たないものですから。
 でも、私たちは随分、共鳴について無知やったんやないかなって」
「無知って…」
「共鳴という不確定なものが要因となり、リゾナンターが集った。
 そもそも何故、共鳴はリゾナンターの能力の鍵となったのか。もし共鳴が私たちを集めたのが、ダークネスへの対抗以外の理由があったとすれば。
 いや、そもそも理由があって選定されたのではなく、共鳴それ自体が、呪いだとしたら」
「ちょっと待って!」

一気に突き放される言葉の数々に、ついにれいなが声を上げた。

「ごめん、小春全然わかんないや…そもそも呪いって、大げさすぎじゃない?」

さすがに黙っていられなくなったのか、小春も同調する。茶化すこともせずに真っ直ぐに見つめる瞳は、揺れている。
自分たちが信じていたものが、根底から覆されたような気分だ。
愛佳も、自分が興奮して一気に話しすぎたなと苦笑しながら「すみません」と謝る。
だが、すぐに言葉を紡いだ。

「……呪いは言い過ぎかもしれません。でも、私たちに巻き起こったことを考えると、呪いという言葉を使いたくなるんです」


「どういうこト?」
「ジュンジュンたちには起きていないけど、私や亀井さん……ちょうど亀井さんより後に異動したメンバーに起きている体の不調、といえばわかりますか?」

その言葉に、れいなは息を呑んだ。
体の不調。それに覚えがないわけではない。
いつしか不定期に、発作的に起きていた謎の咳。
肺を鷲掴みにし、吐血さえも巻き起こしていたあれが、そうだというのだろうか。

しかし、絵里より後に異動したメンバーということは……里沙やさゆみにも起きていたのか?
れいなはテーブルの向こうの愛たちを見る。愛は目を伏せて、れいなの視線から逃れる。それは、肯定と捉えて問題ないのだろうか。

「亀井さんは心臓、私と道重さんが脚、新垣さんが腰、田中さんが気管支にそれぞれ不調を来しています。
 これは、共鳴のチカラの跳ね返り……“副作用”と呼ぶのかもしれませんね」

愛佳はそういうと、珈琲の入ったカップを手に取る。
「例えば」と前置きし、そのカップに二つ、角砂糖を入れた。

「こうして砂糖を入れたら、珈琲は甘くなります。
 砂糖が共鳴、珈琲が私たちの能力だと仮定すると、共鳴により、珈琲は甘さというチカラを得ました」

そして角砂糖の数を増やしていく。ぽちゃりぽちゃりと、入れる度に珈琲の中で砂糖は溶ける。

「共鳴が強くなるほど、珈琲は甘みを増す。でも、入れすぎた砂糖は段々と溶けきらず、底に沈殿します。
 沈澱した砂糖…能力に溶けきらなかった共鳴が、私たちの身体に不調を引き起こしているとしたら?」


カチャカチャとスプーンを回しながら、角砂糖を溶かそうとする。
だが、どれだけ掻き回しても、カップの底の砂糖は残る。
溶ける速度も格段と遅くなっているのは、れいなも理解できた。

「溶けきらない中でさらに共鳴が起きたらどうなるか…」

愛佳はテーブルの角砂糖をまとめて4つ珈琲に入れた。
溶けないどころか、個体として存在する砂糖の容量が珈琲を浸食する。
そして、5つめの砂糖を入れたとき、カップから珈琲がこぼれた。

「……この零れた部分、これが能力の暴走に繋がらないとは、限りません」

愛佳の言わんとすことを、漸く理解した。
溶けずに沈澱した砂糖によって味のバランスを崩した状態が、今、れいなたちを蝕んでいる内的な不調。
そして、さらに共鳴することで、外的な不調を及ぼす可能性もある。
この能力が暴走したとき、止められる保証は、ない。
暴走はあくまでも仮説に仮説を重ねたものだが、信憑性は、ある。


「珈琲、新しくスル…それ、解体?」

リンリンが先に、答えに辿り着いたようだった。
愛佳は「どちらかといえば、カップを新しくするイメージやね」と続ける。

「能力を使う度に、新しい珈琲が注がれる。そうすれば共鳴の砂糖も溶け続ける。でも、一度沈澱してしまえば、新しい珈琲を注ぐ機会が減る…」

愛佳が戦闘中に言いかけた言葉を思い出す。
もし仮に、能力の跳ね返りがあるとすれば、能力を奪う男にも、同じような副作用が起きたとしても不思議ではない。
黒衣の男の動作が急に鈍ったり、苦しんだりしたのは、愛佳の言う、副作用が要因だったのだろうか。

しかし、それでも解体しかないのだろうか。
共鳴の強さが、信頼の強さに直結していると思っていた。
だが、強くなればなるほど、れいなたちの身体が蝕まれていく。そんな理不尽なことがあって良いのか…?
それはまるで。
ああ、そうだ。

これは、確かに、呪いだ。




投稿日:2016/11/26(土) 21:38:16.90 0