『春水ッキーニ』


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「ここで降ろしてくれるかしら、少し歩きたいから」

乗車時に告げた目的地とは少し離れた場所でタクシーを降りたのは、ガラス窓越しに見える冬の日差しがあまりにも眩くて、それを少しでも体に浴びたかったからだ。

(これが本当の小春日和っていうのね)

保田の脳裏を一瞬稲妻のような光が駆け抜けた気がしたが、それが何なのか深く追及することはしない。
きっと冬の間の貴重な陽気が、沈着冷静な保田の心すら浮き立たせているせいだ

買い出しした夕食の食材を手にしながら歩いているせいか、5分も経たないうちに体が暖かくなってきた
その心地よさに思わず、昔好きだった歌が口をついて出てくるのだった。

♪Body Feels EXIT~

沖縄出身の日本を代表する歌姫を保田は熱烈に愛していた。
というか憧れすぎて、そのクールさを上辺だけ装ったことで、消極的だとか絡みづらいとか言われたこともあった。
今となっては考えられない話だが。

もう二三分でマンションに着こうかというところで、保田の前に立ちはだかった者がいた。

「おう待てや、ほんま。お前らっちゅう奴はほんまのほんまに骨の髄まで腐った奴らやな、ほんま最低や」
「誰?」

歳の頃なら十六七というところか。
透き通るような肌をした美少女が、その美貌を怒りで歪ませながら、保田を睨んでいる。

「なあ知ってるやろ。二丁目の和也さんはホンマもう後が無いってこと。今年の受験にしくじったらほんまもう大学を諦めなあかんねん。せやのにお前らときたら」
「ちょっと待ってくれないかしら。何か誤解があるみたいよ。私はその二丁目の和也さんなんて知らないんだけど」
「それはそうやろな。和也さんは前は三丁目に住んどったんや。それが度重なる受験の失敗で予備校の学費やらで出費が嵩んで一軒家を売らなあかんかったんや」
「ちょっと待ってなさい」

怒れる美少女の攻勢に辟易しながら、取り出したスマホを操作して情報を集める。

「なるほどね、「災難」絡みの案件だってことはわかったけど、であなた誰?」
「聞いて驚け!! 正義の炎を両脚に宿す“火脚”尾形春水とはうちのことや!!」


「で誰?」

保田の素の言葉を耳にした“火脚”は怒りのせいかブルブル打ち震えていたが、やがて力無く傍らの電柱に手をつくと下を向くのだった。


「なあ」
「何よ」
「なあ」
「だから何よ。夕食の下拵えにかかりたいから失礼したいんだけど」
「火脚って何やろ」
「火脚っていえば、あれでしょう。松尾芭蕉の奥の細道の出だし」
「そうそう、月日は百代の過客にしてって奥の細道のほうは過客や、しかも読みはか・か・く」

春水は言葉こそ激しいが、いいボケだったとこっそり保田に親指を立てる。
ここまで勝手に息巻いてきて勝手に名乗りを上げて、勝手に意気消沈した春水を見捨てないのは年長者の余裕なのか。

「にしても火脚やで火脚。脚が燃えるってどういうこっちゃねん」
「結局そこ? どういうこっちゃねんて言われてもそういうことじゃないの」
「どうすんねん、脚が燃えてもうたら普通火傷するんちゃうんか、なあ」
「それはそうだけど、あなた達の先輩にも発炎能力者がいたでしょう」
「リンリン先輩な」
「彼女の前例があるんだから、あなただってそういうことでしょう。能力発動中特別な力が体を覆ってるから火傷を負わないとかってことじゃないの」
「いやっそれはそうやねんけどな、っていうかそれええやん。いただいてもええかな」
「どうぞ、ご自由に」

流石に飽きてきたのか、自宅への道を進もうとする保田だったが、春水は逃がさない。

「まあ火脚はええわ。殴ったり相手を掴むより、蹴る方が難しいとかそういう点はあるけど、うちも腐っても元フィギュアの選手や、なんとかしたるわ」
「確か高橋大輔君と同じリンクで練習してたとか、強化選手に選ばれたんだってね。凄いじゃない」
「おおきに、でもな強化選手に選ばれたとかいうとみんな凄いって言ってくれるやん」
「私もそうよ。もしかしたら五輪のメダリストになってたかもしれないあなたとこうして共演できるなんて光栄だと思うわ」

保田の賞賛に春水はあちゃーっと顔を抑える。

「実際な、それそんなにすごないねん」
「何がすごくないの」
「わたし三回転とかもできへんし、フィギュアの選手としてみたらほんとたいしたことあらへんねん」
「それは失礼でしょう。私はフィギュアの世界の詳しい事情は知らないけど、あなたが出た大会であなたよりも順位が下だった選手の前で今の言葉が言えるの」
「それはわたしも言い過ぎたわ」
「別にあなたは経歴を偽ったわけでもないし、自分の実力で強化選手の座を勝ち取ったのでしょう」

保田の言葉に大きくうなずく春水。
その様子は人生の先輩の金言を聞くに相応しいものといえた。

「火脚という能力もあなたがフィギュアの経験があるということから生まれた能力なんでしょう。だったらそのことを誇りに思って精進なさい」

これで決まったとばかりに軽くドヤ顔を決めると保田は家路に就いた。
いや就こうとしたところで春水に二の腕を強く掴まれた。

「痛っ」
「あっ、ごめんごめん」

いったいここ最近リゾナンターの新人教育はどうなっているのか。
年長者を年長者とも思わぬような春水の態度に少しばかり怒りを覚えた春水だったが、まだ怒りのボルテージはマックスには至らない。


「保田はんがそこまで言うんやったら火脚の件はわたしも飲み込むわ。あ、こんな言い方言ったら誤解されるかな。ありがとうやで、考えてくれた人」

実は素直な性格の春水であった。

「良かったわね。これで問題解決じゃない。痛っ」
「それがそうやないねん」

こいつ私のこととなんだと思ってるんだと言わんばかりに春水を睨みつける保田だったが、当の本人はそんな視線に気づかない。

「火脚はええねん。なんか何度も言ってるうちに自分でも気に入ってきたわ。火脚、火脚」
「よかったじゃない」
「それがようないねんってば。火脚はともかく焔虎はなんやねんっていうわけやねん」
「なんやねんって読んで字のごとく、火焔の虎って意味なんでしょう。火脚の発展形?みたいな感じじゃないのかしら」
「それはわかる。わたしかってわかる。問題は焔虎ってどう読むのかっていうことやねん」
「これが小説とか漫画だったら小文字でカッコいいルビとか振り当ててるんでしょうけどね。燃え上がる虎とかバーニングタイガーとか。あっ今のはあまり考えないで言っただけだから、これが私のセンスだなんて思って欲しくないけど」
「そうやねん。なんかそういうカッコいい読み方やったらええねん。でもっこれを音読みしたらどうなるかっちゅこうことやねん」
「…焔(えん)虎(こ)かしらね」
「そうそれ、えんこやねんえんこ。えんこって言うたらその筋の者が指詰める時にえんこ詰めるっていうそういう使い方しか知らへんで私」

一体どういう使い方なのか、いや何処でそんな意味の使い方をしてるのか。
怪訝に思った保田だったが、目の前の春水が大阪府出身だということを思い出して合点がいった。

まあ任侠の世界というか、そういう勢力の本場と言えなくもないわね。
神戸とか大阪は。
まあああいう人たちは日本中に生息しているけど、関西の方は日常に根差してるのかしらね。
いいかげん春水とのやり取りにうんざりしてきた保田は持ち上げて突き放すことにした。

「でも焔の虎ってかっこよくない。呼び名はともかく」
「えっほんまやろか」
「そうよなんて言ったって伝説のリゾナンター。白金の9人のうちジュンジュンの獣化能力とリンリンの発炎能力を併せ持つと思えば凄いことだと思わない」
「そういえばそうかもしれんけど」
「それにパンダと虎だったら虎の方が勇ましいでしょう。現実の虎やパンダの生態とかは知らないけど」

現金なもので春水の目が生き生きと輝いてきた。
この調子、もう一息で私は解放されるという考えが保田の頭をよぎったが、ある問題に気付く。

よくよく考えるとこの子、尾形春水という子は最初から喧嘩腰で私の前に現れた。
そんな春水の精神状態を上げてしまって果たして良いものなのか。
もしかしてテンションアゲアゲで自分に向ってくるのではないか。
春水の好戦的な態度からそういう展開も予想できなくはないが、別にそうなったところで恐れるところでは無いという自負がある。
自らの能力に確固たる自信が持てないでいる春水と自分とでは格の違いがありすぎる。
その事実こそが先刻からの春水の無礼千万を許容している原因ではある。
しかし、その寛容の泉も決して無限ではない。

「まあ焔虎もええわ。あっ上から目線でごめんな考えてくれた人。ありがたく使わせてもらいますやで」
「これにて一件落着ということでいいかしら」
「流石にオイルっていうのは」
「いい加減になさい」

業を煮やした保田の一括に流石の春水も一瞬、凍りつく。


「さっきから感じていたけど、あなた何を焦っているの」
「えっ、私焦ってなんか」
「いいえ、焦ってるわ。それも何かに追いかけられているというよりは、必死で何かを追っかけている感じがしてならないんだけど」
「さすが保田さん。亀の甲より年の功とはよく言ったもんやで」

一瞬だけいらっと来たが、ようやく事態を収集できそうな気配に保田はほっとした。
そんな保田に春水が打ち明けたのは、同期のメンバーとのスレ内での扱いの差であった。

【限界突破】リミットブレイクという禍々しくも雄々しい能力者として、またキャプ画像も多く貼られる牧野真莉愛。
「まああの新曲のMVは反則よね。それになにより背の高い子がセンターに入ると絵になるし」

一大長編『Chelsy』で主役を張る野中美希
「それ以外でも活躍してるわよね彼女。空気調律とか能力バトルを描くには使い勝手がいいのかしら」

『リゾナンター爻(シャオ)』番外編 「繰る、光」でクローズアップされる気配が強い羽賀朱音。
「まさか「刃賀衆」とか本格的に描かれる日が来るとは思わなかったわ」

さすが組織の大物、意外と的確なコメントを残した保田は春水を睨みつける。

「で、あなたは彼女たちのことが妬ましかったの」
「違います」

速攻で答えが返ってきた。

「同期の皆が輝くのは嬉しいし、心から応援してます。 でも私だってもっとリゾナンターのために貢献したいんです」

ようやく真情を打ち明けた乙女の姿を見た保田は微笑ましいと思った。
そしてごく自然にその掌で春水の…。

「ちょっと」
「はい、なんですか」
「なんで避けるのよ」

可愛くなって春水の頬を撫でようと伸ばした手を避けられて心外な様子の保田。

「勘違いせんとってください」
「どういうこと」
「保田さんはリゾナンターの敵ですよね」
「それはそうだけど」
「そんな敵と馴れ合うとか、私のこと見くびらんとって欲しいんですわ」

その敵に散々愚痴をこぼしたのはどこの誰なのか。
正座させて一時間ぐらい説教してやりたいが、そんな時間は無い。
溜息をつきながら保田はバックからハンカチで包んだ腕時計を取り出した。

「これをごらんなさい」
「この時計なんですの。あ、止まってますやん」
「これは私の能力【時間停止】を発動させるのに必要なアイテム」
「えっそんな大事なもんを私に持たせてええんですか」
「…というのは今思いついた出まかせなんだけど」

ズコーッ派手にこけて見せたのはさすがに関西人の面目躍如というところか。

「電池切れなのよね。なかなか交換に持って行けなくて」
「まあ今の時代、携帯スマホが時計代わりですしね」
「そうね。でもこの止まった時計、時間を知るには役に立たない時計でも一日に二度は正しい時刻を示す。わかるわよね」
「まあそれはそうかもしれませんけど」
「あなたもそんなに焦ったりせずに、一度立ち止まって自分の原点を見つめ直すのもありなんかじゃないかしら」


それは目の前の春水に向けた言葉であったが、同時にかつての自分にもかけてあげたい言葉でもあった。
勿論、低迷していた時期が自分にとって無駄だとは思わない。
仮に昔の自分が今の自分の忠告を聞いても、咀嚼できるかどうか。
いやおそらく反発するだろう。
しかしそれでも経験から得た教訓を伝えることも、人生の先達としての役目だろう。

「じたばたせんと自分のやるべきことをやっとったら、いつか私の時が来る。ええ風が私にも吹いてくる。そういうことですか」
「そうね。それがあなたにとって最善の選択だと言い切る程、私は傲慢じゃない」

春水は原点、原点と呟きながら頭を捻っている。
自分も優しくなったものだとほろ苦い笑いを浮かべながら、家路に就こうとしたその時。

「そいやーっ」

飛燕一閃、春水渾身のジャンプからの後ろ回し蹴りが保田を襲う。

「危ないじゃない。何するの」

辛うじて交わしたものの、買い出しした食材の入ったエコバッグを路上に落としてしまった保田はご機嫌斜めだ。

「ええ加減にせえよ。このど畜生の極悪人が。お前らのせいで和也さんは二丁目の和也さんはな」
「よりによってそこに戻る」

費やした時間が無駄になった徒労感はやがてそれを許した自分への怒りへと転じ、更にはその元凶そのものである春水への怒りに変わるのに時間は要らなかった。

「この小娘」
「なんやこの悪党が。ええか、極悪人に人権は無い。人権なんか無いんや」
「黙りなさい。あんたみたいなバカにはちょっときつい教育が必要ね」

保田の全身から闇色のオーラが立ち昇る。
つい先刻まで射していた心地よい陽光すら隠さんばかりの闇色の光。
これこそが【永遠殺し】
これこそが永遠を求める哀れな魔女を一蹴した【時間停止】の能力を発動する兆し

「でも和田さんにあっさりやられてましたよね」
「な何ですって」
「それに小田さんの能力の方が保田さんの能力の上位互換っぽいっていうか」

燃え盛る炎に油を注ぐような春水の言葉を耳にした保田から怒気が消えた。
怒りが消えたのではない。
内に閉じ込めることで、怒りを鋭敏化させたのだ。

この小娘、許しはしない
停止した時間の中でせいぜい唇を奪ったり、ベロチューしたり、顔中を舐めまわしたり、舌を甘噛みしたり、唾液交換する程度で許してやろうと思っていたけどもう無理。

旧体制の組織の中では、知性派として認識されている保田だったが、その認識は現実とはかけ離れている。
粛清人R、魔女、G。
好戦的であったり、組織の統制を飛び出して行動する彼女たちの陰に隠れてしまっていたが、保田も心の中に獣を飼っている。
その獣を公にせず心の中で飼いならしているという時点で、むしろ保田の業の方が深いかもしれない。
今、その心の中の獣を解放した保田は左手の指を三本立てている。

「いいこと、これは忠告でもなければ、警告でもない。お前の絶望へのカウントダウンよ。あと3つ数えたら制止した時間の中で尾形春水、お前を蹂躙する」


保田の右手には買い出ししてきた青々としたズッキーニが握られていた。
そしてその容貌は組織の知性派という仮面を脱ぎ捨て、好色な獣そのもの。

「1つ」

いや、ごめんやで。
いきなりズッキーニはハードルが高いって。
いや、私なに考えてんねん。
私は正統派の美少女。
工藤さん、真莉愛と並ぶリゾナンターのビジュアル 3TOPが私の立ち位置やん
変なこと考えたらあかんで。

「2つ」

あれ、おかしいやん。
この話コメディやろ。
そろそろなんかオチがあって、保田さんが退散する。
そういう展開で次は別の誰かの災難に続くんちゃうん。

「みっ」

あっ痛い。
脚の古傷がよりによってこんな時に痛みだしたやん。
あいたたたた。
もう逃げられへん。
よりによってスッキーニが初めてやなんて


走馬灯という言葉がある。
死の危機に瀕した人間が垣間見る記憶のフラッシュバック。
それは不本意な形で人生の幕を閉じねばならない者へのはなむけなのかもしれない。
しかし人生を最後まであきらめない者にとって、それは反撃への材料となることがある。

尾形春水。
組織の、遺伝子探査、人材確保、能力開発を経ずに能力が発現した稀なる「原石」
彼女の生きてきた人生はそれほど長くはないが、それでも大量の光景が頭の中を一瞬に駆け巡る。
ぐるぐると螺旋状にループしたその記憶の光景の中心には春水の能力者としての原点があった。
フィギュアの大会で無謀だというコーチの制止を振り切って試みた三回転ジャンプの失敗。
周囲の冷たい視線を浴びながら搬送された病院の応急処置室でベッドが焦げたのが【火脚】の初めての発動だった。
級友のからかいに流した涙と相前後して起こる発火現象。

あいつぐ超常現象を案じた両親が娘を受診させた病院が組織の下部機関だったことから、運命の歯車が大きく動きだした。
春水の能力を高く評価した下部組織の責任者は、案件を上層部に回した。
移送先の施設で出会った牧野真莉愛、羽賀朱音。
はじめての響きあう感覚。
最初は小さな共鳴がやがて大きく広がっていく

「わたしたちだけじゃない」
「逢ってみたいな。この人たちがどんな顔をしてるのか真莉愛見てみたい」
「行こう。逢いに行こう」


春水の古傷の痛みは彼女の敗北の記憶。
重なり合った挫折はしかし、春水をかけがえのない仲間と出会わせた。
春水の脚は彼女を栄光の座へと導くことは無かった。
しかしもっと大切な場所に彼女を導いた。

火脚の焔は彼女の魂が燃やす焔。
時に消え入りそうになり、自ら絶やしてしまおうとさえ思ったこともあるその焔は春水の危機に際して燃え上がりだした。
もしも春水が牧野真莉愛や羽賀朱音と出会わなければ。
もしも春水が野中美希と出会わなければ。
もしもリゾナンターと出会っていなければ、その焔が今燃え盛ることは無かったかもしれない。

熱い、熱い、熱い。
痛いのを通り越して火傷しそうに熱い。
それに胸の中がなんか張り裂けそうになって、悲しくて、切なくて、うれしくて、愛おしくて爆発しそうや。
どうしたらええんや。
このままじゃ爆発してしまう。
どないしたらええんや、後から後から胸にどんどんどんどん何かがこみ上げてくる。
どないしたらええんや、こんな時は、そうや、そうや、そうや。
心の奥底から叫べ、叫べ、叫べ!!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

保田が醸し出す闇に比べれば、その焔はあまりにも小さのかもしれない。
しかしその焔の勢いは決して絶えることの無い。
闇を照らすのではない、闇を燃やし尽くす正義の焔。

焔虎爆誕!!

♪ほんのちょこっとなんだけど 髪型を変えてみた~

「あ、もしもしあなた。えっもう帰ってるの。ごめんなさい、すぐ帰るから」
「え?」

愛する夫との会話を打ち切った保田は落ちていたエコバックを拾うと春水に背を向けた。

「ちょ保田さん。待って下さい。二丁目の和也さんは、和也さんはどうなりますの」
「誰? そんなことよりそんな恰好をしていると風邪ひくわよ」


無理もない。
能力発動中特別な力が体を覆ってるからということで、春水の肌には火傷一つつくことは無かった。
しかし彼女の来ていた衣服は尽く灰と化していた。

「きゃっ」

その場に屈みこんだ春水のその有様は某コメディアンンの“安心してください 穿いてます”というネタに見えなくもない。
春水は穿いてないが。

「どうしよう」

そんな春水の有様にさすがに保田も憐憫の情が湧き起ったか、手にしていた物を春水に向って投げた。
これを使って隠せと言わんばかりに。

「何これ?」

春水の手には青々としたズッキーニが一本。





投稿日:2016/11/14(月) 16:36:46.86 0











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