『リゾナンター爻(シャオ)』 45話


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「あ…」

突如現れたポニーテールの少女によって攫われたかと思われた、遥の姿が再び現れる。

「くどぅーおかえりっ!」
「一瞬くどぅーの姿が消えたように見えたんだけど」
「そうだ、あいつ!!」

亜佑美に訊ねられ、遥が思い出したように叫ぶ。

「人の顔ぺたぺた触りやがって!挙句の果てに『お前の血はまずそうだなぁ』とか言っちゃってさ、む
かつくったらありゃしない!!」

何の意味があるかは解らないが、相手は遥を転送させた後にご丁寧にもといた場所に再転送したの
だという。その意図を、話を聞いている亜佑美と優樹が知る事はできない。

そんな中、思い出したように施設内の放送設備から甲高い声が流れる。


「せや。うちまだ名乗ってへんかった。うちの名前は『煙鏡』。ダークネスの幹部、やってるもんや。
ああケムリ言うても、煙の出るお線香なんて吸うてへんよ。って煙の出るお線香ってなんやねん。ほれ、
あれや。温泉旅行に行った時とか無性に吸いたなる、って何言わせてんねん。アホかボケナス。とにか
くまあ、お前らリゾナンター…生かして返さへんから。ほなまた」

言いたいことだけ言って、それきり沈黙してしまう、「煙鏡」と名乗った少女。
ダークネスの手の者であることは予想していたが、まさか幹部クラスのお出ましとは。
緊張と不安がメンバーの中を錯綜する。

一方。

「…なんなのよ。何だってのよ!!」

自らの計略を突如現れた邪魔者に全てひっくり返された、哀れなシンデレラは。
怒りのあまり、叫び声を上げる。

先ほど姿を現した少女に、花音は見覚えがあった。
いつぞやの会議の中で「要注意人物」としてホワイトボードに貼られていた写真。最近組織の一線に復
帰したという二人組の能力者の片割れだ。

となると。
花音の動きを知ってか知らずか。
彼女たちはリゾナンターたちとここで事を構えるつもりだったようだ。
言わば、計画と計画の正面衝突。
既に自分は主役の座から引きずり降ろされた。あまつさえ三下扱いされたことに理不尽な怒りは覚える
ものの、そこに拘っている場合ではない。すでに花音の感情は、怒りよりも理性が勝っていた。

どうする?ここは一旦立て直すか。
後輩たちが揃いも揃って枕を並べて敗北している状況。うち一人は花音自身が私刑を与えたのだが。と
もかく、これから勢い勇んで幹部狩り、という選択肢はないに等しい。


ならばこのまま立ち去るか。
相手はどうやらリゾナンターにご執心で、花音たちのことはどうでもいいらしい。テーマパークのあち
こちは火の海だ。面倒なことになる前に、この場を離脱したほうがいいかもしれない。

時間にして数秒にも満たない、ほんの僅かな逡巡。
だが、その迷いとあちこちから吹き上げる炎の柱が、花音の「隷属革命」の効力を弱めていた。彼女に
とって予期せぬ事態がすぐに、発生する。

「あれ…」
「ここどこ…てか、あの火の柱って!?」
「な、なんか、やばくない?」

花音に操られていた群衆たちが、次々と正気に返る。
夢から醒めて間もないような反応を見せる、花音がかき集めた観光客たち。
その隙を、亜佑美は見逃さなかった。

「今だ!!」

自らの内なる獣、青き獅子に呼びかける。
風を切る迅さはそのまま亜佑美のスピードとなり、それこそ目にも止まらぬ速さで人と人の間をすり抜
け、囚われの身となっていた聖を救い出した。

「しまった!」
「あんたのゲームは、もうおしまいだよっ!!」

得意のどや顔を披露しつつ、亜佑美が高らかに宣言する。
その間に聖は倒れている朱莉に駆け寄り、治療を始めた。


「くそ…くそ!あんたたち如きが、よくも、よくも!!!!」

感情が、再び激しく熱せられる。
花音の溢れる怒りは、止められない。
再びシンデレラの魔法を、しもべたちにかける勢いだ。

「福田さん…もう、やめにしませんか」
「うるさいっ!何がリゾナンターだ!エリートのあたしが、あんたたちに遅れを取るなんてありえない、
ありえないっ!!!」
「こんなことをしても、あなたの孤独は癒されない」

朱莉に手を翳して治癒の力を送り込みながら、まっすぐに聖は花音を見据える。
朱莉は、身を挺して自分のことを守ってくれた。そのことを考えると心がねじ切れてしまいそうだ。
でも。だからこそ。この因縁に決着をつけなければならない。突きつけなければならない。
花音と接することで、知ることができたすべてのことを。

突然の、聖の発言。
それを聞いて、花音は、大げさに顔の表情を歪めた。

「はぁ?フクちゃんの言ってる意味、わからないんですけどぉ?」

わざと相手を苛つかせるように、語尾を伸ばし気味に。
それでも聖には、今の聖には。理解できる。
それが、彼女自身を護る為の仮面に過ぎないことを。


「聖、思ったんです。福田さんは、きっと誰かに認められたい、見てもらいたい。そう思ってるんじゃな
いかって。だから」
「…何勝手に決め付けてんの?ばっかじゃない?」

群集が、次々に悲鳴を上げてこの場から逃げ去ってゆく。
花音の隷属革命は最早完全に影響力を失っていた。散発的な逃走は、やがて雪崩を打ったような人の波へ
と変わっていった。

花音の中で、膨れ上がる思い。
いつも四人で行動していたあの日。一人は、自由気ままに振舞っていた。一人は、自らが認めた相手の顔
色ばかり窺っていた。そして最後の一人は。

「福田さんが操ってた人たちから、感じたんです。福田さんの本当の気持ちを」
「はいはい、凄い凄い。妄想もそこまで来ると立派なもんだね」

そんな自分のことを思っている友人のことを、大切に思っていた。
だから。

「そういう風に考えたら、何だか福田さん自身の声が聞こえてきたような気がして。誰か、私のことを見
て、って」
「いい加減にしろよ。黙れ」

あたしは、ずっと一人ぼっちだった。
四人でいても、一人だった。
紗季は、自分の欲望のために動いていた。憂佳は、彩花のために動いていた。そして、彩花は。誰も。誰
も。誰も。あたしのためになんか、動いてくれない!!!!


「黙れ。黙れ黙れ黙れ。黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れだ黙ま黙れよおぉぉぉ!!!!!!!!!」

感情が、爆発する。
花音から弾け飛んだ黒い感情の流れが、一気に聖たちに襲い掛かった。
精神操作能力者が自らの力を律しきれなくなった時に発生する現象。

「やばい!すぐにここから離れないといけん!!」

その危険性を最もよく知っているのが、自らも能力を暴走させたことのある衣梨奈。
しかし、この黒い感情を自らの精神破壊で相殺するのはあまりにリスキーだ。

花音の感情の矛先は、当然のことながらその場にいるリゾナンターたちに向けられる。
対象の精神を屈服させ、思いのままに操る「隷属革命(シンデレラレボリューション)」。そのひれ伏せ
させる圧力が、天から落ちてくる途轍もない質量の大岩のように彼女たちに圧し掛かっていた。

「な、なんだよこれ!やめろよぉ!!」

感受性の高い遥が、自らの感情の乱れに戸惑い、泣き叫ぶ。
亜佑美も、聖も、衣梨奈も。なすすべもなく段々と黒い感情の渦に取り込まれていた。
そんな中、一人だけ平気な顔をしているメンバーがいた。

「いーひひひひ。こちょぱいこちょぱい」
「ま、まーちゃん!?」

まるでくすぐられているように、体を捩じらせる優樹。
自らも不快感に苛まれながらも、優樹を心配する亜佑美だったが。


「やっ…ほーたーいっ!!!!」
「あれ?」

目の前の景色が変わったことが、優樹の瞬間移動によるものだと気づいたのは、自分以外の全員が姿を消
したのを認識した少し後のこと。

「えっ?えっ?」
「やっ!ちょ、まーちゃん!?」

同じように転送された面々が、次々と姿を現す。
衣梨奈。遥。聖。そして聖に手当てを受けていた朱莉も。
予告なしに発動した能力発動に戸惑う、仲間たち。
そしてそれは、「彼女」も同様だった。

「これは、転送!? あんた、よくもあたしにそんなものを!!」

自らが優樹の「転送」によって移動させられたことに気付き、怒りを露わにする花音。
ただ、先ほどのような禍々しい感情を帯びてはいない。

「どうして…?」
「もしかして、これを狙って優樹ちゃんは」

気分転換の一つに、外の景色を見るという方法がある。
そこには視覚に刺激を与えることで、気持ちを一新させるという原理が働いている。
花音は、それを強制的にさせられたというわけだ。

もちろん、こんな方法は狙ってできるようなものではない。
ただ、ほんのわずかな景色の変化、状況の変遷が。花音の精神を闇から「ほんの少しだけ」ずらす。
彼女の心は、図らずも闇堕ちする一歩手前で踏みとどまっていた。
それでも、リゾナンターたちに対する敵意は消えていないが。


「いひひ、まーちゃん難しいこと、わかんない」
「…なるほどね。あたしを『しもべたち』から引きはがすことで無力化を狙ったわけか。でもね、そんな
の無駄。だって」

視界に入った人間すべてが、あたしの奴隷。
そう言おうとして、近くの人だかりに目をやったものの。

人が、玉蜂でも作るのではないかという勢いで一か所に集まっていた。
彼らのはるか頭上で「SEE YOU AGAIN!!」とデザインされた旗がひらひらと揺れている。
近くには、テーマパークのエリア同士を結ぶモノレールのレールが見える。
ここは、「リヒトラウム」の通用門だということは、見てすぐに理解できた。

人々は押し合い、圧し合い、人の波に揉まれ、かき分け。
我先にと外へ出ようとしている。

「…そうだ!あの炎の柱が!!」

最初はその光景を不可解な表情で見ていた亜佑美が、大きな声を上げる。
女王の城の向こうから見えた、立ち上る複数の炎の柱。あんなものを見たら、誰もがパニックに陥るはず。
だから皆、必死の形相で外へ逃げようとしているのだ。

押しのけ、服を引っ張り、引き倒す。
倒れた人を後からやって来た人が、踏みつけ超えてゆく。
首根っこを掴まれた男が激昂し、相手を殴り倒す。
自分が、自分だけが助かりたい。
群がる全ての人が、我を失っていた。


「こうしちゃいられん!えりたちもみんなの手助けするとよ!!」
「待てよ生田さん!」
「なん!?」
「何か、様子が変だ」

人だかりは、減るどころか、アーケードを駆け抜け逃げてきた人々を吸収しさらに大きくなってゆく。
なのに。その輪は縮まるどころかますます膨れ上がっていた。
なぜか。答えは、とても単純なものだった。

「出口が、塞がれてる」

遥の言葉は正確ではなかった。
出口は、確かに誰かが設置したと思しき分厚い鉄板によって塞がれていた。
ただし。一か所だけ隙間があった。それこそ、人一人が通れるくらいの隙間が。

「くそっ!あいつら、こんな恐ろしいことを狙って!!」
「ううん。もっと、恐ろしいことだよ」

施設内の放送をジャックした二人組が仕掛けた炎の罠がこんな状況を引き起こしている。
怒りを露わにする亜佑美に、聖がゆっくりと首を横に振る。
彼女が指を指した場所。

モノレールのレール。
本来なら円を描くように繋がるその軌道が。
すっぱり、綺麗に断ち切られていた。そして鋭く抉られたその切っ先は。
まっすぐに、そして狙い澄ますかのように、多くの群集が揉みくちゃになっている通用門へと向けられていた。

それが一体、何を意味するのか。
遠くで軋むレールの音が、まるで悪魔の讃美歌のように響き渡っていた。





投稿日:2015/04/10(金) 07:50:31.59 0