『リゾナンター爻(シャオ)』 44話


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四方八方を鏡に囲まれた、空間。
鏡の一枚一枚に映った糾弾者が、たった一人の犯人に一斉に視線を向けた。

「今…全てがわかりました」

春菜が、静かに言う。
そこには、いつもの弱弱しさなど微塵も見られない。

「だね。かのも今、はっきりと確信した」

そこへ続くのは香音。
戸惑うのは遥一人だ。

「なにが…わかったんだよ?」
「『金鴉』が化けてるのは…」

ほんの一瞬の、沈黙。
そして。

「くどぅー、あなたよ!」
「は?ちょ、ちょっと待てって!何でそうなるんだよ!!」

指差され、納得のいかない表情の遥。
一方妙なことをされまいと、香音と春菜が間を詰める。


「だってはるは、はるなんと一緒にいただろ!そん時に『金鴉』の野郎がべらべら喋ってたじゃんか!!」
「あのアナウンスが、予め用意されていたものだとしたら…それはアリバイにはならないよ」
「たとえその推測が当たってたとしても、そのことがはるを疑う確かな理由にはなんないだろ!ここに
いる全員が疑う対象だろ!!」

遥が、春菜と香音を交互に睨み付ける。
まるで、二人の中のどちらかこそが「金鴉」だと言わんばかりに。

「それに、これがはるが本物のはるだっていう動かぬ証拠だ!!」

そして、掲げられた右手。
手の甲には、彼女の主張と同じように、くっきりとした×印が刻まれていた。
これは、喫茶リゾナントでさゆみが後輩たちに教えた「本物と偽物の区別を付けるための」印。

「あん時道重さんが言ってたじゃん!!これさえあれば相手の『擬態』も怖くないって!!あの場所に
はるがいたってことは、この印が証明してくれるって!!!!」
「…決定的、だね」
「そうですね」

必死に無実を訴える遥だが、それを聞いていた二人は首を振る。


「何が決定的なんだよ、わかんねえよ!はる、今変な事言ったか?どうせそれもあの時の会話を盗聴さ
れてたら、とか言うつもりなんだろ!だから言ってんじゃん、そういうこと言い出したらこの場に居る
全員が…」
「違うんだよ。確かにそれもアリバイを崩す要素ではあるんだけど。でも、今現在進行中で、あなたは
致命的なミスを犯してる」

それまで汗をかき、必死に身振り手振りで否定し、涙目にまでなっていた遥が。
その時はじめて、本当の戸惑いの表情を見せる。

「な、何だよ。そんなデタラメなことで」
「あなたには聞こえないんでしょうね。この声が」

春菜と香音は、ずっと会話を交わしていた。
「遥」だけが、その会話に加わる事ができなかった。
それは、彼女たちの会話に、共鳴しあうものだけが感じることができる声が使われているから。

それが、「心の声」。

「は、はっ!そうか!それで勘違いしてんだ!違う、違うんだよ!今、はるにはその声が聞こえないん
だ!きっと『金鴉』のやつがはるに何かしたんだって!」
「確かに。だから、そうおっしゃる可能性もあるかと思って。仕掛けました」
「は?」

春菜が視線を、遥の背後に向ける。
遥の後姿が映っている鏡。その曲がり角から。


「『工藤さん』は、どうして私を正体がばれたから『逃げた』って言ったんですか?私、ずっとこんな
近くにいたのに」
「あ…」

姿を現す、さくら。
そう。彼女は、ずっと機を伺っていた。
「工藤遥」が言い逃れできなくなる、その瞬間を。

「心の声も聞こえない。千里眼も使えない。あなたは本当に『工藤さん』なんですか?」

さくらの投げかける言葉は、ついに。
偽装者の仮面を、剥がす。

「…いつから、気づいてた?」

それまで遥だった彼女が、姿を変えてゆく。
背が縮み、髪の毛が伸び、そして顔のつくりが融ける様に変化する。

「最初からです。だって、変じゃないですか。透過能力を持つ鈴木さんと、五感強化の飯窪さん。それ
に、千里眼の工藤さんが『選ばれたかのように』攫われる。まるで、犯人探しをしてくださいって言わ
んばかりに」
「…それだけで疑ってたのかよ」
「そうですね。私、ダークネスに居た頃に『永遠殺し』って人に教わったんです。『完璧な事実ほど、
疑うべき』だって」
「ちっ、あのおばちゃんが言いそうなこった」


春菜も、香音も。
最初に遥が敵の擬態である可能性をさくらに示唆された時、半信半疑の思いが強かった。
普通は、この状況で真っ先に遥を疑う判断材料を見出すことはできない。そこにはさくら独特のものの
考え方が根ざしていた。

工藤さんは、心の声を使わなかった。
大声を張り上げて自らの位置を知らせる遥に、さくらは真っ先に違和感を覚えた。
確かに心の声はそうそう連発できるものではない。大声を上げたほうが楽な場合もある。それでも。
他のメンバーが心の声を使う中、遥だけが敢えて心の声を使わない理由。さくらはその時点で、疑いを
遥に向けていた。

「小田イズム」と、半ばからかいがちに表現されるさくらの思考回路。
しかしそれが、張り巡らされた罠を打破する決定打となった。

『金鴉』が、本来の姿を取り戻す。
けれど、その表情にもう焦りの色はない。まるで策が破れたことすら想定の範囲だったかのような、そ
んな表情をしていた。

「あいぼんの言うとおりだった。やっぱり注意すべきは、新入りのお前。か」

「金鴉」の言葉を、さくらは本能的に怖れた。
正確に言えば。彼女の背後にいる人物を、だ。


さくらを除いたリゾナンターたちの情報は、既にダークネスによって存分に把握されているであろうこ
とは当人たちも承知の上。そう言った意味では、さくらは組織にとって未知なる存在。かつて手中に収
め、彼女についての研究が行われていたとは言え、今のさくらは組織にいた頃のさくらではない。能力
も変質し、そしてより人間味のある人物となった。
さくらはかつて組織の手の内にあった身ながらも、リゾナンターの「隠し玉」でもあった。

それが、今回のことでこちらの有利性は一気にひっくり返される。
「金鴉」が、いや、彼女に指示を与えた人間はそれを狙っていたのだ。

「ってことで。次のアトラクションに移動、だ」

言いながら、「金鴉」が右手を三人に翳した。

まずい。また、どこかに飛ばされる!?

身構える間もなく、抗えない力がさくらたちの身に襲い掛かる。
鏡にはもう、誰の姿も映ってはいなかった。





投稿日:2015/04/03(金) 23:58:40.83 0