『Ultima resonancia』


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【但し書き】
  • ~コールドブラッド~の二次創作的な何か
  • 原作の設定をお借りしておりますが完全に踏襲しているわけでもありません
  • ~コールドブラッド~を愛された読者の方々には不快な思いをさせるかもしれません
 前もってお詫び申し上げます
  • ~コールドブラッド~? 何それ食べたことないけど美味しいのという方も回避を推奨しておきます
  • 一応 『Regret d'agonie』 と同じ世界観を共有する話です



「二人っきりだね」

…ああ、そうやな
サイコフォース「リゾナンター」も私とさゆの二人しか残っていない
でもこの傷の具合だともうすぐさゆ一人に・・・・

…ダメだ
たとえ冗談でもこんなことを言っちゃあいけない
いまいちばん苦しいのはさゆなんだから
私なんかより辛いのはさゆの方なんだから

さゆは一連の事件の中心にいた「吸血鬼」の教育係を務めていた
一連の事件の黒幕だった中国籍の彼女と姿形が似ていたさゆは、日本の事情に疎かった彼女のことをけっこう気にかけていた
そしてなにより

さゆのいちばんの親友だった絵里が「リゾナンター」の中で最初に「吸血鬼」の毒牙に掛けられた
「吸血鬼」の「眷属」となった絵里は「リゾナンター」に牙を剥き、かつての「仲間」を手に掛けかつての「仲間」によって除去された
さゆにとって関わりの深い面々が一連の「吸血鬼」事件の犠牲者や加害者に名を連ね…いや違う


サイコフォース「リゾナンター」なんて大層な名前で呼ばれていたって実際は十人にも満たない集団だった
一人ひとりの隊員が他の誰かと何らかの関係が出来上がっていた。
疎遠な間柄だってあったけど逆にそのことがネタになってしまう。
そんな濃い関係が生まれるような時間を私たちは共有してきた
筈だった
だのに

いったい何がいけなかったんだろう
どこで間違ってしまったんだろう
上司と部下としてかなりの時間を過ごしながら「吸血鬼」の正体に気付かなかったこと?
「獣人」だった彼女が心の奥底に「人間」への憎悪と不信感を抱きながら生きていたことに気付かなかったこと?

…それともまだ絵里の消息が不明だった時点で「吸血鬼」に変貌していた場合の処分を決定してしまったこと…なんかな?

小春にはいろいろ悩まされた
配属された時から気ままだったあの子は教育係として付けたさゆを悩ませたり、他のみんなとも問題を起こした
それだけじゃなく裏付けの無い勘で動いたり、能力を悪用した性犯罪者に対して過剰な実力行使を行ったり
私が書いた始末書や進退伺の原因はほとんどあの子だ

そんなあの子を荒事の現場で目の届かない場所に置いておくのを恐れた私は編成変えまでして私と組ませた
最初の頃は捜査や除去の対象以上にあの子の動向には警戒した
でもその為に疎かになって背中から撃たれた私をあの子は守ってくれた

あの子とのコンビは李純や銭琳が「リゾナンター」に加わった時点で解消したが最後の頃はあの子のことを信頼してあの子に背中を預けていた
そしてあの子は私の信頼と期待を裏切らなかった
その逆に私があの子の背中を守ったこともある
あの子、小春は何をしたかったんだろう


もしもあの子が「人間」の世界に紛れ込んで生きるのが目的だったなら
その障害となる「リゾナンター」を解体するために潜入してきたのだとしたら
今回のような「吸血鬼」に焦点が当たるような真似をせずとも、簡単に私の寝首を掻くことが出来ただろうに
でもあの子はそうしなかった

あの子の口から真実を聞きたかった
でも仮にあの子が真実を語っていたとしても私にはその言葉が真実だと信用できなかったかもしれない


絵里は私にとってもいちばんの親友だった
私は任務を忠実に果たすことでしか自分の存在する意義を証明できないと信じて生きてきたつまらない女だった
能力者で編成された特殊部隊の班長という物々しい肩書の所為でともすれば自分が女であることを忘れてしまいがちだった
でも絵里と話している時間だけは自分が年相応の女性なんだという当たり前のことを実感できた
そんな絵里が「吸血鬼」の手によって連れ去られた時、私の心がざわつかない筈は無かった

見つける手段をどれだけ模索しただろう
「闇の眷属」に堕ちた仲間にどう対処すべきか口にするのにどれほどの逡巡があっただろう

「リゾナンター」が私一人だけだったなら
たとえ「吸血鬼」の眷属に変わり果てていたとしても絵里のことを助けたかった

でも現実には「リゾナンター」は私一人じゃない
「リゾナンター」はあくまで警察機関の部署の一つだ
上部組織があって、連絡機関があって、「吸血鬼」事件が発生した時点で九人の隊員が在籍していた
そしてこれはまだ誰にも話してなかったけど、今後何次かに渡って新人を配属していく予定があるとの内示もあった
私の一存で人類の「正義」に悖る行為を犯してしまったらいったい何人の「人間」に迷惑をかけることになる

幾度かの暴走による譴責を一身に引き受けてくれた管理官
法令的には明確にアウトな備品の便宜を図ってくれた会計課職員
市民の安全を守るため、それだけの理由で所轄の壁を越えて情報を提供してくれた捜査官たち
私たちなら「人間」をその脅威から守れると信じてくれた人たちを裏切ってしまうことが私にはどうしてもできなかった


…李純は私たちのことを裏切ってたんだろうか
彼女にとっては異国であるこの国で彼女の両親の命を奪ったのは「リゾナンター」だ
「人間」から見ればそれは不幸な行き違いがもたらした事故なのかもしれない
しかし理不尽な理由で血族の命を奪われた彼女の立場に立てば紛うことなき災厄であり禍そのものだ
もしもその禍「人間」の手によってもたらされたものなら彼女には復讐する権利がある
私刑を止める者がいるなら、その者は咎を負うべき者に裁きを与える
それが「人間」の法だ

しかし咎を負うべき者と裁きを与える者が同一であったなら
同一であったが故に法の下の裁きを免れたとしたら
彼女には復讐する権利が生まれるのが道理
でも「人間」の社会の秩序を守る為に彼女の復讐の権利は否定された

李純の両親を殺したのは私が選抜される以前の「リゾナンター」だ
私の手も私が率いた「リゾナンター」の手も彼女の両親の血で汚れてはいない
しかし私が先達の「リゾナンター」の築いた在所に立っている以上、リーダーとして負の財産も引き受ける覚悟はある
でも私以外のみんなは…

「…ちゃん、大丈夫。ごめんね私を助けようとして。なのに応急処置ぐらいしかできなくて」

そうか
自分が治癒能力を失ってしまったことを言ってるんかな
確かにさゆの能力が今も健在だったら失った左腕は戻らないまでも傷口を塞いで血も止めてくれただろうな
あるいはみんなの中にも死なずに済んだ者もおったかもしれん
でもさゆには悪いけど今の私はそこまでして生きたいとも思っとらんよ
こうして息をしていて、さゆが声をかけてくれているから死のうとは思わん
神様が生きていろというなら生きていよう
でももしも神様が許してくれるならこのまま逝ってみんなに謝りたいと思ってるし

「夜が明けたら、SATが駆けつけるから」


ああそうだっけ
警察の組織図では私たちと横並びの特殊急襲部隊も出張ってきてるんだった
能力への耐性が低い一般人で構成された SAT が敵に惑わされて私たちの足を引っ張ることのないよう付近で待機してたんや


「腕は何処? 私じゃ無理だけど外科の専門医だったらもしかして」


落とされた腕をさゆの能力でくっつけてもらったことがあったな
あん時は右腕やった
でも今度は無理やろうな
だって噛み千切られた私の左腕は李純の体内にある

“空間置換”
それが私の持っている能力
瞬間移動とか空間跳躍と思っている者もいるけど任意の空間と空間を置き換えるのが私の本当の能力
無傷で正常な状態なら二つの空間を置き換えることは比較的容易
だけど片腕を噛み千切られて正常な意識を保つのが難しい状態では置換する空間の座標を正確に認識するのは困難だった
だから認識しやすい固体である私の左腕を李純の心臓と置き換えた
血液を身体中に送り出すことが出来なくなった李純は糸の切れたマリオネットみたいに倒れて逝った

時間があればもっと違うやり方を見つけてたかもしれん
でもさゆには時間が残されていなかった
さゆが装備していた官給のブローニング25口径の装弾数は6発
私の耳が捉えた銃声は5発
用心深いさゆのことやから遊底を引いて弾薬を薬室に送り込んでから、弾倉に補充して1発余計に撃てるようにしてるやろう
それでも残り2発
その程度で李純を止めることは出来なかっただろう
だから自分の左腕を犠牲にすることに何のためらいもなかった
それにもう一度は生きていることを諦めてたし


でも…なんで私は生きているんだろう
なんでこうして生き延びてくよくよくよくよ振り返っはりできるんだろう
腕を喰い千切られた衝撃が血管を通って心臓に来て失神した
そんな私の心臓が完全に止まったかどうかなぜ確認しなかったんだろう
脈拍とか鼓動を確認するのが面倒だったんなら獣化した牙で頭蓋ごと噛み砕けばよかったのに
獣化したその爪で私の臓器を捌けばよかったのに
四足獣の力で四肢を切り離せばよかったのに


なあ李純
もしかしたらすべてを終わらせた後で蘇生させた私に「リゾナンター」の犯した罪を総括させてから命で贖わせるつもりだったんか?
それともリーダーである私には他のみんなよりも苦しみを味あわせてからあの世に送るつもりだった?
違う
私と向き合ったあんたの顔はやり場のない怒りに囚われている復讐鬼の顔じゃなかった
積年の恨みを晴らせる喜びなんか感じられんかった
あんたはわかっていた
いつかこうなることがわかっていた
こんな日が来ることがわかっていた
わかりあえるはずなんてないとわかっていながらそれでもなんとかわかりたいと願い続けていた希望が完全に消えてしまった
そんな敗残兵のような顔をあんたはしていた

ああ、まるで私とおんなじ
鏡に映っている虚像と実像
私とあんたじゃ心臓に流れてる「血」は違っていても心の奥底で思っていることはそんなに遠く離れてはいなかった
もしかして、もしかしてあんたは自分を止めて欲しかったんか


ごめんねってあんたに言った
最後の決着をつけるために姿を現したあんたに私はごめんねって言った
あん時あんたは呟いとったけど何て言ってたんや
私の耳には届かなかったけど…知りたいよ

もしもこの夜を生き延びることが出来たら

それはこんな私でも生きていろということやろう
生きていてもいいのか
大切な仲間を失っておめおめと生きていていいのか
でも、さゆがいる
さゆだけは何とか守ることが出来た
そんなさゆを一人残して逝ってしまっていいんやろうか
辛いことや面倒な後始末をさゆ一人に残して楽になってしまっていいのか

生きよう
生きなきゃ
最低でもみんなを弔ってさゆの身の振り方が決まるまでは生きていよう

でも私みたいな能力者は持って生まれた能力で社会に貢献できなければ生きていくことを許されないから
だから私は「リゾナンター」から完全に離れることは出来ん
もう現場に出ることは叶わないだろう
でも経験から得た教訓を後進に伝えることは出来る
こんな悲劇を二度と繰り返さないように
これから生まれいずる能力者の子供たちがこんなかなしみを味あわなくてもいいような
そんな世界を作ることが私ができる唯一の償いなんかな


早く夜が明ければいい
数時間前までは夜が明けて曝け出された醜い真実を突きつけられるのが怖かった
でも今は違う
どんな絶望的な真実でも受け止めて生きていくのが私に課せられた使命なんだろう


 ・・・一人になったね


小春?
今の声は小春なんか
もしかして最後の最期で「リゾナンター」を取り戻したんか?

ごめんな小春
私は一人じゃない
私はさゆを守れたんだ
歩けないさゆと片腕を失った私じゃあ、実戦では一人分の戦力にすらならんかもしれん
でも私たちは続けていく
新しい共鳴の担い手に思いを託して「リゾナンター」は続いていく

だから待っていて
あんたや李純
絵里や他のみんなに謝るのももう少し先になりそうやから


「一人になったね」


え、さゆ?
あんたまでどうしたん?



閉ざされた視界の中で私の耳が捉えたのは誰かが瓦礫を踏みしめる音
自力では立てない筈のさゆがそんな音を発する筈がない
SAT が到着したんならもっと物々しい音がする
もしかして「リゾナンター」の誰かが生き残っていたのか
それとも討ち漏らした「吸血鬼」が迫ってきているのか

「さゆ、いったい…」

「愛ちゃんが最後のリゾナンターだよ」





投稿日:2015/04/03(金) 14:11:18.68 0