■ アンチマテリアル - 鈴木香音・飯窪春奈・佐藤優樹・工藤遥X石川梨華 - ■



■ アンチマテリアル 鈴木香音・飯窪春奈・佐藤優樹・工藤遥X石川梨華 ■

「目標、ロスト…ふぅ…石川さん、引き上げたよ。」
塩辛い、工藤遥の声が白い狼の胸腔あたりから聞こえてくる。

「いや、なんにせよ、良かったよ。
こんなところで…『そいつ』をぶっ放さなくて済んで、さ。」

鈴木香音は、足元に目をやる。
空調の室外機と室外機の間、巨大な白い狼が伏している。
その隣には、佐藤優樹。
同じ姿勢のまま、静かに伏している。

静かに…
…静かすぎる。

一言も発しない、身じろぎ一つしない。
あの、佐藤優樹が、『沈黙して』いる。

眠っているのか?
いや、反対だ。
彼女は、覚醒している。
この場のだれよりも、集中している。

沈黙の原因は、彼女に与えられた役割に。
与えられた、その『武器』に。

 『PRCS-MG99RT』対物狙撃銃

装甲車すら貫通する大口径徹甲弾を、2000m先の目標にすら到達させる、死神の鎌。


「まーちゃん、終わりだよ。
よく頑張ったね、もう、大丈夫だから。」
飯窪が佐藤のふくらはぎに、ポンポンと軽く触れる。

「……スゥ…ふーーーーーーっ…」
大きく息を吐く。

「ピヒャー!ちょーきんちょうしたー!」
けらけらと笑う。
そのまま、驚くほどの手際、弾倉を外し、照準器を外し…
あっという間、巨大な死神を解体していく。

「くどぅーもスポッター、お疲れ、もう【変身】解いていいんじゃない?」
観測手の役を終えた白狼にも声をかける。
「ああ、そうすっかな。」
のそりと起き上がる。

「いや、それにしても…この距離で、よく細かい位置関係まで把握できるもんだね。」
鈴木香音は額に手をかざし、河川の先、はるか遠方に目を凝らす。

「アタシにゃぜんぜんわかんないけど。」

「ま、ハルも最初はビビったもんすよ。」

冷気が立ち込め、白い霧の中から、びしょ濡れの工藤が現れる。


「いちおう、スコープも測距儀も用意してあったんすけどね、裸眼のほうがよくわかるっつう…
ただなんか色の感じ方がいつもと違うのが、ん裸眼?いや『狼』の頭だから…」
「あは、そこどっちでもいいわ」
「まとにかく、『狼』の頭で見るときは、すげー遠くまで、はっきり見えるんす。」
「ほー、犬科ってあんま視力いいイメージないけど、『狼』だからかね?」
「さぁハルも知らないっす。」
「すっごいね!せんびきがんだね!」
「千匹?千里眼でしょ?それ。」
「そう!せんびきがん!」
「いやだから千里…ま、いっか…」

すべては想定されていた。

逃走中の会話、『トラック』という単語。
都内いたるところ、彼女たちは移動可能な『武器庫』を用意していた。
それぞれ、明確な意図をもって厳選され、整備された装備。

「石川さんの【念動力】にも、限界はあるのよ。」

新垣の教え。
石川梨華に通常の小火器は通用しない。
だが、例えばどうだ、重機関銃のような、大口径弾なら。
もっと強力な、徹甲弾なら。

鞘師と石田の連携、大太刀による、白兵。
佐藤と工藤の連携、徹甲弾による、狙撃。

そう、最初から勝敗は決していた。
石川梨華には、万に一つも、勝ち目は無かったのだ。


――――

「あーあーあー、ズタボロだったね…」
「あ?ああ…」

「で、どうすんの?」
「なにが?」

「やる?」
「別にいいっしょ。」

「そだね、いいね別に。」
「めんどくせー。」

「オバさんには?」
「知らねー。」

「怒ると思う?」
「…さあね…まあ…出したくて出した命令ってわけじゃねーだろうよ…」

「くくく…優しいんだー。」
「…ばかじゃねーの…」

「ねぇデザートは?」
「あん?」

「けっこう食べ応えありそうだったよ、あの二人。」
「あーパス…めんどくせー…どうせ邪魔が入る。」


「あっちの奴ら?じゃああっちから先に?」
「遠いだろ、めんどくせー。」

「そか、じゃあ、やめとく?」
「ああ、引き揚げだ」



―――でも、あたしはチョット、興味、あるかも?



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投稿日:2015/03/18(水) 10:58:49.18 0























最終更新:2015年03月19日 02:05