『Vanish!Ⅲ ~password is 0~』(7)


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数年ぶりに現れたにもかかわらず、その外見は驚くほど最後のときと変わっていなかった
伸びた髪の毛と染め上げた毛色を除けば、そう、時が止まっているかのようだった

「愛ちゃん!!」「高橋さん!!」
仲間達の驚きの声に対して、当の本人は、ただ笑みを浮かべるのみ
店内を懐かしげに眺め終え、ようやく「久しぶりやね」と新垣の肩に手を置こうとするが、新垣はその手を払いのけた
「久しぶりじゃないよ!!いったいどこに行っていたのよ!!
 愛ちゃんが突然いなくなって、どれだけ私達が混乱したのかわかっているの?」
肩を組まれた相方にいきなり怒られ目を丸くする高橋だったが、すぐさま笑い直した
「アヒャヒャヒャ、ごめんごめん、ガキさん。でも、なんとかなってるじゃない
 確かに、勝手に飛び出したのは悪いとは思ってるよ、ガキさんにも相談しなかったからね
 でも、あっしにもやることがあったがし。ガキさんがいま、動いているように、私もね、『あのこと』について」
「!! 愛ちゃん、それはこの場では!!」

「それにしても、れいな・・・ちょっと健康的になった?」
「れーなの好きなことできることになったし、しっかりと食べるようになったからっちゃろ」
「あっひゃーあんた、やっぱ化けもんやわ!全然かわってないって、魔法みたい!!」

「愛佳、元気そうだね」
「ええ、何とかって感じですね。この足が動けばって感じですけど」
「愛佳には申し訳ないことをしたって思っている。もっと私達が愛佳のことを守れれば」
「いえ、愛ちゃんには十分すぎる程守っていただいたので、これは愛佳自身の問題です」

「ジュンジュンは・・・変わらない」
「いや、ソウでもナイ。色々経験してるダ」
「・・・それは」
「ソッチもダ」

「リンリン!ずいぶん大人っぽくなったね!!」
「20歳も越えましたカラネ!!見た目だけではナイデスヨ。愛ちゃん、あとでお手合わせ願いマス!!」
「あーそれはちょっと勘弁で」


そして、ひときわ暗い表情の人物を浮かべた現リゾナントのリーダーの元へ椅子を持ち寄り、目線の高さを合わせて座り込んだ
「さゆ」
「・・・愛ちゃん」
「大丈夫、えりはきっと戻ってくる。泣き顔、可愛くないよ
さゆが今のリゾナンターのリーダーやろ?リーダーが凹んでいたら誰もついてきてくれない」
そして、最後に耳元で道重に聴こえないように何かを呟いた
道重は慌てて高橋の瞳を覗き込み、高橋は笑ってみせ、肩をぽん、と叩いた

「・・・それで愛ちゃんもカメを助けに来たんでしょ?」
「えり?ああ、そうやった、うん、えりをどうにかしてあげたいって思ったんだった
 久しぶりにみんなにあったからうれしくなって忘れるところやった」
振り返った高橋は無邪気な笑顔であり、それをみて新垣は頭痛を感じてしまう
「はあ・・・またか」

「・・・あの方が『高橋愛』さんですか?」
「ああ、そっか小田ちゃんは高橋さんに会うの初めてなんですよね?
 そういう私も数回しかお会いしたことはないんですがね。ジュンジュンさん、リンリンさんとは初めてですし」
小田がじっくりと新垣と夫婦漫才を始めた高橋を観察するが、意図せず冷や汗をかいていた
(・・・この人、こんな状態でも常に四方を警戒している。隙が無い)
新垣の頭をばしばし叩いて一人で笑っている、にも関わらずだ

「それで愛ちゃん、えりを助けたいっちゃけど、知恵を貸してくれんと?」
いつの間にかキッチンからポットを持ってきて、ホットココアをマグカップに注いでいる
「何かいい方法ないかなって色々考えたっちゃけど、ほら、れーなもともとそーいうこと、苦手やん
 昔やってガキさんとか愛佳に任せとったけん。拳で交わす、なんて通じそうもなさそうやし
 そりゃ、できることならえりを傷つけたくないっちゃけど、れーなにはわからん」
新垣に緑色、高橋に黄色のマグカップを渡しながら「どうすればいいと?」と口に出さずに問いかけた
田中からココアを受け取りながら、新垣は眉に皺を寄せた
「簡単に答えが出るなら、とっくに私と愛佳で動いているわよ・・・あ、田中っちありがと」
「いいえ~どういたしまして」


でも田中さん、と会話に割り込むように光井が暗い声で輪に加わる
「愛佳と新垣さん、一晩考えたんですわ、どうしたら亀井さんに傷を負わすことなく、正気を取り戻させるか
 せやけど、実際にあの亀井さんをみて思ったんは策を練っても巧くいく保証なんてあらへんっちゅうことでした
 だから、力ずくでまずは『亀井さんを捕える』ことしか思いつきませんでした、恥ずかしいことですけど」
「ま、そういうことだね。田中っち、簡単にはいかないね」
「ふ~ん、まあ、あんな死んだような目の絵里、頭使ってなんとかできるそんな気もれーなしなかったけん、驚かんけどね」

「なんか光井さんらしくないんだろうね、あんな不安定なこと言うなんて
さっきの高橋さんも何て言っているのか聴こえなかったし。あ~あ、私が超聴力の持ち主だったらな~」
「私にも聴こえませんでした。根拠のないことをしようとするなんて、らしくない」
光井本人に聴こえないように鈴木と石田は小さな声で『先輩』たちの会話に耳を傾ける
「里保の刀をさばく風、リンリンさんの体術を余裕でさばく身体能力、詐術師を消す消失の力、確かにチートっちゃね」
「チートって生田さん、まるでゲームみたいな表現ですね」
「あながち間違っとうないやろ?どうすればええか、策を練る、それって攻略法の一つやけん」

鞘師は仲間達の輪に加わらず、ただ沈黙を保つ。それは道重の一挙一動を逃さまいとするため
高橋が道重に囁いたその唇の動きから読み解こうとしたが、不運にもすべては説き切れなかった
とはいえ、一部は見えてしまい、その動きは・・・
(覚悟?)
そう言っているようにみえて仕方がなかったので、気が気ではない

何を覚悟しなくてはならないのか、亀井を救うことに覚悟がいる、ということなのであろうか
それならば・・・命を賭する必要がある、それを意味するのか?
それを今の頼れるリーダーであった、道重に鞘師達は求めてよいのか、泣き崩れている彼女に


いつの間にか田中と新垣、光井による今後の『作戦会議』も進んでいたようだ
ジュンジュンとリンリンは初めて会った後輩達が気になるようで、一向に会議には入ろうとしない
それがかつてのリゾナンターのあり方だったのかもしれないが、現リゾナンター達は知ることはない

「・・・それで愛ちゃんはどうしたらいいと思う?」
「う~ん、わかんない!」
「はあ!?」
新垣が大声をあげても、高橋は、いや、だってさ、とマイペースのままだ
「絵里があんな風に暴れているのをみて、絵里自身の思いがあるなんて到底思えないんだもん
 きっとジュンジュンが言ったように、絵里の時は止まったまま、体だけが動いているんだよ」
「・・・愛ちゃん、どこから私達のことみてたの?」
「え?佐藤があの工場にみんなを跳ばしたところから」
「そんな前から見てるのに、なんで助けてくれないのよ!私、腕吹き飛ばされたんだよ」
「ガキさんならそれくらいなんってことないと思ったし、さゆもいるから大丈夫だよ」

腕を吹き飛ばされた、それを「それくらい」と表現する高橋の発言を聞き、工藤の喉がごくりと動く
(この人はいったい、どんな道を進んできたんだ?)

「いま、できるのは絵里の動きを止めることじゃないと思う
 あの体とダークネスが操り人形のように動かしている。でも心は絵里のもの
 あの『絵里』は心と体が一体化していない不安定な存在だと思う。
 もし無理やりにでも捕えてしまったならば、心の居場所がなくなってしまうと思う
 ただでさえ『時』を止められている絵里の心は不安定なはず。もしかしたらあの行動も見えているのかもしれない
 そんな絵里の心をこれ以上傷つけたら、もう元には戻せないかもしれない」
「・・・それならばどうすれば」
「簡単なことだよ。絵里が自分で自分を取り戻せばいい」

自分で自分を取り戻す、簡単なこと、と高橋は言ったが誰もが思った
それができれば苦労しないのに、と
仲間達の顔を見ても、技を受けても、凍り付いたびくともしない、あの心にどうやったら傷つけることなく記憶を蘇らせようか


「愛ちゃん、簡単に言うけどそれができたら苦労しないって」
新垣が思わず弱気を漏らすが、高橋は気にする様子もなく急に立ち上がった
「愛ちゃんどうしたと?」
「ん?さゆが疲れてるみたいだから、二階に連れて行こうと思って」
話の途中でまた勝手な行動をしようとする高橋に新垣はまた大声をあげそうになったが、道重の顔を見て留まった
「そ、そうだね。手伝うよ」

しかし高橋は「ガキさんはいいよ。鞘師!!手伝って」と鞘師の名前を呼んだ
「え?は、はい」
「鞘師、左肩支えてあげてね」
そういい、右腕を自身の肩に回し、座り込む道重を立ち上がらせた
階段をのぼりながら高橋が、「あ、そうだ」と首だけを振り向き新垣に笑って見せた
「あっしは上でさゆの看病してるから、作戦はガキさんに任せるからね」
「ちょっと!嘘でしょ?愛ちゃん?」
「じゃあね、里沙ちゃん、よろしく♪」
「・・・」

唖然とする新垣
それと対照的に田中は「愛ちゃんらしいっちゃね」と表情を変えず、ゆっくりと立ち上がった
「田中さん、急に立ち上がってどないしましたん?」
「え?だって愛ちゃんが『作戦はガキさんに任せた』いうけん、れーなも帰る」
新垣の「はあ?」という声をかき消すように、佐藤が「えーたなさたん、帰るのやだ~」とれいなの前に瞬間移動で飛び込んだ
「まさ、もっともっとたなさたんと話す!」

「ちょっと、まーちゃん、田中さんだっていろいろあるんだから、離れろって!」
「やだ、まさは大好きなたなさたんといるの」
「だめだって」
「ヤダ!!!!」


子供のけんかを繰り返す二人だったが、れいながにかっと笑い、二人の肩に手を置いた
「佐藤、工藤、喧嘩はやめると。ま、喧嘩と言ってもかわいいもんやけどね
 ねえ、愛佳、この二人、今日はれーなが送って行ってもいいと?
 もう遅い時間やけん、家まで送り届けると」
佐藤の「まさ、子供じゃないもん」という反論と工藤の「なんで私まで?」という表情のコントラスト
「え、ええ、田中さんがええんならお願いしますわ」
「よし、佐藤、工藤、帰るとよ」
元気に「おやすみなさやし~」とあいさつする佐藤と「おやすみなさい」と丁寧な工藤を連れて田中は去って行った
「ほ、ほんとうに帰るんだ・・・・」
田中にまとわりつくように歩く佐藤の後姿を見て石田はあきれ顔を浮かべた
「新垣さんに任せる、っておっしゃった高橋さんの言葉を信じて帰る田中さんも田中さんですけど・・・
 そんなに高橋さんのことを信じているんですね」

「まったく、愛ちゃんも田中っちも私に任せる、なんて、もう・・・
 ああ、疲れた!!いろいろあったし、愛佳、悪いけど、私ももう帰らせてもらうからね」
半ばやさぐれ状態で新垣がコートを羽織る
「ええ~~新垣さん、帰っちゃうんですかぁぁぁ?」
ここにもまた一名、疲れさせる天才がいることを思い出し、新垣は軽い眩暈を感じた
「せっかく、こうやってお会いできたんだから、もっとお話ししましょうよ」
「・・・生田、うざい」
「またまた~それは愛情の裏返しってやつですね~」
そんな生田を無視するように一人、店を出ようとする新垣だが、当然のように生田もついてくる

「ちょっと、えりぽん、何してるの?新垣さんが疲れちゃうでしょ!」
「ええ~だったらえりが~送って差し上げますよ~」
「・・・いらないから」
そういいながらも帰ろうとする新垣、それを追う生田、それを追う譜久村という奇妙な構図のまま3人の姿は小さくなっていく


「結局、フクちゃんも新垣さんの邪魔になっているんだろうね」
鈴木が残ったコーヒーを飲みながら半笑いでいると、光井も立ち上がった
「まあ、今日はなんやかんやあったわけやし、みんな、疲れたやろ?
 これで今日は解散ってことにせえへん?」
リンリンとジュンジュンに同意を求めるように顔を向けた
「そうデスネ、色々あって、ジュンジュン疲れた。休みたい」
「リンリンも久々に日本を楽しみたいデスネ」
すでにバナナを1房近く食べているジュンジュンは眠そうに、あくびをかみ殺している

「決まりやな、ほな、あんたらも帰りや」
「え・・・あの、光井さん、ちょっとだけ相談に乗ってもらっていいですか?」
「なんや鈴木?また相談?・・・まあ、愛佳でなんかでよければ話くらいは聴いてもええけど」
そう言って、浮かべてカバンを手にし、帰る準備を整え、コートを羽織った
「ほな、鈴木行くで」
身支度を整えた光井に飯窪が遠慮がちに「・・・光井さん、私もいいですか?」と伺いを立てた
「なんや飯窪、あんたもあるんか?」
「はい、お邪魔でしょうか?」
表情は不安げな飯窪に光井は「そんなことあらへん。ま、あってもおかしくないやろと思ってたんや」と返した

光井達を見送った後、リンリンが椅子に座っている小田の真正面の席に座った
「さて、これでミンナ帰っタ。ここからはリンリン達の時間デス
 ダークネスにより作られた能力者、小田さくらダナ」
「・・・はい」
「これから、私と一緒にキテもらおう。それはリゾナンターとしてではなくて、万千吏、リンリンとしてのお願いダ」
「・・・拒否権は」
「ナイ。そして、中国式のもてなし方というものをさせてモラウ」
小田は下を向き、一息ため息をついた
「・・・仕方ありませんね。素直に応じさせていただきます」
「やけに素直ダナ」
「・・・いけませんか?」


「そして、ジュンジュンは石田ちゃんをもてなしさせてモラウ」
「!! なんでだ!!」
「だって、石田ちゃん、かわいいカラナ」
「やめろ!変態!!」
大声を上げる石田と笑顔のジュンジュン、お互い真剣な小田とリンリン
焦り、思わずリオンを出しかける石田に対して小田が「何してるんですか?」といわんばかりに視線を向ける
「ジュンジュン、冗談いってるだけダ」
それを聞いて安心した石田だったが、小田は唇を尖らせた
「・・・冗談、なのですね。本気でもよかったのに」

にぎやかな夜は過ぎていく
田中にじゃれつく佐藤、新垣に纏わりつく生田、光井に相談を持ち掛ける飯窪、中国史のもてなしを受ける小田
リゾナントの二階では鞘師が寝込んだ道重に付き添い、時折冷えたタオルで額を冷やす
高橋はそんな様子を見ながら、時折、鞘師に問いかけ、鞘師は静かに答えを返す
深夜3時も過ぎたころ、道重が体を起こしたのをきっかけとし、3人は語り合い始めることとなる

★★★★★★

「・・・」
亀井は転送装置を使い、ダークネスの本部に戻ってきた
リンリンの炎で、新垣のワイヤーで召物はぼろぼろだが、気にする様子もない
無表情
無機質な表情
ただただ、歩き続け、与えられた部屋、単なる休憩室に戻り、眠り始める
夢などみない、みれない、夢の中で彼女は寝る、そしてその中で眠り、さらに眠り・・
眠って、眠って、眠って・・・
そして幾重の夢の中でようやく、彼女は笑う





投稿日:2015/02/02(月) 06:55:12.15 0