■ レージフォックス -田中れいな- ■


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■ レージフォックス -田中れいな- ■

それは【能力】によって、成し遂げられた。

『きつね』の言った通りだった。
田中は本来、『弱い』のである。
その身体能力は最大限高く見積もっても『普通』。
ただの普通の女性にすぎない。

だが、そこにひとたび、彼女の【能力】が加わるならば、たちどころ、
常人ならざるパワーとスピード、反射神経を獲得する。

かつて鞘師が田中に感じていた、戦闘能力の高さに見合わぬ『怖くなさ』とは、
すなわちこの『素の状態の田中』を、
直感的に看破していたからかもしれない。

狡猾さなど育たぬはずだ。
田中にとっての戦闘術とは、
見えたものを追い、見えたものを避け、見えたものを殴る。
ただそれだけで事足りたのだ。

単純で直線的。
ただそれだけで事足りたのだ。

【増幅(アンプリフィケーション;amplification)】

己の肉体の機能を増幅させる。
かつて高橋と出会う前までの、元々の【能力】。
田中れいな、その本来の【能力】。
その蹴りの一撃は【増幅】によって、数倍の威力となった。


「ぎゃふっ!」
テグスによって身動きできぬ田中が、背中から地面へと落下する。

【増幅】によって、その蹴りの威力は高められた、だが。

だが、この状況は【増幅】のみで成し遂げられたものか?

否。

田中は身動き出来ないのだ。
体の自由を奪われ、地面に転がったままで、
なぜ空中にいた?なぜ蹴りを叩き込めた?

「『こんなんいらん』ゆって、一回つっかえしよったけど、
やっぱりさゆ達の言う事聞いとって正解やったと」

その右手に小さな紙片。
そう、これは、
【能力複写】によって作られた紙片、
そこに込められていたのは…

石田の【空間跳躍】


そう、それは【能力】によって、成し遂げられたのだ。

顔面に両足による蹴りの一撃を受け、『きつね』が、
頭からゆっくりと地面へ倒れ伏す。

「・・・」

その光景を『うま』と『ごりら』がぽかーんと眺めている。
何が起こったのかわからない。

蹴りの衝撃で『きつね』のお面が、ぐしゃりとつぶれ、顔から剥がれ落ちる。
落下したお面が、二人の足元に転がってくる。

「あっ…りな…」
『ごりら』が何事か言いかけ慌てて口を抑える。

「…はっ!ああっ!」
その声に『うま』も声を上げる。
ようやく、理解が追いつく。
事態を把握する。

「きっ『きつね』!しっかり!」
『うま』と『ごりら』が、倒れた『きつね』に駆け寄る。
「ねぇ!ちょっと!大丈夫?ねぇって!」


仰向けに転がる田中がその光景を眺める。
「でも、やっぱさゆの言う事、全部きいとったらよかった。」
もはや、ここまで。
「石田の、一枚だけしか、もっとらんっちゃ…」

一枚じゃ何かあったとき足りないかもしれないでしょ?って
その通りやん、さゆの心配性、もう笑えんけん。

「うっ…」

『きつね』が息を吹き返す。
なん?もう気がついたと?早くない?
どんだけ頑丈ったい。
さて、どうする?こんあとどうやってガキさんとこ行く?

「ほっ…ちょっと!鼻血すごいよ!大丈夫?」
「うるさいっ!大丈夫だよっ!」

心配する『うま』の手を振りほどく『きつね』。

フラフラと立ち上がるも、よろけて膝をつく。
脚に来ている。

「…てっめ…田中ぁ…」

お面は飛んでしまっている。
が、夜の帳のせいか、その顔は田中には見えない。

「…はっ!ちょっと『きつね』まって!だめだよ!」
何かを感じ取った『うま』が『きつね』を制止する。


「…」

『きつね』は答えない。

「ねぇ!もうてっしゅーでしょ?ほら、いこうよ!」
「…」

無視。

「だめだよ!田中さんは!『でれ』さんの計画では…」
「先、撤収しなよ…」
「は?」
「『ごりら』の時間は、もう切れる…『あたしのやつ』で撤収したほうがいい」
「うん、そうしよう…いや待って、先ってなに?『きつね』どうすんの?」
「あたしは田中さんをしばらく足止めして、それから行く…」
「いやいや!意味わかんないって!それいらないでしょ?一緒に消えれば…」
「嫌い」
「は?」
「…なんでもないよ…ほら」

『きつね』が右手を肩の高さに上げる。
「いやいやいや!だめだよ!まだっ!」
「…はやく行けっての」
「ちょっと!落ち着きなって!なんか変だよ!計画ではっ…」

 はー! やー! くー!

「ひっ!」

夕闇を『きつね』の怒号が切り裂く。
そして、長い、沈黙。


「…『ごりら』、先行って…」
「…う、うん…」

差し出された右手に『ごりら』が左を合わせる。

ぺちん。

瞬間その姿が掻き消える。
いや、消えた?のか?
田中には、その瞬間が、わからなかった。

確かに消えた。
おそらく『きつね』の右手に左手を合わせたときにだろう。
だが、それは…その瞬間は『いつ』だった?

「『うま』行って……行って。」
「じ…じゃあ、行くけど…無茶はっ、なしっ、だかんね?」
「うん」

『うま』の少女が消える。
またしても、その瞬間は、わからずに。

「その『消えようやつ』が、アンタの【能力】か」

田中れいなが、立ち上がる。
謎の粘着性を失い、ゆるんだテグスが、パラパラと落ちていく。

『きつね』は、答えない。
表情は、わからない。
ただ、こちらを向いたまま、動かない。


「ふん、しゃべらんか…べつにかまわんと…ただし」

消えよう相手か、やっかいやね、でも…

首を回し、腕を抱えて肩を伸ばす。
ざん、腰を落とす。

【増幅(アンプリフィケーション;amplification)】

パワーとスピード、反射神経、そして、
視力が、聴覚が、嗅覚が、皮膚感覚が…
田中のあらゆる感覚が研ぎ澄まされていく。

「ただし、アンタは打っ倒す…
そんで、ガキさんどこやったか、そっちは全部、しゃべってもらうけん」



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投稿日:2015/01/24(土) 20:27:42.36 0