『リゾナンター爻(シャオ)』 28話


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。




リヒトラウムに入園してすぐのところに、ショッピングモールが広がっている。
リゾナンターのおしゃれ番長こと衣梨奈と春菜は、ショッピングの真っ最中だ。

とは言え、仲良く二人でお買いものというわけでもなく。
衣梨奈は既に、単独行動。グッズのあれやこれやをカゴに詰めている。

はぁ…新垣さんと一緒に行きたかったなあ…

リヒトラウム行きが決まった時、衣梨奈は真っ先に里沙に電話をしたのだが。
忙しいのか、電話がまるで繋がらない。そもそも、プラチナチケットと名高いリヒトラウムの入場チケットが
そう簡単に手に入るわけがないのだが。

やや沈み込む気持ちも、目ざとく発見した豹柄グッズを見るや否や。
人だかりをかき分けるようにグッズコーナーに突入してゆく。

そんな衣梨奈の姿を遠目で見ているものがあった。
何てことはない。同行者のはずの春菜だ。


生田さんは買い物する時は面倒やけん、ばらばらでよかろ? とか言ってたけど。

春菜は、遊園地に入った時からずっと警戒を緩めていなかった。
何せこれだけの巨大なテーマパークだ。この中で物騒なことをしようなどという輩はそうはいないだろう。
それでも、一抹の不安はぬぐえない。入園した時の、聖の表情を見て確信した。
自分より年下だけれど、先輩でもある彼女は既に身構えていたのだ。

グループの攻撃の要だったれいなが抜け、リゾナンターは新しい体制になった。
そして新たに聖と春菜が、「サブリーダー」として任命された。春菜は、かつてサブリーダーだった里沙のこ
とを思い出す。
リーダーの愛を支え、盾となり、時にはリーダー不在時の代行として指導力を発揮していた姿をは、今でも春
菜の心に焼き付いている。
重責だ。自分にはとてもではないが務まらない。
だが、そんな弱音を吐いている暇などない。ダークネスという脅威は常にリゾナンターの近くにあるのだから。
ダークネスだけではない。先日亜佑美とさくらが襲われたように、リゾナンターを倒して名を上げようとする
輩などいくらでもいる。

春菜の思惑など、つゆ知らず。
大量に買い物をした衣梨奈は、カウンターで会計を済ませようとしていた。

「いらっしゃいませ。お買い上げ、誠にありがとうございます」

レジ係の少女が、やや大げさな口調でそんなことを言いながら商品にバーコードリーダーを当て始める。その
間、自分の財布を開き中身を確認する衣梨奈。いざという時ははるなんに借りればいっか。などという後先考
えない思考をしていると。


レジ打ちの少女が、こちらを見ていることに気づく。

「あの、えりの顔になんかついてると?」
「いいえ、お会計でございます」
「は?」
「お会計は…あなたのお命でございます」

身構えるよりも先に、少女の行動のほうが速かった。
カウンターを飛び越え、衣梨奈の手を後ろに固める。
さらに両脇から突如現れた二人組に両脇を抱えられ、声を出す間もなく拉致されてしまった。

尋常ならざる状況。
春菜はいち早くそのことに気づき、追いかけようとするも。

「はーい、ここから先は通しませんよ」
「な!どいてください!!」

前に立ちはだかる少女の顔を見て、春菜はぎょっとする。
何故なら、彼女の顔は。先ほどレジを打っていた少女と瓜二つだったからだ。
さらに。その少女は春菜の目の前で煙のように消えてしまう。

見失った!?

相手の衣梨奈を攫う手際のよさ。そして先ほどの姿の消え方。
相手は能力者で、自分達に敵意を持っている。
春菜はそう判断した。ならば話は早い。


五感強化。
聴覚と嗅覚を、徐々に高めてゆく。
得られた情報を統合し、春菜はカウンターの奥にある従業員室へ目を向けた。
あそこに生田さんがいる。素早くカウンターをすり抜け、扉の前で再び聴力を上げてゆく。呼吸音が、複数。
そのうちの一つは紛れも無く衣梨奈のものだった。

ゆっくりとドアノブに手をかけ、力を入れる。
ノブは抵抗無く、くるりと回った。鍵をかけていないのか。
罠か、それとも。中の衣梨奈は怪我のようなものは負ってはいない。心臓の鼓動も乱れてはいなかった。春
菜は、部屋の中に突入する事を決意した。

「生田さん、大丈夫ですか!!!」

意を決し、部屋の中に飛び込む春菜。
そして、思わず目を疑った。
OL風。ナース。劇団四季風。そして普通の格好をした少女が四人。
同じ顔。けれど、驚くべきなのはそこではなかった。

「はるなん、助けに来てくれたと!!」
「もう安心っちゃね!!」
「衣梨奈は何もされとらんよ」
「いつでも臨戦態勢やけん!!」

生田さん、いつから四つ子になったんですか。
思わずそんなボケをしてしまいそうなほどに、目の前の光景は現実味にかけていた。
同じ顔をした衣梨奈が、四人。
けれど、夢でもなんでもない。
強いて言うなら、悪夢だ。春菜は目が眩みそうになるのを堪え、不敵に笑う少女たちのほうに視線を向けて
いた。



一方、さくらと一緒に行動していた聖は。
ピラミッドを模した建物を探索するというアトラクションを楽しんでいる途中で、何者かに拉致されてしま
う。聖の前を歩いていたさくらは、当然それに気づかない。

口を塞がれ、身動きすら取れないままさくらの遠ざかる後姿を見送ることしかできない聖。
体を捩っても、見えない拘束は外れそうにもなかった。

「あなた、一体どういう…!!」

ようやく塞がれていた口が開放される。
しかし抗議した聖が見たものは。

「え?きゃああああっ!!!!!」

首から上が、馬の怪物。
まさか現代科学がここまで進歩していたとは。
恐れおののく聖に対し、馬人間は何故自分を見て悲鳴を上げているのかがわからない。

「聖ちゃん!久しぶり!!」
「ええっ?聖、馬の知り合いなんていない!!」

全力で首を振る聖。戸惑う馬人間だが、何せ馬マスク越しなのでまったくわからない。
そしてしばらくして、ようやく自分が馬のラバーマスクを被ったままだということに気がつく。


「あかりだよっ!聖ちゃん!!」
「え、え? 朱莉ちゃん!?」

馬マスクを乱暴に脱ぎ飛ばした少女の顔を見て。
少年のような短い髪。真ん丸な顔。低い鼻。富士山唇。見間違えようがなかった。

「朱莉ちゃん!!」
「聖ちゃーん!!」

感動の再会と見紛うばかりの抱擁。
聖が能力に目覚めてすぐに、送られることになった警察組織の能力者養成所。
そこには、既に能力者の卵として厳しい訓練に耐え抜いてきた少女たちがいた。
その一人が、目の前の少女 ― 竹内朱莉 ― であった。

既に大いなる力を手に入れ、精鋭然とした先輩たちと比べると、それこそ聖は「落ちこぼれ」であった。
あからさまな、そして目に見えない嫌がらせや侮蔑の視線を受け、それでも辛い訓練に耐えられたのは。
人懐っこく、いつも笑顔で接してくれた朱莉がそばにいたからだった。
自らも能力者の落ちこぼれだと語る朱莉と聖は、すぐに仲良くなる。

聖は能力制御を目的とした入所だったため、安定した制御が認められた時点で養成所を離れることとなった。
その時以来なので、実に3年ぶりの再会ということになる。

「久しぶりだねえ…朱莉ちゃん今、何やってるの?」
「今は、福田さんの下で働いてる」

懐かしさついでに何気なく聞いた言葉。
だが、瞬時に朱莉が表情を硬くしたことで、聖は気付いてしまう。


朱莉が、ここへ来た理由。

和田彩花が窮地に陥ったのを衣梨奈と春菜が救った時に、花音が悪意を持って接した話は聞いていた。
そしてその花音の名前がここで出てきたということは、どういうことになるのか。
例の養成所には、若き能力者のエリートとして花音たちが君臨していた。だから、朱莉が彼女たちとともに行
動していても不思議な話ではなかった。それにしてもだ。

「そんな、だって久しぶりに会えたのに」

思い出が、暗い色に塗り潰されてゆく。
聖が歩む道の先はいつだって。かつての旧友・佐保明梨の時もそうだった。
戦いたくないのに、戦わなければならない。

甘い、自分自身、そう思う。
今やリゾナンターのリーダーであるさゆみを補佐しなければならない立場の人間が、戦いたくないだなんて。
寧ろ、そのような難所において決断を下すのがサブリーダーの仕事ではないのか。

「福田さんの、命令なんだ。今きっと、ほかのメンバーたちも聖ちゃんの仲間の元に行ってるはず」
「……」

朱莉の顔色が明らかにすぐれないのが見てわかる。
きっと彼女自身、聖に会えた喜びで命令のことを忘れていたのだ。
それが今、険しい顔をして、何度も手のひらを握ったり開いたりしている。
覚悟を決めているのか、決めあぐねているのか。

こんな時、新垣さんならどうしてたろう。
聖は、かつてサブリーダーを務めていた先輩のことを思い出してみる。
闇と光の狭間にありながらも、愛のフォローをしつつ、グループ全体のことを見ていた彼女なら。


「ねえ、朱莉ちゃん」
「な、なに?」
「福田さんに、会わせてくれないかな。来てるんでしょ?」

自分でも意外な選択肢だと思った。
それでも、その言葉を口にした後でも、やはりその選択は理に叶っているような気がした。
まずは、花音がリゾナンターに抱いている悪意の正体を見極めなければならない。
そのためには、やはり直接本人に会って話をするしかない。

里沙が果たして同じ行動をしていたか。
たぶん、こんな選択肢は選ばなかっただろう。聖は、里沙が自分よりはるかにクレバーな決断を下していただ
ろうと想像する。
けれども。

「…わかった」

朱莉は短く、返事をする。
気のせいだろうか。聖の返事を聞いて、安心したかのようにも見えた。
何となく聖の中でもやもやしていたものは、今や確信に変わっていた。

聖の中には、彼女を疑う気持ちは微塵もなかった。
確かに3年という年月の中で、自分が知っている朱莉が変わってしまっていることだってあり得る。
けれどその不安を払拭することができたのは、今の彼女を見ても聖の中の朱莉が揺らがなかったから。
罠。策略。偽計。そういうところから最も離れた場所にいたのが、竹内朱莉という少女だった。
だから、彼女の「わかった」という言葉を信じる。

その結果がたとえ、朱莉と袂を分かつことになろうとも。





投稿日:2015/01/18(日) 01:54:53.35 ID:NMaZ52WR0 [1/4]