『リゾナンター爻(シャオ)』 27話


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「うわぁ…」

先程から、目を輝かせて天井を見上げている里保。
それを隣で見ている香音はにやにやが止まらない。

二人は今、リヒトラウムが誇る大アトラクションである「ギャラクシー」に乗るために、長蛇の列に並んで
いるところ。宇宙空間に見立てたドーム状の巨大な建物の中を、10人乗りのコースターが縦横無尽に駆け
回る。特筆すべきは、CG技術と精巧なオブジェによってまるで本当の宇宙空間にいるのではないかと思え
るほどのリアルさ。これだけの列ができるのも頷ける話だ。

ちなみに列に並んで待っている間も、真っ暗な通路の上下左右全体に宇宙空間が映し出され、瞬く星たちや
巨大な惑星、美しく流れる彗星を楽しむことができる。里保が子供のようにはしゃいでるのは、その演出の
せいでもあった。

一度剣を構えれば、他を寄せ付けない圧倒的な実力を誇る里保。
「水軍流」という歴史ある流派の担い手であるが故に、武に明け暮れる日々を送っていたのかと思いきや、
どうやらそうでもないのだという。
じいさまと遊んでいるうちに、自然と身についた。実に簡素な言葉で、里保は香音にそう教えてくれた。
遊ぶくらいで千年を超える歴史の超武術が身につくくらいなら、かのも習いたいっての。そう思わずには
いられない。


まるで珍しいものを見るかのようにずっと首をあげている、そんな彼女の姿を見ていると、嫉妬交じりの感
情も薄れていってしまう。普段は年相応の子供らしさを抑えて、無理をしているようにすら見えてしまう里
保。今のリゾナンターの攻撃の要が彼女をおいて他にいないという事実がそうさせているのだろう。
だから、こういう時くらいは素直に羽目を外していただいたほうがいいのかもしれない。まあ、香音から言
わせて貰えば、普段の里保も十分子供っぽい上にドジっ子なのだが。

というわけで、普段は滅多に見られない彼女の肩肘張らない姿を香音は楽しんでいる。
ただそれも、長くは続かなかった。

空気が、急に変わったような気がした。
香音はすぐに、それが目の前の親友のせいだと理解した。
彼女の直感は正しい。先ほどまで無邪気にはしゃいでいた里保の姿はもう、どこにもない。香音の目に映る
は、一人の剣士。

驚いているのは香音だけではなかった。
里保を一瞬にして剣士へと変えた、張本人。
勝田里奈は、右手首を押さえながら舌打ちをする。


こいつ、私のことが見えてるのか?

里奈の能力は、「隠密(ステルス)」。
能力の射程距離にあるこの通路にいる限り、彼女の姿を視認するのは不可能だ。

…まさか、殺気だけで?

推測は当たっていた。
里保は、背後から迫り来る殺気に反応し、そして腰の鞘を後ろに思い切り押し込んだのだ。
まるで見えているかのように、正確にナイフの持ち手を打ち抜こうとする鞘先。咄嗟に手を引いたからまだ
打撲で済んだものの、まともに当たっていれば手首の骨を砕かれていただろう。

それでも、里奈は余裕の笑みを見せる。
なぜなら。

「あれ。うち、何で…?」

里保は辺りを見回し、そして首を傾げる。
彼女の脳内は、彼女自身が取った行動に混乱していた。

里奈のステルス能力の真骨頂。
それは、彼女の存在だけではなく、彼女の取った行動すら、相手の脳内から消してしまうことにある。
つまり、今の里保は「なぜ自分が刀の鞘を後ろに突き出したのか」が理解できない。
これは戦いにおいて致命的とすら言えよう。


極論を言えば。
頬を切り裂かれようと。
腿を抉られようと。
そして心臓を一突きにされてもなお。
里保はなぜそうなったのか理解できないまま、死を迎えるということ。

相手がわずかな殺気に対しても鋭く反応するのはわかった。
しかし、そんなものはいくらでも対策が打てる。

里奈は心を鎮め、一歩ずつ、そして確実に里保へと近づいていった。
里保は、じわりじわりと迫る危機に、気づくことさえ許されない。



花音の放った刺客たちは、他のリゾナンターたちにも既に接触していた。

ホラーハウス仕立ての建物内を、かぼちゃ風のゴンドラで移動するアトラクション「ミッドナイトハロウィ
ン」。
お化け屋敷は絶対に嫌だ、と残留した遥と優樹。特に遥は普段の強気はどこへやら、涙目になって必死に訴
えてきたせいでたった一人でかぼちゃのゴンドラに乗る羽目になった亜佑美は。

一人しかいないはずのゴンドラで、見知らぬ少女の訪問を受けていた。

「あんた、誰よ」
「誰よって言われましても」

のんびりとした、関西のイントネーションで喋る同乗者。
薄手のセーターから、白い肌を覗かせている。おっとりした態度からは敵意は見えないが。
そもそも。亜佑美は首を振る。乗り場で乗った時は確かに一人だったのに。

「うちの能力で、みなさんがどこにいるかはすぐにわかりました。鞘師さんは、宇宙エリアに。譜久村さん
は冒険エリア、生田さんはショッピングモール…そして石田さんは、ここに」
「あたしたちの名前を知ってる…何が目的?」
「つまり、4人の要注意人物にうちらが宛がわれたってことです」
「いいから答えなさいよ!!」


問答無用。
亜佑美は即座に蒼き鉄巨人を喚び出す。丸太ほどの太い腕が、ゴンドラをまるで豆腐のように叩き潰した。
箱が拉げるその前に亜佑美はゴンドラから脱出し、軌道レールから外れる。
非常灯の明かりのおかげで完全に暗くはなっていないが、視界が悪いことには変わりない。

「ひどいわぁ。いきなり仕掛けてくるなんて」

レールから脱線しぺしゃんこになったゴンドラから、少女が這い出てくる。
見たところ、まったくの無傷。いきなり現れた経緯から予測はついていたが、やはり何らかの能力者か。

「だってあんた敵でしょ」
「まあそうなんやけど…」

身構える亜佑美の前で、刺客の少女 ― 中西香菜 ― は両手から何やら白い靄のようなものを生み出し
てゆく。
そして。

「論より証拠や。もっぺん、うちのこと殴ってみてくださいよ」
「はぁ?」

これは明らかに、挑発。
先程のようにバルクの一撃を防ぐばかりか、逆に何らかの罠を仕掛けるつもりか。
ならばこちらにも考えがある。


「カムオン、リオン!!」

打撃が効かなければ斬撃。
陽炎のように揺らめきながら現れた蒼の獅子は、大きな唸り声とともに香菜に飛びかかるが。

まるで香菜の目の前に大きな壁でもあるかのように。
リオンは大きく弾かれ、回転しながら亜佑美の前で着地する。

「結界、っちゅう奴です。あんたの操る見えざる獣の攻撃はうちには効きません」

香菜が目を細め、にぃと笑う。
嫌な奴だ。自分の優位を疑うことすらない。

「効かないかどうか…やってみないとわからないでしょ!!」

大地が揺れ、青甲冑に身を包んだ巨人が姿を現す。同時召喚。
負けず嫌いの亜佑美の心に、火が付いた。



リヒトラウムのほぼ中央に、テーマパークのシンボルとも言える建造物があった。
「シャイニーキャッスル」と呼ばれるそれは、まるで中世の城そのもの。夜ともなると、城壁に散りばめら
れた照明が輝き、文字通りの輝く城と化す。
その城門の前に、人だかりがあった。
観光客、ではあるのだが、みな一様に目の光を失っている。
彼らを侍らせているのは。

「シンデレラ、なってみるとずいぶん呆気ないものね」

花音は、嘲笑交じりに輝く城を見上げる。
城の前で多くの人間を従えている現状を、おとぎ話の姫に準えているのだ。

「さて。りなぷー、かななん、めいめい、それにタケ。あの子たちの戦い…どうなると思う?」

花音が傍らにいる女性に話しかける。
その女性は生気のない表情で、

「それはもちろん、まろ様の勝利でございます」

と機械仕掛けの人形のようにそんな台詞を口にする。
満足そうな笑みを浮かべた花音は、その女性の顔を思い切りひっ叩いた。
抵抗することなく平手打ちを受けた女性は、表情を変えることなく、同じ言葉を繰り返す。


「これだから操り人形はつまらない。てかまろって何。何か高貴な感じだから別にいいけど。私の考えは…
聞きたい? どうしようかなあ…しょうがないから特別に教えてあげる。ぶっちゃけ…五分五分ってとこかな」

現在の戦力を、最も効果的な相手にぶつけたつもりだったが。
勝負事はどうひっくり返るかわからない。その意味においての、五分五分。
もちろん花音は勝算のない戦いなどしない。矛盾しているように見えて、決してそうではない理由。

策は、いくつも講じるものだ。
自分たちを「生み出した」白衣の科学者はそう言っていた。
確かにその通りだと思う。例え予想外のことが起こったとしても。

最終的に、花音自身が勝利すればいいだけの話。

四人がそれぞれの相手をを負かしてくれればそれに越したことはないが、しくじった場合でも。
リゾナンターがこの場所まで来れば、何の問題もない。

一つだけ、気がかりなのは。
リヒトラウムの警備について。
どういう繋がりかは知らないが、このテーマパークの警備を、例の金儲けが得意な能力者集団が担当していると
いう。
もちろん多忙な連中のことだから、テーマパーク如きに割く人員など1人が関の山だろう。
ただ、それが連中の言うところの「位の高い能力者」ならば面倒だ。できればそいつとの接触は避けたい。

「さて、誰が一番に私のところに辿り着けるかな」

そう言いつつも、花音は知っていた。
誰が最初に、自分の目の前に現れるのかを。





投稿日:2015/01/10(土) 10:34:16.98 0