『呪縛』


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「道重さんとか、私っ、知らないのにっ」
顔を真っ赤にして朱音が叫ぶ。
「みんなっ、道重さん道重さんって、朱音に言うからっ!」

ああ、そうか。聖はやっと腑に落ちる。
長い間、リゾナンターたちを支えてきた、さゆみの治癒能力。
いつしかメンバーたちは、その能力は『道重さゆみのもの』であると無意識に頭に刷り込んでいた。
だから、朱音の能力も、「『道重さゆみの』治癒能力」と把握する。
そしてメンバーは、朱音の能力を、さゆみのそれと全く同じものとして見た。
朱音は、特訓をすれば、「まだまださゆには及ばんね」と言われ、
実戦で能力を使えば、「道重さんと同じくらいすごい」と言われる。
朱音は、写真くらいでしか見たことのない『道重さゆみ』の型を、無理矢理にはめられた。
先輩の話から、道重さんが、能力者としても、人間としてもすごい人なのはわかったが、その分自分がみじめになった。
 自分が必要とされるのは、道重さんの代わりだから。
 もし道重さんがここにいたら、私は必要ないのかな?
朱音は、しだいに卑屈に、そして無気力になっていった。
そして、今日、特訓室でのこと。
特訓に身が入らない朱音は、れいなに「そんなんじゃさゆみたいになれんよ!」と怒鳴られ、特訓室を飛び出してしまった。
さゆみたいにって、何で?私は、私は、
私なのに。


「そういうことだったんだね」
聖はベンチから立ち上がり、そして…頭を深々と朱音に下げた。
「え!?な、何ですか?ちょっ、やめてくださ、」
「ごめんなさい!」
迷いのない謝罪の言葉に、朱音は驚いて何も言えない。
「謝って許してもらえることじゃないけど…本当にごめんなさい!朱音ちゃんに、いっぱいいっぱい辛い思いさせて、ごめんなさい!」
朱音は戸惑った。確かに当たり散らしたのは自分だが、先輩に頭を下げられたら、どうしたらいいかわからない。
「あ、あの…」
「辛かったよね。道重さん道重さんって言われて。朱音ちゃんは、道重さんとは違う人なのにね」
被せるように続ける。
「聖たちみんな、朱音ちゃんの能力に、朱音ちゃんに甘えてた。朱音ちゃんの気持ちなんて考えないで。ごめんね。本当に本当にごめんね」
「……とりあえず、顔あげて、ください。お願いですから」
呆気にとられながら、朱音は言葉を紡ぐ。
頭を上げた聖は、まっすぐ朱音を見つめる。
「辛い思いさせて、ほんとに…」
「も、もうそれはいいですから。譜久村さんの気持ち、充分わかりました」
手を振って制すると、聖は少しほっとしたような顔でベンチに座り直した。
「………」
沈黙が続く。
「…道重さんって、そんなにすごかったんですか?」
朱音がぽつりと問う。頷く聖。
「きれいで、強くて、優しい人だった。だからいなくなっちゃって、聖たち、すっごく不安だったの。それで、朱音ちゃんに甘えちゃった。辛かったよね」
朱音はぎこちなく頷いた。嘘をついても、意味がないと思ったから。
「もう聖、道重さんみたいにって絶対言わない。みんなにも、ちゃんと朱音ちゃんの気持ち、話そうね。聖も一緒に行くから」
もう一度、ぎこちなく頷く。
「朱音ちゃんは、朱音ちゃんらしく成長していけばいいんだよ。誰の真似も、しなくていいから」
三度目の頷き。本当は声を出して返事をしたいのに、鼻の奥がつんと痛くて、言葉がでてこない。
「もう大丈夫。今まで、ごめんね」
その瞬間、朱音の中の『道重さゆみ』という恐ろしい概念が崩れ去った。


道重さんは、とってもきれいで、強くて、優しい人。
やっと朱音も、それを素直に受け入れられそうです。
でもね、道重さん。
朱音、いつか必ず、道重さんより強くて、優しくて、きれいな能力者になってみせますから!

朱音は、聖と手を繋いで、特訓室を去っていく。

ーー羽賀なら、大丈夫。
照明の落ちた特訓室に、そんな声が響いた気がした。





投稿日:2014/12/29(月) 00:39:46.85 0