『我ら、リゾサンター!第一話』



『我ら、リゾサンター!第一話』

「うぉがっ!」
「…あれ、石田さん?もしもーし、着きましたよー」
「う、いて…小田ぁ!ちょっとぐらい心配しろ!っていうか寒っ!風!寒っ!ま、窓閉めて窓!」
「もう少し静かにお願いしますね、起こしちゃいますよ」
「あー凍え死ぬかと思った…うぅさっむ」
ああ、やっぱりこの二人は賑やかだ。里保は安堵か困惑かわからない息を吐いた。
「で、小田ちゃん?プレゼント、持ってきただろうなぁ?」
「何でそんなに挑発的なんですか。ありますよ」
さくらが、白い袋からリボンのかかった箱を取り出す。
「鞘師さん、準備、大丈夫ですか?」
頷いて、枕の上の少女の顔を見やる。
無邪気な顔で眠る少女。その姿が昔の自分と重なって、里保の胸はちくりと小さく痛んだ。
ウチが『共鳴した』あの日。
あの日から、ウチの人生は一変した。
平凡に生きていたら出会わなかったはずの人と出会い、流さなかったはずの涙を流し、いくつもの記憶を作った。
きっとこの子もそう。これから、人生に無かったはずの出来事を、数え切れないほど経験していく。
…それは、この子にとって幸せなのだろうか?
「あの頃に戻りたい」後悔しているわけではないが、里保は時々そんなことを思っていた。
まだ『あの頃』にいる少女を、自分の『今』に引き込んでいいのだろうか。
辛い思いをさせることは、もうわかっている。
いっそこの子は、何も知らず、このまま…
「鞘師さん?」
さくらに声をかけられて、我にかえる。頬を一滴、雫がこぼれた。
「さ、鞘師さん!?どうしたんですか!?ハンカチ…あ、今無い…もう、こんな時に限って!」
あたふたとする亜佑美に代わってさくらが差し出してくれたハンカチを受け取り、目にそっと当てる。
涙が止まらない。
嗚咽を伴わず、不思議と涙だけが溢れてくる。
今までにない感情に、里保はただただ涙を拭うことしかできなかった。
と、頭に暖かい感触を感じる。


一度、二度、三度。暖かいそれは、里保の髪の毛を撫でるように、ゆっくりと上から下へ滑った。
それを真似るように、今度は背中にも暖かな感触が伝う。
里保には、暖かさが何であるか、すぐにわかった。
ああ、ウチは何を考えてたんだろう。
涙はいつの間にか止まっていた。ハンカチから顔を上げる。
「あ、あの、鞘師さん。すみません、ハンカチ…」
おずおずと亜佑美が口ごもる。
そんなこといいのに。里保は思わず笑みを漏らした。
「気持ちだけでいいよ。ありがと」
ハンカチをさくらに手渡して微笑む。
「さくらちゃんも、ありがとね」
ありがとう。
ハンカチよりも、何よりも。
その気持ちに。
蒼色の共鳴には似つかわしくない、暖かい気持ちに。
「石田さん、ハンカチ持ち歩いてないんですか?」
「今この格好だから!普段は持ち歩いてるっつーの!」
ああ、やっぱりこの二人は賑やかだ。里保は、息を吐く。自分の弱さを吐き出すように。
「今、」
里保が口を開くと、小さな喧騒は一瞬で消えた。
「今ね、ウチの中で、ちょっとした迷いがあったの」
「迷い…?」声を漏らすさくらに頷く。
「この子を私たちの仲間にしていいのか。辛い思いをさせるなら、いっそ何も知らない方がいいんじゃないかって」
静寂がいっそう深まる。里保は続けた。
「でもね、ウチ思い出したんだ。みんなと一緒になって、初めてもらった、色んなもの」
ウチは、忘れるところだった。
心が空っぽになるまで、仲間と笑ったこと。
仲間に頼ったり、甘えたりしてもいいこと。
幾度となく、仲間に支えてもらったこと。
さっきとは違う感情が、目頭を熱くする。
「二人のおかげでね。だから、もうウチは迷わない」
言いながら里保は、左手をさくらと繋ぎ、右手を亜佑美と繋いだ。


「繋いでいこう。ウチらの共鳴を」
「はい!」
二人の声がぴったりと揃う。
「じゃあ、プレゼント置いていきましょうか」
さくらが、プレゼント箱を枕元にそっと置く。
里保は単語カードを取り出し、箱の上にそれをかざした。自分たちの思いを、伝えるように。
改めて、少女の寝顔を見つめる。この子が、ウチらの新しい仲間。
もう、見失わないよ。
「…ふふ」
右隣から声がした。里保が見ると、…全力で笑いをこらえている亜佑美の顔が。
「あ…亜佑美、ちゃん?」
「す、すいません、この空気が…っく、くっふっふっふふ…!」
ダムが決壊したのだろう。堪えきれなくなった亜佑美は床に転げ、声を殺して笑い出した。
今にも床を叩きだしそうな笑いっぷりに、さくらと顔を見合わせて苦笑する。
「まぁ、亜佑美ちゃんは…」
「これで、いいですよね」
困っちゃうけど、まあ、いっか。
そう思えるのも、きっと大事な仲間だからだよね。
しばらくして、やっと笑いの波が収まった亜佑美が、『空間跳躍』の準備を始めた。
「亜佑美ちゃんすごいよね。二人も運べるようになったんだ」
「ま、ウチだって特訓を積んでますから!」
これぐらいはね、と言いつつ、ドヤ顔を全開にする亜佑美。
「行きはちょっと場所ミスって転んでましたけどねー」
「小田ぁ!!置いてくぞ!」
変わっていくけど、変わらない。ウチらのそんな何かも、ウチらは大切に繋いでいこう。
空間と空間の狭間で、ウチはそんなことを思った。





投稿日:2014/12/25(木) 21:31:49.17 0























最終更新:2014年12月28日 12:13