『リゾナンター爻(シャオ)』 24話


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その国は、東京湾岸地区に「突如」出現した。
もちろん、魔法を使ったかのようにいきなり出現したわけではない。
突貫工事により、僅か数ヶ月で建設、完成した夢の国。

雲の上の大陸。海底神殿。宇宙空間。はたまた中世の騎士の世界。
古今東西、ありとあらゆる伝承をモチーフとした乗り物や建物。

東京ドーム数十個分、という広大な敷地におもちゃ箱の中身を広げたようなアトラクションの数々が配備
され。夜になると瞬くイルミネーションで敷地全体が光に満ち溢れる。
知事はもとより、政界・財界があらゆる力を結集したレジャーランド。
数年後に控えた国際イベント目当てにやって来る観光客たちの目玉としての役目を与えられたその娯楽
施設は、人々からこう呼ばれた。

「リヒトラウム(夢の光)」と。



喫茶リゾナント。
この日は土曜日ということもあり、珍しくメンバー全員が店に集まっていた。
そんな中発せられた、複数の嬌声。
原因は、輪の中心にいる少女が持っているチケットだった。

「こ、これってリヒトラウムの入園チケットじゃん!!」

今にも白目を剥いて気絶しそうな顔をして、亜佑美が叫ぶ。
それも無理はない。開園前から半年先まで予約分だけでチケットは入手不可。ある意味プラチナチケット
に近い入場券を。優樹が持っていたからだ。それも、複数枚。

「どうしたんですか佐藤さん、これ」

そう訪ねるのは、さくら。
確かに一介の女子中学生が持っているにしては過ぎた代物だが。

「イヒヒヒヒ、商店街のー、お姉さんが話しかけてきてー、くじ引きで当たっちゃった」
「お姉さんのくだりはいらねーじゃん」

遥の突っ込みが冴え渡る中、どうやら優樹が商店街のくじ引きでその手にしたものを引き当てたというこ
とは全員が理解した。

「じゃあさ、みんなでリヒトラウム行こうよ!!」

香音の提案に、店内が一気にざわめく。
学校と喫茶店の往復が生活の大半を占める中、リヒトラウムのような大型施設に遊びに行くなどというイ
ベント、色めき立たないわけがない。


「でもさ、それって何枚あると?」
「えーと、いち、にい、さん…きゅうまい!!」
「…9枚じゃうちら全員は行けんやん」

そんな衣梨奈の一言に、メンバーたちに落胆の色が広がってしまう。
メンバーは10人、チケットは9枚。必然的に、1人行けない人間が出てくる。

「あ、じゃあさゆみいいよ。みんなで行ってきな」

そう言ったのはカウンターで洗い物をしていた、リゾナントの頼もしき店主。
しかしそれで収まらないのがリーダーを敬愛する後輩たちの性だ。

「あっあの!私行かないんで、道重さん行ってください!!」
「鞘師さん!?」
「だって道重さんがいないうちらなんて、何か考えられないし、だったらうちが我慢して道重さんに行っ
てもらったほうが…」
「りほりほ行かないの?じゃあさゆみと一緒にご飯でも食べにいく?」
「え!!」
「あーっ、またみにしげさん鞘師さんばっかり!もうきらーい!!」
「やったら、もう一枚ゲットすればいいと」
「でも言うなればプラチナチケットですから、そんなに簡単には手に入らないと思いますよ」

チケットが足りないという事実に考え込む一同。

「もう一枚『作ればいい』けん、みずきお願い!」
「わたしそんな能力持ってないよー」
「わかった!まさがみにしげさんをリヒトラウムの中にテレポートして…」
「それは難しいだろうね。中でもきっとチケットの提示を求められるし」

ついには能力による禁じ手まで飛び出す始末。
これにはさしものリーダーも眉を顰めざるを得ない。


「あのね。前から言ってるでしょ。さゆみたちの能力は、そういう不正なことに使うべきじゃないって。
気持ちはうれしいけどね」
「でもそれじゃ道重さんが」
「別に今日が地球最後の日ってわけでもないんだし。みんなとはいつでも行けるから。そうだ、今日は今
のところ予定も無いしみんなで行って来たら?」

そこで、聖がはっとした顔になる。
一つの危険性について、思いが至ったからだ。

「でも、もし敵襲があったら…」
「確かに、そうですね」

春菜も聖の意見に頷く。
もしもさゆみが一人であることを狙って敵襲があったら。
そもそも、優樹がこのチケットを持ってきたのは敵の罠なのではないか。

そう思い聖がチケットの一つに手を触れる。
接触感応。チケットを通じ起こった出来事を読み取る。商店街を歩いている優樹。スーパーでお菓子を買
い、くじ引き券で抽選機を回し…
敵の罠というのは考えすぎのようだったが、それでもさゆみが一人になるというのは決して望ましい状況
ではない。

「さゆみなら大丈夫。だってさゆみには、『お姉ちゃん』がいるから」

言いながら、自らを指すさゆみ。
確かに、ダークネスの幹部クラスと互角に渡り合える「彼女」なら心配はいらないのかもしれない。しか
も今は「彼女」をさゆみの意思で自在に呼び出せる。


「じゃあ、お言葉に甘えて…遊びに行っちゃって、いいですか?」

遠慮がちにさゆみに視線を移す亜佑美。
その後ろで期待を隠し切れない顔をしている遥。
そして彼女たちの反応を見るまでもなく、当然のことに頷くさゆみ。

「いやったぁ!!!!!」

優樹をはじめとして、喜びを体で表現するメンバーたち。
その一方で、本当にいいのか、と表情を曇らすものもいた。

「道重さん…本当にいいんですか?」

降って湧いたような突然のイベント。
里保も、本当は某オーバーオールの髭親父のように天高くジャンプしたいくらい嬉しい。が。
本当にさゆみを一人置いていっていいものだろうか。

「りほりほ、さゆみが一緒じゃないから寂しいの? いつもは拒否してるくせに」
「いやっそのっそんなことは断じてないんですけど!ってこれは拒否してるってことの否定で、最初のほ
うのはそのあの」

突然妙なことを振られたものだから、里保はしどろもどろになり、消え入るような語尾で否定することし
かできない。

「逆に私たちのほうが狙われるって、可能性もありますよね?」

そんなことを言い出したのは、普段から独特の視点を持つさくらだ。


「確かに」
「でも、それを敢えて送り出すってことは。道重さんも私たちのことを信頼してのことだと思うんですけど」

さくらの柔らかいけれどしっかりとした主張に耳を傾ける面々。
そこでようやく里保も不安が緩んだのか、

「わかりました。でも、道重さんの身に何か起こるようなことがあったら…いつでも駆けつけますから」

と自分達に寄せているだろう信頼に応えるように、そう言い切った。
さゆみはありがとう、とだけ口にして目を細める。

本当に頼もしい後輩たちに成長した。
最初に喫茶リゾナントのドアベルを鳴らした時には、か弱い子供ばかりだったのに。
里保にしても、当初の何でも自分で背負い込もうとする身の堅さは徐々にだが取れて言っているように思
えた。それでもさゆみから言わせれば「まだまだ気負い過ぎている」のではあるが。

「でも」

そんなところに、聖が思い直したように言う。

「一応、高橋さんや新垣さんに状況だけは説明したほうがいいと思います。あと光井さんにも」
「そうだね。ありがとフクちゃん」

心配症とも言えるが、こういう時の聖の気配りはさしものさゆみも感心してしまう。
もし自分が何らかの理由でリゾナントを離れるとしたら、これほど心強いものはない。もちろん、彼女だ
けではない。9人のリゾナンター全員が、次の時代を託すほどの成長ぶりを見せているし、さゆみ自身も
そのことを実感していた。

「その時」が訪れる事を。
さゆみも、9人のリゾナンターたちも、まだ知らない。




投稿日:2014/12/15(月) 01:00:32.04 0