『リゾナンター爻(シャオ)』 21話


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学校帰り。
石田亜佑美と小田さくらは、敵襲に遭っていた。
何故この組み合わせかと言えば。ただ単にあぶれもの同士。香音と聖、里保は日ごろお世話になって
いる先輩・愛佳の用事で先に学校を出ていたからだ。それはさておき。
相手はちょうど亜佑美たちと同じ、二人。一人はいかにも屈強そうな男ではあるが、もう一人は家でネ
ットゲーム三昧してるのがお似合いの痩身の青白い小男だった。
「敵」とは言え、ダークネスの手のものではない。
組織に属さず、フリーの立場にある能力者。ただ、こうやってリゾナンターの前に顔を見せる能力者た
ちの中には、ある共通項が存在することが少なくない。

自分たちの名を、闇社会に売る。
それが彼らの主たる目的であることがほとんど。
もちろん、目的のためならどのような手段を取ることも厭わない危険性があるから、こうして亜佑美た
ちは男たちが誘うままに近隣の公園へと足を運んでいるわけだ。

「さあて、どうするの? ここなら大の大人が女の人に伸されたとしても恥ずかしくないと思うけど」

公園の森にさりかかり、人気がなくなったのを確認した亜佑美が男たちに話しかける。
こういう輩にはまず言葉でクールに威圧するべき、歴代の先輩たちからの教えを忠実に守ったつもり
ではったが。

「そうだな。ここなら小学生みてえなチビをぶん殴ったとしても非難されることはないわな」
「違いないな」

明らかな侮辱とともに、顔を見合わせて笑われる始末。


こいつら、言うに事欠いて…いや、リゾナンターはいつでもクールであるべきだ。鞘師さんのように、
感情に流されることなく、ポーカーフェイスポーカーフェイス…

逆に挑発に乗りそうになってしまうのを必死に抑える亜佑美だが、伏兵は思わぬところに。

「石田さん、挑発しようとして逆に馬鹿にされてますよ」
「う、うっさい小田! 何であんたまでそんなこと言うのよ!!」

いともたやすく、感情爆発。
ポーカーフェイスもへったくれもない。

「悪いが、お前らの学芸会を楽しむ余裕はないんでな…行かせてもらうぜ」
「へへ、お前らみたいなもんでも一応はリゾナンターらしいじゃねえか。俺たち『ヘル・ブラザーズ』
の名を上げるため、おとなしくやられてもらうぞ」
「…今時ヘルブラザーズって。中学生でもそんな名前名乗らないですよ? ねえ石田さん」
「え、っと、ちょっと今はそんなこと言ってる場合じゃない、戦闘に集中!!」

調子が狂う。
理由は一つ、隣にいるさくらの存在だ。
彼女の醸しだす独特な世界、小田ワールドとでも言うべきか。その異世界に対して最も合わないなあ
と思っているのが何を隠そう亜佑美であった。
そして密かに、ヘルブラザーズという名称に少しだけ格好よさを感じてしまっていた。

体を前傾させ、今にも飛びかからんばかりの二人の男。
亜佑美は二人を見て、さくらに耳打ちする。


「小田ちゃん、あんたは小男のほうに行って。あたしはあのデカブツをやるから」
「そうですか? 私は逆のほうがいいと思いますけど。体格の割には自信満々だし何か隠し玉を持っ
てそう。逆に大男のほうは私の『時間跳躍』が嵌りそうだし」

ったく。あたしがあんたに気ぃ使ってるの、何でわかんないかなあ。
亜佑美は後輩に負担をかけないよう、わざわざそういうチョイスをした。しかしさくらはそんな配慮
などお構いなく。

「おしゃべりしてる暇なんてねえぞ!!」

大男が、亜佑美へ向かって猪のように突進してくる。
意外と素早い。そこへ割り込むさくら。早速「時間跳躍」を使ったようだ。

「しょうがない、そっちはあんたに任せるわよ!」
「任されます!!」

こうなったらもう仕方ない。
戦闘中に合う合わないなどそれこそ、そんなことを言っている暇などないのだから。
亜佑美は「相棒」を呼び出すために意識を集中させた。

一方、自らの背丈をはるかに超える大男と対峙したさくらは。
時間跳躍能力を小刻みに使うことで、相手を翻弄する。

「ちっ、ちょこまかとうるせえチビだ!!」

相手には、さくらが高速で移動しているようにしか見えない。
しかし、何とか体に見合わない反射神経でさくらの動きを追おうとしても、徐々に遅れが目立ってき
ていた。


「時間跳躍」。Dr.マルシェの壮大な実験の副産物としてさくらに残された能力だった。
もともと持っていた「時間編輯」に比べると、あまりに矮小な力。だがさくらは自らの能力の研鑽に
より、それを自分の必殺技に変えた。

陣取(じどり)、さくらはその行為をそう呼んでいた。
時間を跳躍し、相手の死角に移動する。それだけではない。彼女はそれまでに自分が得た経験から、
「どの角度に移動すれば自分の攻撃が最大限のダメージを与えるか」を計算し、その場所に移動す
る。まさに一撃必殺の、クリティカルヒット。

「無駄な努力、ご苦労様です」
「んなあっ!?」

まったくの予想外の場所に現れたさくらを、男は捉えきれない。
無防備な角度からの、鋭い蹴りの一撃。何が起こったのかすら把握することなく、ヘルブラザーズ
の片割れは意識の沼に沈み落ちた。

「小田のくせにやるじゃない」
「ふふ、向こうに気を取られてていいのか。お前は既に俺の術中に嵌っているというのに」

あっさりと大男を倒したさくらに対抗心を燃やす亜佑美。
しかしその体は蔦のようなものに拘束されていて。

小男の能力は、植物使役。しかも拘束を目的とした蔦状の植物を好むようだ。
おそらく亜佑美とさくらが話している間にこっそり種を蒔いておいたのだろう。

「へえ。でもこんな力があるなら、あっちの小田のほうも拘束してればあんたの相方は無様な負け
方してなかったのにね」
「生憎、一人を拘束するんで精一杯なんでな。だが、お前を倒してイーブンの状態で引き揚げるっ
てのも一つの案だな」

ちらと遠くのさくらを見る男。
どうやらさくらがこちらに来る前に決着をつけるつもりのようだ。


「は?あんた、こんなちゃちな蔦であたしを縛りつけられると思ってんの? カムオン、リオン!!」

亜佑美の叫びに呼応するかのにように木霊する、獣の遠吠え。
青き風、と形容してもいいくらいの素早さで、鋭い狼牙が亜佑美を拘束する蔦を引き裂き千切ってゆく。

「…ならこれはどうだ!!」

男と亜佑美の間の地面に、再び蔦の束が溢れだす。
それは意外にも亜佑美ではなく、男に向かって巻き付きはじめた。

「ちょっとあんた何考えてんの?自殺行為じゃない!」
「それは…どうかな」

一見自分で自分を絞めているかのような異様な光景。
ところが、出来上がったのは緑の人型。言うならば、蔦人間。

「うわっ、気持ち悪っ」
「ほざけ!攻守一体のこの技の真髄を味わうがいい!!」

男の手から、射出されるように伸びる蔦。
いや、表面に棘を纏ったそれは荊。鋭さは、亜佑美がかわした背後の木の幹を傷つけるほどに。

「カムオン、バルク!!」

亜佑美の背後に、天高く青い影が聳え立つ。
呼びかけに応じ現れた鉄の巨人が、男目がけてその拳を振るった。
響く轟音、舞う土煙。
跡形も無くぺっしゃんこ、と思いきや男は軽々とバルクの拳を受け止めていた。


「どうだ、蔦がバネとなってこの程度の衝撃なら耐えられるのだよ」
「…うっざ!!」

お望みならほんとの植物人間にしてやる!って今ちょっとうまいこと言っちゃったかも。
などと愚にもつかないことを考えながら、亜佑美は再び相棒に呼びかける。

「カムオン…リオン、バルク!!」

例の孤島での戦い。
さらに、先輩である田中れいなの「能力増幅」の影響を受けて自らの能力を強化させたリゾナントのメン
バーたち。それは亜佑美とて例外ではない。能力向上によって彼女が得た新しい技術、それが幻獣の二体
同時召喚。

「なっなっなんだぁ!!!!!!」

迅と剛が、慌てる蔦人間に襲い掛かる。
リオンの鋭い爪が、牙が緑のプロテクターを剥ぐ。丸裸になった男は憐れ、バルクの一撃で空の向こうへ
と消えていった。

「石田さん、リオンとバルクを両方呼びだせるようになったんですね」

飛んで行った男の軌跡をどや顔で眺める亜佑美のもとへ、さくらが駆けつける。
男のやられ振りを見て二体が同時に呼び出されたのを察知したらしい。

「おーだー!遅いっ!先輩より先に相手を片づけたんなら、さっさとこっちに来る!」
「えーっ、でも石田さんだったら私より先に決着つけてるかなって」
「むぅ…」

ここぞとばかりに先輩風を吹かせようとしても、まさに柳に風。
ある意味正論なので返す言葉もない。


「石田さん、私たちって…合わないですよね?」
「あのねえ…そりゃこっちの台詞…」

言いかけて、言葉を止める。
当のさくらは、何だか嬉しそうだからだ。

思えば、特殊な境遇からリゾナンターになったさくらだ。
自分だけのワールドというか、そういう空気を持っているとしても仕方がないのか。
亜佑美は、彼女の特殊性を彼女自身の生い立ちや歩みに求めた。だから。

「そうね、合わないんじゃない?」
「ですよね!同じ方向目指しても歩こうと思ってもどっかですれ違っちゃうみたいな!」
「その例え分かり辛いし第一合ってるかどうかわかんないからっ!」

合わない、ということでさくらを受け入れるのもまた一つの方法。
それはそれでいっか。

「ほら、さっさと戻るよ! はるなん一人で店番とか、すっごい心配だし」
「はいっ!」

先を歩く亜佑美に、さくらがひょこひょことついてゆく。
そのさらに後ろ。二人の姿を眺めているものがあった。

「なるほどねえ、こんこんのレポート通りってわけか」

露出の多い、黒を基調とした服。
少女は、短パンのポケットに手を突っ込み、無造作に丸めていたメモ紙を取り出す。


「石田亜佑美は見えざる獣の使い手。小田さくらは元ダークネスの実験体で時間操作能力の持ち主。あと
は…うわ、きったねえ字。読めやしないじゃん。ってのん自身がこれ書いたんだっけ」

不意に、誰かが現れた気配。
少女のポニーテールと、首元から大きく垂らしたチョーカーの布が揺れる。

「鞘師里保は水使いの剣士。鈴木香音は物質透過能力。譜久村聖は他人の能力をコピーできる。生田衣梨
奈は精神干渉系。飯窪春菜は自分および他人の五感を増減させる。佐藤優樹はわけわからん仕組みのテレ
ポート。工藤遥は千里眼や。そんくらい、頭で覚えとき」
「来てたんだ、あいぼん」

不満そうに口を尖らせた相手は、彼女の「永遠の相方」。

「お前なあ、どこほっつき歩いてんねん」
「あいぼんは用事、終わったの?」
「ああ、計画通りや…って、そんなにあの連中が気になるんか?」

亜佑美たちが去って行った方向を見ている「金鴉」に、「煙鏡」がからかい口調で言う。
すると「金鴉」は大きく肩を竦め、

「ぜーんぜん。確かに例のチビ剣士には少しだけ興味あるけど、所詮はのんの敵じゃないしね。それよりも」

「煙鏡」と顔を見合わせる。

「道重」
「さゆみ」

互いに発した声はユニゾンとなり。
不吉とすら思える響きを放つ。


「あいつだけは厄介や。特に『裏の人格』がな」
「美貴ちゃんとかとも互角にやり合ったって話だからね」
「…やるか」
「めんどくさいからさ、『あの場所』で済ませようよ」
「せやな。段取りはうちが組んだるわ」
「おっけー、よろしく」

それだけ言うと、「煙鏡」に背を向けて手を振る「金鴉」。
次の瞬間には、光の中に姿を消していた。

「簡単に言いおって。よっすぃーの目ぇ誤魔化すんも、一苦労なんやで」

そして悪態を突きながらも、「煙鏡」自身も。
それこそ煙のようにその場から消えていた。





投稿日:2014/11/25(火) 23:58:50.78 0