『君の代わりは居やしない』的な何か



名無し募集中。。。@\(^o^)/:2014/10/25(土) 02:05:25.10 0.net
 >>373(『闇を抱く聖母』(前))をふと読み返して思ったんだが
これは結構新しい試みが入ってるね

興味を引くのがズッキとまーちゃんを共に音波系振動系にしてるっていう能力設定ね
この二人をこの組み合わせにしてる世界って自分がおぼえてる限りは初めてな気がするんだよね

TIKIBUNスーツ有の世界だからズッキの能力も攻撃に応用できてるけど
これでスーツなし世界だとちょっと面白いかなと思った

同系統の能力者同士で後輩で年下なまーちゃんのほうが隙がない強い能力であることに
苦悩するズッキの内面とか掘り下げたらなんか出てきそうな予感がした
まあ深夜の酒のなせる妄想なんだけど


919 :名無し募集中。。。@\(^o^)/:2014/10/26(日) 21:45:32.19 0.net
 >>891の人が言ってた苦悩するズッキの線で想像してみたプロット呼ぶには荒すぎる殴り書き
ま、作品も来てないみたいなのでちょこっとだけ晒します 




  • リゾナントで転寝している里保や優樹を尻目に一人町にパトロールに出る香音。
  • リゾナンターの中でも戦闘力の高いメンバーはこのところ疲れ気味だ。
  • その理由は明白。町に能力犯罪者が多発しているからだ。

  • 時を遡ること2012年の秋、ダークネス最大の根拠、「不帰の島」が陥落した。
  • 自衛隊の特殊部隊と現役世代のリゾナンター、そして高橋愛や新垣里沙、李純、銭琳といったOG世代の合同部隊におる猛攻。
  • 焼け落ちる島を背に脱出する高速艇の中で見た光景を香音は今も覚えている。
  • 寂しげに一枚の写真を見ながら、「不帰の島」に祈りを捧げているような愛と里沙の姿。
  • 香音が二人の姿を見ていることに気づいた道重さゆみは、二人をそっとしておくように香音に目で合図した。
  • 自分が立ちいってはいけない事情があることを理解した香音は早くも祝勝のどんちゃん騒ぎをしている艇内に戻った。
  • 他の誰かが外に出て愛と里沙の邪魔をしないようにあらん限りの持ちネタを披露して笑いを振りまきながら。

  • 「不帰の島」陥落後暫くして、たまたまリゾナントを訪れた新垣里沙に事情を聞くことが出来た。
  • 里沙は「不帰の島」からの帰還時、香音が自分と愛を見ていたことに気づいていた。
  • そして二人の邪魔をしないように振舞ってくれたことへのお礼として香音が知りたがっていた事情を教えてくれたのだ。

  • ダークネスの枢軸たる幹部級の能力者の中には早くから「不帰の島」を離脱していることが明白な者。
  • 陥落時に消息が不明な者。
  • 死亡が確認された者の三つに分けられるが、死亡を確認された者の中に紺野あさ美という科学者が含まれていた。
  • 紺野あさ美はM。という特殊部隊に愛や里沙が所属していた頃の同期生であり、「不帰の島」の陥落にも紺野あさ美が一役買っていたらしい。
  • それはあさ美がスパイをしていたということと聞きかけて口ごもる香音。
  • 自分のことを気遣ってのことだと気づいた里沙は苦笑いしながら首を横に振った。
  • 紺野あさ美には彼女なりの理由があって自分たちと袂を分かったのは事実。
  • でもどこかで心が繋がっていたこともまた真実。
  • 自分たちの中ではもしダークネスが越えてはいけない一線を越えようとした時には絶対、あさ美が行動を起こすという確信があった。
  • それが今回の攻防戦に結びついたのだ。


  • 罠だとは思わなかったのかという香音の問いかけを聞いた里沙は一枚の写真を見せてくれた。
  • それは愛や里沙のM。時代の写真でその中の理知的で優しそうなの人があさ美だと教えてくれた里沙は香音に言った。
  • 「そのうち香音ちゃんにもわかる時がくるよ。本当の仲間ってやつはたとえ別々の道を歩むことになったって…」

  • 別れ際に里沙はこれから暫くの間、みんな忙しくなると言った。
  • その言葉の意味を若きリゾナンターたちは身をもって知ることになる。
  • 能力を利用した犯罪の多発。
  • ダークネスという巨大な闇の存在は良くも悪くも、低レベルの能力者にとって恐怖の足枷となって犯罪抑止力が働いていた。
  • 「不帰の島」という象徴的な場所が陥落したことにで箍が外れた低レベルの能力者たちは初めて自由を得た気分になった。
  • マッチ程度の火を起こす発炎能力であったり、窓ガラスをひび割れさせる程度の念動力を武器に暴れまわる彼ら。
  • ダークネスのGや魔女といった能力者に比べれば冗談にしか見えないそんな能力でも一般の人間にとっては脅威に映る。
  • 能力者に偏見の視線が注がれるを防ぐため、先輩たちから受け継いだ意志を貫くため、奔走するリゾナンターたち。
  • その主力となるのは水軍流という古武術とアクアキネシスを保有する鞘師里保であり、石田亜佑美や生田衣梨奈といった武力の高い面々がそれに続く。
  • 対象を撹乱させることのできる飯窪春菜、千里眼で観察した相手の動きを戦闘用に処理できる工藤遥も時間を縫って能力犯罪者の摘発に協力している。
  • そんな中、超聴力の持ち主である鈴木香音は探索にしか使えない自分の能力に少し劣等感を持ちながら、そう思っていることを気取られないよう日々明るく振るまっていた。
  • 低レベルとはいっても能力者相手の戦闘で疲弊していくメンバーに少しでも元気になってもらえるように。

  • そしてその夜、香音は疲れた体を癒している仲間を尻目に夜のパトロールに繰り出す。
  • 香音が出ていくのに気づいた里保は同行しようとしたがそれは押しとどめた。
  • 何かあったらすぐ助けを呼ぶし、ちょっとやそっとの相手ならカノン砲でぶっ飛ばすからと。

  • 学校の成績はいざ知らず、明敏な香音は実際危ない橋を渡るつもりはなかった。
  • 街の声を聞き分けて、不振に思った場所では不自然でないよう振舞って、更に深く聞き入って観察してその結果を報告することに徹するつもりだった。
  • その倉庫は前から怪しいと踏んでいた。
  • 廃業した筈なのに不定期な時間に車両の出入り。
  • そしてあまりにも不自然なくらい静か過ぎる内部。


  • 目で見て心の中に改めてチェックマークをつけた香音はとりあえずリゾナントに戻ることにした。
  • もし万が一、ダークネスの粛清人レベルの能力者が潜んでいたなら、自分の手には負えないことを分かっていたから。
  • 廃倉庫に向かうらしい一台の車とすれ違った香音は息を呑み、完全にやり過ごしてから踵を返した。
  • 車を運転していた女の姿に見覚えがあったのだ。

  • それは高橋愛や新垣里沙の旧友にして、「不帰の島」陥落の立役者。
  • 愛たちが死亡を確認たはずの紺野あさ美にそっくりな女がハンドルを握っていたのだ。
  • 自分の尊敬する人たちの大切な仲間が生きているかもしれない状況は香音から冷静さを奪い、一人倉庫の中に侵入することになる。
  • 廃れた外見とは裏腹に、室内で使用している電灯の明かを外部に漏れないよう偽装する仕掛け、防音素材が貼られた壁。
  • この倉庫がただの倉庫でないことを確信した香音は緊張するが、庫内から聞こえる音が一箇所、一人かららしいことに気を強くする。
  • 紺野あさ美一人だけなら、最悪争うことになってもカノン砲で制圧できる筈だと。

  • 不自然なぐらいに気温が高く設定された倉庫の一角に研究スペースらしき場所であさ美に似た女を見つけた香音は思い切って声をかけた。
  • 鈴木香音ちゃんだねと笑いかける様子に気を許したところへ放たれた試験管。
  • 猛毒かと飛び退る香音、刺激臭や変わった感じはないが…
  • 次の瞬間身体から力が抜け、膝から崩れ落ちる香音。
  • 体中を侵食される感覚に蝕まれながら、息も絶え絶えに何をしたか尋ねる香音にあさ美らしき人物は体重を尋ねてくるのであった。

  • その真意を図りかねる香音に、自分の作成した殺人カビが全身を侵食するまでの時間を計算したいと慇懃無礼に応える女。
  • 研究用の白衣の上からフィルタ付のマスクや医療用のゴム手袋を身につけていきながら、香音の体重が150キロだとした場合の残り寿命は1時間半だと宣告する。
  • そこまで重くはないよねと笑いながら携帯電話を差し出す女。
  • 画面にはリゾナントの電話番号。
  • 後は発信ボタンを押すだけ。もしも仲間をここに呼んでくれたら助けてあげるという悪魔の誘惑。
  • 残された力を振り絞り、電話を折ることで応えた香音に女は余裕の表情。
  • 力尽きた香音の姿をメールで送れば、自分の目的は達せられると笑う女に香音は問いかける。
  • あなたは誰、紺野さんじゃないの?と
  • 紺野という名前を耳にした女の表情は険しくなった、
  • 自分は消極的な利敵行為で組織に損害を与え続けた紺野あさ美の代用品として開発されたシステム“MAR-CHE”の一部であると告げる。


  • “MAR-CHE”とは最新式の量子コンピュータに紺野あさ美の思考パターンを学習させたハードの部分。
  • 機械ゆえ自発的な思考能力に欠ける部分を補うための生体デバイスであるクローン体である自分たち、ドクターマルシェ。
  • 自分たちという部分を聞き咎めた香音にマルシェは笑って告げる。

  • M。の実働部隊に所属していた人間は重篤な怪我を負った場合、拒絶反応の薄い自家移植が可能なよう血液や体細胞を採取している。
  • 自分たちはその体細胞を基盤として作られたクローン体である。
  • 「不帰の島」陥落後、稼動を開始した“MAR-CHE”の生体デバイスは自分を含め、9体存在しており専門分野に特化した睡眠学習を受けた各々のマルシェは個別に研究に勤しんでいるいる。
  • 今、香音の前にいる自分は生物学が専門の biology-マルシェであることを告げた上で女は自分のオリジナルである紺野あさ美のことを嘲った
  • 感情という無意味で無価値なものに捉われて大局を見失った愚かな存在である、と

  • 紺野さんはあんたみたいな作り物の怪物じゃないという香音の言葉に一瞬、眉をひそめるマルシェだったがそれは香音の挑発だということを察知すると、悪魔の笑みを浮かべながら苦悶する香音の様子をカメラで撮影する。
  • もう声を出すのも辛い状態に陥った香音は自分が助からないことを覚悟する。
  • このまま殺人カビに殺されば、自分を助けに来た仲間たちの命も危険だ。
  • それだけは避けたい香音だったが自分の超聴力ではこの状況をひっくり返すことなど出来ない
  • 絶望する香音は自分がはじめてリゾナントを訪れたときのことや、それ以前の暮らしのことを思い出す

  • これって走馬灯ってやつ?
  • そういえば光井さんが言ってたなあ
  • 走馬灯とは命に赤信号が点った状態の人間が危機を回避するために過去の記憶を動動員することだと

  • そういう光井も走馬灯らしきものを見たことがあるという。
  • 他人の能力を阻害し、念動弾を乱射してくる能力者との戦い
  • ただでさえ予知という戦闘力に直結しない自分の能力が阻害されてしまった
  • 一度は死を覚悟したが走馬灯の中で垣間見た仲間の顔が自分に戦う力をくれた
  • だからもし香音が命の危機に陥った時、走馬灯ってやつを見ることになっても諦めてはいけないと
  • 走馬灯で垣間見る仲間は香音と最期のお別れするために現れたのではない、香音を勇気付けるために現れたのだからと


  • 諦めることを止めた香音だったが、絶望的な状況は変わらない
  • 超聴覚で確認できるマルシェの心音はまるで機械のように正確でつけいる隙を見出せない
  • ならば…以前の記憶を遡る香音。それは香音がリゾナントに来る以前の記憶

  • 中学時代の香音は一度体育倉庫に閉じ込められたことがある。
  • 理由は…学区内のピアノ演奏コンクールで準優勝を果たしたことを先生に褒められた時の態度が不遜だったから
  • 香音に悪気は無かった。
  • 自分の聴覚が人並み外れて素晴らしくピアノ演奏の微妙な音階も聴き取れることができても、それが演奏には直結しないことが憂鬱だった
  • 自分に過剰に期待を抱く両親にとっては準優勝など意味が無くむしろ叱責の対象となることが憂鬱で仕方ないという感情が隠しきれなかったのだ
  • あやまれば許してやると言う男子生徒たちに対して気丈な態度を貫く香音。
  • やがて日は暮れ取り残された香音。
  • 何の反応も無い庫外、ようやく心細くなって鉄の扉を叩いている香音。
  • 気がついた時、香音は倉庫の外に出ていた。

  • 誰かが扉の鍵を開けてくれたのか?違う、閉まったままの施錠されたままの鉄扉
  • もしあのときと同じことが起きれば、自分がここから姿を消すことが出来れば少なくとも仲間は殺人カビの脅威から少しは遠ざけられるのでは
  • 必死で記憶を辿る香音


  • マルシェに移る視点
  • 体を動かすのが困難な筈の香音の指先が動いている。断末魔の足掻きか?違う
  • まるで音楽のリズムを取っているように見える。
  • 知的関心がそそられて香音に質問するが…

「…あ、あんたなんかには言ったってわかるはずない。まるで機械のように規則正しい鼓動を打ちながら人を殺せるあんたみたいな化け物なんかに」

↓ 以下ちょっと小説っぽく


わかっている。
この肉の塊は。
見るも哀れな肥満体のモルモットは自分の命が助からないなら、せめて私の心に傷を残して逝こうとしていることは理解している。
ああ、そういえばモルモットって英語で「ギニーピッグ」ていうのよね。
「ギニアの豚」
まさに今の無様なお前にふさわしい呼び名だ。
おら、豚は豚らしくブーブー啼けよ
そんな豚女の分際でこの人類の英知の集積たる私にたてつくなどなんて不遜な

…まさか、私が、この私がこんな女に感情をかき乱されている?
ありえない。
そもそも感情なんて無意味で無価値なものは私は最初から捨て去っている。
なのに、この女は…。

「最後にもう一度聞きます。鈴木香音さん、あなたはその指で何をしているのですか? 仲間に助けを求めている? いや、それは違う。そんな微弱な音を聴き取れる能力者は現在のリゾナンターであなたしかいないはず。だったら…」

知的探求がとまらない biology-マルシェの目に映ったものは振るえながら中指を立てる香音の姿だった。

「このクソ生意気な豚野郎。踏み殺してやるよ」

自覚しないまま振り上げた脚を香音の体に向かって踏み下しながら biology-マルシェは計算していた。

殺人カビに侵食された香音の肉体と直接接触するのはよろしくないが、医療用の保護具は着けているし洗浄装置も持ち込んであるからまあ問題ない。
このど低脳のくせに英知の集積たる私に楯突いた女に正義の鉄槌を下してや…。

biology-マルシェは思わず悲鳴を洩らしそうになる。
脚が沈んでいく、
香音を踏みつけた自分の右脚がどんどん沈んでいくのだ。


ま、まさか早すぎるけどカビに侵食されて肉体が崩壊寸前だったのか。
だったらやばい。
いくら保護具を着けていたって殺人カビを身体中に浴びてしまうのは絶対まずい。
しかしモルモットでの実験結果から割り出した侵食速度とは大いに異なる。

焦燥に駆られながら危機回避のプロセスを構築しようとする biology-マルシェは…。
暗い闇に吸い込まれていった。

…暗い。
何も見えない。
そして冷たい。
ここは一体。
何がどうなったのか。
そういえば鈴木香音はいったい、どこに。

状況を把握できない biology-マルシェの意識に何者かの意識が流れ込んできた。

「やあ、非常に興味深い状態だね。 biologyな私」
「あ、あなたは量子力学の、quantumな私」

システム“MAR-CHE”は量子コンピュータと紺野あさ美のクローン体でネットワークを構成している。
個別のクローン体は身体に埋め込まれた電極を介して意志の疎通を図ることが出来るのだ。

「今の私、といっても私自身じゃなくbiologyな私は状況が掴めていないだろうからその説明といささかのお願いをするためにコンタクトしたんだけど」

不自然に饒舌なquantum-マルシェに対して救援を求めようとした biology-マルシェだが見下されそうな気がして思いとどまった。
九人のマルシェの間には微妙な対抗意識が存在するのだ。
もっともそうした意志も結局は伝わるはずだが、相手からそれを気にした様子は伝わってこない。


「じゃあさっさと教えてくれない。それとお願いっていったい何?」

biology-マルシェの思惑を理解できないのか、あるいは理解しようとしないのか。

「今、といっても現在時刻から2分30秒ぐらい前にbiologyな私の周辺で起こったのは古典な物理学では説明できない事態なんだ」

壁に向かってボールを投げた場合、壁を壊さない限りボールが壁を通過することはない。
それはニュートンなどの古典力学では決して超えることの出来ない壁。
しかし古典力学では超えることの出来ない壁を量子力学では超えることが出来る可能性が生まれる。

「はぁ? いったい何を言っているかわかんないんですけど」
「だめだなあbiologyな私は、トンネル効果って言葉も知らないんだ。専門バカはいけないんだぞっと」

こんなくだらない問答をやっている時間があるなら自分を早く助けろという意志を滲ませながらbiology-マルシェは応対する。

量子力学の世界では物質を構成する最小の単位として素粒子という概念がある。、
この素粒子が不確定性原理などにより壁を透過する現象がをトンネル効果と呼ぶ。
ボールも壁もミクロな視点からは何億から何兆という素粒子の集合体だ。
素粒子の隙間を素粒子が抜けていくことで、物体が壁を通り抜ける現象が起きることも理論上は有り得る。

「そんなのは理論上の話でしょう。どうしてそのトンネル現象が私の身の上に起こったの。それに人間の身体が素粒子で構成されているとしても、その数はきっと膨大なものになる筈。だったら素粒子間を透過していく可能性だって極めてゼロに近いはず!!」
「う~ん、さすが私。よく気がついたね、えらいぞ。まあ人間が物質を透過する可能性は10の24乗分の1ってところかな。あ、あくまでざっと計算してのことだけどね」
「だったら…」
「でも人類の歴史の中では起こっていることなんだよ。いや、それが起こったという仮定でなければ説明できない事象が人類の歴史の中ではしばしば散見できる」


たとえばインカの堅固な城砦都市を滅ぼしたスペイン人。
その生涯で何度も密室に監禁され命を奪われようとしたが、その度危機を回避した怪僧ラスプーチン。
有名無名に関わらず、壁を扉を通り抜けたのではないかと言われた幾つもの事例。

「インカ帝国なんかは内部に裏切り者がいたとか。ラスプーチンなんかは手品まがいのトリックで脱出したとか言われてたけど」

だが違うとquantum-マルシェは断言した。
物質透過は起こりえる現象なのだと。
その証拠が今現在のbiology-マルシェの状態なのだと。

「だったらどうしてその10の24乗分の1の現象が、たまたまこの私に起こったと?」
「おそらくだけど、鈴木香音は過去に一度物質透過現象を経験している。 誤解して欲しくないんだがそれは彼女の異能によるものではない。
彼女が何らかの意図を持って壁だか扉だかにぶつかることで起きた偶発的な事例だと思う」
「ああ、彼女の能力は超聴覚だってことは間違いない。それはデュアルアビリティって可能性は否定しないけどだったら最初から…」
「彼女には聴こえたんだ。 自分が物質透過を経験した際の素粒子の振動パターンの音が彼女には聴こえたんだ」
「ま、まさか…。じゃああの手の指先の動きは…」
「そう、自分が経験した物質透過の際と同じ振動パターンを再現することで危機を回避しようとした。
いやっこの場合はbiologyな私の生み出した殺人カビで汚染した自分の肉体に仲間が触れることを回避するためにコンクリートの床に自分の亡骸を隠そうとした」
「くっ…」
「まあこれはあくまで私の仮説に過ぎないけど、その仮説を立証するためにbiologyな私の協力が必要なんだ」

床下のコンクリートと一体化した曖昧な状態。
それがいつまで続くのかわからない、おそらくその状態が解消されれば間違いなく命を落とすであろう自分に何が出来るというbiology-マルシェの問いかけ。
quantum-マルシェは香音の殺人カビの除去方法や推測される香音の残り寿命を尋ねる。
今、香音がbiology-マルシェと同じ空間にいるのかどうかということを。

「いやあ香音ちゃんには生きて私の実験に協力して貰わないと。彼女は物質透過を安定した状態で起こせるわけではない。
そもそも素粒子という概念自体、彼女には…おーい。もしもし、私。生きてるよね」


ふん、鈴木香音が今私と同じ場所に居るかって?
居るはずないだろう。
どれだけ自覚があるのかわからないけどピンチを脱したんだからさっさと逃げ出すさ。
といってももう体力も限界に近いだろうし、結局のところ、quantumな私は香音の死体と床のコンクリートと一体化した私を見つけるんだろうね


「・・・・・・消えたくない」

それはまあ碌な死に方はしないんだろうなっていう予感はあったけどね。
成体クローン用の培養ポッドから開放された時になんとなくさ。

「自分の存在が無かった事になる」

まあ基盤となる紺野あさ美の細胞組織が残っていれば、またbiology部門担当の私は作られるんだろうしさ。
今回のことが無くたって長生きはできなかったさ。

「零になってしまう」

医学担当のマルシェはわかってただろうね。
無理やり成長させるために投与された薬剤の副作用とか出始めてたしね。
量子力学とか物理学担当のマルシェは気づいてないのかな、いい気味だ。

「こんなのは嫌だ」

副作用抑制のための薬剤用ポンプとか身体に埋め込んだりされてまで生きるとかぞっとしないし。
いや、それで百歳まで生きれるとかならまだいいんだけど、そういうわけにもいかなそうだたしね。
なによりこの身体だけは結構気に入ってたしさ、私

「こんな惨めな状態で、暗闇の中朽ち果てたくは無い」


英知の集積たる誇りや自我、自尊心。
その他あらゆる虚飾を剥ぎ取られた自分に残った、それが唯一にして最大の本心だった。

私は最低だ。
何千か何万の人間の命を簡単に奪える研究をしていた癖に。
無様に消えていくのが嫌だから、何も出来ないくせに生に縋りつこうとしてる
全く以って、私は最低だ。
現にほんのついさっきまで鈴木香音って子の命を奪おうとしてたのに、自分は助かりたいなんて思ってる。
本当に救い難い、罪深い、どうしようもない存在だ、この私は。
だけど
だけど
それでも

「誰か・・・・・・」

誰か
誰か
誰か
誰でも良い 何でも良い
神のような奇跡でも、神を欺くペテンでも何だっていいから

「誰か・・・・・・助けて・・・・・・ッ!」
「…助けるよ。 今すぐ助けるよ。だからもう少しだけ待っていて」

この声は…。

「鈴木香音、どうしてあなたがそこに留まっているのです」

音声として伝わってくるのか、思念として伝わってくるのか。
今の自分にはどちらとも判断しかねるが、今自分に呼びかけているのは間違いなく鈴木香音。
痛っ。
どうやら下半身あたりが床の素材と融合を始めているらしい。


「ほら、私の腕を掴ん、痛っ」

biology-マルシェは自分の顔に近づいた何かに持っていた注射器の針を突き刺した。
ビンゴ!!
どうやら鈴木香音の腕に刺さったらしい。

「みじめなこの私を痛ぶろうとしたようですが、その慢心があなたの完全な命取りの原因となりましたね」

もしも香音が安静にした上で仲間の救援を呼び、最新の医療を受ければ僅かながらでも救命の可能性が存在した。
しかし今自分が注射した致死性の毒によって香音が助かる可能性は究めてゼロだと告げる。

「ほんとうにあなたの愚かさには呆れ果ててしまいますよ。 さっさとお仲間に状況を説明して遺骸を回収してもらうよう手配することを進言し…何をしているのです」

振動が伝わり難いコンクリート素材越しにも香音が床を激しく叩いているのが伝わってくる。

「くそっ、くそっ。なんでさっきみたいにいかないんだよ」
「…おやめなさい。 やめなさいと言っているのです。 状況が判ってますか。 もしも私に復讐したいのでしたらこのまま放置しておけばいい」
「そんなこと出来るはず無いじゃん」
「なぜです。私は紺野あさ美の代替品として作られた成体クローン。 紺野あさ美の生体細胞があればすぐ代わりは造れ…」
「そんなことはない。 たとえあなたがどんな悪人でどんな風に生まれたんだってあなたの代わりなんていやしないんだ」

もう一度物質透過現象を発生させようとしているのか、それとも床を破壊しようとしているのか。
更に強く床を叩いているのが伝わってくる。
カビによって侵食された身体でそんなことをしては傷つくばかりだろうに。
救い難い。
本当にこの子は…。


「本当にあなたの愚かさには呆れ果ててしまいます。 自分の身体の状態の変化に気づかないんですか」
「そんな、えっ。 とても痛いけど声が出る。どうして」
「あなたに付着させたカビは毒性こそ強烈なのですが、生命力自体は弱い。あなたの体を苗床に何代も重ねて強化するつもりでしたが」
「じゃあさっきの注射は」
「いわゆる抗生物質というやつですね。 その殺人カビにとっては致命的な毒薬ですが、あなたにとっては救命薬となるでしょう。 
ま、破壊された体細胞が再生するまでしばらく激痛が走るでしょうが、それが自分の愚かさへの教訓として・・」

biology-マルシェの述懐を香音の悲痛な叫びが遮った。

「どうしてそんなことをしたの!!」

深い溜息を吐いた後、biology-マルシェは言葉を紡ぎだす。

「どうしてってそれはこちらの台詞ですよ。 鈴木香音さん、どうして自分の命を奪おうとした私を救おうとするんです」
「だ、だってあなたの心臓はとても弱々しく脈打って、誰かに助けを求めているみたいで。ほっとけないよ」

あなたって人は。
ほんとうにあなたって人は。

「もしかして化け物とか言ったことを怒ってるの。だったら謝るから諦めないで」

いえいえ。
私はもう助かりませんよ。
もともと脆弱な肉体でしたしね。
それとさっきあなたが私を助け出そうと触れた腕。
あの時点で生きていた殺人カビがどうやら付着してしまったみたいなんですよね。
こんなことを言えませんけど。
言えばあなたが悲しむでしょうし。


「黙ってないで何か応えてよ!!」

答えようにも身体中に激痛が走ってしまって。
本当は叫びたいぐらいなんですよ。
でも叫んだらあなた苦しむでしょう
ほんと、早くあっち行ってくれませんかね。
それとあなたは物質透過を自分の能力として確立できたわけじゃありませんからね。
どちらかというと超聴力を応用したスキルってところでしょう。
まだ安定して透過状態を保持できない以上、むやみに使用しないことをお奨めしますよ
ま、どうせ仲間の誰かが
仲間じゃなくても
たとえ敵の誰かを救うためならあなたときたら救おうとするんでしょうね
まったく

「ねえ!!」
「鈴木さん…」
「何、どうしたの」

どうしたのって、どうしたら私の死にあなたが責任を感じないか
わたしなんかの死に少しでもあなたが悲しまなくてすむか知恵を絞ってるんじゃないですか、まったく

「鈴木さん。鈴木香音さん。 私はあなたに救われました。あ、黙って聞いてください。本当に私はあなたに救われたんですよ。 
だから今度は私の姉妹たちをあなたで、あなたたちリゾナンターで救ってやってくれませんかね」

システムMAR-CHEの生体パーツとして作り出された九人の成体クローン。
彼女たちは培養状態から成体への生育過程で睡眠学習を施されている。
ある意味洗脳と呼ぶにふさわしいその過程で、人間としての良心を削除され、紺野あさ美に欠如していた他人への攻撃性を植え付けられた九人のクローンたち。

「人の不幸を物ともせず科学の名の下に悪魔の研究を邁進するマッドサイエンティストたちを救ってやってくださいよ。あなたとあなたの仲間の力で」


ああもうだめみたい
体の感覚が完全に無くなってきた。
本当はもっと話さなきゃいけないことがたくさんあるはずなのに。

私のプライベートのノートPCを調べればいろんなことがわかるから
研究用の素材は専門家を呼んで処理した方がいい

あの子はまだコンクリート越しに私に呼びかけているのかな

まったく
馬鹿みたい

感情なんて無意味で無価値なものに捉われて心かき乱されてほんと


言いたいことがまだあるのに。


馬鹿みたい
ああ、あの子はもう行ってくれたかな
仲間に助けてもらえたのかな

ほんとう





ありがとう





投稿日:2014/10/26(日) 21:45:32.19 0





















最終更新:2014年10月27日 13:02