『闇を抱く聖母』(前)


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光。闇。そしてまた光。
常夜灯で照らされたアスファルトを縫うように、十の影が駆け抜ける。
赤と黒に彩られた、異能の少女たち。
目指すは噎せ返るような闇の奥、白塗りの無骨な建造物。組織の研究所の一つだ。

だが、そうやすやすとは突破させてくれないようで。
彼女たちの行く手を漆黒の魔獣が阻む。
熊ほどの巨大な体躯に、特製のプロテクターを装着された「戦獣」。
その数、4、5頭ほど。陸自の一小隊に匹敵する戦力だ。

「ちっ、相変わらずこんなもの使って!」
「可哀想だけど…殲滅するよ」

生命を弄ぶ非道に憤る亜佑美。
その気持ちを汲みつつも、リーダーのさゆみが決断する。
彼女の言葉が合図となり、二つの人影が前方に飛び出した。


白のジャケットが基本デザインではあるが、肩から襟に取り付けられている赤い長布。
それが、踊るように撓り、そして鋭く魔獣の体を切り裂く。
赤く流れる閃光の布同様、血飛沫を上げる自らの体。激痛に身悶える異形の獣が、目の前に立つ少女の頭を叩き潰そうと剛
腕を振り上げたその時のこと。獣の腕は唸る太刀筋によって、あっさりと切断されてしまった。

「うーん、やっぱこっちのほうがしっくりくるかも」

自らの愛刀と、彼女の纏う戦闘服の機能による斬撃の鋭さを比べる里保。
自分の実力以外の何かに頼るのはあまり好まない性質ではあるが、実際戦闘が楽になっているプラス面は無視できない。
腕を斬り落とされ、それでもなお標的を食い殺そうと立ち上がる戦獣。
しかしその狂暴な顎が開くその前に、思いもしない方向から襲い掛かる音の塊によって聴覚器官が完膚なきまでに破壊された。

「なぁにさぼってんのさ里保ちゃん」
「大丈夫、信じてたから。かのんちゃんのサポート」

止めを刺してくれた親友に、里保は親指を立てて意思表示。
彼女の操る音もまた、戦闘服の赤い布によって増幅された代物だった。

一方、戦獣に立ち向かったもうひとつの影。
彼女は里保と違い、その手に得物を持っていない。
にも拘らず、漆黒の獣を飛び回るだけで分厚い毛皮が切り裂かれ、鮮血が飛び散る。
「時間跳躍」は彼女の所有する能力だが特筆すべきはそこではない。


端的に言えば。
さくらは、時間跳躍を最大限に活用することで「自分が一番効率よく相手にダメージを与えることのできる角度」に自分を移動
させることができた。ただの時間停止ならば相手が攻撃してくる方向を予測し防御することもできなくはない、がそれを許さな
いさくらの身のこなしと格闘センス。そして攻撃力は戦闘服の赤い布が補う。
だが、相手に致命傷を与えるよりもどの角度に自分を位置させるか。目的より手段が勝ってしまうことがままあるのは彼女の性
格ゆえか。

「小田ぁ!遊びすぎだぞ!!」

さくらが飛び跳ねている隙を見計らい、音もなく表れた少女が黒くごわごわした剛毛に覆われた獣の額に手をやる。
無限大の振動を加えられた戦獣の脳は、原型を留めないほどにシェイクされ、黒い巨体が地響きを上げて派手に倒れ込んだ。

「佐藤さん!私が戦ってたのに」
「いいじゃん、イヒヒヒ」

さくらと優樹がもめている間に。
同じ「赤組」の里保と香音、そしてさゆみが残りの戦獣たちを倒していた。

「これで全部かな」
「にしても凄いですね、この服」

辺りを見回すさゆみと、自らが纏う服の性能に改めて驚愕する香音。
戦闘力の高い里保とさくらだけでなく、本来は後方支援に向いている自分やさゆみまで飛躍的な攻撃力を発揮できるとは。
見た目は白のジャケットと黒のインナー。アクセントの赤い布が肩から垂れ下がっている。しかしこれが、戦闘服。
赤の布地は着用者の精神に感応し、時に武器となり時に能力増幅器官となり。また黒のインナーには防弾チョッキも真っ青な耐
久性が備わっているという。
あらためてこれを用意した、例の胡散臭い関西人のコネクションの広さに感心せざるを得ない。


「…まだ、みたいね」

さゆみの視線は、緩められることなくアスファルトで覆われた通用路の前方へ。
彼女たちが立っている場所から数十メートル。戦獣が全滅することなど計算のうちだったのだろう。
ロケットランチャーを構えた数人の男たちが、その矛先をこちら側に向けていた。

「ここは私たちが!!」

叫び声とともに、四人の少女たちが正面に踊り出る。
さゆみたちとは違い、白のジャケットは共通点としつつもインナーと肩の布が正反対。言わば「黒組」。

組織の警備兵たちが、濛々とした煙とともに一斉にランチャーを射出した。
勢いに任せた弾頭が、瞬く間に少女たちに肉薄する。だが彼女たちは微動だにしない。

「じゃあ聖がやるね」

そのうちの一人である聖が、一歩前に出る。
彼女の肩口からの黒い布が、大きく広がる。その大きさは、前方の視界を完全に塞いでしまうほどに。
まるで黒い何かの生き物のような布が、飛んできたミサイルを呑み込んだ。行き場を失ったそれが強制的に着弾し、凄まじい
爆発を起こす。それさえ、黒い布の前には衝撃ごと吸収されてしまった。

「な、なんだあれは」
「ミサイルが…食われた?」

呆気に取られる警備兵、そうしている間に三人の少女が一斉に走り出す。
我に返った兵の一人が小銃を取り出し、躊躇うことなくトリガーを引いた。


「だから、そんなん全然効かんとよ」

涼しい顔をして駆け抜ける衣梨奈。
彼女の黒い布はまるでプロペラのように高速で前方に回転、打ち出された銃弾をことごとく弾き返していた。

「今度はあたしが行きますね!!」

亜佑美の高速移動が、赤いインナーの身体能力増強によって切れ味を増す。
まさしく目にも止まらぬ速さで男たちに迫ると、同じく増強された蹴り技によって次々と警備兵たちをなぎ倒していった。

「おおー、さすがあゆみん。技のキレはピカイチだね!」
「太鼓鳴らしてるだけじゃなくてはるなんも働いてよ!!」
「みんながあまりにも凄すぎて、私なんかの出番はないかなぁって」

笑いながらそんなことを言っている春菜だが、倒れたふりをしていた警備兵の一人が不意打ちを仕掛けるのを余裕でかわし、
そして炸裂する裏拳。戦闘服の身体能力増強は、非力な春菜ですら立派な戦闘メンバーに変えていた。

さゆみたちが着ていた戦闘服とは違い、彼女たちの着ていた服は。
黒の布は伸縮自在の盾となり、身に降りかかるあらゆる攻撃を軽減または無効化する。
さらに、赤のインナーは着用者の身体能力を飛躍的に向上させる。仕組みは違えどこちらも戦闘服として絶大な効果を発揮
していた。

「今度こそ邪魔者はいなくなったかな。くどぅー、見てみて」
「よっしゃ、ハルの出番だぜ!!」


さゆみの指示で、後方に控えていた遥が自らの瞳の力を解放した。
物陰に潜む敵、研究所内に配備されている兵隊。全ての可能性が「千里眼」によって丸裸にされる。

「大丈夫っす。あとはもう『標的』しかいませんよ」
「そっか。ありがとね」

先程の警備兵たちが組織の最後の切り札だったらしい。
安心するさゆみに、亜佑美に伸された警備兵が苦しげに笑いはじめる。

「お、お前らはたどり着けない。お前らは、知らないのだ。『m0202』の恐ろしさをな」
「うるさい。おやすみ」

男の額を、刀の柄で一突き。
鮮やかな技を見せながらも、里保はさゆみに不安な視線を送らざるを得ない。

「だいじょうぶだよ、りほりほ」
「道重さん?」
「『あの子』のことは、さゆみが一番知ってるから」

胸に手をやりながらそんなことを言うさゆみは、里保を安心させているようにも。
そして自分自身に問いかけているようにも見えた。

大丈夫だ、この人を信じよう。

いつだって、自分たちを引っ張ってきたリーダー。そこに疑う余地など一片もない。
さゆみが先頭を切って歩き始めると、やがて後輩たちも後をついてゆくように先へと進む。
目指すは、闇深き研究所。






投稿日:2014/10/01(水) 02:22:16.64 0