■ コールドウォール -新垣里沙・田中れいな・佐藤優樹- ■


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■ コールドウォール -新垣里沙・田中れいな・佐藤優樹- ■

「たっなっさっ!たーーーーーーーん!」
空を切って跳躍する影、猛烈な速度で田中の背後から迫りくるは、魔獣か悪魔か。
もういい加減うんざりとしながら身構える。
同時に強烈な激突、衝撃が背中を襲う。
「ぐはっ痛ったい!佐藤!」
「ぐふふふーひゃー!」
「うーるさい!」
「たっ田中さんすんません!もうまーちゃん田中さんから離れろよ!」
「やですよーだ!まーちゃんのたなさたんだもーん!」
「やめろ!『の』ってなんだよ『の』って!失礼だろっ!」
「べーっだ!まーちゃんのったらまーちゃんのだよーん!ねー?たなさたん!ねー?」
「いやちがうけん」
「ほらー!まーちゃんはなれろよー!」
「ひゃー!やだー!ぐひひひひ!」

「…いやー、なぁんか、上が騒がしいねぇ…」
「そうですねぇ、ええことちゃいますかぁ?」
階下では新垣、光井が並んで食後の洗い物。
「まぁねぇ、そうだねぇ…」
複雑な思い。
新垣はもう一度、天井を見上げる。

”あの”たなかっちがねぇ…


朝からなぜこんなに騒がしいのか。

近くのアパートメントに仮住まいしていた10期、
――先日の入院騒ぎの後、
いつのまにか、あの4人はそう呼ばれるようになっていた――、
は、現在、リゾナント前の通りを挟んで向かい側、
新築マンションの2部屋を買い取り、そちらに移り住んでいた。

ちなみに2部屋なのは凰卵女学院で寮生活を続ける9期、
――ついでのように、
譜久村、生田、鞘師、鈴木の4人までヘンテコな呼び名で通るようになっている――
も、いずれは卒業するだろうからで、
まあとにかくも、その結果、当然のように起床と同時に4人はリゾナントに殺到するようになっていたのである。

朝食の後、石田は凰卵学院へ、道重と飯窪は開店準備、そして佐藤と工藤のお世話係が…

”あの”たなかっち…

なのである。

田中は難しい人間だ。
人間嫌い、子供嫌い、干渉嫌い、まさに野良猫のような性格。
とても子供の世話が務まるような”出来た”人間ではない。
実際、10期が身を寄せた当初、田中は完全に、この4人を拒絶していた。

拒絶。

明確で、巨大で、分厚い…、冷たい、壁。

だが佐藤優樹は、そんな壁をものともせず、頭から突っ込んでいく。
何度も何度も何度も…何度も、である。


新垣は、佐藤が田中に罵声を浴びせられ、
冷たく拒絶される場面を数えきれないほど思い出せる。
そう、こんな短期間で、すでに数えきれないほど。

怒号。

ほかの10期が小さくなるほどに怯え、縮こまるほどの鋭い罵声。
そのたびに、佐藤は、げらげら笑いながら、こっちに走ってくる。
「ひゃー!にがきさーんたすけてー!たなたさ…えっと、こわいひと怒ってるー!」
「ちょ、アタシを巻き込まないでくれるぅ?」
そのたびに、新垣が返す言葉。

ほんとうに、アンタはすごいよ…アタシはさ、そう、アタシはたった一回で…

ズキリ、かつての傷が、新垣の胸を突く。
佐藤が罵声を浴びせられる場面は、数えきれないほど思い出せる。
だが、新垣は一度しか、思い出せない。
新垣自身が田中に浴びせられた罵声、冷たい拒絶、その場面を。
ズキリ、また痛む。

「いやーしかし、すごいよねーあの子は、さ。」

田中の難しさは何も新人にだけ向けられているものではない。
その拒絶の壁は初対面に近かったころには、すべてのメンバーが
一度は向けられていたものだ。

道重や光井は慣れたもので、もう最初からそういうものとして田中と接してきた。
機嫌が悪そうならそっとしておき、機嫌がいい時はそれなりに楽しく盛り上がる。


では新垣は違うのか?
いや、道重や光井と変わらない、もともと関係は悪くはなかったはずだ。
それに、今でも仲が悪いわけではない。
皆が集まってワイワイしている中でならば、普通に会話もする仲だ。
だが、二人きりになった途端、完全に会話が途切れてしまう。
やがて、どちらともなく、二人きりになる事自体を互いが避けるようになり…
そんな状態が現在まで続いている。

いつからだろう?やっぱり愛ちゃんがいなくなった、あの時の…
ズキリ、新垣は強く言い過ぎたのかもしれない。
ズキリ、そしてそれは田中も…
お互いに、それがわかっていながら…


あのとき、アタシも、もう一度、飛び込むべきだったの、かねぇ…

ドシーン!バターン!ぎゃひー!
怒号と足音が降りてくる。

「ちょっ?ちょい?なにぃ?」

勢いよくリビングへ飛び込んでくる佐藤。
靴下履きの足でフローリングを文字通り滑走、両手を突いて減速させるやいなや、
一直線、新垣へ向かって突っ込んでくる。
「キャハハハハ!ひゃー!にがきさーん!たすけてー!」

満面の笑み。
この笑顔が、田中の心を溶かしたのだ。
自分には出来なかった、あの壁を、この子はあっさりと…

「もう怒ったけん!ガキさん!そんガキつかまえて!今日こそは!」
「だーからさーアータシは巻き込まないでって…」

もしかしたら、さ、また、アタシたちも、もしかしたら、さ…
ねぇ?たなかっち…



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投稿日:2014/09/19(金) 19:59:47.00 0