『Vanish!Ⅲ ~password is 0~』(4)



★★★★★★

新垣と光井が去ったリゾナント、店内には残された10人
頼れるリーダーと頼もしき8人の仲間、そう9人は各々を信じて疑わない
「・・・」
ともに戦ったかつての友が去って行った扉をただ眺め、虚空に浮かぶ過去の偶像を描くのはリーダー、道重

ブーン、と空気清浄機の機械音がただただ空気を震わせ、こごもった芳香剤のにおいが鼻をつく
(こういう時になんて声をかければいいのだろう?)
同世代とは比較できない程多くの人と出会い、経験した鞘師ですら顔に浮かぶは困惑の色
『敵はかつての大親友』、気付いたとはいえ、改めて口に出すことで受け止めざる得ない現実を知り、傷ついたリーダー
それを齢一回りも離れた私なんかが簡単に『大丈夫ですか?』なんて平凡な言葉でいいのか?と悩む

「・・・ねえ、DOどぅ。まーちゃんが敵になったらどぅはまさを倒してくれる?」
「へ?」
突然空気をぶち壊して工藤にそんな突拍子もない質問をしたのは、本来空気を読めるはずの佐藤であった
「まあちゃん、何言ってるの?」
「ねえ?どぅだったらまさを殺してくれるの?」
「そ、そんなの・・・」
「まさはね、どぅが敵になったら、ためらいもなくスカーンって倒してあげる!!」
「な!!」

何を言い出してるのか、止めなくては、と自身の心拍数が明らかに警告を発しているのに喉から言葉が出ない
まあちゃんは変人だ、はっきり言ってしまえば一般常識がない・・・だけど何も考えていないわけでもない

「だってまさはどぅの友達だもん。それにどぅはまさと同じリゾナンターでしょ?
 まさがリゾナンターになって悲しむ人を減らせるように頑張ってるんだもん」
「そ、それはそうだけどさ」
「まさはどぅが悲しむの見たくない!どぅが悲しむ人を自分の手で増やすの見たくないもん!
 まさもそんなどぅ救いたいから。どぅはそんなこと望まないもん!」


何を佐藤が言いたいのか鞘師は理解した
佐藤は佐藤なりに道重に対して自分の意見を伝えようと必死なのだ
絶対的に語彙が足りない、でも・・・その思いは仲間達に伝わった

道重はふっと笑う
「何言ってるの、さゆみだってとっくに覚悟はしているの
 もしかしたら戦わなくてはならないそんなときもあるかもしれない、なんてね
 大丈夫、だって、さゆみはリゾナンターなんだから。心配いらないの」

その言葉を信じ、その夜はそれぞれ帰宅の途についた
帰り道の暗闇は明日、どうなるか知らない、とでもいうようにいつもより深く重く感じられた
目を瞑ったらすぐに寝れる筈の鞘師もその日は日付を跨ぐまでは夢を見ることができなかった

★★★★★★

それから二日後、再びリゾナンターはダークネスの気配を感じ、現場へと駆けつけた

鞘師の刀が幾千もの弧を描き、石田のリオンが縦横無尽に駆け抜ける
鈴木が敵を張り倒し、佐藤が無邪気に突き破り、生田がワイヤーで敵を絡めとる
小田が急所を的確に突き動けなくし、飯窪が仲間達の痛覚を麻痺させ疲労を軽減させる
工藤と譜久村は道重を守り抜き、道重が指揮を滞りなく務めていく

やはり、今日もリゾナンター優位のようだった
そんなダークネスを従えているのはまたしても詐術師だった
「な、なんなんだよ、おまえら、いつも、なんでおいらの邪魔をするんだ!」
誰もその問いに答えようとはしない。

二度と立ち向かってこないように、と思いを込めながら戦い続ける
傷ついた肉体と同じくらいに、気持ちが深く刻まれ、消えない思いとなってくれればいいのに、そう何度祈っただろう


しかし、願いは叶わない。何百回、こうやってダークネスと闘ったろう?それなのに一向に戦いは終わらない

(さゆみは正しいことしているのかな?変わらなきゃいけないのはさゆみのほうじゃないのかな?)
そのとき親友は答えた
(さゆはさゆのままでいい)
それだけでも嬉しかった。でもメール無精な彼女から数十分後にメールが届いた
(さっきの間違い。さゆはさゆのまま『が』いい)
涙が自然と出てきた、止まらなかった
嬉しかった、誰よりもわかってもらいたい人にそういわれることが

それから誓った、戦うしかない、自身の信念に従い、終わるともわからぬ永遠の中で
だから何を言われても構わない、それが私のできることだって信じているから

また一つ、近くで砂煙があがる。リオンに飛ばされたのだろう、男が背中を地面に打ち付け動かなくなる
現実に戻るといつも思う、なんでこんなに普通じゃないんだろうって
でも、それを選んだのは私なんだ、誰にでもできることじゃないし、普通じゃない私しかできないんだから

「さあいい加減あきらめてください! もうこれ以上傷つけるのはお互いやめましょう!」
「うるさい!!」
小さなその体から不釣り合いなほど強大で、絞り出したような悲鳴に近い声だった
「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい・・・うるさい!!!!!
 もう、あとがないんだ、おいらには、なんとしてでも手柄を示さなくちゃいけないんだ」
その叫びに呼応するかのごとく突風が吹いた

 ( ( (!? これは ) ) ) ( ( ( もしかして? ) ) ) ( ( (風ということは ) ) )

砂埃が止み、開けた視界。座り込む矢口の近くに一人の女が棒立ちで立っていた
女は矢口に手を貸すわけでもなく、ただ矢口を見下ろしていた

「・・・えり」
名前を呼んだその声の主へ、彼女はゆっくりと顔を向ける


フードも被っていない、電灯に照らされたその顔、忘れることのできない親友
「なんで?えり、さゆみだよ。ほら」
亀井は表情を変えずに首を横に傾げた
「えりの風はダークネスなんかにこれ以上汚されちゃいけないんだよ!ほら、こっちに来てよ」
真顔のまま、先ほどと反対側に傾がれる首

「なにやってるんだ!カメイ!!そこにいるリゾナンター全員をやっつけるんだ!!」
這いつくばったままの矢口の命令に従うように亀井はゆっくりと手を掲げる

「道重さん、危ない!」と工藤が叫んだころにはすでに風の刃が道重に向かって放たれていた
慌てて佐藤が飛んで道重を捕まえ、間一髪のところで切り抜ける
「道重さん、あぶなかった~でも、みんなも危ない。とうっ」
リオンで早く移動できる石田といえどもあの工藤以外には見えない刃を避けることは困難
小田が一時的に時を自分だけが動けない空間にしたところで、速度自体はかわらない
そんなことは考えず、直感的に危険、と判断した佐藤は仲間全員を少し離れた倉庫群の一つの倉庫内に移動させた

「な、なんでまーちゃん、ここに跳んだの?」
突然瞬間移動したことに対応できず、しりもちをついてしまった石田が尋ねるが、佐藤はうーんと唸っている
「・・・なんでだろ?なんとなくここに行きたいって思って」
「な、なんとなくってそんな理由で?危ないじゃない!まあちゃん、どうしたの?」
しかし小田は冷静に周囲を観察しながら、相変わらずのトーンで会話に入り込む
「・・・いえ、この場所は亀井さんの風をよけるためにはうってつけかもしれないです
 ・・・四方に壁がありますから、攻撃するには障害物を破壊しなくてはりませんから、攻撃を視覚化できます
 ・・・それに障害物があるということはその分、風が届きにくくなります」
道重も同じことを思っていたのだろう、表情を引き締めなおしていた

「すごいね、まあちゃん!一瞬でこんなことを思いつくなんて」
『違う』
そこに直接、頭に飛び込んできた声
『佐藤には、何かあったらそこにいくように刷り込んでおいただけだよ』


「だ、誰?姿を現せ!!」
工藤がその声に向かって吠えた
『いやいやいや、工藤、何言ってるの?姿見せたら作戦台無しでしょ?』
「さ、作戦?はる達を追い込むための作戦だと?」

『いやいやいや、そんなことひとっこともいっていないから
工藤、話しっかり聞く、状況考える、冷静になる。教わったでしょ?』
「お、教わった?」
きょとんとする工藤に暗がりから声がかかる
「そや、これはうちらの作戦や。そこでしっかりみとき」
「関西弁?ということは?」
月明かりが窓から差し込み、暗がりを照らした。そこには光井の姿、そしてその手にはトランシーバーが

「襲撃することは視えとった。せやから、次に何かあった時にはここにくるように新垣さんが佐藤にうえつけといたんや」
二日前に佐藤を褒めるように頭をなでている新垣の姿が思い出された
「あ、あのときですか?」

「それで愛佳がいるのはいいけど、何をする気なの?」
「・・・道重さん、やはりこの件は愛佳たちも手をかすべきやと思います
 もともとの原因がうちらにあるわけですから」
『そういうこと。さゆみん、私達も協力させてもらうからね』
トランシーバーから新垣の声が流れてきた

しかし、と鞘師は思う。いったい、どうやって新垣が亀井を捕えるのかと
『そろそろやすしが、どうするのかな?なんて思う頃だろうね』
自分の心を完全に読まれているようで、唇を少し噛みしめた
『さあ、その倉庫からでてみなさい。ただしゆっくりね』

「ゆっくりとってどういうことなんだろうね?香音の眼にはなんも見えないんだけど」
そういいさらに数歩踏み出そうとする鈴木
「! まってください、鈴木さん」


「ま、待ってっといわれても急には止まれない 痛いっ」
痛みを訴え倒れこんだ鈴木、その足首から血が流れていた
「・・・ピアノ線ですね。それも視えないくらいの細さ」
「ええ、はるの眼でようやくみえるくらいのピアノ線。それもこの倉庫群全部に張り巡らされています」
地面には鈴木のものと思われる血溜りができていた

「鈴木、動かないで。治してあげるから。ねえ、愛佳いつからこの準備をしていたの?」
「準備ですか?そうですねえ、作戦を思いついたのはこの前会う時より前ですね
 準備、という意味でしたら・・・数時間というところですかね」
「たった数時間で?」
驚くのも当然だろう。工藤の眼にみえているのは巨大な倉庫群だったのだから
そこにすべてピアノ線を張る、それがどれほどの労力がいるのか、精神力がいるのだろう
「・・・新垣さん、さすがやね」
『こら~生田!感心している場合あったら、周囲を警戒する
 カメは私達を狙っているんだから、気を抜くと危険だよ』

しかし、と譜久村は疑問に思ったことを光井に問いかけた
「どうやって、亀井さんは私たちの居場所を把握しているんでしょうか?」
光井はニヤリと笑った
「それはな、愛佳と道重さんがおるからこそできる作戦なんや」
「作戦?」

「もともと私たちはリゾナンター、共鳴のもとに繋がっておることはみんなも知っとるやろ?
 今回は、その絆のために愛佳と新垣さんは亀井さんが復活したっちゅうことに気づいた
 っちゅうことは逆もありえるやろ?」
はっと気づいたように譜久村が手を口元にあてた
「お二人の共鳴の絆を頼りに私たちの居場所を突き止めることが亀井さんにできる」
「そういうことや。共鳴を逆手にとって亀井さんをここにおびきよせる」
『そして近づいたところを私が生け捕りにする』


「でも、風の刃でワイヤーを破壊することだって想定されるじゃないですか
 遠距離から攻撃してきたらどうするんですか?」
『だからこそ、そのためにこれだけ広範囲に結界をはっているの
 幾重にもワイヤーを断てば、風の刃の飛んでくる方向くらい簡単に解析できる』
穴はない、ってことですか、先輩、と鞘師は思う

「亀井さんは瞬間移動することはできへん、遠距離からの風または近づいてからの攻撃しかあらへん
 それにもしダークネスの瞬間移動装置を使ったとしても、この倉庫の周りにも幾重のワイヤーが張り巡らされてる
 近距離ならあんたらでも攻撃できるやろ?風の動きはこの使っていない倉庫にたまった埃で見えるようになっとる」
鼻を刺激する黴のような臭いが漂っているのはそのせいだった
「さすが愛佳とガキさんですね」
『何言ってんの、みんなにも協力してもらうんだからね。ただ自分の身は自分で守ってもらうよ、自己責任だからね』

先輩二人の作戦には落ち度はないように感じられた
新垣を攻撃する可能性もあるが、そこは新垣のことだ、安全な場所にいるのだろう
問題は亀井を捕えてから、ということも鞘師は考えていた
いずれにせよ、まずはその姿を捕えなくてはならないと、柄を持つ手にも力が入る

トクン、トクンと自身の心臓の刻むリズムが静寂を不気味に助長させる
一分が数時間にも感じられるような濃い時間が流れる

そして、その時が訪れる
「来るで」
『来た!!』
新垣の張っていたピアノ線が一斉に竜のように一か所に集まっていく

その中心には当然のように亀井の姿
目に見えないとはいえ、明らかに自分を狙っている何者かの気配を感じあらゆる方向にカマイタチを放つ
カマイタチにより切断された糸は地上にいる11人からは見えない
しかし、その後ろから新たなもピアノ線が次々と亀井の元へと集まっていくのだろう、亀井の手は動き続ける


「いける、これなら亀井さんを捕まえられます!」
「で、でも新垣さんは大丈夫なんでしょうか?あのピアノ線は新垣さんが全て操っているんですよね?
 あのピアノ線を辿れば新垣さんの元にたどり着くことになるんじゃ?新垣さんはいま、無防備なんですよ」

「だれが無防備なんだって?」
振り向くとそこには新垣が腕を組んでたっていた
袖からは操っているはずのピアノ線の束は全く見えない
「え?え?新垣さん?なんでここに?」
「新垣さんがここにいるのにどうやってピアノ線が亀井さんにむかっているんですか?」

「・・・あれはフェイクなんですね」
「そうや、もともと、ここの現場には詐術師が現れたっちゅう未来は視えとった
 新垣さんのワイヤー操作の根本は精神操作、それを阻害されたらすべて終わり
 せやから、新垣さんはこの工場を選んだ」
「そういえば、ここはなんの工場なんですか?」
その問いに答えたのは工藤であった
「繊維工場の倉庫ですね」
「御名答、前もって新垣さんはただの繊維に自身の念動力で亀井さんの位置をただ辿るように念をかけた
 そして、建物の周囲にだけ本物のワイヤーで亀井さんが攻撃をしてきたときに方角を把握できるようにした
 攻撃されたとき、その位置を座標で示し、念を込めた糸たちが自然と飛んでいくようにしただけや」
「・・・あの糸にはなんの殺傷力もない、ただ亀井さんの位置を示す、それだけの役割なんですね」
小田の眼をまっすぐにとらえて、新垣が満足そうにうなずく
「小田ちゃん、やるね」

「すごーい!!新垣さん!!それでこれからどうするんですか?」
生田の問いに振り返って新垣は袖から透明な糸を取り出した
「あの糸に集中している間に死角からこれで直接たたく。なるべく生け捕りにしたいからね」
無数の糸に絡み取られそうになっている亀井を地上から仰ぎながら、悲しそうな目でつぶやく
「カメを救わなきゃね」
そして、その糸を亀井めがけ、伸ばしていく


絶妙に亀井のカマイタチを避けながら糸は伸びていく
時折、新垣は「おりゃ」だの「およよ」だの呟きながらも集中力を欠かすことなく伸ばしていく
そして亀井にあと少し、というところまで伸びていったのだろう、小さく、「いくよ」と仲間達を振り返り力強く言った
ワイヤーが亀井の体をぐるぐると囲み、一気にその腕を縛り上げた
突然動かなくなり、縛り付けられた形になった腕を亀井は見上げた
地上からはその時の亀井の表情は判断できなかった

「さあ、みんな、ここからカメの動きを」

そこで新垣の言葉は途切れ、地面に吹き飛ばされた
突然、飛ばされた新垣に仲間達は驚き、慌ててかけよった

「新垣さん、どうしたんですか?」
「あ、愛佳、カメのヤツ、私のワイヤーをやぶった」

そんなはずはない、と鞘師は宙を見上げる
あのとき、『確実に』亀井さんの腕は動きを封じられていた
これまでの攻撃を見る限り亀井さんの風は掌の上から生み出されている
それをしってのうえで新垣さんは亀井さんの腕を縛り上げたはずなのに

そして、自分自身が風のように飛んでくる亀井の姿が目に映った
「な、やばい!こっちに来る!」
慌てて石田がリオンを呼び出し、鞘師が水の刃を生み出す
しかし、視えない風を相手に何ができるのだろう?
不安が急速に膨らんでいくと同時に、距離が縮まっていく

光井が叫ぶ
「2秒後、飯窪と譜久村、左に飛び込め!5秒後、佐藤、工藤と石田を抱え飛ぶ
 鞘師は鈴木につかまり、鈴木は透過を発動。小田は生田とともに倉庫の中に避難
 道重さんは9秒後に新垣さんの左腕を治してください!」


予言通り、7秒後新垣の左腕がはじけとび、道重が慌てて腕をつかみ患部同士を繋ぎ合わせる
「ちょっと、愛佳!!これはやばいんじゃない?」
「さ、佐藤、可能な限り早く、飛んで逃げるで」
「む、むり~さっきの移動ですぐにはとべない!!」

こうしている間にも無表情の亀井は迫ってくる
目的はやはり、リーダーシップをとっている新垣、または光井か
それとも治癒を行える道重か、攻撃の要の鞘師か?

しかし・・・亀井はそんな4人を無視し、工藤達が逃げ込んだ倉庫へ向かいカマイタチを放った
轟音とともに屋根の一部が崩れ落ちる

「生田!小田ちゃん!」
道重は叫ぶが、次々とカマイタチが倉庫を襲いその声はかき消される
「な、なんであそこばかり?」
「そんなこといってられないですよ!このままじゃ、二人が」

豆粒ほどだった亀井の姿がもう肉眼でもその表情がはっきり見えるほどに迫っている
倉庫の二人以外に亀井の興味はないらしい、倉庫へ一直線

「こ、こうなったらえりがなんとかしなきゃいかんけん」
「・・・いやはや、きびしいですね」
倉庫の中の二人は臨戦態勢をとっているものの、能力は心もとない
小田が時を感じなくしてもカマイタチがなくなるわけではない、放っているカマイタチは存在するのだ
それを小田は避けられるかもしれないが、生田が避けられる保証はなかった
(・・・能力は使っても意味はない、ということですか)
万事休す、そう思ったのだろう、笑ってしまう
「なに笑っていると!さくらちゃん、構えると!」


どうすればいい、と鞘師はまたも考えをめぐらす
この距離でなにかできるのか?いや、できない。何もできないのか?後悔するしかないのか?
いやだ、いやだ、いやだ、でも・・・何もできない、のか?

そう思い、亀井の姿を目で捉えた
風になびく緩やかな黒髪、魅惑的なあひる口、柔らかそうな肌、仲間達に向けられた両手、ピンク色に輝く瞳
(・・・ピンク色?)

「え~い、これでもくらうと!えりぽん必殺!ワイヤー攻撃」
新垣と比較するとどうしてもその粗さが目立つが、ワイヤーが亀井向かって伸びていく
しかし、そのワイヤーの先端は亀井に触れる、その直前で淡雪かのように崩れていく
「な、なんやと?」
小田は思い出す
(・・・あの時と同じ、私が投げたナイフが消えていったのと同じだ)

迫りくる亀井を生田が恐怖に満ちた目で眺め、ぺたんと座り込む
「む、無理やって、これは、さすがに」
「・・・大丈夫ですか?生田さん?」
ハハ、と引きつり笑いをうかべながら弱弱しく答える
「大丈夫じゃないと」

そのとき、目の前が突然、太陽が昇ったかのごとく明るくなった
「イヤ」
誰かの声が届き、次の瞬間には緑色の炎がたちあがり、亀井を飲み込んでいた
「バッチリデス」
小柄な女性が残っている倉庫の屋根の上から顔をのぞかせ、笑って見せた





投稿日:2014/09/19(金) 11:26:07.76 0

























最終更新:2014年09月20日 07:21