『NO ESCAPE』(前編)



何者かに追われ、襲われる一人の女。

「私は死ぬのか…?嫌だ…こんな惨めな死に様は。憎い…あいつらのせいで…!お前らのせいで…!」

そこに、どこからともなく声が響いてきた。

“憎め、憎め。憎しみこそ力だ。憎しみこそ闇だ”

ハッ!?

夢だった。
だが、直近の過去を象徴するような夢だった。

起き上がった女は、パソコンに向かう。
すると、珍しく組織からの通信が1件入っていた。

過去類を見ない失敗を犯し、それと共に以前の私腹を肥やす為の不正も明るみになり、女は粛清された。
息のかかった部下達も、多くは放逐された。
だが、それらを掻い潜った僅かな部下達の手で女は再生された。


しかし、組織に戻れる訳もなく、表立った動きも取れず、潜伏生活が続いていた。
そんな所に届いた、1件の通信。

『R 上がる模様』

そうか、ついにアイツもか…。
自分を手に掛けた“R”も、結局は人間らしい道へ戻るのか。

女は自身のした事を棚に上げ、人間という存在への一方的な恨みを募らせていた。
すると、何者かの人間に対する憎しみの声が呼応するように感じた。

「なんて激しい憎しみだ…。この憎しみが念力波となり、過去を呼び覚まし夢を見させていたのか…」

この聞こえてくる憎しみを、女は利用してやろうと思い付いた。


「香音ちゃんどうしたの?なんか嬉しそう」
「えっ!?べべべべ別にそんな事ないよ!?」
「え~なんかますます怪しいですね~」

香音はそうは言うものの、表情や仕草からも何か喜ばしい事があったのは明白だった。
そして、紙袋を大事そうに持ちながら店を出ていった。

カウンターを見やる聖と亜佑実。それに対し、微笑みながら頷くさゆみ。
2人は香音に気付かれないように、後をつけていった。

着いたのは、ターミナル駅の改札。
香音は、誰かが来るのを待っているようだった。

「誰が来るのかな…?」
「やっぱり…彼氏?」
「キャー!そんなそんな!」

2人で興奮しあっていた、その時。

「…何してんの?」

香音に気付かれてしまった2人。

「あっ…こ、これからどこ行こうかな~って…」
「そ、そうです!そうなんです!」
「ふ~ん。…つけてきたよね?」
「…うん、ゴメン」
「ゴメンなさい」
「ま、いいや。別に隠すほどのことじゃなかったし。あ、来た!」


香音が手を振る方を見ると、香音に似た雰囲気の小学生くらいの女の子が手を振って近付いてきた。

「お姉ちゃ~ん!」
「え?お姉ちゃん?て事は、妹?」
「そうだよ」
「お姉ちゃん、この人たちは?」
「あっ、紹介するね、私の大事な友達。聖ちゃんと亜佑実ちゃん」

お互い挨拶を交わし、近くのファミレスに入店した一同。

「じゃ~ん!」
「わぁ~!クマちゃん!」

大事そうに持っていた紙袋から香音が取り出したのは、テディベアだった。
妹は、香音の持つちゃーちゃんとお揃いのテディベアを持っていたそうだが、最近した引っ越しのゴタゴタの中でなくしてしまっていたという。

「わたしは大丈夫だよ。くますけは立派な大きな熊さんになって山に帰っていったんだ」
「え~、何それすごい大人~!」
「可愛い~!」
「じゃあこの子を私だと思って、大事にしてね」
「じゃあ名前は“くまのん”だね!」
「アハハw くまモンみたいw」

その後、あとは姉妹水入らずでと、聖と亜佑実は香音たちと別れた。


その頃。

「ここか…」

女は、ある山中の洞窟の前に立っていた。
その奥から、強い恨みの念を感じとっていた。


その後。
街に熊の化け物が出現し、人々を襲いだした。

リゾナンター達も現場に駆け付け応戦するが、熊の圧倒的なパワーに押され、劣勢になりながらもなんとか撃退した。

リゾナントに戻り、さゆみによる傷の手当てを受ける一同。
その中で、今回の熊の化け物が、今まで現れたようなふざけた怪人とは一線を画していることを感じ取っていた。
それに関して、さゆみが口を開いた。

「これは結構大きな話題になったから覚えてる人もいるかもしれないけど、みんながここに来る前ね、大きな熊が次々に人を襲って騒ぎになったんだよ。山狩りで退治されたはずだけど…」
「ということは、その時に死んでるんですよね?」
「でも、人間への恨みや憎しみは残った」
「それを、ダークネスが利用して実体化したんですね」「だけど、熊だって好きで人間を襲った訳じゃあないですよね」
「開発が進んで、山が枯れ、餌を求めて人里に出てくるようになって」
「それを追い回され、次第に凶暴になっていったんですね」
「人間を憎みたくもなりますよね…」
「でも、その憎しみを利用するなんて許せない!」


一同は三手に別れ、見回りに出掛けた。

一方、香音の妹は香音の家で留守番をしていたが、お菓子を買おうとコンビニに行こうとしていた。


「あ、ここ私ん家近く」

聖と亜佑実と共に見回りしていた香音が呟いた。

「…!!」

それと同時に、胸騒ぎを感じた。
駆け出す香音。

「どうしたんですか鈴木さん!?」
「香音ちゃん!?」

追いかける2人。
駆け付けた先で香音が見たものは。

「お姉ちゃん!!」

熊の化け物に捕まった、妹の姿。
そこに覆面で正体を隠した女も現れた。

「動くな!動くとこの娘は…。手も足も出せまい。恨み重なるお前ら。少しの間楽しませてもらおう」

そう言って、姿を消した。
残されたくまのんのぬいぐるみを持って、香音は妹の救出を誓う。





投稿日:2014/08/06(水) 00:33:19.50 0






















最終更新:2014年08月07日 10:44