『リゾナンター爻(シャオ)』 06話


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夜が訪れる。
周囲が闇に満ちるこの時間、人々が住まう街は灯りを点すことで暗闇に抵抗する。だが、この場所はむしろそんな闇を受け入れてす
らいるかのように映る。
この世のありとあらゆる闇が集う地、すわわちダークネスの本拠地。
その地下深くに設けられているのが、彼女たちの会議の場。通称「蒼天の間」と呼ばれる場所であった。

円筒状の空間に、配された13の椅子。
会議に参加する組織の幹部たちは数人を除いて既に席に座っているものの。

「しっかしまあ何だ。うちの所帯も随分寂しくなったもんだな」

ライダースーツの金髪が、大げさにため息をつく。

「『守護者』と『詐術師』が死んでしまったわ。二人の粛清人もいない。今日の議題は差し詰め、組織の建て直しってとこかしら」

呼応するように、真向かいの迫力のある顔の女性が言った。
彼女の言うとおり、三人の幹部が殉職し、後の一人は再起不能。下部組織は右往左往の混乱中。まずは状況を収め組織の地盤固め
を行うことは急務だった。

「粛清人については後任が育つまで持ち回りでやるしかないっすね。ま、組織がガタついたって言っても痒い所に多少手が届きに
くくなるだけの話。そんなことより…あいつらを、何とかしないとな」
「リゾナンターのことね」
「ま、あたしは戦闘に関してはからっきしですから。お強い先輩たちに任せ…あたっ!?」
「ばーか、お前一応幹部だろ?」

隣でおどけるプリン色の頭を軽く小突くライダースーツ。
と同時に、先ほどから一言も喋らないある人物のほうへと視線をやる。


「なぁ。そろそろ気持ち、切り替えてくんねえかな?」
「…美貴のことは、ほっといて」

ようやく口を開いたゴシックロリータの女性。だがそれきり、瞳を閉じて外界から意識を遮断させてしまう。

その時だった。
部屋の扉が、ゆっくりと開く。
黒のローブを纏った妙齢の女性は、着席している四人の顔を見やりながら、中央の自分の席に深々と腰を落とした。

「…随分、静かやな」
「『詐術師』と『黒の粛清』がいませんからね」

皮肉ったような、迫力ある顔の女性 -「永遠殺し」-の言葉を聞き、深くため息をつく。
ただ、これも組織が前に進むための犠牲。割り切るしかない。組織のトップに立つものとして、それ以上振り返る事はしなかった。

「あいつらは?おらへんやん」
「…”任務”を終えて、とっくにこっちに来てるはずなんすけど―」

ライダースーツ -『鋼脚』- がそう言いかけた時。
爆発音。一瞬身構える幹部たちだが、すぐにその音の主は判明した。

「おーっす!!」
「ひっさしぶりやなぁ。アホの蟲使いぶっ殺したった時以来か」

爆発音は、現れた二人組の片方が扉を思い切り蹴飛ばして開けた音だった。
一人は、腹部を出したチューブトップにショートパンツ。明らかに近接戦が得意、といった格好。そしてもう一人は脇に布を合わせ
て止めるタイプの半袖のワンピース。どちらも布地は白を基調としていた。
ダークネスにおいて災厄の双子として恐れられた二人、「金鴉」と「煙鏡」が再び蒼天の間に足を踏み入れたのだ。


「反省した顔には、見えへんね」
「反省したっちゅうねん。反省しすぎて得体の知れない怒りが体中巡り巡ってるわ」

相変わらずの物言い。不遜な態度。
声をかけた「首領」をまるで恐れず、逆に挑発的な態度を取るのは「煙鏡」。
トレードマークだったお団子頭を解き、今は髪を軽く後ろで纏めている。

物珍しそうに、13の席を見回す二人の悪童。
今度はいつかのように二人で一つの席になることもない。と言うより空席が多すぎてどこに座ろうが、といった状態ではあるのだが。
「金鴉」が椅子が壊れるのではと思うくらいに勢いよく席に飛び付き、それを馬鹿にしたような目で見つつ「煙鏡」もまた自らの椅
子に深く体を沈めた。

「にしても、随分減ったなあ。亜弥ちゃんも梨華もおらへん」
「かおりんもいないじゃん。予知とかどうすんの?」
「ええやん。これからはうちらがダークネスの未来の導き手になるってな」
「…はしゃぐのもいいけど、そろそろ座りなさい。ここは遊び場じゃないのよ?」

「永遠殺し」が諌めるのも無視し、「おばちゃんうっせーよ」とか「あれ、お前誰やっけ。確かコバヤシ…」「てかまことが幹部?
冗談でしょ!」と好き放題。だがある事に気づき、ぴたりと動きが止まる。

「そういや、あいつがおらんやないか。うちらを呼びつけた、芋科学者が」
「カガクシャ先生は重役出勤ってか?うらやましいねえ」

毒づく二人の背後の扉が、ゆっくり開く。
いつものように一番遅れて件の科学者が登場、と思いきや。


「何なの、これ」

呆れた「永遠殺し」が一言。
何やら黒い布に包まれた大きな物体を持ち込んだ白衣の男たち。徐に椅子の一つに設置すると、勿体ぶった布切れを剥がし取った。
姿を現す、大きな液晶テレビ。

「おいおい、まさか…」
「その通りですよ、『鋼脚』さん」

頭に過ぎった想定を肯定する声。
テレビのモニターには、砂浜に置かれたサマーベッドに白衣のまま寝転ぶ女が一人。
日除けの為に挿されたパラソルと、テーブルの上のトロピカルドリンクが、嫌が応にも南国気分を醸しだしていた。

「おいこらお前!何してんねん!!」
「見ておわかりになりませんか?休暇ですよ」
「はぁ?うちら呼び出しといて暢気にバカンス、舐めたまねしてくれるわなあ!?」
「御不満があるのなら、そちらにいらっしゃる『首領』におっしゃってください」

テレビの画面に向かって噛み付く「煙鏡」。
休暇を楽しむ「叡智の集積」について問い質そうとするも、当の上司は優雅に寛ぐ白衣の女に腹を抱えて笑っていた。

「あんた…ほんまにそういう場所が似合わへんなあー」
「そうですか?白衣と砂浜という取り合わせは意外に悪くないと思いますが」
「まあええわ。ほな、早速会議のほう、はじめるで」

「首領」が、会議の開始を宣言する。


彼女たちが抱える今後の課題は。「永遠殺し」が、切り出した。

「Dr.マルシェが遂行した『プロジェクトЯ』は滞りなく終了しているわ。目論見どおり田中れいなを離脱させ、共鳴現象の再現
に関する大きな手がかりを手に入れた。そうよね?」
「ええ。田中れいなから奪取したモノのデータの解析ですが、それほど時間は取られないでしょう。田中れいなが抜けた代わりに、
こちらの貴重な実験体を取られてしまいましたが。まあよしとしましょうか」

貴重な実験体、というのはもちろんリゾナンターに加入した小田さくらのこと。
だが紺野の口ぶりからするに、それも想定内の出来事だったようだ。

「でもよ。それでよし、じゃ済まないんじゃねーの? 結局リゾナンターはれいなの穴を埋めきるだけの力を身につけちまったんだし」

「鋼脚」が冗談めいた口調でそう話す。
単なる冗談なのか、からかいなのか、非難めいたものなのか。薄笑いを浮かべた表情からは窺い知る事はできない。

「確かに完全に無視できるような存在じゃなくなったかもしれないっすね。例の組織に『蟲惑』さん再利用された一件も、完全にリゾ
ナンターに出し抜かれちゃいましたし」

『オガワ』が、へらへらしながらの追随。
もっともそれは、「永遠殺し」のひと睨みで意気消沈してしまう程度のものだったが。
そんな中、紺野は。

「そうですね。そこで私は。『金鴉』さん、『煙鏡』さんの両名をリゾナンターに差し向ける事を提案します」

俄かに場がざわつく。
共鳴の力を手に入れた今、組織にとってリゾナンターは粛清の対象でしかない。
となれば、本来であれば粛清人に任せるのが筋。ただ、今はその粛清人が空位であるからして、首領を除いた全員の幹部にその権利が
あるはずだった。が。


「さっすがこんこん!のんたちのこと、よくわかってるじゃん!!」
「錚々たる面々が持て余してたリゾナンターを、うちらが始末することで復帰早々の手土産にする。なかなかええシナリオやないか」

喜んでいるのは例の二人組だけ。
他の幹部たちは、それぞれが複雑な表情を見せる。唯一、「氷の魔女」だけは我関せずとばかりに手鼻をかんでいた。

「…どうでしょう?『首領』」
「ま、ええんやないの」

組織のトップの、嫌にあっさりした認可。
それに気を良くした「金鴉」「煙鏡」が忙しく席を立った。

「ちょっとあんたたち、まだ会議は終わってない―」
「だってのんたちの仕事はもう決まったんでしょ?」
「せやせや。リゾナンターを面白おかしく始末するええ方法、これから考えなあかんしな」

引き止める「永遠殺し」の言葉などまるで気にも留めず、足早に蒼天の間を去る二人。
普段から気苦労の多い副官は、ここぞとばかりに大きくため息をついた。

「はぁ…これだから私はあの二人の解放は反対だったのよ」
「ぼやきなさんな。幹部が一度に四人も欠ける異常事態。渋々ながらも満場一致の賛成だったじゃないですか、保田さん」
「くっ…」

「鋼脚」の言葉に言い返せず、苦虫を噛み潰したような顔をする「永遠殺し」。

「とは言え。さっそくうちの所属の人間が戯れに二人も殺されてる。あんまり悠長なことも言ってらんないよな、コンコン」
「そうですね」

燦々と降り注ぐ日の光をバックに、モニター越しの紺野は。
グラスを手に取りストローからゆっくりと色鮮やかな液体を吸う。
それから。


「のんちゃんとかーちゃん、いや。「金鴉」さんと「煙鏡」さんの扱いについては、私に任せてください。ただまあ、それよりも今は
リゾナンターです。エースを失っても尚立ち続ける若き能力者たちと、組織の異端児たちの対決。結果は見えていますが…きっと面白
いものが見れますよ」

と、そこで画面に黄色いノイズが広がってゆく。
紺野のいた砂浜の砂が、砂嵐でも起こったかのように風に巻き上げられたことによるものだった。
同時に、鋼鉄の風車が空をばさばさと切る音。黒いボディのヘリコプターが乱暴に着地しようとしていた。

「そろそろ時間のようです。まったく従業員にきちんとした休暇も与えないようでは、いつかブラック企業として訴えられますよ」
「…はは、考慮しとくわ」
「それでは、失礼」

「首領」の曖昧な返事を聞いた紺野が立ち上がり、ヘリに向けて歩き始めたところで映像が途切れる。
画面は暗転したのち、永遠に沈黙した。

「どいつもこいつも…勝手なものね」

後輩たちの理不尽な立ち振る舞いに、思わず「永遠殺し」が嘆息を漏らす。
その横ではま、それもええやろと言わんばかりの「首領」の顔があった。

「じゃあ、美貴も行くから」
「あんたまで…『ダークネス』もすっかり統制の取れない集団になったわね」
「て言うか悪の組織に統制なんて必要ですかね」

捨て台詞のような言葉を口にしながら、「蒼天の間」から立ち去る「氷の魔女」。
緩んでゆく冷気を肌で感じつつも、先輩は眉を顰める。


「あの子があんなふうになってしまったのもきっと、『赤の粛清』のせいよね」
「でしょうねえ。松浦のヤツが死んでからずっとあの調子ですから。かと言って『i914』に復讐を仕掛けるわけでもなく。正直あいつ
の考えてることはあたしにもわかりません」
「へえ!情報畑の吉澤さんにもわからないんですか!!」
「うっせえよ」

最後の「オガワ」の言葉が気に障ったのか、再びプリン頭を小突く「鋼脚」。

「ところで組織再統制っちゅうか。新しい粛清人の件なんやけど。この調子じゃよっすぃー、あんたんとこに仕事が集中するで?」
「確かにね。個人主義の塊みたいな連中じゃ、あんたんとこにしわ寄せが行くのは間違いないわ」
「ちょっと早い気はするんですけど。『ジャッジメント』に任せようかと」

組織を束ねる二人の顔色が変わる。
なるほど、紺野が嬉々として報告の役目を自分に任せるわけだ。
「鋼脚」は改めて可愛くない後輩の悪趣味に苦笑した。





投稿日:2014/07/29(火) 00:42:45.17 0