『Vanish!Ⅲ ~password is 0~』(3)


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負ける気しない?

★★★★★★

「亀井さんってあの亀井さんですか?写真では道重さんの横におられた?
 あ、ありえないですよ!仲間同士で戦うなんてあってはならないことです!!」

いや、それは違うと鞘師は反論しそうになり、その言葉を飲み込んだ
たった今、目の前にいる道重さゆみという頼れるリーダーが仲間と闘った告白したばかりではないか
自らの手で掛け替えのない仲間、それも親友を消してしまったという告白
信じたくないのが本音なのだが、覚悟の告白は真実だと受け止めざるをえない

「飯窪、残念やけどホントのことや。受け止めるんや」
「まあ、さゆみんや愛佳のように私は自分の眼で見てはいないけど、信じざるをえないかな」
光井の声は揺らぎなく、新垣の声も普段通りのトーン

「ちょっと!!どうしてお二人はそんなに冷静でいられるんですか!
 かつての仲間だっなんですよ!!なんでそんな簡単に、受け入れられるんですか?」
石田が感情をむき出しにしたので、佐藤はびくっと体を震わせて、あゆみん、と肩をつかんだ
「なんだよ、まあちゃん」
「・・・新垣さん、爪割れてる」

佐藤の指摘した通り爪にひびが入っている。応急処置のだろうか、奇妙な光沢の跡がある
あれは・・・瞬間接着剤であろうか?
「新垣さん、その爪って」
「あっちゃー、後輩達を不安にさせまいと前もって準備しておいたんだけどね~」
気まずそうに笑う新垣
「新垣さん、あんな強う拳にぎりはったら爪くらい割れますよ」
「あっちゃー、手厳しいところみるね、佐藤は」
「はい!!」
「いや、褒めてないから」


ため息をついて、顔を上げた新垣の瞳はいつもより濁っているように見えた。
「そりゃあさ、私達だって、できることなら戦いたくない
 さゆみんだけじゃなく私にとっても仲間だし、それ以上に友達だからさ
だけど、ダークネスと一緒にいるっていうことは『敵』って認識しなくてはならない」
心の内を隠すこと諦めたようだ
「それに、もしあの亀井さんが本気だしはったら、誰も勝てへん
 ダークネスにとっては亀井さんの能力はほしくてたまらん類のもんやろうしな」

「・・・あの、すみません。
 亀井さんってあの写真だけみると、すっごく優しそうで、何ていうか全然強そうにみえないんですが」
工藤が空気を壊すことを覚悟し、しかし、問わずにはいられなかったのだろう、失礼を承知で尋ねた
「亀井さんってそんなに皆さんが臆病にならなければならないほど強いんですか?」

「ねえ、くどぅ」
先輩たちに問いかけたにも関わらず、問い返したのが鞘師だったので工藤は慌てて鞘師の方を向いた
「強さ、ってなんだと思う?パワー、破壊力、スピード、それとも能力?」
「・・・すべての総合ではないでしょうか?たとえばはるなんと鞘師さんなら鞘師さんが強い
 感覚共有じゃ鞘師さんの太刀をさばききれないし、ぜったいにはるなんじゃ鞘師さんに勝てない」

「それは違うで」
「え?」
「工藤、もし愛佳の能力が飯窪の『感覚共有』やとしても鞘師に勝てる、かもしれへん」
「そ、そりゃ光井さんなら勝てるかもしれ・・・ない・・・ですけど」
光井に咎められているわけでもないのだが、その言葉の強さに押され、工藤の声が小さくなる

「愛佳だったら、じゃなくて、戦い方さえわかっていれば、今の飯窪でもやすしには勝てるよ」
そう断言する人物がいた、新垣だ
「新垣さん、無理ですって、私じゃ、鞘師さんには」
「いいや、戦い方を選べば勝てる」
グラスの水面に波紋が生じた


「弱い能力なんてあらへん、能力の長所は短所にもなる、裏表の関係にすぎへん、逆もある
結局は使い手の腕次第っちゅうことや・・・しかし、亀井さんの能力は反則的や」
「うん、あの力は頼もしいようで、恐ろしい両刃の剣だからね」
通じ合っている二人の表情は暗い

「・・・絵里はさゆみと一緒だった
それは仲が良かったから。さゆみに欠けているものを絵里はたくさん持っていた」
ずっと黙っていた道重が息を整えて、仲間達に顔を向けた
真っ青な顔、血色の悪い唇、泣き腫れた瞼
「だ、大丈夫ですか?」
「・・・大丈夫じゃないけど、みんなには伝えなくてはいけないの」
光井から道重渡されたカップを受け取りながら、仲間達と一人ずつ目を合わせていく

「さゆみはリゾナンターとして多くの戦い、いろんな力を見てきたの
 さゆみの治癒能力、れいなの共鳴増幅能力、りほりほの水限定念動力・・・頼りになる仲間たちの力
 詐術師の能力阻害、永遠殺しの時間停止、マルシェの原子構成・・・圧倒的なダークネス幹部の力
 負けることは死、それを意味する中でさゆみたちは成長できたの
 死なずに今、こうやっているのは奇跡かもしれない」
G、天使、A、R、鋼脚・・・幹部たちとの死闘を思い出し、光井も「ほんまやなあ」とつぶやく

「ダークネスに比べて一人ひとりの力は弱かった。だからこそ、さゆみ達は気持ちを一つにして戦うしかなかった
 それが共鳴、というダークネスも恐れる形で現れたのだと思うの
 ただ、愛ちゃんの光使い、れいなの共鳴増幅能力など強力な力があったのも事実
 ガキさんの精神操作や愛佳の未来予知ももちろん心強かった」
「褒められても何も出せやしないよ、さゆみん」

「小春の電撃もジュンジュンの獣化もリンリンの発火能力もあるからこそ、こうやって今、生きていられる
 もちろん、絵里のあの力も・・・絶対に負けない力」
「『絶対』??」
あえてその単語を使用したように感じられ、石田が反応する
「絶対、ってどういうことですか?」


「石田、私達の戦いで負けることは『死』を意味するってさっき説明したよね?
 ただ、少なくとも私達、リゾナンターは極力命を奪うことはしないことを掟とした
でもダークネスは違う。邪魔するものは徹底的に排除する」
「そ、それはわかっていますよ、新垣さん」
何を言いたいのか全く予想つかない石田達
「ダークネスの破壊行動を未然に防ぐ、それがリゾナンターの役目であり、何も起こさないことが『勝ち』や
ただダークネスの幹部にとっては戦闘員の命の一つや二つが失われることはなんともないやろ
でも何も「事件が起きない」こと、それから幹部が命を失うことは作戦失敗、起こってはならないことや
一方で愛佳たち、リゾナンターにとっての負けはダークネスの行動を守れなかったこと。そこに命の有無は問わへん」

「前から不思議に思ってたんだけど、ダークネスは私達の命を本気で取りに来ればそれで終わる
それなのに、それをしない。なんでだろうね?」
「・・・なんでっちゃろ?」
その問いは昔から幾度となく繰り返されたものだが、未だに明白な答えが出ていない
「それは私達にもわからないことだけど、時々感じることがある、寧ろ、あえてしていないんじゃないかって
 ただ、その理由を説明できる理由の一つはある。それに関係するのがカメの能力」

「亀井さんは『死なない』能力者、なんですか?」
佐藤の答えに道重は首を横にふった
「まあちゃん、死なない人間なんていないよ。怪我をすれば赤い血が流れるし、痛みだって感じる
 絵里はいたって普通だよ。普通に笑って、普通に悲しんで、普通に怒って、誰よりも楽しんだ
何よりも自然体、それが絵里だった。力も自然そのもの、言うなれば『風使い』」
「・・・風ですか。」
小田が先程の鞘師の太刀を払う場面を脳裏に呼び起こしながらつぶやく
「・・・風ならばあのように宙を飛ぶのもすべて説明がつきますね」

「亀井さんは特にカマイタチを好んで使っていた。戦闘スタイルは中軸で支援と攻撃を使い分けるバランスタイプ
 せやけど、それは愛ちゃんと田中さんがおったからや。二人がおらんときは最前線で戦っていた」


「風か・・・風ならはるの千里眼に何も映らなくても仕方がありませんね
 でも、そんなに風だけで戦えるんですか?だって風ですよ?」
「くどぅ、台風だって竜巻だってすべて風ですよ、自然の力は侮れません」
「飯窪わかってるねえ~その通り。風を操る力はみんなが想像している以上に強力な力
 台風並みの突風もそよ風程度のやさしい風もすべてカメは意のままに起こすことができた
カメのカマイタチは見えない刃、と評していいものかもしれないね。あらゆるものを切り刻んだから
巨木だろうと拳銃の弾であろうと、なんでもね。攻守のバランスで言えば9人の中でも一二を争うかもしれない」
「亀井さんが風を操るときはそれこそ、舞い踊っているようでしたわ」
「舞姫、亀井絵里さん、ですか」

「・・・しかし、風だけならどうしてそこまで恐れる必要があるのでしょうか?
 ・・・数が少ない私達ならともかくとして、ダークネスが恐れた力とは何なのでしょうか?」
小田に近づく新垣
「・・・なんでしょうか?新垣さん」
「ん?いや~可愛い顔してるなって。いやいや、ただそれだけだって、ちょっと生田、顔をしかめない」
「え~だって~新垣さんが~」
肩をポンポンと叩き、振り向いた生田の目の前には眉間にしわを寄せた鈴木の顔
「・・・なに?」「今の生田の顔真似」

「鈴木!!漫才しとる場合やないで、ええか?話続けるで。
亀井さんの能力のもう一つ、それこそが問題なんや。能力名は『傷の共有』」
「「「「「「「傷の共有?」」」」」」」
「自分が受けたのと同じ傷を相手に作ることができる能力や。
それも一人だけにやない、亀井さんが望むだけの相手に傷をつくることができる」
「・・・相討ちに適した能力、ってことですか?」
「そういうことや」
戦いのプロとしての直感的に鞘師は危険な力と感じ、身震いした
「で、でも、誰とでも相討ちにできるってわけではないんですよね?」
「もちろん、石田の幻獣が石田が視える範囲しか動かせないように」
「!! ちょ、ちょっと待ってください!なんでそれを知ってるんですか!誰にも話したことないんですよ!」
新垣がため息をつき、頭を掻きながら石田を落ち着かせようとやさしく声をかける


「あのね、石田、それくらい、私達くらいならすぐに気づくからね。話、戻すよ
 傷の共有にも届く範囲、射程距離っていうのがある。それは半径数百メートル」
「それなら、たいしたことないじゃないですね」
「カメだけならね。そこに田中っちがいると、範囲は数百キロメートル」
「は??数百キロ?それって」
あまりにもかけ離れた範囲に驚き声をあげてしまう工藤
「いや、それでけで済まへん。共鳴にも相性っちゅうもんがある。
亀井さんと最も相性が良かったんは道重さんや。道重さんがおったら数千キロメートルになる・・・かもしれない」
あまりにも桁が違うスケールに言葉を失う8人、佐藤以外は言葉を失った

「え~でもたなさたんもみにしげさんもまさ達といっしょだから、そんなに心配はいらないんじゃないですか?」
光井が佐藤に笑いかける
「そう、距離のことは今回はあまり気にすることはあらへん。
 しかし亀井さんは元からダークネスにおったわけやない、ことが問題。そうですね、新垣さん」
「うん、どういう経緯があったかわからないけど、今はカメはダークネス側にいる
 そして、ダークネスにとってカメは『駒』の一つに過ぎないかもしれない」
「つまり、幹部、ではない、一介の構成員に過ぎない立場ということですね
 ダークネスとしては傷の共有をためらう必要はないってことですね
 ・・・下手に亀井さんを攻撃したら、回避不能の死のカウンターが来る、かもしれない」
譜久村が珍しく鞘師よりも先に新垣達の伝えたいことの本意を読み取った

「ダークネスは何をしようとしているのでしょうか?」
「それはこれまでとおなじだよ。世界を変える、そのために必要なことは何でもする」
簡潔な答え、それが答えなのだろう
「・・・でも私達、リゾナンターは戦わなくてはいけないの」
「道重さん?」
「たとえ、エリが敵でも・・・仕方がないの。エリもさえみお姉ちゃんと闘ってくれたんだんだもん
 さゆみはダークネスに泣かされる人が一人でもいるなら、その人を救いたいの」
その瞳からは決意の二文字が読み取れた


「・・・新垣さん」
「うん、愛佳、私達の心配は杞憂だったようだね」
さゆみん、強くなったね。初めはあんなにキャーキャー言ってたのが嘘みたいだよ」
面と向かって褒められ慣れていないのだろう、道重は視線を外す
(立派なリーダーになったもんだねえ)
新垣はそう思いながら、9人の後輩達に檄を飛ばす

「いい?みんな!カメは非常に危険な能力を持っている
 安易な考えだけで突っ走ることはしばらく控えた方がいい
 無理はしないで、変な感覚を覚えたらすぐに仲間に連絡するんだよ」
「変な感覚??」

「そもそもカメが生きているっていうことは愛佳の予知夢だけじゃなく、さっきの風で私も確信した
 元リゾナンターとしての絆は完全に切れてはいないようだからね」
「それで道重さんが私たちの誰よりも先にフードが亀井さんと気づかれたんですね」
「そや、工藤。千里眼で視えるもの以上に視えるもんもあるんや、覚えとき!」
「はい!!先輩」

★★★★★★

「いや~さゆみんも強くなったね。それにあの子達も強くなった。
実に頼もしい、仲間達を持ったね!!」
新垣は満足げに鼻歌混じりに歩いていたが、しばらくして光井が先を歩いている新垣に声をかけた
「あの、新垣さん?」
「ん?」
振り返る新垣に光井は尋ねるべきか逡巡していた疑問をぶつけた
「一つだけ伺ってもよろしいです?先程の小田ちゃんの顔を覗き込んだのって」
新垣は改めて辺りを伺い、誰もいないことを確認したうえで光井だけに聞こえるように小さな声で語りだす
「愛佳も気になったよね?小田ちゃんはダークネスにいたのになんでその情報を知らないのかな?って
 リゾナンターのために派遣されたスパイなのに、カメを知らないって矛盾しているじゃない」


「ええ、確かにそれはおかしなことやなあって思っとったんです。知らへんかっただけ、で済みそうにないですね
 ・・・探りを入れる必要があるかもしれませんね」
「愛佳がやるの?あの子直感優れていそうだから、相当注意しないと危ないと思うよ
 せめて私も動ければいいんだけど、別のことで手が離せないから、不安だね」
光井はニヤッと笑う
「大丈夫ですよ、すでに調査には入っとる方がおるんですわ」
「・・・ま、私がカメの存在に気づいたってことは、だね」
新垣も笑い返し、宙を見上げた
「そういうことです」

★★★★★★

「ありゃりゃ、ワタシ達の行動、筒抜けみたいダネ」
やや身長の高い女性が口をもごもご動かしながら、モニターを覗き込んだ
モニターには自国のGPS衛星をハッキングして映し出した映像が映り、そこには新垣、光井の姿
「新垣サン、こっち見てマスヨ」
パソコンを操作するもう一人のやや小柄の女性に向かって笑いかける。その表情は嬉しそうだ
「新垣さんならそれくらい気づく、当たり前、いや、バッチリです」
「ソウダネ」
ガコンと音がして、ごみ箱に何かが落ちた。熟れたフルーツの甘い香りが漂った

★★★★★★

「いや~今日は疲れましたね~まさか200人も構成員がいるなんて思わなかったですね」
自分の肩を回しながらややハスキーな声で茶髪の女性が隣の背中のギターケースを背負った女性に笑って見せた
「でも、たいしたことなかったじゃん。
ま、これであいつら、ドラッグを流したりできないだろうし、いい仕事といえるんじゃない?」
いつもなら自分の横にワンテンポ遅れて、さらに低い声で同意してくれる仲間がいるのだが、今日は返ってこなかった


その相方は少し遠くで立ち止まり、さらに後ろで立ち止まったままのリーダーの姿を眺めていた
「どうしたの?疲れた?」
「・・・違う」
二人はリーダーが宙を仰いだまま立ちどまっているようであった
「風が吹いた」
ぽつりとつぶやいた。そして駆け出した
「ちょっと!どこに行くんですか!!」
立ち止まらずに声だけが三人の元に届く
「ごめん、ちょっと行かなきゃいけないところできたと!!」

★★★★★★

大気の震えを感じたとき、彼女は荒野の真っただ中にいた
流れる雲、果てしなき地平線、時折ふく風が鳴らす音のみが全ての世界
己の存在を一から問うための旅の途中
答えなど見つかるかはわからない、しかし存在する意味が欲しかった
「・・・絵里」
彼女もまた宙を仰いだ
そして・・・音もなく消えた。彼女のいた痕跡を示す靴跡のみが残された





投稿日:2014/07/28(月) 00:11:09.62 0