『その日に何が起こったか』


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まさか、こんな日が来るとは。

鞘師里保は感動に打ち震えていた。
今日は願いつつも叶うことのなかった願いが、ついに叶った日。

「どうしたのりほりほ、箸止まってるよ?」
「え、は、はいっ!」

テーブルの向かいにいるのは、里保が尊敬するリゾナンターの偉大なるリーダー。
これまで、喫茶店が忙しかったり里保が学生生活で忙しかったりで機会がなかったのだが。
ついに、道重さゆみとの二人きりの食事にこぎつけることができたのだ。

能力を持つものとして、か弱き人々を守ること。
共鳴するものとして導かれた自分たちの、指名。
そしてさゆみがいなくなる将来への、不安。

色々と話したかったのだけれど、いざそのシチュエーションに立たされると言葉も出ない。
そもそも。さゆみはこんなに年の離れた自分と会話などして、果たして楽しいのだろうか。
自分のような口下手な人間が、さゆみと二人きりになっていいものか。
二人だけの食事会に相応しくない思考が頭をぐるぐると駆け廻っていた。

「さすが水軍流の剣士だけあって、自戒の念が強いのね。けど、そういう人間だからこそ、喰らい甲斐がある」

思わずさゆみのほうを見る里保。
いや、話したのはさゆみではない。
辺りを見回すが、声の主はどこにもいなかった。

「見回しても無駄よ。あたしはあなたの心の中にいるのだから」

頭の中に、邪な音色を帯びた声が響く。
里保は、ゆっくりと瞳を閉じた。下手に騒いでは、相手の思う壺。
さゆみの気分を害してしまうという、状況に相応しくない気遣いも含まれてはいたが。


「あなたの自分を律するあまりに、がっちがちに固められた心。心の扉というものは固く閉ざせば閉ざすほど、逆に隙間を作る。あたしはその隙間に忍び込んだってわけ」
「どういうつもり?」

相手の不躾な話の切り出しに、里保は心の会話で答える。
すると、

「あたしはダークネスの能力者、って言えばわかるでしょ。あなたを潰しに来たのよ」
「なるほど」
「そしてその目的は半分果たされた。あとはあなたの心を乱し、狂わせるだけ。簡単なお仕事でしょう?」

勝ち誇ったように、その女は言った。
どうやら相手は精神操作系の能力者のようだ。

「どうする? あなたの水の刀であたしを斬る? 無駄無駄、あたしがいるのはそこからずっと遠くの場所。あなたの刃は、あたしには絶対に届かないんだから」
「そうですか」

里保は簡素にそれだけ言うと。

「ぎゃっ!!」

さゆみと里保が座るテーブルの、さらに奥。
薄汚いワンピースを着た中年の女が、苦しみながら床に倒れた。
いったい、何が起こったのか。

「昔、とある憑依能力者に体を乗っ取られたんです。その時に私の友達が精神系の能力で助けてくれて。多少…いやすごく強引な方法でしたけど。その時のことを思い出し
て、意識を集中してあなたを追い出すイメージを思い描いたんです。まさか、こんなに近くにいるとは思いませんでしたけど」
「……」

女の返事はない。
すでに、意識が落ちてしまっているようだった。


「でも、慣れないことはするものじゃないですね…なんだか…すごく、ねむ…」


その後眠ってしまった里保は、さゆみによってお持ち帰りされた。





投稿日:2014/07/26(土) 03:43:11.26 0