『劇場版 瑞珠剣士・鞘師 「黒き鎮魂歌」』


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欲望が渦巻く、日本を代表する繁華街。
その一角に断つ雑居ビルの屋上から、下方の混沌を覗く四人の影があった。
一人は30歳前後の女性、そこから数歩下がったところにいるのは10代半ばの少女たち。

「本当に、いいんだな?」

全身黒ずくめ、体のありとあらゆる場所をプロテクターで防護したその女性は、念を押すように少女たちに語りかける。
顔を覆い尽くす仮面からはその表情は窺えなかった。

「もちろんですよ」

三人の中でも年長と思しき少女が、目を三日月にして答える。
年よりやや幼さを残す顔つきではあるが、瞳の奥に底知れない悪意を映していた。

「しかし。まさか『あなた』と一緒に仕事ができるとは思いませんでしたよ。『天使』や『悪魔』たちと一時代を築いたかの、英雄」
「英雄ねえ。最期はクソガキどもに虚を突かれてこれだ」

いかにも真面目そうな、堅い表情の少女の賞賛に女は自らの首を掻き切る真似をする。

「とにかく見せてくださいよ。神話の時代の英雄の、そのスゴさを」
「ふん…言われるまでもない」

最年少の少女の言葉を最後まで聞くことなく、女は手のひらを闇夜に向かって差し出した。
空の闇が、渦を巻く。惹かれるように、誘われるように、女のもとへと集まっていった。
何千、何万の羽音が織りなす不協和音に、三人の少女は一斉に耳を塞ぐ。
闇に紛れ、闇に溶け込んでいたのは。
空を埋め尽くすほどの、蟲の大群だった。


遡ること数日前。
ダークネスの科学統括部門の長であるDr.マルシェこと紺野あさ美は助手からある一つの報告を受けていた。

「ほう。第三研究所に保存されていた『あの』死体が盗まれた、と」

助手の男は顔を青くし、脂汗を額に滲ませていた。
あの死体、と紺野が呼ぶものが盗まれた、いやそれ以前にそのようなものを保存していることを知られたら。

「大変なことになりましたね。第一、同期の『永遠殺し』さんが黙ってない」
「そ、それは…」
「まあいいでしょう。彼女には逆に協力を乞わなければいけないかもしれませんね」

そう言いかけたところで紺野はあることを思いつく。

永遠殺しさんには適当に報告するとして、「別ルート」にも情報を流しておきますか。
田中れいなが去った後の彼女たちがどう立ち向かうのか、見ておきたいところでもありますし。

助手を「永遠殺し」のもとへ向かわせた後。
紺野は自らの携帯を取り、慣れた手つきで番号を押した。

「もしもし。久しぶりだね―」


街全体が、肉食性の蟲に覆われた。
叩き落としても、踏み潰しても。次から次へと襲い掛かる漆黒の捕食者たち。
抗えずに体を埋め尽くされたものは、瞬く間に白い骨に姿を変えていった。
蟲を操り、街を地獄に堕としたのは。地獄から甦ったダークネスの元幹部、「蠱惑」。

とある情報源からそのことを知った道重さゆみ率いるリゾナンターたち。
紆余曲折の末、「蠱惑」が根城とする建物を突き止めて突入する。
その後を、「永遠殺し」が追う。離反者を余所の人間、しかもリゾナンターに仕留められるなど彼女には受け入れがたい話だった。
だが、そんな彼女をあざ笑うかのように三人の少女たちが立ち塞がる。
アトス、ポルトス、アラミスと名乗った少女たちもまた、能力者であった。

「デュマの三銃士気取り?にしてはダルタニアンがいないみたいじゃない」
「ダルタニアンは生憎ゾンビ退治で忙しいんでね」

三人の連携攻撃に手を焼きつつも、「永遠殺し」の視線は常に「蠱惑」の鎮座する建物に向けられていた。
爆発的に繁殖し増えてゆく漆黒の捕食者たち。このまま捨て置けば街ひとつどころの話では済まないだろう。
もはやそれを止めるのはあの10人を置いて他にいないのか。



「あたしの目的はシンプル。『復讐』だけなんだよ。あんたたち如き、相手にしてない」

飛来する毒虫の被害を辛うじて避けた里保に、蟲たちの女王はそう嘯く。

「けど…こんな程度でもたつくようじゃ『先生』はあたしを認めてくれないからねえ。悪いけど、死んでもらうよ」

部屋を覆い尽くす蟲の絨毯。
まともに踏み込めば毒針の餌食になるのは明らかだった。
闇を形作る蟲たちを次々に斬り裂き、水に沈める。だが、絶命時に体液とともに毒液をまき散らされ、いかに強固な防御壁と
して作用している里保の水のヴェールでも、徐々に昏き毒に侵されつつあった。

「あなたの、あなたの目的は本当に組織への復讐だけなんですか」
「それ以外にあるわけないだろう。あいつらを、見返してやるのさ」
「悲しい人だ」

里保の心からの言葉。
復讐鬼と化した過去の亡霊に、憐憫の情を込めた刃が向けられる。

劇場版 瑞珠剣士・鞘師 「黒き鎮魂歌」
我が闘争を止めるのは、誰だ。


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投稿日:2014/07/09(水) 22:39:01.59 0