『Vanish!Ⅲ ~password is 0~』(2)


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。



Fantasyは始まらない

★★★★★★

「・・・う、ううん」
「よかったえりちゃん、目が覚めたんだね」
冷たいタオルを受けとるが、頭がすっきりせず、気持ち悪さのみが残っていた
「??? ここは??」
「リゾナントだよ」
「あいつらは?ダークネスは?」
「落ち着いてえりぽん、ダークネスは帰りましたわ」
興奮している生田を落ち着かせようと譜久村はホットミルクを差し出した。温もりが体の芯から広がっていく

「・・・えりはいったい何をされたと?」
「それははるが訊きたいですよ!ピアノ線を通して心を壊そうとしたんですよね?
それなのに、生田さんのほうが膝に力が入らないように崩れて、倒れこんだんですよ」
「えりが?・・・ダークネスの方じゃなくて」
いきなり立ち上がる生田。マグカップの中のミルクが床に零れ落ちる
「・・・覚えていないんですか?」
額に皺を寄せながら頷く

「心の強さだけでいえば私たちの中で一、二を争う生田さんが打ち負けるなんて・・・」
「・・・覚えとうこともあるっちゃけど。気味が悪いと
 ・・・変な気持ちになったと。頭のなかでこう、シャボン玉が膨らんでは弾けての繰り返し、壊れていくような」
「それってえりぽんの精神が逆に破壊されそうになったってこと?」

精神破壊、それが生田の能力。精神干渉の亜種でもあり、精神を狂わすことに特化した能力
元々その力で生田自身の精神も狂わされていたがゆえに孤独であった
しかし、同じ精神操作系能力者である新垣の指導の元で能力のコントロールを可能にした

そんな生田を狂わせるほどの精神の強さを有しているとでもいうのか?あのフードは
「・・・生田さんの精神を超えるということは、よほどの実力者ということになりますね」


「鞘師さんの斬撃をはじいたのも只者ではない証拠ですよ!」
鞘師は決して怪力の持ち主ではない。刀身は鞘師の念動力で固めた水
しかし鞘師が斬れなかったものは数えるしかない。それはすべて鞘師の才能、努力によって培われたもの
「あの鞘師さんが斬れなかったなんて、どんな武器を持ってたんですかね?」
問いに対して、違う、と首をふる鞘師
「みんな、隠しても仕方ないから言うんだけど、驚かないで聞いてくれる?
どうやって私の太刀をさばいたのか、恥ずかしながらわからなかった」
「わ、わからなかったって鞘師さんの動体視力で、あの距離で?」
「ありえないって!だって里保ちゃんはうちらのエースなんだよ。それなのに見えないなんてありえないよ」
寸分の狂いなく太刀を振るうことができる鞘師に捉えられないものはない、それが仲間達の共通の認識

「DOどぅは何も見えなかったの?」
千里眼の持ち主工藤に尋ねるは佐藤
「・・・はるにも何も見えなかった。鞘師さんの言うように、あいつ、何も持っていなかった」
フードは何も持っていないにもかかわらず、鞘師の刀を手で弾いた、そう映った
「はるの眼は絶対正しいものしか映さない。はるの眼を欺くなんて不可能だよ
そりゃ、もちろん透明なものは見えないけど、何かを持つような手の形ですらなかった」
「透明化、っていうわけでもないようですね」

「さくらちゃんは何か知らない?」
「・・・それは私が最近までダークネスに所属していた。そのうえで問いかけた、ということですか?」
一瞬回答に詰まる譜久村だが、事実、それを承知の上で尋ねたわけだから仕方がない
「え、ええ、それは知ってることでしたが、それを咎めたりするわけでは」
「・・・もちろん、譜久村さんに悪意がないことはわかっていますよ。純然たる事実から糸口を模索せんとすべきですから
 ・・・あくまでも、元ダークネスとしての立場、それだけです。今は只のリゾナンターですし
 ・・・さてその問いに対しての回答ですが、残念ながら私は何も知りません
 ・・・ダークネス幹部ほぼ全員に会ったことはあります。ただ、あのフード姿は見たことがありません」
「ということはフードは幹部ではないということ?」
「でも、幹部の詐術師を同じく幹部の永遠殺しと助けに来たんだよ
 永遠殺しの部隊の限りなく幹部に近いっていうことじゃないか!」
永遠殺しの余裕のある態度が鮮明に呼び起される


「それからですね、気付いてるかもしれないのですが、詐術師の様子もおかしくありませんでしたか?」
別の切り口から分析を図ろうとするは飯窪
「もちろん焦っていたのもおかしいですが、フードの存在をまるで知らないように見えました」
「確かにはるの眼にも宙に浮いたときのあいつの驚きの表情が見えた!
 本当に初めて宙を飛んだみたいで、どうやったのかわからないようだった」

「・・・それよりどうやって空に浮いたんでしょうか?」
「道重さんから聞いたことがあります。永遠殺しの能力は『時間停止』だと」
「『時間を止める』能力ですか。幹部らしい強力な能力ですね
 もし直接戦うとしたらどのように戦うか、事前に対策しなくてはならない相手ですね
 さくらちゃんの力が効く、そういう感じではありませんし」
「・・・私は数秒しか自分の世界を生み出せませんので、未来永劫止められる敵とは相性悪いと思います」

それにしても、と譜久村は生田に目を向けた。生田が珍しく静かだ
「何か考えてるの?えりぽん?聖たちでいいなら聴くよ」
「・・・道重さんもなんか様子おかしいっちゃ。えり、道重さんのとこ行ってくると!」
「だ、だめだよ、えりぽん、道重さん、ちょっと疲れているようだから」
「でも、こういうときにこそリーダーにいてほしいと
 えり達よりもずっと前からダークネスに立ち向かっているとよ。何か知っとうことあるかもしれんやん」

「道重さんは知ってるで」
9人の誰とも違う、低い声
「誰?」
とたんに空気が張り詰める。何者かが二階に潜んでいたようだ
空調に混じりコツコツと何かで床を打ちつけるような音。否が応にも緊張感が生まれる
鞘師は右手を鞘、左手をペットボトルホルダーに伸ばす。石田の背後に幻獣が浮かび上がる
「ちょ、誰って、この声でわかるやろ?このスィートな声を忘れたとはいわせへんで」
声の主は朗らかな表情を浮かべながら姿を現した
「石田、力みすぎ、工藤、ナイフをしっかり研ぐように言うとったのさぼったやろ?」
「光井さん!!」
後輩達に向け、ウインクを放った


★★★★★★

ダークネスの本部に戻った三人を迎えた人物がいた
「おかえりなさい、詐術師さん、危ないところでしたね」
「ぜんっぜん、あぶねくねーし!もう少しであいつらの息の根を止めてやるっていうところだったのに
 また、お前のせいでチャンスを逃したじゃないか!どうしてくれるんだ、マルシェ」
嫌味を言われても表情一つ変えずにこにこと笑みを浮かべるのは白衣の女性
ダークネス、闇の叡智、と称されるDrマルシェ

「そうですか。それでは矢口さんをですね、リゾナントにお送りいたしましょうか?もうセッティング済みですよ」
「え?い、今は、ほ、ほら、あれだ、機械は使いすぎると誤作動を起こすだろ?
 機械も休ませてやらないといけないだろうから、今日のところは諦めてやるよ」
「もう一台、予備の転送装置を用意しておりますから、その心配は無用かと」
マルシェは隣のすでに準備万端な状態に仕上げている装置の元へと歩みを進めた
「え?そ、そんなことよりボスが呼んでるんだろ?
 早くいかないとまずいだろ!おいら一足先にいってるからな!!」
そういうや足早に逃げるように飛び出していった

「というか、逃げてますがね」
「マルシェ、どうした?何かつぶやいたか?」
「あ、いえ、独り言ですよ」
「それより、マルシェ、あいつ、すっかり仲間に馴染んでいたぞ」
あいつ、と言われて数秒はわからなかったが、ああ、とでも言うように笑った
「『サクラ』ですか。小田さくら、なんてしっかりした名前をつけてもらって。元気そうですか?」
「元気なんてもんじゃないよ。あいつ、矢口の首ちょんぱするとこだったぜ」

それを聞いて嬉しそうに目を輝かせるマルシェ
「やはりダークネスの戦闘教育は間違っていませんね、素晴らしい」
「おいおい、大切な先輩が一人消されそうだったのにその言い分はないだろ」
「・・・いつまでも自分の時代に固執しているだけでは生き残れない、そう気づいていただきたいだけですよ
 私なりの愛情表現なのですが、一向に気づいていただけないようでして」


「お前、先輩を敬うという思いはないのか?」
「尊敬はしてますよ。しかし、科学と感情は天秤にかけられないものです。組織にとって私は技術のみを求められた存在です
 組織にとって必要な歯車になれというなら進んでこの身を捧げましょう」
「穏やかじゃないね」
「日本人的、とでもいってくださいよ」

「おいおい、お前ら何してんだ?さっき詐術師が走っていったが、何かあったのか?」
現れたのは金髪の麗人、精神系能力者ながら単純な肉弾戦を好む変わり者、吉澤
「なんつーか、逃げているようにも見えたが、あれはあの件かね?
 自分で自分の首をしめることとなった、あの失敗を取り戻そうとしているのかね?」
「・・・あんまり、詮索しないほうがいいこともあるわよ」
「まあ、俺が気にしなくてもなんとかできるだろう。あの人なら。ん?」
そこで二人の横にいるフードの存在に気づいたようだ

「おい、マルシェ、こいつは」
表情を変えることなくマルシェは頷く
「ええ、その通りですよ」
「・・・なるほどな、こいつが『二の矢』か」
「・・・」
フードは俯いたまま何も語らず、佇んでいる

★★★★★★

「光井さん、なんでここに?というかいつの間に二階に上がっていたんですか?」
「いつってあんたらが出て行ったあとやで。歩けへんわけでもないし、合い鍵もあるから待たせてもらってただけや
 しかし鞘師、少しは二階を片付けたほうがええで、生活の乱れは心の乱れにも通じる。意識せなあかんで」
8人の脳裏に浮かぶのは食べ物をこぼす姿や、服をたためずそのまま放置しっぱなしのアパート
「あの部屋に勝てるくらい汚い部屋を作れるんは一人しか知らんわ」

「それよりどうして光井さん、リゾナントに来られたんですか?
 もう私達が十分に強くなったってそうおっしゃって、離れられたはずでは?」


足の怪我、それは決して日常生活を送ることができなくなるほど重大-というわけではない
実際、普通に生活することは全く問題ない。しかし、彼女たちは普通の生活をすることができないのだ
未来予知、という戦闘補助という役割に徹し、攻撃手段を持たない光井は、足の怪我をだれよりも悔いた
自分自身の力ですら、自分の身を守れない、そうなる可能性があり、それは仲間たちの迷惑になると考えた
守られるために仲間達の負担になるわけにはいかない、それが結論。彼女はリゾナントを去った

「確かに愛佳はここから離れた。せやけど、リゾナントに来ないなんて一言もいうてへんで
 力を失ったわけやない。未来は視えるわけやから、可愛い後輩達の成長にアドバイスするくらい構わないやろ?」
「そ、そうですか」
「とはいえ、よほどのことがない限り、そんな邪魔な真似はせえへんと思うとったんやけどな
 愛佳も一線を退いた身や。今のリゾナンターを知らんもんがあれこれ口出しするんは却ってお節介やろ?」

何も希望を持てない虐められた過去をもつ光井
それを救ったのは、初代リーダーの高橋
その高橋も光井を救うために自殺を止めようとしなかった
リゾナントにおいで、それだけ伝えて明日を導いた。

彼女に出会い光井は変わった
成長するために必要なこと、それは、変えるのではない、変わること
自ら考え、悩み、苦しみ、もがき、動き、失敗し、それでも悩んで進むこと
教わるのではない、教えられるではない、教えを待つのではない、教えを求めるのではない
自分で自分を成長させるには、待ってはならない、それを高橋から光井は学んだ
そして、それを後輩たちにも強く求めた

「それなのに光井さんが来られたってことは???」
「ま、そういうことや。ここまで来たら大方察しはついてるやろ?
 さっきのフード、あいつについてのことや」
「ということは、光井さんは何かを視たってことなんですね」
「教えてください!光井さん!あいつは何者なんですか?」
「何を知っているんですか?」
矢継ぎ早に答えを求める後輩達に対して光井は視線を外した


「・・・それは愛佳の口からは言えん。愛佳が言うよりもっと相応しい人がおるからや」
「なんでですか?光井さんが知っているなら光井さんが教えてくださるだけでも」

その時、鍵の開いた音がした。今の音は表の扉から届いたようだ
再び緊張感が張り詰める。それを和らげようと光井が9人に向けて笑いかけた
「大丈夫や。愛佳が呼んだ人や」

(光井さんが呼んだ人って?)

「いや~リゾナントも変わってないね~うーん、落ち着くね、この感じ」
「「「新垣さん!!」」」
当然のごとく新垣の胸に飛び込もうとする生田と、それを予測してロープを張り巡らせていた新垣
数秒後には生田は床の上に芋虫のような状態で転がることとなっていた
「やあ、みんな久しぶりだね」

「光井さんがおっしゃった『相応しい人』っていうのは新垣さんだったんですね」
光井に再び集まる視線
首を横に振る光井、そして「そうやない」と小さくつぶやいた
今度は新垣に集まる視線

そんな視線を払うように新垣はキッチンの奥へと進んでいった
「私はね愛佳からの電話で未来を知らされただけ。
 驚いたよ、その未来に、外れてほしいような、あたってほしいような複雑な感情だった」
一歩一歩、ある人物に近づく新垣
「教えるのは簡単。でもね、それだけじゃ乗り越えられないこともあるの、ね、わかってるでしょ?さゆみん」
肩をやさしく叩かれ、腫れた瞼で新垣と視線を合わせる
「・・・」


「やはり道重さんは知っているんですね、あのフードの正体を」
頼もしき後輩達も全員、駆け足で頼れるリーダーのもとに集まっていく
「おかしいとおもっていたんですよ、全員が
鞘師さんの刀を弾いた後、一瞬顔が見えたとたんに道重さんの顔色が青ざめたんですから!」
千里眼で捉えなくてもその表情は誰しもが同じ捉え方をするであろう、信じられないものを見た、といった表情
「何を見て、何を隠しているのですか?そんなに私達に隠しておかなくてはならないことがあるのですか?
 道重さん、聖たちは道重さんからみて、頼ることができない存在なのでしょうか?」
珍しく強く迫る譜久村。飯窪も続く
「お願いします、教えてください」
頭を下げる二人に倣うように、7人も頭を下げた

「そうおっしゃってますよ。道重さん」
「どうするの?さゆみん」
二人はあくまでも自分から伝えようとする意思はないようだ

「・・・4年前、まだリゾナンターが9人だったころ」
黙り込んでいた唇が開いた
「ある人物が、行方不明となった。共鳴の力を使い、8人はその仲間を救い出さんとアジトに乗り込んだ
 しかし、その人物は見つからず、数日の時が過ぎた」

「突然、その消えた人物の声が仲間達に届いた。それは助けを求める叫び
 その声に従い、再び8人はその声の元へと駆けつけた」
黙って話を聞き続ける9人の仲間達
「助けを求めたのは-さゆみ。そして、そこに待っていたのも私、いいえ、さえみお姉ちゃん」

意味が分からないといった表情の工藤をはじめとする数人に説明を加える光井
「道重さんは治癒能力を持つ主人格と、過剰治癒能力ですべてを破壊するさえみさん、二つの人格を持っとったんや」

「さえみお姉ちゃんはね、私をね、守ろうとしたの。リゾナンターを辞めさせようと私の身を隠そうとしたの
 でもさゆみはみんなと一緒にいたかった。抵抗した
 おねえちゃんはそれを許さなかった。だからさゆみを巡って戦ったの、リゾナンターと」


(仲間同士で戦ったってこと?)
鞘師は心の中で問う。そんなことが起こりうるのか、と

「さゆみも必死でもがいたの、戦いたくないって、何度も何度も。
 でも、無理だった、お姉ちゃんは強すぎた。みんな傷つき、もうだダメだと思った
 そんなとき、ある大切な仲間が、お姉ちゃんを倒した・・・自分を犠牲にして
 彼女はさゆみにとって一番の親友だった。なんでもわかりあえた存在だった」

道重の告白を聴きながら鞘師は壁に飾られた写真を視界の端で捉えていた
(はじまりの9人)
困難な道を歩いているなんて微塵も感じさせない程の笑顔の9人
しかし、9人は少しずつそれぞれの道を進むことになったという。その原因となったのは・・・・

「9人が8人になった、その原因はさゆみ。そして、消してしまった仲間の名前は

★★★★★★

フードに手をかける吉澤
「先輩の前では礼儀としてフードは外すべきだろ」
そういいゆっくりとフードを後ろにおろしていく

パサッと音を立てて、蛍光灯に照らされたその顔を見て吉澤は口笛を吹いた
「ほう、変わってねえな、こいつ。
 4年間も経ったのにあのままじゃねえか。可愛いままじゃねえか」
肩ほどまで伸びた黒髪、いわゆるあひる口、くりっとした愛嬌に満ちた真ん丸い眼
すらっと伸びた鼻筋、潤いに満ちた誘惑的な唇、ぷっくりとした頬
「・・・」

★★★★★★

「『亀井絵里』―あのフードは間違いなく、絵里だった」






投稿日:2014/06/15(日) 19:13:33.17 0