『リゾナンターЯ(イア)』 76回目


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喫茶リゾナント。
流行りの店というわけではないが、朝はそれなりに客が入る。
大抵が出勤前の慌ただしいサラリーマン。入店し忙しくモーニングセットを詰め込み、そしてまた急かされるように店を飛び
出る。
他のメンバーたちは学校がある。この時間帯で奮闘しているのは、店主のさゆみと高校を卒業しこの時間でも手伝いができる
ようになった春菜の二人だ。

「ふう。やっと終わりました」
「この時間はうちの生命線だから、しっかり稼がないとね」

最後の洗い物が、乾燥機に仕舞われる。
ラッシュアワーとも言うべき時間帯を乗り越え、二人は安堵のため息をついた。
この時間を過ぎてしまえばあとは閑古鳥。さゆみの言葉にも説得力がある。

「あれから、1週間が過ぎたんですね」
「そうだね…」

戦いは。
リゾナンターの勝利に終わった。
さくら。そしてれいなを救出し、Dr.マルシェの企みを未然に防ぐことができたのだ。


さくらとれいなを捕えていた機械が破壊されたことにより、島内の電力がダウン。
その隙に、例の巨大な飛行船がさゆみたちの救助に向かったのだ。
こうして、リゾナンター全員が無事に帰還することができた。

その陰で、里沙が「黒の粛清」と「鋼脚」という幹部たちの相手をしてくれたことは作戦の成功に大きく貢献した。
もしその二人がリゾナンターたちに襲い掛かっていたら。考えるだけでも恐ろしい。
さゆみは昔から縁の下の力持ちな役目を果たしている先輩に深く感謝した。

「結局ダークネスにはいいようにやられちゃいましたけど」
「それでもさゆみたちは、勝った。そして、これからはもっと厳しい戦いが待ってる。けど、さゆみたちは勝ち続けなくちゃ
ならない。愛ちゃんから、ガキさんからリゾナンターの称号を受け継いできているから」

春菜の言う通り、今回はダークネスにこちらの主力を攫われるという手痛い状況からのスタートだった。
しかし、その不利をものの見事に跳ね返した。
さくらとれいなの二人を救うために、リゾナンター全員が心を繋げた。
新しいリゾナンターたちが入ってから、はじめての全員での「共鳴」。
その強い絆の力が、黒い意思を打ち砕いたのだった


朝の客のためにつけていたテレビが、せわしく情報を伝える。
それは都心の高層ビルで発生した不思議な現象についてのものだった。
複数の目撃者から寄せられた、爆弾でも投下されたかのような爆発音。閃光。
折しもそのビルは不発弾処理のため閉鎖中となっており、不発弾の処理に失敗したのではないかと疑われた。
ところが建物自体には傷一つなく、自衛隊や警察の高官もその噂を完全に否定していた。

「…なんだか凄い事件があったんですね。私たちがあの孤島に行ってる間に」
「能力者がらみの事件だったのかもね」

さゆみたちはもちろん。
この事件にかつてのリゾナント店主である愛が関わっていたことを知らない。
彼女が自分たちに降りかかるはずの災いを食い止めたことも。そして彼女自身の因縁に決着をつけたことも。
それは、決して交わることのない時間軸。

コメンテーターがしたり顔で自らの持論を披露している。
しかし肝心のところで画面が暗転しそれきり沈黙してしまった。さゆみがテレビの電源を切ったのだ。

「あれ?」
「どうしたの飯窪、まだ見たかったの?」
「いえ。お客さんが、来ます」

春菜の強化された聴覚が、リゾナントに向かう客の足音を察知していた。


からんからん。

それは、春菜の言うとおりに。
ラッシュアワーに乗り遅れた客か。
しかし、ドアベルを鳴らしたのは意外な人物だった。

「あの、おはようございます…」
「さく…小田ちゃん!?」

店の入り口には、一人の少女が立っていた。
さくら。リゾナンターたちが命を賭けてダークネスから救い出した少女だ。

「どうしてこんな朝早くに」
「だって…今日は大事な日だから」
「そうだよね。ところで、『御両親』とはうまくやってる?」
「はい。小田さん…じゃなくてお父さんもお母さんも優しいです」

さくらは、里親を引き受けた小田夫婦という篤志家によって引き取られた。
それに伴いさくらに「小田」という苗字が与えられる。春菜が言い直したのはそのためだ。
能力者の卵というのはその出自から親に捨てられたりすることも少なくない。そのための受け皿、里親制度が昨今は整備され
つつあり、さくらもその制度によって自らの居場所を得ることができたというわけだ。

「道重さん、ちょっといいですか」

そんな中、春菜がさゆみに話しかける。


「なに?はるなん」
「せっかく小田ちゃんに来てもらったことだし、お店のお手伝いをしてもらったらいいんじゃないですか?」

少し考えるさゆみ。
不安そうにこちらを見ているさくらに気づき、優しく微笑む。

「そうだね。じゃあお店のお掃除、手伝ってもらおうかな。小田ちゃんも、もうリゾナンターの一員なんだし」
「は、はいっ!!」

ぱぁっと広がる、笑顔。
さゆみの言葉を受け、さくらがいそいそとカウンターの中に入る。

それは、最初にこの喫茶店を訪れた時には決してすることのできなかった表情。
あの時彼女の心を覆い隠していた黒い暗雲はもはや存在しない。

私、リゾナンターの一員なんだ。
まだまだ実感はできていない。けれど、そこには確かに形がある。漠然とそんなことを、考えながら。



さほど広くない店舗、3人がかりで掃除をすればあっという間に輝きを取り戻す。
カウンターもテーブルも、窓ガラスもぴかぴかだ。

そこへ再びドアベルの音。
大きな足音と騒がしい声。訊ねなくても誰だかわかる。

「おはようございまーす!!」
「こんちくわー」

嵐を呼ぶコンビこと、遥と優樹の二人組。
学校が終わるにはまだ早い時間に、さっそく春菜が不審の目を向ける。

「あなたたち、まさか学校をさぼったわけじゃないよね?」
「まっ、まさか!ハルたちそんなことしてねーっつーの!」
「ちゃんとお腹痛いんで帰りますって言ったもん!!」
「ちょ、お前!!」

慌てて優樹の口を塞ぐも、時既に遅し。
さゆみの背中から、黒いオーラが。

「工藤、佐藤。ちょっと話があるから」
「ひ、ひぃっ!!」

雷を落とされてる最年少コンビ、しかし事態はそれだけでは終わらない。
同じく学校に行っているはずの年長メンバーたちが続々と店に入ってきたからだ。


「よかった!間に合ったと!!」
「道重さんごめんなさい、学校途中で抜け出して来ちゃいました!!」
「ちょっとちょっと!!」

特に悪びれもせずにそんなことを言う衣梨奈と香音に、さすがのさゆみも驚くばかり。

「すみません。学校を抜け出すのはどうかなって思ったんですけど、やっぱりどうしても…」
「フクちゃんまで…」

聖の申し訳なさそうな表情に、さゆみは学校を抜け出してでもリゾナントに集合したいという意思を見出す。横目でちらちら
と様子を窺うまーどぅーに、半ば諦めたように肩で大きく息を吐いた。

「しょうがないなあ。でも、今回だけだからね」
「やったー!!」

優樹が小躍りしながら喜んでいる間に、リゾナントいちのマイペースとその御付の少女がようやく到着。

「もうみんな歩くの早過ぎだよー…あっ」

とててと小走りに店内に入ろうとする里保。
が、何も躓くようなものがないにも関わらず、バランスを崩してしまう。こける達人、転びの女神に愛されている少女。そして。

次の瞬間、転ぶことなく里保は立っていた。
その視線の先には、さくらが。


「小田ちゃん、もしかして『時間編輯』の力を使った?」
「え!『時間編輯』ってもう使えなくなったんじゃないですか?!」

探るように訊ねる里保に、亜佑美が食い気味に訊き返す。

「確かにあの時、私の力も消えてなくなってしまった。けど、入れ替わるようにして新しい力を手に入れたんです。言うなら
ば、これは『時間跳躍(タイム・スキップ)』。

『時間跳躍』。時間を飛ばし、飛ばした間の出来事を『認識できなくする』能力。
時を自在に操り改変すら行える『時間編輯』からすれば随分スケールダウンしてしまった上に、有効時間も僅か3秒足らず。
ただ、転びそうになった少女に駆け寄り体を支えてあげるには十分な時間だ。

「小田ちゃんが退院してすぐに、この力を見せてくれたんだよね。リゾナンターにとって、大きな戦力になるのは間違いあり
ませんね」
「はい。でも、田中さんは…」

さくらの言葉が、何とはなしに皆が触れなかった事実へと迫る。
しかし。

「たなさたんっ!!たなさたん、まだ来ないかなー!おそーいっ!!」

突然自分の願望を叫んだ優樹によって、再び空気が変わった。

「もう。今朝病院を退院してからこっちに来るんだから、そんなに早く着くわけないでしょ。わざわざみんな学校さぼってま
で早く来る事なかったのに」
「えー、でもまさはたなさたんに会いたいです」
「ったく。たなさたんたなさたんうるさいんだよ!」
「どぅーだって田中さんがーっ!とか言ってたくせに」
「お前それは言っちゃダメだって!!」

いつもの二人のやり取りに、メンバーの中に笑いが起こる。
激しい戦いのあとの、平和な時間。ついこの前にあの絶海の孤島で死闘を繰り広げたとはとても思えない。


「佐藤、うるさい。店の外までキーキー声が聞こえてたっちゃよ」

全員が、振り返る。
本当なら、先ほどの笑いの輪の中に一緒にいるはずの人物。
動きやすい格好、と言えば聞こえはいいが、まるでロックバンドでもはじめるかのような黒ずくめのミニスカート。

田中れいなは、見知らぬ三人の女性を引き連れてリゾナントの玄関に立っていた。





投稿日:2014/05/11(日) 07:56:40.50 0