『Vanish!Ⅲ ~password is 0~』(1)


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吾は時の亡霊

★★★★★★

その日私は親しい友人と酒を飲み交わし、全然意味ない議論に花を咲かせていた
どうでもいいだろうが、らっきょうと福神漬けのどちらがカレーのお供に最適なのか、が議題だった
私はらっきょう漬けが、友人は福神漬けが最高といい、どちらも譲り合わなかった

「シーフードカレーにらっきょうが合わないのを認めろ」という友人に対して私は頑なに首を横に振り続けた
「それならビーンズカレーに福神漬けはあうのか?」とこれまたどうでもいい主張で真っ向勝負を試みた
議論が白熱すると否が応にも喉が渇くので、その都度呼び鈴で生ビールを注文する
そして、その注文が届く間にまた議論し、喉が渇きまた注文を繰り返す
気づけば3時間近くも過ぎていた
元々結論なんて求めていなかったのだから、「どちらもあれば最高」という結論に我々は満足していた

千鳥足で家路に向かう私だが、どうやら少しばかり飲みすぎてしまったようだ
恥ずかしながらところどころ記憶がないのだ
何杯飲んだのか覚えておらず、店員がジョッキを割ってしまった瞬間を覚えていないのだ
気づいたらジョッキが床の上で粉々になっていたというか・・・
ああ、いけない、いけない。酒に飲まれてはいけないな。年甲斐もないことをしてしまった
記憶がないっていうのは怖いことだな

★★★★★★

カランコロンと懐かしく、ただ旧き良き時代を思いおこさせるベルの音が来客を告げた
「いらっしゃいませ」「おかえりなさい、鞘師さん」と親しげな声
「こんにちは道重さん、ただいまはるなん」
カウンター席に座り、空いている隣の椅子の上に鞄が置かれる
「りほりほはサイダーでいいよね?」と注文を取る道重に、鞘師は鞄から何かを取り出そうとしながら答える
「いえ、アイスコーヒーでおねがいします」と。


それを聞いて道重は視線を落とす
「はあ、昔は『サイダー』『サイダー』ばっかりで可愛かったの。ああ、時間って残酷なの」
「・・・別に嫌いではないですし、摂生しているだけですから」
鞘師は最近自分でも気になりつつある二の腕のぽにょを思い浮かべながら平静を装い答えた

「そうですよ、道重さん。鞘師さんは高校生ですし、いつまでも子供じゃないんですよ」
冷凍庫から氷を取り出しながら飯窪が鞘師の味方になりかける・・・が
「ただ、時には昔を思い出して飲んでほしいっていう道重さんの気持ちもわかりますよ」
とすぐに道重の肩を持つ
「そうなの!!そういうことなの!さゆみはいつもサイダーを飲んでほしいっていうわけじゃないの!
たまにはサイダー好きでかわいいさゆみのりほりほを見たいだけなの」
動機が不純ではないか、自分がいつ道重さんのものになったんだとつっこみながらストローをくわえる

(でも確かに時がたったというのは本当だな)
適度なほろ苦さが舌の上で広がっていく、この味を美味しいと思うようになったのは最近だ
初めて道重と出会ったとき、鞘師は小学生であった
突然両親を失い、唯一の肉親のじっちゃまに家宝の鞘だけ持っていくように言われ、この街、東京に来た
待ち構えていたかのように現れた『ダークネス』という組織に狙われ、それを救ってくれたのが『リゾナンター』
目の前にいる道重さゆみもそんなリゾナンターの一人
当時のリーダー、高橋愛は私の名前を知ると、「なるほど」とただ呟き、私をここに、喫茶『リゾナント』に連れてきた
高橋愛、新垣里沙、田中れいな、光井愛佳、そして道重さゆみ
この5人が当時のリゾナンターであった

私は彼女たちから色々なことを教わった
表向きは普通の中学生として過ごしながら、裏ではリゾナンターとしてダークネスと戦っていた
そして多くのことを彼女達から学んだ
それは古武道の家元のじっちゃまに教えられた技術を活かした実践的な戦いだけではない
人として大切な信念、正義の在り方、友情、信頼・・・口に出して数え上げてはキリがない


鞘師がリゾナンターとなって驚いたことの一つは誰一人が、自分自身を正義としていないことだった
高橋は「正義なんてもんは自分が正しいことするための大義名分にしか過ぎない」と
新垣は「正義って自分が判断するものじゃないんだよ。結果的に多くの人が認めるものが正しいっていう結論だよ」と
田中は「正義とか悪とかそんなんめんどくさいけん、れーなの邪魔するやつは許せんだけっちゃね」と
光井は「自分の主張を伝えるのに暴力を使うのが気に入らんだけや。人間なら言葉で伝えたらええ」と
道重は「正義とかさゆみはわからないけど、ダークネスがいけないことをしていることはわかっているから戦っているだけなの」と

絶対的な正義の味方ではない、と教えられたが、結局、鞘師は思う、彼女たちはヒーローだと

しかしそんな頼りになる先輩達も一人、また一人と離れていった
自分の道を探すといい消えた高橋、使命が生まれたといい旅立った新垣
不慮の事故で離脱を余儀なくされた光井、自分で新たな仲間を探したいといい笑顔で別れた田中
気づけば鞘師が知っているリゾナンターは道重一人になっていた

時折道重が店のディスプレイとして飾られている写真を見て、何とも言えない表情になっているのを鞘師は見ていた
写真の中には9人の女性の姿、そのうち5人の名前を鞘師は知っている
おそらく残りの4人も仲間、リゾナンターなのだろう、と
彼女たちを見ている道重の眼は鞘師達、後輩を見ている眼と全く違っていた
その眼を見た鞘師は、強くならなくては、頼りにされる存在にならなくては、と強く誓った

しかし、別れだけではない。頼りになる仲間もできた
目の前で道重の愚痴を聞いている飯窪も一人だ
彼女と、もう一人、工藤の二名はある宗教団体に人体実験のために捕えらえていた
その二人の救いを求める声に反応したのも、道重達、リゾナンターであり、二人もまたリゾナンターとなった
飯窪は高橋が残したこの『リゾナント』を守るために、道重とともに店に立つようになった
そして工藤は、というと・・・

「ただいま~」
勢いよくドアが開き、制服姿のショートカットの少女が飛び込んできた
「はるなん、オレンジジュースね!」これが工藤。見た目美少女、性格少年の変わり者


そして変わり者といえばもう一名
「ずるいよDOどぅ、まさを置いていくなんて」
「だって競争っていったじゃん、どこの世界に競争で一緒に行こうなんて言うやつがいるんだよ」
「まさならするもん」
「嘘だね」
「まさ嘘ついたことないもん」
「その発言自体が嘘だね」
「ホントだよ!」
子供のけんかを始める工藤の相方は佐藤、これまた工藤と同じころに仲間となった不思議ちゃん
ダークネスの破壊活動を止めるために向かった先で、たった一人でダークネスと対峙していたのが出会い
そして、その場で初めて出会ったあの田中れいなに懐き、いつの間にか仲間になっていた

二人をなだめるように道重が割って入り、「まじですかスカ!なパパンケーキ」を二人にすすめる
「ほらほら、二人とも仲良く食べるの。さゆみの前では仲良くしていなさいね」
あっさりと言い争いをやめ、「「は~い」」と返事して二人は仲良く、パパンケーキをわけわけする

こんな毎日を鞘師は楽しんでいる
もちろんつらいことは多い、勉強との両立も大変だ。それにつけて眠い
でも素晴らしい仲間と出会えたのだから幸せであった

目の前の二人はわけわけしたパパンケーキが綺麗に半分に分かれていないということでまた喧嘩を始めていた
道重は困ったように笑い、飯窪は戸惑い、鞘師はまたかというようにため息をついた

★★★★★★

「ありがとうね、えりぽん、あゆみちゃん。聖のわがままに付き合ってくれて」
「いえいえ、譜久村さん、こちらこそありがとうございます。
こんな綺麗な公園でのお花見に誘ってくださって」
譜久村、生田、石田の三人は桜の木の下でお花見と称して、お弁当を食べていた
お弁当はもちろん発端者の譜久村が用意したもの


「でも東京にもこんな綺麗な桜の木があるとうね。えりの地元にも負けとらんし」
生田は自称、常に臨戦態勢なので上下ヒョウ柄、それに対して譜久村はふわっとした印象
こんな二人が仲良くお弁当を食べているというのも不思議な光景であった
「それにこのお弁当、めっちゃ美味しいし、えりの苦手な野菜もないし、さすが聖っちゃね」
「そ、そんなことないって。ちょっと作ってみただけだって」
恥ずかしいのか頬は桜に負けず桃色だ

「でも、本当においしいですよ、このえりんぎ」
「いえ、それはポルチーニ茸ですわ」
「へ~ぽるちいにっていうキノコなんですか~どこのものですか?」
「それはフランス産ですわ」
「フランス!!フランスの味!!」
驚いて箸を落とすという古典的なリアクションをするも、高級なキノコだけは地面に落ちる前につかみなおした

「でもなんで花見したいなんて急に思ったと?」
「え~だって~こんなにぽかぽかしたいい空で、桜が満開だから、聖お花見したくなったの」
ゆらりと桜のはなびらが風にたなびいて、暖かな日差しが3人を包む
「いいじゃないですか!こんなにいい天気の下で昼寝とか最高でふよ」
石田は譜久村の弁当をがっついているので、口の中に物が入ったまま
「桜といえば、さくらちゃんも誘わなかったと?」
「うん、誘ったんだけど、勉強が忙しいからって、またの機会にします、って返事来ましたわ」
「もったいないですね~こんなにおいしいお弁当食べれるのに」
花より団子な石田であった

★★★★★★

「あゆみん、後ろから銃弾が飛んできます!生田さん、そいつはナイフを持っているので距離をとってください」
工藤が千里眼で視えた情報を伝えつつ、ナイフを振るう
しかし、仲間達に情報を与えるあまり自身の周囲に注意が疎かになる
そのわずかな隙を見逃さまいと一斉に工藤のもとへと足を進める男達


「・・・一か所に集まるってことは、逆に一網打尽のピンチっていうことわかんないんだろうね?」
「ま、そんなこと言わないでちゃちゃっと片づけちゃってくださいよ、鈴木さん」
「はいはい、わかりましたよ」
男たちに向かっていく鈴木、その手には男たちと違い何ももっていない

「邪魔だ!ぽっちゃりが!」
その言葉に少しイラッとした鈴木は眉をピクリと動かした
「私はぽっちゃりじゃない!人より少し健康的なだけだ!」
そう叫び・・・男たちの群れをすり抜けた
男たちは工藤に向かい続ける・・・が数秒後、男たちは全員、突然足を止め、倒れ始めた

「ふん、香音をぽっちゃりというからだ」
振り返り腕を組んでにやにや笑う鈴木
その後ろから一人の男が剣で鈴木を切りつけた
鈴木は当然気づいているが、あえて何もしない。剣は鈴木の体をすり抜けた。血も出ない
「ぎゃあ~~~痛いよ~~~死んじゃうよ~~~・・・なんちゃってw」
実際に剣で刺されていない。ただ鈴木の『透過能力』で刺されているように見せかけているだけだ
「な、なんだお前?なんで刺されたのに死なないんだよ!!」
「え?こういう『力』だからさ。満足した?じゃあ、今度はこっちの番ね」
笑いかけ剣を持った男の胸元向かい、駆け出した
鈴木の体が男の体を通り抜け、一秒、二秒、時が経つ。男の体はゆっくりと倒れ、痙攣し始めた

「うわあ・・・鈴木さん、やることえげつない」
『透過能力』を持つ鈴木は自身の体を完全に透過させ、敵の体を通り抜けることができる
しかし、一部分、具体的には心臓だけは体を『通り抜けられない』ようにさせた
すなわち、心臓に体という鈍器を使って直接打撃を打ち込んでいるのだ
「ま、はるを守ってくれているんだから、これくらいしてもらわないと困るんですけどね」
「でしょ?」
鈴木と工藤は笑いあった


一方石田はというと、怪しく蒼く光る幻獣を召喚し、敵を駆逐していた
その幻獣の名は「リオン」。大きな牙を有したライオンに似た外見をもつ石田の使い魔
大きな牙や鋭い牙で黒づくめの男達を八つ裂きにしていく

その側には飯窪が『五感強化』で仲間たちの周囲察知能力を増幅させ、敵の痛覚を増強している
残念なことに飯窪は戦闘に特化した能力も、身体能力も優れていなかった
石田はそんな飯窪を守りながら戦っており、姿は戦場で踊る妖精のよう
「あゆみん、ナイスです!リオンもとても強くて頼もしいです!あとで撫でてあげますわ!!」

生田は譜久村とペアを組み戦っていた
生田は周囲にピアノ線の結界を張り巡らし、ピアノ線を通しての精神破壊を器用に繰り返す
その姿は自身が尊敬してやまない新垣の戦闘スタイルをより攻撃的にしたものであった

譜久村は淡く光る念動弾を操り、迫りくる敵や生田のサポートを繰り返している
譜久村の能力は『能力複写』。相手の能力を性能は落ちるもののコピーして使える能力
ストックは3つ。念動力、治癒力、そして彼女しか知らないもう一つの力が込められている

「こいつら余裕っちゃね」
「だめだよえりぽん、油断しちゃ」
「わかっていると!新垣さんにも生田は詰めが甘い、って言われたと!気を引き締めていくっちゃ!」

戦いをぼうっと眺めている少女が一人
それに気が付いた男が気配を消して近づく
その手に持った大きな斧を大きくかかげ、少女の頭めがけて振り下ろす
頭を叩き割らんとすその瞬間、少女は振り返り、ニヤッと笑い―消えた
斧は地面に突き刺さり、男は訳が分からないというような表情を浮かべる。
肩に重みを感じたときには既に遅く、男の首は体と切り離されていた
「イヒヒ、おじさん、遅いですよ」
瞬間移動で佐藤は男の首と体を移動させたのだ

同じ瞬間移動でも、高橋の瞬間移動と佐藤のそれは正確には異なるものであった


高橋の瞬間移動は「自身」が飛ぶことが能力であるが、佐藤の瞬間移動は「対象」を設定して飛ばすことが能力であった
そのため「自身」を対象とすれば瞬間移動となるが、自身を「対象」とするまでにコンマ数秒の差が出る
達人レベルの戦いではコンマ数秒が命取りとなることがあり、その点がリスクとなる、そう新垣は仲間達に伝えていた

そんな道重はというと、戦闘を仲間達に任せ、指揮官訳に徹していた
治癒能力者の道重は元々戦闘に向いてはいない、それは本人が誰よりも自覚していた
ハジマリの9人の時も仲間に守られながら後ろからサポートをするのが彼女の主なる役割
戦いの前線を高橋、久住、田中が、中軸を新垣、亀井が、それをサポートするのが道重の立場であった
時は過ぎ、道重を守るようになったのは8人の少女達となっていた
今、彼女を守るのは刀を振るう女剣士、彼女の名前は鞘師。古武道の水軍流を新たな時代に合わせて進化させた天才

家宝の鞘と己の水限定念動力で作った水の刃で迫りくる敵を次々となぎ倒していく
炭酸水で作られた細かい泡の混じった透明の刃は戦いとともに赤く染まっていく
戦いの終わりには刃は真っ赤に染まるため、ダークネスからは紅の剣士と呼ばれていることを彼女は知らない

「もう帰ったほうがいいと思いますよ。これ以上、戦っても無駄と思いますよ」
気づけば仲間たちは構成員との戦闘を終え、道重の近くに集まっていた
「ふ、ふざけるんな!戦いはこれからだ!!
 ピンチから華麗に逆転するのが、真のヒーローっていうじゃない!!」
数人の取り巻きの男に守られながら、金切り声で強がりを言うのは小さな金髪の女であった
道重は彼女の名を知っていた。それもそのはず、何度も戦ってきた相手だからだ
「いい加減、あきらめたらどうですか?詐術師さん」
「う、うるさい、おまえらなんておいらの手にかかれば一瞬で・・・」
「もうその台詞飽きるほど聞きましたよ」
明らかに焦りの色を浮かべる詐術師。いつもの詐術師に比べて道重達は余裕がないのを直感的に感じていた

「ああ~もういいっ、おいらがやる!覚悟しろよ、リゾナンター!能力発動、『能力そが・・・』・・らえ」
言い終える直前に詐術師は自身の首元にナイフが突き立てられているのに気が付いた
「・・・こんばんは、矢口さん」
背後に黒い影が立っていた


「おまえは、小田か?何してる?」
「・・・何って、正義のお仕事ですが、何か問題でもありますか?」
「ふ、ふざけるな、お前、自分を生んだその親を殺すのか?」
「・・・あなたが生んだわけではないですし、私はあなたを親と思ったことはありません
 ・・・確かに私はあなた方ダークネスが作られた成功作かもしれませんが、心はリゾナンターが作りました
 ・・・あなたが親を忘れたのか?と問うならば、私は答えます、リゾナンターが母であり、父であると。そして自分自身でもある」
ただ淡々と返事を返す小田の目は感情の血が通っていないように思われるほど漆黒の闇に満ちている

小田さくらは一番最近リゾナンターに加わった存在だった
能力は『時間跳躍』-時間を飛ばし、飛ばした間の出来事を『認識できなくする』能力
決して「なかったこと」にするわけではない。過程が飛ばされ、残されるは「結果」のみ
そして飛ばされた時間の間、動くことができるのは小田、ただ一人
今のように能力阻害が起こる直前に時間を飛ばし、能力発動をする前に、詐術師の背後を取ることなど容易なこと

「・・・どうします?矢口さん、このまま首から花を咲かせますか?それとも逃げますか?」
「クッ・・・」
「・・・答えないならば選択肢なしとして、このままナイフを振るいます」

鞘師は思う、あの小田が仲間になるなんて、と
心のない本当にただの機械だった小田を人間らしくしたのが自分達とはいえ、仲間になれるとは思っていなかった
ダークネスとリゾナンター、交わることができないと思われたその二つが混じり、生まれた奇跡なのかもしれない、と

さて、このままナイフを引けば、誰もなしえなかった悲願、幹部を倒すこととなる
しかし―「小田ちゃん、やめなさい」道重が制した
「・・・なぜですか、道重さん。その行動には我々の目的と矛盾が生じます」
「命を奪うだけが全てではないの」
「・・・私にはわかりかねますが、道重さんがおっしゃられるならやめます」

「やめなくてもいいわよ」
そこに割り込んできた新たな声
矢口とリゾナンター9人の視線が声の持ち主へと顔を向ける


声の主は屋根の上にいた。二人組であった。一人は頭からすっぽりとフードを被っており、顔が見えない
もう一人の顔に道重をはじめとするリゾナンターも、詐術師も見覚えがあった
「ど、どういうことだよ!圭ちゃん、おいらを見捨てるってことかよ!」
声の主は「永遠殺し」の通り名を持つ幹部の一人であった

「仲間を見捨てるってどういうことだよ!」
「散々手下をゴミのように扱っておいて、その言いようも可笑しいと思わないのかしら?
 まあ、あんたを助けに来たってことでいいわ」
新たな幹部クラスが現れる、その事態にリゾナンターに緊張が走る
「・・・やはり、道重さん、命令を無視します。ここで決着をつけましょう」
ナイフを握る手に力が入る
「や、やばいって、圭ちゃん、何とかしろって」

「永遠殺し」は笑みを浮かべる
「もう、すでにしているわ」

突然の突風

矢口は小田とともに突風に煽られ、宙に舞う
「小田ちゃん!石田、助けてあげて」
「了解しました!リオン!!」
リオンを召喚し、その背に飛び乗り、宙に投げ出された小田のもとへと空を駆けていく
小田の腕をつかみ、その体をリオンの背中に載せる
「・・・ありがとうございます、石田さん」
「なんってことないよ。ね、リオン」

「それより詐術師はどうなったんでしょう?」
「あ、あそこ!!見て!飛んでる!」

詐術師は宙に浮いていた。永遠殺しとフードの女とともに


「な、なんだこれ?」
詐術師も状況をつかみ切れていないようだ
「説明は後だ。ボスから招集命令が来ている」
頷くフードの女
「そ、そうか・・・おいらがこいつらをコテンパンにしてやるところだったのに
 ボスの命令なら仕方ないな、お前ら、命拾いしたな」
水を得た魚のように強気になる詐術師をみて、永遠殺しがわずかに肩を揺らしたように見えた

「そうはいきませんよ、このチャンスを逃がすとでも思いますか?」
リオンに乗った石田と小田が3人へと迫る
「おい、フードのお前なんとかしろよ」

何をされるのかわからない、そう悟った小田は能力を開放し、時間を飛ばした
自分だけが動き、時間軸を把握できる空間―世界がラベンダー色に染まる
石田はリオンを走らせるが、そのことに気づくことはない、能力終了とともに進んだことに気づくだけ
3人はそれぞれ何も動かず、待ち構えるようにみえた

小田は懐からナイフを取り出し、フードの人物へと投げつける
一つ、二つ、三つ、そして4つ、と
それはこの小田だけの空間で彼女がよくとる戦闘スタイルの一つ
自分しか認識できない空間で有利に立つために見出したスタイルであった

(・・・ナイフが刺さったのちに時を動かす。それで石田さんが止めをさす)

目論見通りナイフはフードの人物へと向かっていく
あと50センチ、30センチ、20センチ、10センチ・・・
(・・・そろそろ解除です。ナイフが刺さり、死の片道切符が届きますよ)

しかし、ナイフが突然―消えた
(・・・何?)
小田の能力は「なかったこと」にするわけではない「認識できないようにする」だけである


すでに発動された能力は消すことはできない
すなわち、飛ばされた時間の中でも発動された能力は発動され続けているのだ
(・・・これは危険だ、解除しなくては)

直感で自身の能力を予定より早く解除した小田であったが、それはまた大きな誤算を生んだ
「う、うわぁ、なんでこんな近くにまで来たんだ?」
時を飛ばしたことを認識できなかった石田とリオンが余りに敵のそばに近づいてしまったのだ
リオンは石田の精神力で作り上げられた幻獣故に、石田の動揺とともに姿が薄くなっていく
「危ない!!」
佐藤は石田と小田の元へと飛び、その手をつかんだ。次の瞬間には地上に三人の姿があった
「ナイス、まあちゃん!」

「小田の『時間跳躍』か。相変わらずトリッキーな力だ。マルシェも面倒な敵を作り上げてしまったな」
永遠殺しが状況を冷静に判断し、小田と視線をかわす

「トリッキーなのがさくらちゃんだけとおもったら、怪我するっちゃ!」
生田のピアノ線が伸び、フードの元へと延び、腕に絡んだ
「よしっ、このまま精神を破壊してやるっちゃ」
生田の瞳が紫色に光り、ゆがんだ笑みを浮かべた
「内側から破壊したらどんな敵も抜け殻になるっちゃ・・・ろ?」
不思議と生田の両足に力が入らなくなった
「あ、あれ?おかしい?」
そのまま地面に倒れこむ生田

あわてて鈴木が生田の元へとかけより起こすが生田は虚ろな視線で宙を見たままだ
「あ、あいつは何者なんだろうね」

「そろそろ帰るぞ」
フードが頷き、空間に裂け目が走る
既にリゾナンターにとってはおなじみとなったダークネスが移動に用いるための空間の裂け目


「あのままでは逃がしてしまいます!!」
「せっかく追いつめたっていうのに!!」
悔しがる飯窪と工藤を脇目に、鞘師は佐藤とアイコンタクトをかわす

「じゃあなリゾナンター、キャハハ、今度会う時がお前らの最後だ!」
「そうはいかません、逃がしませんよ」
振り向くと鞘師が佐藤に飛ばされ、詐術師の目前に迫り、刀を大きくふるっていた
詐術師の瞳孔が広がり、頬に冷や汗が流れる

振り下ろされる刃、息をのむリゾナンター達
赤い刃が月の光に照らされ怪しく光る

しかし刃ははじかれた
フードの人物が矢口と鞘師の間にすべり込み、素手で鞘師の刃をはじいたのだ

「里保ちゃんの刀をはじいた?あの何でも断つ刃を?」
鞘師は鋼鉄だろうと銃弾だろうとなんでも真っ二つにしてきた。仲間たちの衝撃は計り知れない
しかし誰よりも驚いたのは鞘師だった
(な、なにも見えなかった)
どうやって今、刀をはじかれたのかあの至近距離でわからなかったのだ

その疑問を持つほんの一瞬の隙をもって矢口がキャハハ笑いを残しながら裂け目に消えた
次いで永遠殺しも姿を裂け目にすべらせる
残されたフードも同様に裂け目へと姿を溶け込ませようとする

飛ぶことのできない鞘師は落下しながら最後の力を振り絞り、水の刀を伸ばし、槍状に変形させた
落ちながらもついたその最後の一突きではフードを倒すことは到底できないとわかっていた
しかし、あきらめの悪い鞘師は何もせずに落ちることはできなかったのだ

まさかまだ攻撃をしてくると思わなかったのだろう、フードの反応は一瞬遅れた
槍の先端がフードの端っこを貫き、月光がフードの顔をわずかに照らした


鞘師が見えたのは黒髪が揺れ、柔らかそうな唇とあがった口角だけだった
フードの人物は何やら言うかのように口を動かし、笑みを浮かべ、姿を消した

地面に着く前に石田がリオンを操り、鞘師をリオンの背中に載せた
「大丈夫ですか?鞘師さん?」
「だ、大丈夫。だけど、あいつはいったい?」

そんな中譜久村がだまったままの道重のもとに近づいた
様子がおかしいのだ、震えて、「あ、ありえないの」と繰り返しつぶやいている
「どうかしたのですか?道重さん」
問いかける譜久村だが、道重は心ここにあらずといった様子のままだ
「だ、だって、あのとき・・・」

「それよりみんな、えりちゃんの様子もおかしいんだ!なんかへんなこと言ってるの!」
「まあちゃん、早くみんなをリゾナントに送って!!」
「は~い」
生田を背負った鈴木を含め、慌てて9人はリゾナントへ飛んだ
飛ぶ瞬間、生田の口から奇妙な声がこぼれた
「・・・ヒャークマピドゥ・・・」





投稿日:2014/05/05(月) 14:01:00.61 0