『リゾナンターЯ(イア)』 74回目


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まるでミルクの雲に包まれているみたい。
さゆみは、乳状の靄の掛かった空間で、薄桃色の光を帯びて横たわったまま浮かんでいた。ゆるやかな川の流れに乗るよう
に、ふわふわと、どこかに運ばれてゆく。

そう言えばさゆみ、あの黒い触手に捕まって。

その後のことは、わからない。
ぷっつりと記憶が途切れてしまったように。
勝ったのか、負けたのか。
生きているのか、死んでいるのか。
それすらも、わからなかった。

リゾナントに、帰りたいな。

漠然と、そんなことを思っていた。
思いと裏腹に、目の前の景色は相変わらず見通しが利かない。
白い混沌とした世界がどこまでも広がってゆく。
横たわっているのか、それとも実は立ったままなのか。位置の把握すら出来ない不思議な、さゆみ一人だけの空間。
そこへ、新たな光が射す。水色の、きらきらとした輝き。


その水色は、さゆみと向き合うようにして、反対側からこれまたゆるゆると流されていた。
そして二人が相対したところで、流れがぴたりと止んだ。

「れいな」

さゆみが、水色の光を携えたれいなに呼びかける。
ただそれには、軽く非難めいたニュアンスが。

「さゆ?」
「何で黙ってたの、体のこと」
「…ごめん」

れいなはそれしか言うことができない。
「黒翼の悪魔」との因縁、黒血のこと。れいな自身の思い。何を言っても、言い訳になる。そんな誤魔化しはしたくなかった。

「ま、いいよ。何か、れいならしいし」
「さゆ」
「それはそうと。ここってどこなのかな」
「れいなたちは…勝ったよ」

ただ事実を淡々と。
れいなの言うとおり、10色の色とりどりの光は黒い意思を打ち砕いた。
だから彼女たちは、こうしてここに存在している。


「そっか。勝ったんだ」

れいなの言葉に納得するさゆみ。
みんなはどうしてるんだろう。次々と可愛い後輩たちの顔が浮かぶ。
けれど、心配はしていなかった。それはれいなの言葉を聞き、れいなを見ればわかる。

メンバーの誰かが傷つき、命を失う。
そうなってしまったら、たとえさくらが助かったとしても「勝った」ことにはならない。
逆にメンバーが無事でも、さくらが助からなければそれも「勝ち」ではない。
れいなが「勝った」と言う事は、つまりはそういうこと。

勝ってもいないのに、絶対に勝ったなんて言わない。それが、れいな。
さゆみが長い間れいなを見続けた結果の、当然の帰結だった。

それでも、別の意味で何かしらの引っかかるものがあり。

「でも、それだけじゃないよね」
「あはは。さゆにはかなわん」
「長い付き合いやろ」

れいなとさゆみ。
戦闘に特化し、常に戦場の最前線で戦ってきたれいなと、後方支援に徹していたさゆみ。
立ち位置から、そして互いの気質から。同い年にも関わらずそこにはあくまでも仕事場での関係しか存在していなかった。


けれど、彼女たちと行動を共にしていた亀井絵里の戦線離脱が。
そして新しく入ってきた若きリゾナンターたちの存在が、二人の間に新たな関係を構築した。

れいなは、意を決して言葉を発する。

「共鳴の…れいなの中の増幅の力が。なくなっとう」
「え…?」

能力の喪失。
それが意味するものは。

「大丈夫。さくらちゃんにはほとんど共鳴の力は渡っとらんけん」
「そっか。って、ほとんど?」
「うん。れいなの力は『みんなに受け継がれた』。無理やり吸い出されたものが、別の場所に行き渡る前に、みんなの中に向か
って弾けよった」

冷静なのか、諦めなのか。
いや。さゆみは、淡々と話すれいなの表情に希望の光が射しているのを見ていた。

「れいなの力はもう失われた。それはれいな自身が知っとうけん。それでも、さゆも含めたみんなの中に、れいなの力が行き渡
った。それなら、ええっちゃろ?」
「でも!!」
「共鳴は、受け継がれてゆく」


さゆみがリゾナンターになってから。
いくつもの出会いがあり、別れがあった。
ある者は能力を失い、またある者は新たな活路を求めて別天地へと旅立った。
かつてダークネスに立ち向かった当初からのメンバーはさゆみとれいなだけになってしまった。
それでも。

小春の。ジュンジュンの。リンリンの。絵里の。
里沙の。愛佳の。彼女たちの色が、共鳴が受け継がれている。
たとえ絶望が彼女たちを分つとしても。
時空を超え、宇宙を超えて共鳴の絆は繋がり続ける。

白い靄が、ゆっくりと薄れてゆく。
それとともにさゆみとれいなの体も。

「あ…」
「ここではお別れやけん。またあっちで話そ。伝えたいこともあるし」

そしてれいなは笑顔で、消えていった。
さゆみもまた、消えてゆく白靄とともに。





投稿日:2014/05/02(金) 23:16:30.24 0