『リゾナンターЯ(イア)』 73回目


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ライトピンクが、黒い大蛇の行く手を阻む。
その光は、強く、そして優しく。

「み、みっしげさん…どうしてここに」

想定外、いや、心のどこかでここに来る事を願っていた。
里保は改めて、自分達のリーダーの存在の大きさを実感する。

「みんなのいるところにはどこにだって、駆けつけるよ」
「あっ…」

言いながら、里保を抱きしめるさゆみ。
緊張が解れて力が抜けてゆく里保の小さな体を抱きしめたさゆみは。

スー。精神世界の中だからどさくさに紛れてりほりほを抱きしめてもばれないの。フッフフフ。

などと危ないことを考えていた。
普段は大胆なこともできず柱の陰からこっそり見てるタイプのさゆみだが、どさくさに紛れる力はやはり只者ではない。
しかし、

「あのー道重さん、考えてること筒抜けなんですけど」
「て言うか鞘師さんだけずるい!石田のことも抱きしめてください!!」
「まさも!まさも!」

春菜の突っ込みと、亜佑美の意味不明な嫉妬。いつもの優樹。
白い目が次々にさゆみへ注がれてゆく。慌てて里保から離れるさゆみだった。


「えー…とにかく、みんな無事でよかった」
「でも何で道重さんが。えりがサイコダイブした時にはその場におらんかったのに」
「さゆみが研究室に入った時に、みんなが立ったまま目を瞑ってて。そしたら何かに引っ張られるようにしてここに辿り着いたんだけど」

衣梨奈のサイコダイブの強力さか、それともリゾナンターの心の絆の強さ故か。
現実としてさゆみの精神は、さくらの元に辿り着いた。それは間違いの無い、事実。

「道重さんまで。どうしてみんなそこまで、私を」
「仲間、だから」
「え…」
「さゆみにもさくらちゃんの心の叫び、聞こえたよ。それはきっと、さくらちゃんがさゆみたちの仲間だって証拠だから。だから、一緒
に帰ろう?」

仲間。
れいなにも同じ言葉を投げかけられた。
暖かく、力強い言葉をさくらはもう否定できなかった。

だが、さくらの意思とは裏腹に。
さくらを護りそして拘束する大蛇は周囲の闇を吸収するかのように体躯を広げてゆく。
8本の黒い胴は互いに絡まりあい、束ねられる。先端は鋭く尖り、巨大なドリルと化していた。

「その前に…これをなんとかしないとね」
「道重さん、そいつは多分さくらちゃんを拘束してる機械の『意思』やけん!そいつをぶっ壊せばさくらちゃんも開放されると!!」

衣梨奈の言葉に頷いたさゆみが、右手を黒き意思の前に翳した。
9人を覆いつくすように、瞬く間に薄桃色のバリアが展開されてゆく。


「さゆみがみんなを護るから!!みんなはあいつを!!」
「はいっ!!!!!」

リゾナンターたちの体から、再びカラフルな光が湧き出る。
次々と打ち込まれる光の槍に、薄桃色のバリアを破ろうとしていた黒い意思の動きが制限された。

「やった!!」
「まだ安心するのは早いんだろうね!!」

歓喜する遥を香音が制する。
現実世界であれだけメンバーたちを苦しめた機械が、こんなに簡単に制圧されるはずがない。
そしてその予感は当たっていた。

突然、さゆみの足元から突き出る黒い触手。
抵抗する間もなく、全身を絡め取られ、拘束されてしまう。

「道重さん!!!!」
「くっ…さゆみは…大丈夫だから!!」

締めつけられ、骨が軋む。
精神世界での出来事のはずなのに、まるで現実であるかのような強烈な痛覚。
それでも、さゆみは展開した障壁を緩めはしない。

暴れ、のたうちながらバリアを攻撃する黒い意思。
8本の光に穿たれながらも、「異物」を排除するという機械的な命令を淡々と実行している。
今はさゆみの力に隔てられてはいるが、このままではいずれバリアは決壊してしまうのは明らかだった。


一撃ごとに、さゆみの表情もまた険しくなってゆく。
精神世界での光は攻撃手段であるとともに、自らの生命そのものでもある。
そこにダメージを与えられるということは、命を削られているのとほぼ同義であった。

「みんな、こっちから打って出るよ!!」

里保が、叫ぶ。
さゆみが後輩たちを護りたいように、後輩たちもまたさゆみを護りたい。
その気持ちは勇気となり、メンバーたちに力を与える。

先頭に飛び出した里保と亜佑美が、黒い意思の前で交差するように攻撃を仕掛ける。
里保の刀が猛る意志とともに刀身が伸びて巨躯を袈裟懸けにすれば、続いて亜佑美もまるで自分自身が使役する幻獣であるかのような瞬速
の蹴りを浴びせる。

強烈な攻撃に身を捩る相手だが、すぐさま反撃に出る。
自らの体から新しい触手を生やすと、二人を薙ぎ払おうと大きく後ろに撓らせた。

「そうはさせんっちゃ!!」

閃光のようなピアノ線が飛び、触手を逆に絡め取る。
衣梨奈の意志に呼応するかのようにぎりぎりと締め上げる糸は、やがて触手を刻むようにばらばらにしてしまう。


「まーちゃん!ハルたちも行くぞ!!」
「ヤッホータイ!!」

優樹が背後から巨大な二つの手を出現させ、その両手が遥を包み込む。

「DOどぅー、あっちに飛んでけー!!!!!」
「うわああああっ!!!!!」

そしてまるで野球のボールのように、黒い意思に向かって投げつけられる遥。

「すっ、鈴木さん、お願いします!!」
「りょーかいっ」

飛んでゆく遥を叩き落とそうと、いくつもの触手が行く手を阻もうと立ち塞がる。
だが、香音の物質透過によってそれらの攻撃はまるで当たらない。
そして向かい風を掻き分けて突き進む遥の目の前に見えてくる、巨躯の中心。

「にしてもまーちゃん乱暴だなあ…でも、おかげで見えてきたぜ、あいつの弱点!!」

遥の千里眼が、黒い意思の中枢を捉える。赤黒い、ドーム状の球体。
そこに一撃を加えれば、纏め上げられた大蛇は成すすべもなく瓦解するはず。

「くらえーっ、ゴムゴムのー…」
「って、どぅーじゃ無理でしょ」

か弱い拳を振り上げようとする遥の背後。
いつのまにか、変な声のお姉さんがいた。


「はるなん!?」
「私が五感強化で一緒にやってあげるから」
「ちっくしょう、こんな時だけお姉さんぶりやがって」

と言いつつ、満更でもなさそうな遥。
遥と春菜、二人の動きがまるで写し取ったかのようにシンクロしてゆく。
遥の正確性と春菜の五感強化によって引き出されたパワーが一体となって、球体に叩き込まれた。
打点の箇所からひび割れ、崩れてゆく球体。直後に獣のあげるような耳障りな咆哮が場にこだました。

「…終わったか?」
「ううん、まだ何かある!!」

苦しみ悶える黒き意思。
束ねられた八本の大蛇が一気に解き放たれ、大きな円を形作る。
円の中心には長い針と短い針が一本ずつ。長い針が小刻みに、円をなぞっていた。
その形は、巨大な時計。

「さくらちゃんの力を精神世界に具現化したのか!」
「やばい、何か打ってくるぞ!!」

長針と短針が、徐々に回転速度を上げてゆく。
やがて扇風機さながらに狂った回転を続けるなかで、弾丸のように時計の数字を打ち出しはじめた。

高速で迫り来る数字の群れ。
人の背丈ほどの大きさのそれをまともに喰らえばどうなるか。だが。


「みんな、伏せて!!」

その声と共に、降って来た数字が次々と打ち抜かれる。
破壊され意味を失ったそれは、存在自体がなかったかのように消えていった。

「譜久村さん!」
「打ち出してくる数字は聖が狙い撃つから、みんなは攻撃を続けて!!」

元はと言えば、敵の能力だった念動弾の射撃。
だが余程相性が良かったのだろう、その正確無比さは既にオリジナルを超えていた。能力複写の性質上威力は劣るものの、使い手の違いか
ら威力を補い余るほどの戦力となっていた。

聖の援護射撃に力を得たのか、リゾナンターたちの攻撃が激しさを増す。
里保が時計盤に刀を穿てば、亜佑美が呼び出した鋼の巨人の拳で時計の長針をへし折る。時計を支える大蛇の胴体は、衣梨奈のピアノ線に
よりずたずたに切り裂かれた。

これなら、いけるかも。
そんなメンバーの思いが、たった一つの出来事で終わりを告げる。
全員を優しく包んでいた薄桃色の光が、ついに消えてしまったのだ。

「道重さん!?」

触手の拘束に耐えながらも防御壁を張り続けていたリーダーの、精神力が途絶えてしまう。
時計が再び大蛇の姿に変わり、八本のそれぞれがリゾナンターたちに襲い掛かるのはそれとほぼ同時のことだった。


死に損ないの一撃。
けれど、形勢逆転するには十分すぎた。
成すすべもなく倒れてゆく八人の少女たち。それを、さくらは胸が張り裂ける思いで見ていることしかできない。

みんなが田中さんの…私のために!なのに、私はこの体を動かすことすらできないなんて!!

相も変わらずさくらのことを捕らえ続けている大蛇の締め付けは緩むことなく、むしろさくらの反抗心に呼応するようにさらに締
め付けを強くする。体が、苦しい。けれど、それ以上に苦しいのはさくら自身の心だった。

さゆみに巻き付いていた触手が解かれ、ゆっくりと地面に崩れ落ちる。
その体を支えるはずの後輩たちも既に、地に伏していた。
終わる。終わってしまう。リゾナンターという存在が、希望の光が。

助けたい。この人たちを…助けたい!!!!!

生まれて初めて、さくらは強く願った。
自分を仲間と言ってくれた人たちを、このまま失うわけにはいかない。
私は、この人たちと一緒にいたいから。仲間だから。

― それがわかれば、十分っちゃよ ―

どこからともなく、声がした。
姿は見えなくとも、さくらにはそれが誰であるかわかっていた。


「田中…さん?」

返事はない。代わりに、大蛇の拘束からさくらの右手が自由になる。
大蛇の胴と胴の隙間をこじ開け、手を出すと。
その手はぼんやりと、水色の光を帯びているように見えた。

― それだけじゃ、いけん。あんた自身の色も添えんと ―

導きのままに、自らの色を思い描く。
暗く沈みこむような闇から浮かび上がる、さくらだけの心の色。
その色はまるで、厳しい環境の大地に咲き誇る。ラベンダー。

水色の光を取り込んだラベンダー色は、やがて周囲の色を巻き込んで。







2014/04/30(水) 01:04:20.23 0.net