『リゾナンターЯ(イア)』 68回目


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真っ赤な夕陽をバックに、1機のヘリが海原の上を飛ぶ。
運転するのはダークネスの構成員。後部座席には二人の女。

「にしても、どんな任務でこんな絶海の孤島まで行ったんすかねえ?」

「永遠殺し」と「氷の魔女」。
二人の名だたる幹部を乗せているにしては、いささか砕けた話し方の男。
それは話しかけられる側に起因していた。

「あんたもそう思う?ったく、海は潮風がざらついて好きじゃないんだよねえ、美貴」

紺野による「ゲート」での出迎えがあると思ったら、いつまで経っても連絡は無く。
仕方が無いので帯同させていた構成員にヘリを運転させての帰り道。ただ、同席するのはあの「永遠殺し」である。古参というのはいつ
の日も厄介で、もちろん「氷の魔女」も彼女を苦手としていた。必然的に時間を潰すために操縦席の男と話す羽目になるわけだ。

「やっぱ氷の魔女なだけにお肌に気を遣ってるんすね!さすがっス!!」

もちろんそれだけが理由ではない。
妙に胸騒ぎがする。夕陽の色を写し取ったかのような真っ赤な海。それを何とはなしに見つめていると、どうしても盟友のことを思い出
してしまう。今、まさに因縁の相手と戦っているのではないか。そう思うとどうしても心が、ざわつく。

「…『氷の魔女』。あんた少し、気安過ぎるわよ」
「いいじゃないっすか。どうせ道中は長いんだ。幹部様だ構成員だって気を張ってると疲れますよ、『永遠殺し』さん。おい構成員、
お前次の幹部会議で昇格させてやるよ。いいとこの会社じゃ運転手にもボーナス出るらしいからな」
「マジすか!!」

聞く耳すら持たない後輩に辟易しつつ、「永遠殺し」は「永遠殺し」で思案していることがあった。
それは、今回の計画のことについて。


なぜ、動ける幹部のほぼ全員があの島に出る必要があった?
確かに田中れいなの本来の力を引き出すために、より多くの厳しい戦闘を経験させる。という理由は整合性がある。それにしても。

そもそも、さくらの能力についても全容を知らされたのは孤島の研究所に到着してからだ。
「時間編輯」。能力使用時の前後5秒間においてまさに「時の神」とも言うべき改変能力を発揮する恐るべき力。「永遠殺し」の「時間
停止」を持ってしても彼女の姿を捉えることができなかったのも道理だろう。

しかしそれは、今回の共鳴の力を手に入れるのと引き換えに失われてしまう。
と言うより、共鳴の力を手に入れた後のさくらがどうなるのか。それは紺野が発した「おそらく『時間編輯』の力は消滅するでしょうね」
という言葉から判断するしかない。

普通に考えれば、「時間編輯」は最強の部類に属する能力だ。悪魔が持つ最強の戦闘力も、天使の行使する圧倒的な破壊力も。反逆者が
司る至高の光ですらも。意志のままに遡り呑み込む時の濁流に抗う術はない。それを手放してまで、共鳴の力にそこまでの価値があると
いうのか。

「はっ?!」

「永遠殺し」の思考を中断させる、間の抜けた声。
ヘッドインカムを装着していた操縦士のものだった。どうやら本部からの連絡が入ったらしい。

「…はい。了解です。すぐに、お二人にお伝えします」
「どうしたの?何があったの?」
「そ、それが…」

次に男が発した言葉の内容は、俄かには信じがたいものだった。


「『詐術師』様が組織にクーデターを仕掛け、『不戦の守護者』様を殺し、『叡智の集積』Dr.マルシェ様に重傷を負わせたと。最後
は『首領』自らの手で『詐術師』様を粛清したとのことです」
「なんですって!?」

思わず身を乗り出す「永遠殺し」。
そんなはずはない。「詐術師」は田中れいなとの交戦で負傷し、研究所の医務室に今もいるはず。それがどうして。

「なるほどね。ケガした振りして、実はコンコンの『ゲート』で本部に移動した。って感じ?」

「永遠殺し」の困惑を余所に、思いついたような顔をする「氷の魔女」。
確かに彼女の言う通りなら辻褄は合う。それでも。

「はい。本部からの話によると、マルシェ様を脅しつけて転送させた後に攻撃を加え負傷させた、という話です」

それとカオリ…「不戦の守護者」が殺害されたというのも腑に落ちない。
彼女はダークネスに仇なすものに対しては100%の予知能力が働くはず。それが、なぜ殺されてしまうのか。さすがの彼女も自らの死
を予知することはできなかったのか。
ダークネスの、いや「アサ・ヤン」の創成期から苦楽を共にした人間たちの死に、「永遠殺し」は理不尽さを感じずにはいられなかった。

「いずれにせよ、本部に戻らないとわからないことだらけだわ」

そう言うのが、やっとだった。
「不戦の守護者」とも長い付き合いになるが、こと「詐術師」に関しては特別な思い入れがある。同じ時期に組織に入った、言わば同期。
今は亡きもう一人の幹部と合わせて三人の間には、深い繋がりが存在していたからだ。

「それともう一つ。こちらは『詐術師』様のクーデターとは別件かとは思いますが」
「まだあるの?速やかに報告しなさい」
「実は。消息不明だった『赤の粛清』様がi914と交戦し、死亡したと」


言葉の事実よりも先に襲ったのが、肌を刺すような寒さ。
「氷の魔女」から発せられているのは確実だった。

「ただ、『赤の粛清』様に関しては自業自得って感じですよね。何でも、自分の勝手な目的のために外をふらふらしてたらしいじゃない
ですか。構成員の間じゃ噂になってますから」
「口を慎みなさい。秘密の任務を一介の構成員が知る事などできるわけない」
「そうすか?自分には納得できませんね。i914なんてもう過去の遺物じゃないですか。そんなもののために命を落として、犬死にっすよ。
今本部がクーデター起こされて大変だって時に何も」

そこで男の言葉はぴたりと止んだ。
それ以上、口を動かすことができなかったからだ。
開きっぱなしの口からは、嘴のように氷柱が生えていた。

「もが?もっもががももがががが!!!!!」
「お前ごときに亜弥ちゃんの何がわかる?わかんねえよなあ。一遍死んで、あの世で閻魔に聞いて来いよ」

ゆっくりと氷柱が、男の口を潜行する。
もちろん先は行き止まり。つまりは喉を貫通することになる。

涙を流し命乞いをする構成員。
操縦桿は手離し、ヘリはゆっくりと蛇行をはじめていた。

気分次第で構成員の命を容赦なく奪う、狂犬。
そんなあだ名がつくほど凶暴な性格であるという「氷の魔女」。
その印象を覆したのは、彼女自身が持ちかけた気さくな会話だった。

だから、男は誤解した。
そして、昇格させてやるという言葉に色気を持ってしまった。
組織のはみだし者を憂う構成員、という体で好印象を与えようとした。
「赤の粛清」と「氷の魔女」の関係など、まるで知らずに。


「やめなさい」
「こいつは一線を越えちまった。許すわけにはいかないね」
「やめなさい藤本!!」

ヘリの機体が破壊されてしまうのではないか、という凄まじい気迫。
「永遠殺し」の一喝により、「氷の魔女」は我に帰る。そして、気づく。目の前の男を殺したところで、事実が変わらないことに。

「あーあ、白けるね」

そう言いながら、男の口腔内の氷を消滅させる。
ようやく気道を開放された男は、操縦桿を手放していることに気づき慌てて握り直した。

体を反らせる様に、背後のすっかり沈んでしまった夕陽の跡を眺める「氷の魔女」。
そして、一言。

「保田さん。一つだけ、頼みがあるんすけど」
「何?」
「しばらく、時、止めてもらえますか」

「永遠殺し」は肩で大きく息をして。
それから、できるだけ簡潔に言った。

「無理な相談ね。私たちは、できるだけ急がなければならない」
「あっそ」

赤い水面を瞳に映したまま、「氷の魔女」は。
一際大きな手鼻を、かんだ。





投稿日:2014/04/03(木) 12:09:21