13-6


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魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」13-6


515 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 17:48:38.74 ID:G90fcMMP
女騎士「あはっ。……はははは」

ゆらっ

大主教「何を笑う。血にまみれ、盾も鎧も砕け散った姿で」

女騎士「盾か……確かに」 からん

大主教「諦めよ」

女騎士「いや。答えてなかったと思って」

大主教「……」

女騎士「世界の半分。だったな……。
 答えるよ。確かに魅力的なお誘いだけど
 半分じゃ、少なすぎる」

大主教「……少ない?」

女騎士「ああ、お断りってことさ」
大主教「貴様……」

 キンッ! キンッ! ジャキンッ!! ザシュ!!

女騎士「判らないだろうなッ!
 好きな人がいるって事が。
 大事な人を思うと云うことがっ。
 敬慕、忠節、至誠、そして誓約。
 騎士の持つ全てがお前には理解できないだろうっ?
 そして、何よりもこの胸に咲く思いがっ。
 勇者といると暖かいんだ。
 まるで春の芝生の昼寝みたいに。
 雪の日の暖炉の前のうたた寝みたいに。
 勇者と話すと楽しいんだ。
 年越し祭りの朝目覚めた子供みたいに。
 友達と駆け出す草原のようにっ。
 勇者に微笑まれると嬉しいんだ。
 この世界で何よりも大事なものに触れたみたいにッ」
516 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 17:52:06.37 ID:G90fcMMP
大主教「なっ!?」

女騎士「わたしは“世界の全て”を持っているっ!!
 勇者を思っているから。あいつに微笑んでもらったから。
 あいつを思い出すだけで。
 勇者の拗ねた子供みたいな笑顔を思い出すだけで
 勇者の癖っ毛の黒髪を思い出すだけでっ。
 この胸には風が吹くんだ。
 魂の内側に“世界の全て”を感じるんだっ。
 勇者を思うだけで、わたしは“世界の全て”を
 簡単に手に入れられる。
 騎士としたって、1人の女としてだって。

  そんなわたしに、たった“半分”で褒美を語るなんて
 お前みたいに貧しい大魔王は願い下げだっ!!」

大主教「……っ!」

女騎士「わたしがこの思いを失わない限り。
 “世界の全て”がわたしの味方。滅びろ、化物ッ!!」

大主教「だがしかしっ。“斬撃祈祷六連”っ!」

ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!ギン!

女騎士「っく! こんなっ……。斬撃がっ」

大主教「どんなに大口を叩いた所で、
 現にお前は立っているのもやっとではないかっ」

ドヒュンッ!

大主教「っ!? 火球っ! だれだ、この魔力っ!!」
520 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 18:08:24.49 ID:G90fcMMP
――地下城塞基底部、地底湖

バチィッ!!

メイド長「っ! また刻印がっ」

女魔法使い「……問題、無い」
メイド長「ですがっ」

女魔法使い「この刻印の一つ一つが生まれなかった魔王。
 ……悲しい思いを受け継ぐ宿命を背負う魔族。
 刻印が一つ砕けるたびに、1人の魔王が天の塔を
 登ると思えば、痛くなんて無い」

メイド長「ですがっ! 持ちません」

女魔法使い「……持つよ」
メイド長「――」

女魔法使い「持つよ。無限に。限りなく」
メイド長「しかしっ」

バチィッ!!

女魔法使い「だって……」
メイド長「あ……」

女魔法使い「この胸には勇者が居る。
 わたしの中に勇者の横顔が鮮やかに残っている。
 勇者を見ていると優しい気持ち。
 みんな家に帰る夕暮れの街みたいに。
 初めて頭を撫でてもらった穏やかな出会いみたいに。
 勇者の声を聞くと嬉しい。
 わたしにはない明るさと強さを持っているから。
 勇者の声にならない優しさを感じるから。
 勇者の視線を追うと胸が締め付けられる。
 手に入らないと思ってた夢を送られたみたいに」

メイド長(なんで……。何でそんな顔で微笑むんですか……)
521 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 18:10:22.81 ID:G90fcMMP
女魔法使い「だからっ!!」

バチィッ!!

メイド長「っ!?」

明星雲雀「ピィピィピィ! だ、だめですよご主人!
 そんなことをしたら魂が焼き切れちゃいますよっ!!」

女魔法使い「負けられないっ。負けられないんだよっ!!
 そんな枯れ枝みたいな、エゴの固まりの化物にはっ!
 いつまでもいつまでもっ。
 負け犬に甘んじている
 あたしだと思って欲しくはないなぁ!!」

バキィン!! バンッ!! バンッ!!

メイド長(なんて魔力っ。こんな、こんな力がっ!)

女魔法使い「判らないか。
 ――判らないだろうなぁ、お前“達”には。
 何千回生きようと、いいや!
 何千回も生きれば生きるほど判らないだろうなぁっ!
 あたしには云える。
 “たかが大魔王風情には”ッ!
 最初だけが真実なんだよ。
 何千回もやり直したのが間違いなんだよっ。
 “もう一度だけやり直す”?
 そんなものはな、ねぇんだよっ!!
 ――惜しいのは判るよ。別れが辛いのも判る。
 でも、だからって、悔しいからって。
 “もう一回”を繰り返しちゃだめな事ってのが
 この世界の中にはあるんだよっ!!
 この胸の思いはあたしだけのものだっ。
 お前らなんかには判らない。触れさせないっ。
 うらやましいか?
 うらやましいだろう。この黄金の思いがッ。
 お前達はたとえあと一万回繰り返したって
 二度とこの思いに触れることは出来ないんだ。
 だって。
 だってこの想いの中で、わたしの中でっ。
 勇者はいつも微笑んでいるっ!
 だから、最初を最後にするっ!
 悪い夢を終わらせるっ。この胸の黒い闇を吐き出してッ。
 たとえあたしが勇者の隣にいられなくてもっ!!」
523 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 18:25:16.43 ID:G90fcMMP
――光の塔、その道程

ドヒュンッ! ドヒュンッ! ドヒュンッ!

女騎士(感じる。魔法使いの援護をっ)

大主教「空間から直接、だと!? 遠隔魔法なのかっ。
 そのような魔術式、教会の古文書にも無いぞっ」

女騎士「あの無表情っ娘だって願い下げだって言ってる」

ボォォォッ! ドヒュンっ!!

大主教「“光壁双盾”ッ!」

バシュッ!

大主教「これしきで、我がどうにかなるとっ」

女騎士「思って、いるっ!!」

ザシュッ!

大主教「なっ。なんだっ。それはっ。なぜっ!?」

女騎士「はははっ」

大主教「なぜ防御を……。“光壁”を貫ける。
 いや……すりぬけ……る!?」

――剣がふわってぶれて、霞んで消える技な。
 気配も消えてしまう技。あれは……。

女騎士「はははっ。……見たこともないんだろう」
524 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 18:27:53.99 ID:G90fcMMP
ヒュバッ!! ざしゅんっ!

女騎士「左手の薬指で、重心を取るように脱力。
 剣の刀身から魔素を吸収。周辺の空間を把握……」

大主教「なっ。何を言っているのだ、空間っ!?
 そのような技が、騎士に使えるはずがっ」

女騎士「……騎士の技じゃない」

大主教「っ! く、来るなっ!!
 “斬撃祈祷六連”ッ! “雷撃四象呪”ッ!」

キンッ! ギンギンギンッ!!

女騎士「見えてる、効かないっ」
大主教「なっ!?」

女騎士「判らないのか、お前の身体の無数の“黒点”が。
 見え見えだ……。動きの弱点も、打ち込みもっ。
 全部あの爺さんが教えてくれてるんだよっ。
 両腕だけじゃない、その身体に印を残してるっ。
 お前はわたしとだけ戦っている訳じゃないっ!」

ギィィィンッ!!

大主教「っ」

女騎士「“光壁”はもう効かない。
 この技を。
 この技だけを、何千回も何万回も繰り返したっ。
 お前の弱点は、わたしのかつてのっ」

――大きな技ほど“光壁”で止めようとするからな。
 自分の力量と停止力に自信があるんだろうけど

大主教「無駄だ、そんなことで我はっ!
 “光壁”ッ! “光壁双盾”ッ! “光壁四象”ッ!!」

女騎士「弱点なんだよっ!!」
527 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 18:32:33.21 ID:G90fcMMP
女騎士「はぁぁぁっ!!!! つ、ら、ぬ、けぇっ!!」

ザカァァッ!!

大主教「っ! ごぷっ。……さ、再生。……開始」

女騎士「させない」 ちゃきっ

大主教「な、に……を……」

女騎士「盾は砕けたんじゃない。捨てたんだ」

大主教「二刀……? そ、れ、は……っ。ごぷっ」

女騎士「勇者はこれを捨てていったんじゃない。
 ――置いていったんだ。
 わたしを信じて、丸腰で上に登ったんだ。
 わたしにこれが使えると思ったかどうかは判らない。
 けれど、わたしを信じた。
 わたしが勇者の剣だから、
 自分の腰に“これ”がなくても、良しとしたんだ」

大主教「勇者の……剣……だ、と……?」

女騎士「魔を滅するオリハルコンの剣だ」

大主教「それが……抜けるはずが……ない。
 勇者のみが……使うことの許された……」

女騎士「かはっ……。はははっ。
 ぼろぼろだよ。げほっ……ははっ
 わたしだってひどい有様だ。
 けど。
 だれが決めたんだ?
 たった1人にしか使えないって」

大主教「摂理を……摂理を、守れ」

女騎士「はは。ははははっ。
 判ったよ。お前が、大魔王が何であんな言葉を言うのか。
 摂理、か……。世界の半分を与える、か。
 お前の正体が」

大主教「我は、大主教。……人間にして、大魔王」
529 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 18:33:52.17 ID:G90fcMMP
女騎士「お前は……。
 お前達は“過去”だ。
 お前達は結局は完成済みの世界が欲しいんだっ。
 自分が把握できる材料だけで構成された
 全てが予測できて全てが約束通りの……。
 そんな世界が居心地が良くて、
 そこから一歩も出たくないんだっ。
 でも、おあいにく様だっ」

大主教「やめろっ……そ、それをっ……
 お前もただでは済まないぞっ……
 この……我の身体に集う、魔王の……気を……
 感じぬのか……っ」

女騎士「お前達がいくら誘おうと、
 世界の半分をよこすと云おうと、
 次の楽園を目指すと交渉したところで、
 そんなのは全部死んだ世界だっ。
 そんな世界には“明日”は絶対来たりしないじゃないかっ。
 “明日”が来ない世界に勇者が居るはずがない。
 あいつは、だれよりもみんなの“明日”が好きなんだから。
 ――お前達がどんなに自分の都合の良い楽園を
 静止させて作り上げようとした所で、
 私たちがたった一つ善きことを為しただけで砕け散るんだ。
 馬鈴薯を広めただけで。
 四輪作を伝えただけで。
 種痘を発見しただけで。
 風車を、羅針盤を、印刷を、自由を、航路を見つけただけで。
 ううん、そんな大げさな事じゃない。
 誰かを好きになって、その人の笑顔のために
 何か一つを必死にやり遂げるだけで
 お前の箱庭は静止の呪縛から解き放たれて崩壊するんだ。
 世界は、明日が好きなんだっ!!」

大主教「がはっ……止め、ヤメ……」

ごぶっ。どぶっどぶっどぶっ……。ざしゅっ。
530 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 18:36:35.03 ID:G90fcMMP
女騎士「おしまい……だッ!!」

ザシュ!!

大主教「ッ!!!」

女騎士「お前の好きな世界に、還れッ!!」

大主教「がはっ! がふっ……
 かはっ! がはぁっ!
 ただの……騎士に……やぶれ……るとは
 だが……光ある限り闇もまたある……ように……。
 未来を望むものがあれば……
 ……過去を願う弱さも、また……精霊の……遺産……
 我には、見えるぞ……
 いずれ、再び……何者かが、過去より現れる……。
 そのとき、世界には……お前も……
 お前の仲間も……いはしない……。
 明日を得ると共に、お前達は今日、
 永遠を失ったのだ……
 ふははははっ……がふっ!!」

オォォォオオオオン!!
  ……オオォォォオオン!!

女騎士「はぁ……。はぁ……」

女騎士「……はぁ……」

カランッ

女騎士(血が、ないや……。
 少し頑張り、過ぎたか……。
 でも、役目は、果たした……かな。
 勇者の剣。出来た、かな……。
 まだ……。
 登らなきゃ……。
 勇者の元へ。
 魔王と、一緒に……。
 あの人の元へ……。行か……なきゃ……)
532 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 19:13:05.76 ID:G90fcMMP
――地下城塞基底部、地底湖

オォォォオオオオン!!
  ……オオォォォオオン!!

メイド長「……震動がっ!」
女魔法使い「……」

明星雲雀「勝った! 勝ちましたよご主人っ!
 あの胸のない殻付き人間が勝ちましたよっ!!」

メイド長「勝った……んですか?」

女魔法使い「まだ」

明星雲雀「ピィピィピィ!?」

オォォォオオオオン!!
  ……オオォォォオオン!!

メイド長「え?」

女魔法使い「……ここ。わたしはここっ。
 来てっ。わたしはここにいるっ」

明星雲雀「ぴ? ぴぃっ!?」

メイド長「なにを……」

女魔法使い「わたしはここにいるっ。
 ここに、最期の刻印があるッ!!」

メイド長「っ!!」
533 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 19:16:11.29 ID:G90fcMMP
女魔法使い「……お前の最期の依り代っ。
 現世に留まるための最期の魔王候補、
 刻印の持ち主はここにいるっ。
 来てっ! この刻印を頼りにっ」

メイド長「なっ! 何を言うんですか、魔法使いっ!?」

女魔法使い「……へん?」

明星雲雀「おかしいですよっ」

女魔法使い「でも、封印の間はもう、ない。
 ……だれかが、それをしなきゃ」

オォォォオオオオン!!
  ……オオォォォオオン!!

メイド長「だからって」

女魔法使い「……憐れまれたくない。
 憐れまれたくないから、メイド長。
 あなたを選んだの」

メイド長「……っ」

女魔法使い「……ね?」 くてん

メイド長「最初から……。
 ……いえ。……ええ。そう、でした……か……」

女魔法使い「……ん」

メイド長「……魔法使い様」

女魔法使い「……ん」

メイド長「お終いではありませんよね?」
女魔法使い「……うん。ほんの少し、眠るだけ」

メイド長「……貴女の眠りに、良い夢を。
 貴女の眠りを、世界の幸せの全てが守りますように。
 お見送りできて、光栄です。
 あなたはまごうことなく、我が一族。
 ――勇者の、支えでした」

女魔法使い「うん」 にこっ
536 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 20:02:47.61 ID:G90fcMMP
――開門都市近郊、世界の終わりのような戦場

……ゴォォン!

百合騎士団隊長「あ……。あ……っ」
灰青王「静かにしろよ。ほら、こっちに来い」 ぐいっ

百合騎士団隊長「……灰青王」

灰青王「あぁ。やっぱりおめぇ、別嬪だなぁ……」

百合騎士団隊長「何を、何をしているんでですっ。
 血まみれになって。何を考えているんですっ!!」

灰青王「血が好きだって云ってたじゃねぇか。
 薔薇みたいで綺麗って」

百合騎士団隊長「……っ」

灰青王「“あなたの全てをくれたならば
 わたしの身体も魂も思いのままにして良いわ”って
 云ってくれただろ? そうしけた顔するなよ」

百合騎士団隊長「貴方はっ!!」

灰青王「騒ぐなよ。見つかっちまう。
 あっちはあっちで、大詰めだ……。
 なにより、さ……
 せっかくの逢い引きなのに」

ばしゃっ。ぼたっ。ぼたっ。

百合騎士団隊長「血が……。血が。
 わたしの手が、薫る。鉄の香り、ぬめり……
 熱さ……冷たさ、悲鳴……嗚咽……。
 戻ってくる、穢れが……ううう。ううううっ」

灰青王「なぁ、おい」

百合騎士団隊長「……あ。……あ。ああ」がくがくっ

灰青王「お前に惚れてるって、俺云ったっけか」

百合騎士団隊長「あ、な……にを……
 閨の中の睦言を本気に?
 ……あなたは馬鹿ですか?
 遊女の戯れ言を本気にとるだなどとっ」
537 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 20:05:19.47 ID:G90fcMMP
灰青王「騎士じゃなかったのか?」

ぼたっ、ぼたっ

百合騎士団隊長「知っているでしょう?
 この身体の何処が騎士だと?
 どこに純潔や貞節があるとっ!?
 汚濁の染みついた腐臭を放つわたしの身体にっ。
 あるのは、見え透いた甘言と
 遊女の手管だけだというのに。
 ……あはっ。
 あははははっ。
 それとも本気になったんですか?
 そんなに良かったんですか、わたしの中が?
 蕩けきって忘れられなくなったんですかっ」

灰青王「……なぁ」

百合騎士団隊長「お笑いぐさですね。霧の国の御曹司が!」

灰青王「泣きそうな顔で、云うなよ」

百合騎士団隊長「っ!」

灰青王「お前くらい佳い女はいないさ。
 後生だから哀れむと思って
 俺と付き合ってくれねぇか?」

百合騎士団隊長「プライドまで失ったんですか……」

灰青王「元々大して持ち合わせちゃいなかったんだ。
 あるいは、手に入れようとするお前が
 あまりにも眩しくて、
 全てを投げ打つ気になったんだと
 自惚れてくれたって良いぜ?」
539 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/18(水) 20:13:10.62 ID:G90fcMMP
灰青王「しゃぁねぇや。
 ……他にくれてやれるもんが……無ぇん……だから」

百合騎士団隊長「……なんで。なんでっ。
 あははっ。
 なんで、こんなに、嬉しいのか。
 ……これは哀れみです。疲れたから。
 もう疲れ果てたから。
 貴方に哀れみをかけてあげるだけ。
 貴方だけのものになってあげます……」

ひゅぱっ……。とすっ……。

灰青王「馬鹿だな……。ま、仕方ねぇか……。
 お前も連れて行かないと……
 他の男にとられるかなとは……思ってたんだ」

百合騎士団隊長「あは。……そんな。お世辞ばかり。
 でも、仕方、ありません。
 ……わたしには、死がこびりつきすぎて
 もう、ずっと精霊なんて……見えてなかった……から」

ばしゃっ。ずるずる……

灰青王「俺も見たことねぇや。……。
 独り占めだ。こりゃ……できすぎだ、な」

百合騎士団隊長「……大事になさい。
 血の薔薇で出来た身体……あなたの、専用に
 するの……ですから……」

灰青王「……こふ」

百合騎士団隊長「暗い……。そう……。
 そうです、よ、ね……。終わりなんて、いつでも。
 こんなもの……。でも……」

――もう、寒くはない。
647 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/22(日) 00:11:44.67 ID:KvXPKcsP
――開門都市近郊、遠征軍本陣、その中央

東の砦長「……銃声、か」
青年商人「いえ。聞こえましたか?」
冬寂王「喧騒だろう」

パァァァァアア!!

王弟元帥「わかった。その至宝、受け取ろう」
参謀軍師「……閣下」

王弟元帥「もう言うな」

メイド姉「これこそが“聖骸”。わたしは平和を願います。
 どのような形であれ、いま、この地に集った魂有るものは
 これ以上の血を望んでは居ないのですから」

王弟元帥「そうであるということにしておこうか」

メイド姉 にこにこ

王弟元帥「恩に着せたつもりか?」

貴族子弟(まぁ、実際、王弟殿は追い詰められていた。
 魔族の民衆が集まったらその数は十万。
 戦力としては烏合の衆だろうが、数は数だ。
 抵抗はしても遠征軍の補給が難しいのは火を見るよりも
 明らかだ……。食料も、火薬もない。
 滅びるのは時間の問題ともいえるだろう。
 唯一の勝機は都市を占領して籠城しつつ
 地上との連絡を取ることだろうが、
 それも簡単にいくとは思えない状況だった。
 その上、南部連合の民兵切り崩し作戦。
 修道会による破門問題。
 教会勢力の四分五裂に、貴族達の私軍崩壊。
 マスケットを中心とする戦力はそろっていたにせよ
 おそらく、内部はシロアリに食い荒らされたように
 ぼろぼろだったのだろう。
 現に冬寂王は、その弱みを突き力尽くで崩壊させる
 交渉戦略を持って現れた。
 青年商人は判らないが……。
 我が兄妹弟子は王弟閣下に“落としどころ”を用意したわけだ)
648 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/22(日) 00:18:36.40 ID:KvXPKcsP
メイド姉「いいえ、そんなことは思っていません。
 ……当面の対立はこれで回避されたかも知れませんが
 対立の根幹は少しも解決していません」

冬寂王「そうだな。二つの領域の、相互不理解。
 環境の差から来る社会や風俗、経済機構の差」

青年商人「まったくです」

王弟元帥「それは言外に“利用したい”と
 云ってるようなものではないか。くっくっくっ」

青年商人「全くです。ひどい2人ですね」

冬寂王「我は持って回った交渉は不得手でな」
メイド姉「わたしは交渉自体不得手ですから」

参謀軍師「……はぁ?」
東の砦長「俺にふろうとするなよ」

青年商人「まぁまぁ。……取り急ぎ、この騒ぎを静めましょう。
 わたしは都市に戻ります。都市防備軍はそろそろ矛先を
 収めているでしょうが、追加の指示が必要でしょう」

王弟元帥「こちらは遠征軍を静止して、軍を引かせよう。
 無いとは信じているが、この交渉が策略である可能性もある。
 武装解除には応じることは出来ぬぞ」

冬寂王「かまわんだろう」

メイド姉「お任せします」

東の砦長「冬寂王、それからあーっと。そちらのお嬢さんも。
 話もあるだろう。開門都市の庁舎に、
 小さいが寝床くらいは用意できるだろうし
 会議室もある、そちらへ来ないか?」
650 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/22(日) 00:19:16.88 ID:KvXPKcsP
青年商人「そうですね」

メイド姉「そう言ってもらえると嬉しいですが。
 しばらくわたしは都市入りは控えたいと……。
 そういえば、勇者様はもうこちらに?」

王弟元帥「勇者? 学士殿と同行していたはずではないのか?」
参謀軍師「……戦場で一瞬見かけたという報告もありましたが」

東の砦長「いいや、見ていないし、報告も受けていない」
青年商人「魔王殿が一緒でしょう」

冬寂王「魔王……?」

メイド姉「あー……。はい」

王弟元帥「……ふむ。情報は集めてみよう」
参謀軍師(教会が動いたという。なにやら胸騒ぎもするのだが)

青年商人「冬寂王。食料は?」
冬寂王「届いた。使わせてもらったが、まだまだ備蓄はある」

青年商人「では、一部を王弟閣下へと」
冬寂王「承った」

聖王国将官「いただけるのですか? 食料を。
 これで民兵の飢えも収まるというものです」

青年商人「いえいえ。お気になさらずに。
 代金はすでに国元の方からいただいていますからね」

参謀軍師「は?」

青年商人「それについては、今後の会合で詰めましょう。
 軍を引いてもらうにしろ、条件や条約。公式発表など
 協議しなくてはならないことは多くあるでしょうからね。
 今は、とにかく戦闘を停止させることです」
651 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/22(日) 00:21:39.07 ID:KvXPKcsP
――光の塔、駆け上がる二人

タッタッタッ……。タッタッッ……。

勇者「はぁ……。はぁ……」
魔王「うう、いたたっ」

勇者「どうしたんだ、魔王」
魔王「急に走ったので、脇腹が痛い」

勇者「どんだけ格好悪いんだよ」
魔王「わたしはインドア派の魔王なのだ」

勇者「はぁ……。はぁ……」
魔王「ぜぇ、ぜぇ……」

勇者「かなり離れたな……」
魔王「ああ」

勇者「ん……」
魔王「戦闘の気配、感じるのか?」

勇者「いや。だめだ。やっぱり能力が下がってるな。
 半里程度なら把握できるけれど、もう五里は走ったからな」

魔王「そんなにか」

勇者「あいつの“瞬動祈祷”のおかげだ」
魔王「そうか。――そうだな」

勇者「走らなくて良いから、足動かそう。
 立ち止まってると、余計に足が動かなくなるぞ」

魔王「わかった」
652 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/22(日) 00:24:08.73 ID:KvXPKcsP
コォォォン……

魔王「……」

とぼとぼ……

勇者「女騎士は、何かが追ってくるって
 知っていたみたいだったな」

魔王「……うん。そうだな」

勇者「魔王は知っているんだろう?」

魔王「……ある種の、バックアップのようなものだ」
勇者「ばっくあっぷ? なんだそれ」

魔王「予備、代理というような意味合いだ。
 わたしと勇者は、本来であれば戦う運命だったろう?」

勇者「ああ。結局な」

魔王「でも戦わなかった。
 だから、本来の役割から云えば欠陥があるんだ。
 この状況は正常ではない。異常だと云える。
 だから、代理の勇者や魔王が発生するんだ。
 事態が正常に戻らない限り、バックアップが発生し続ける。
 追ってきたのは、そう言った代理だと思う」

勇者「もしかして、蒼魔の刻印王も?」

魔王「あのときは確信はなかった。
 けれど、その後から考えると、そのとおりだ。
 あれもバックアップなのだろう。
 バックアップの目的は、収斂……。
 おそらくだが、元通りに戻そうとしている。
 新しく現れたのが魔王であれば、
 勇者を殺そうと追ってきたのだろうし
 新しく現われたのが勇者であれば、
 わたしを倒そうと追ってきたのだろうな」

勇者「……っく」
653 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/22(日) 00:27:04.63 ID:KvXPKcsP
魔王「おそらく、バックアップの発生には様々な要因が
 絡んでいると推測できる。
 魔法使いが何らかの仕掛けをしたらしいしな」

勇者「そうなのか?」

魔王「うむ。バックアップの発生は、
 私たちが一方的に不利になるわけではない。
 もし新しく発生した魔王が味方になってくれるのならば
 こちらは魔王2人と勇者1人の戦力だ。
 ……私たち2人だけでは戦力が足りないと考えた
 魔法使いが何らかの作業を行なっていたのは知っている。
 今考えると、バックアップ……冗長性のシステムを
 利用した、“この機構”に対する介入だったんだな」

勇者「メイド姉が勇者を名乗ったのって……」

魔王「ああ、そのこと自体はただ単純に思いつきと
 自分の覚悟の表明だ。びっくりはしたけれどな。
 一歩も引かずにこの世界の行く末に一石を投じ、
 その結果に責任をとるという意思表示だろう。
 ……しかし、この状況下では違った意味を持つ。
 おそらくメイド姉の“名乗り”は“機構”に承認され
 本当に勇者としての能力を持ってしまった。
 全くの偶然なんだろうが……。
 いや、偶然にしては出来すぎか。でも、作為もない。
 あるいはこれが、これこそが。奇跡かも知れないな」

勇者「……まじか」

カツーン、カツーン

魔王「推測だが、聞いた限りほぼ事実だ。
 そもそも、彼女が異常なまでに行動的になって
 大規模に活躍をするようになったのは
 冬越し村を出てからだ。
 考えてみると蒼魔の刻印王と呼応するような時期に当たる。
 勇者としての意志が芽生え、旅の間に徐々に
 それが本格化したのではないだろうか」
654 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/22(日) 00:30:18.78 ID:KvXPKcsP
勇者「メイド姉も俺みたいな戦闘能力を身につけているのか?」

魔王「それは何とも云えない。
 現にわたしは魔王だが、そこまでの戦闘能力は持っていない。
 それは、勇者と魔王の継承システムの違いに
 依るのかも知れないし。
 ただ単純に個人個人の資質に依るのかも知れない。
 バックアップなんて云うのもわたしの推測だけで、
 事実かどうかの確認を取った訳じゃない。
 だから全ては確認されていないんだ」

勇者「そっか。むちゃくちゃ強くなった
 メイド姉ってのも想像しずらいものな-。
 まぁ、こんな戦闘力なくたって問題ないさ」

魔王「ふふふっ。そうだな。わたしは最初から弱いしな」

カツーン、カツーン

勇者「他にも、居るんだろうな」

魔王「青年商人は“人界の魔王”を名乗っていた。
 あの名前も、おそらく“承認”を受けてしまったのだろう。
 事がこうなっては、誰が勇者、もしくは魔王の資格を
 持っているのか判らない」

勇者「良い知らせ、だな」
魔王「そうなのか?」

勇者「その代理の発生が確率的に分布しているのなら、
 味方の方が増えているはずだ。
 もし敵の数の方が速いペースで増えているのならば
 そもそも俺たちがやろうとしていることが、
 みんなの望みとかけ離れているって事じゃないか」

魔王「それはそうかもしれないが……」

勇者「話し合いの過程でもしかしたら剣を交えている
 勇者と魔王がいるかも知れないけど、
 それは、結局はそいつらの問題だ。
 ……ここまで来たら、俺たちには手が出せない。
 本人達に任せるしかないだろう。
 良い知らせだと考えておこうや」
655 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/22(日) 00:35:29.93 ID:KvXPKcsP
魔王「……不思議だ」

勇者「どうしたんだ?」

魔王「いや、魔王と勇者とは、なんだろうって」

勇者「……魔法使いは、同一だって云っていたな。
 光の精霊の願望が生み出した、
 “この世界を持続させるための機構の一部”だと言っていた」

魔王「それはもちろんそうだ。
 でもそれは概念的な、あるいは定義的な意味づけだろう?」

勇者「……?」

魔王「たとえば、太陽だって風だって海だって、
 無ければこの世界には大ダメージで、
 世界は今とは全く違う様相になってしまう。
 王制国家だって農業だって、発明されなければ
 世界は大混乱も良い所だ。
 ――つまり、その意味合いにおいて、それら全ても
 “この世界を持続させるための機構の一部”と云える」

勇者「まぁ、そうだな」

魔王「つまり、“機構の一部”なんていう言い方は
 世界維持という観点に立って物事を観察した時、
 そう言う言い方も出来る……という程度の言葉でしかない。
 世界の立場に立てば、あるいは魔法使いのような
 研究者の立場に立てば、私たちは“機構の一部”なのだろう。
 それは判る。
 でも、それだけなんだろうか……。
 では、この胸にある“丘の向こうを見たい気持ち”は
 どこからやってきたんだろう?
 これも機構の一部なんだろうか……。
 “勇者を好きな気持ち”もそうなんだろうか……」

勇者「……」

カツーン、カツーン

魔王「そんな風には思いたくないんだ」
656 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/22(日) 00:38:45.69 ID:KvXPKcsP
勇者「そうだな」

魔王「あるいは……」

勇者「あるいは?」

魔王「精霊の立場から見たら、私たちはなんなのだろう」

勇者「――救済、じゃないかな」

魔王「救済?」

勇者「わからないけど。そんな風な気がした。
 夢の中の光の精霊は、いつでも、途方に暮れていて。
 とても困っている感じだったから。
 きっと長い長い時間の中で、自分でもどうにもならないほど
 こんがらがっちゃったんじゃねぇかなぁ」

魔王「こんがらがる……か」

勇者「救われなかったんだろう。
 救いを想像できなかったんじゃないかな。
 あるいは、“救われちゃいけない”って思ってたとか」

魔王「何故?」

勇者「さぁ。思い込んじゃってるんだろう」

魔王「……そうかもしれない。観測的には」

勇者「だな」
657 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/22(日) 00:40:31.20 ID:KvXPKcsP
魔王「そんな精霊を説得できるのかな」

勇者「そりゃ出来るだろう」

魔王「私たちが魔王と勇者だからか?」

勇者「ちげーよ。この塔を登る魔王も勇者も
 俺たちが初めてじゃない」

魔王「では、魔王と勇者の2人だからか?」

勇者「それも違うな」

魔王「ではなぜ?」

勇者「上手く言葉にはならないな。
 でも、説得は出来るよ。
 意味はある……。
 俺たちがこの塔を登る意味はあるよ。
 勇者だからじゃなく、魔王だからじゃなく。
 俺と、魔王だから。
 説得は出来る、と思うよ」

魔王「勇者は、何か予想しているんだな」

勇者「うん。まぁ、なんとなく」
魔王「それはなんなんだ?」

勇者「だから、上手くは云えないよ。
 でも、世界ってすげぇじゃん? 旅を思い出してみろよ。
 魔王もあの冬越し村を思い出してみ?」

魔王「うん」

勇者「あれら全部は光の精霊が産んだ奇跡から
 育まれてきた現在の世界なんだぜ?
 そんな優しい精霊を、説得できないなんて思わないよ」
661 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/22(日) 01:15:58.45 ID:KvXPKcsP
――光の塔、精霊の間

タッタッタッ……。タッタッ……。

勇者「ここが……突き当たりだ」
魔王「この扉の奥が……」

勇者「入るぞ?」
魔王「うむっ」

……ゴォォーン

勇者「おーい! いるか、精霊ー。来たぞー!」
魔王「おいおい、そんなに気安くて良いのかっ!?」

勇者「俺はここの常連なんだよ。来るのは初めてだけど
 夢も中なら何回も来たことがあるっての」

魔王「そう言えばそうか」

勇者「おーい。おーい」

光の精霊「勇者……」おずおず

勇者「おっす!」

光の精霊「魔王……」

魔王「あー。お初にお目にかかる」

光の精霊「とうとう、来てしまいましたね。
 勇者と、魔王が……。わたしが、光の精霊です」

勇者「露骨にしょんぼりするなよ。予定が狂う」

光の精霊「すみません……」
664 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/22(日) 01:18:51.24 ID:KvXPKcsP
勇者「その様子じゃ色々話は判ってるみたいだな?」
魔王「ふむ」

光の精霊「ええ……」

勇者「で、うーん。どうしようか」
魔王「任せておけ! みたいな態度だったではないか」ぶつぶつ

光の精霊「ゆ、勇者は。世界を救ってはくださらないのですか?」

勇者「は? ああ。
 その質問は、一応約束みたいなものだな。
 その答えは“No”だ。
 つか、救える部分は救う。
 手助けできるのなら、する。
 でもそれは俺が俺として行なうもんであって、
 勇者として、ではないよ。
 世界を救う特別なモノとしての勇者は、
 もう必要ないんじゃないかと思う」

光の精霊「魔王は……そ、その。
 魔界を、導いてはくれないのですか?」

魔王「答えは“否”だ。……そもそも専制的な
 統治機構は緊急時、もしくは発展時の過渡的な機構だと
 云うのがわたしの信条だ。魔界にはすでに忽鄰塔によって
 議会政治の初期形態が浸透しつつある。
 魔王による中央集権はそこまで必要とは思えない。
 むしろ専制君主政治による弊害の方が目立ってきている」

光の精霊「だめですか……」

勇者「ううぅ。そんな涙ぐまれると、すげー罪悪感がある」

魔王「これはやりずらいぞ、非常に」

光の精霊「勇者は……」
667 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/22(日) 01:22:05.57 ID:KvXPKcsP
勇者「ん?」

光の精霊「……思い出しては、いないんですよね?」

勇者「なにを?」
魔王(……思い出す?)

光の精霊「……」じ、じぃっ

勇者「いや、2人で見つめられても。いや。ちがうぞ!?
 いくら俺でも、精霊に手を出したことはないぞっ!?
 それ以前に逢ったのは今が最初だっ!」

魔王「あやしい」
勇者「俺悪者かっ!?」

光の精霊「……いえ、その」

魔王「ん?」

光の精霊「その……昔の……」

勇者「判んないぞ。さっぱり」

光の精霊「そう……です……か」

勇者「?」

光の精霊「ダメ、ですか? このままでは。
 このままの世界を続けるのは、そんなに悪いことですか?
 確かにこの世界には不幸なこともたくさんあります。
 疫病もあれば、飢餓もあり、戦争も時には起きるでしょう。
 しかし、それもけして多くはないのです。
 わたしは覚えています。
 大地が波のようにうねり、山は火を噴き、
 森は灼け、海は凍り付き、あるいは沸騰した災厄の日を。
 あれに比べれば、大地は平和ではありませんか」
669 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/11/22(日) 01:23:31.66 ID:KvXPKcsP
勇者「あー」

光の精霊「預言者ムツヘタの残したように、
 地に闇が訪れる時、必ずや光の意志を引き継いだ勇者が現れ、
 世界の闇を打ち払う。
 世界はその伝説を胸の希望とし日々を過ごす。
 親は子へ、子はその子へと伝説を語り継ぎ
 永遠を永遠のままに暮らす。
 それがそんなにも悪いことですか?
 ……ダメですか? 破滅を避けるのは……悪ですか?」

勇者「……」
魔王「……」

光の精霊「ダメ、ですか? 間違っていますか……?」

勇者「それはさ」

魔王「勇者。わたしが話そう」
光の精霊「……」じぃっ

魔王「それは全く間違っていない。必要だった」

光の精霊「……はい」

魔王「私たちは、あなたに感謝している。
 魔界では光の精霊に対する信仰は廃れてしまったが
 それでも碧の太陽に対する感謝の気持ちを忘れた
 氏族は一つとしてないだろう。
 精霊五家の興亡の記録はもはや賢者に伝わるのみだが
 心ある者たちは感謝の念を絶やしたことはない」

光の精霊「はい」

魔王「私たちは、あなたのことが大好きだ」

光の精霊「ありがとうございます」ぺこりっ



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